2015年7月12日日曜日

チーズの穴は、なぜできるのか?

l'Emmental suisse フランス製よりもフリュイテ(Fruité)だと言われている。

5月に、「チーズの穴はなぜできるのか」という記事をフェイスブックページで取り上げた。その記事は、Le Républicain Lorrain の配信だったが、本家のスイス Agroscope のものを見つけたので、取り上げてみよう。

Agroscope のURLは、
http://www.agroscope.admin.ch/aktuell/00198/05299/05494/index.html?lang=fr&msg-id=57378

大体の内容は、日本のYahooを読んでもわかるのだが、細かいことが、やや説明不足だと感じる。
現在は、他にもいろいろな記事が日本語で出ているが、干し草が原因だとしか書いていない。そこで、Agroscopeの原文を少し見てみよう。

まず、研究したのは、Agroscope(スイスの農業、食物と環境に対する研究機関)とl'Empa(スイス連邦材料試験研究所)の研究チームである。

スイスのチーズには、穴があいているが、なぜ、チーズ職人たちは、うまく穴を開けることができるのだろう?どのようにして、理想的な形にすることができるのだろう?
この謎が、最近の研究で明らかになったと言っている。

実は、この研究、1917年まで遡ることができる。
1917年に、アメリカ人の研究者、ウイリアム・クラーク氏が、すでにエメンタールの穴について、研究発表をしているのだ。
ただ、彼は、その時代の知識で、この難問を説明しようとしたのである。

当時の知識では、微生物が作り出す二酸化炭素によって、穴が形成されるという推測しか成り立たなかった。
今回の研究が、画期的と言われる理由は、推測ではなく、実際にチーズの穴を作るのに貢献している物質を見つけたことにあるのだ。

今までは、微生物の作り出す二酸化炭素が、チーズの穴を作る、と思われてきた。
しかし、それは、推測に過ぎないのである。
確かに、プロピオン酸菌や、ある種の乳酸菌は、CO2を作り出すのだが、それではなぜ、その二酸化炭素によって、チーズに穴が形成されるのか?

一般的に、チーズの中で形成される気体は、生地から発散される。
コンテやグリュイエールの熟成庫は、アンモニアの臭いが充満しているのだ。
それなのに、なぜ、二酸化炭素や硫化水素(酪酸菌が作る気体)は、穴を作るのだろうか?

研究者たちは、あることに注目をしたのである。

「現在のエメンタールは、以前に比べて穴の数が減っている」

ということに。
10〜15年前は、冬のエメンタルにはたくさんの穴があったが、現在はかなり少なくなっている。
何が違うのか?

そこで彼らは、現在の搾乳環境はかなり改善されて、原乳は以前よりずっと清潔になっていることに注目し、こういう仮説を立てたのである。

「干草の細かい粒子がチーズの穴を形成するのではないか」

そして彼らは、130日間の熟成期間の間、穴の発達する様子(穴の数、大きさ、集まり具合)を、コンピューターで、穴の断層撮影をして調べた。

その結果、干草の微粒子がチーズの穴を形成することが判ったのである。

こう書くと、干草の微粒子がガスを放出して穴を形成するように思われるが、この記事ではそこまでは書いていない。
その解明には、まだ時間がかかると思われる。

しかし、干草の微粒子があると穴ができることが判ったのは、今までの「微生物が発する気体によって穴が形成される」という説を覆すことになる。
例えば、この微粒子がなければ穴ができないのであれば、原乳を清潔にさえすれば、酪酸発酵が起きてもチーズが爆発しないということにならないか?味はともかくとして。

コンテに穴が多すぎるのは、欠陥(le défaut)とされているので、ENILBIOでは、穴があかないようにする研究もしていた。
昔のコンテには、かなり穴ぼこが空いていたが、現在は、ずっと少ない。
脂肪分や、加熱温度によって、穴が開くことはわかっていたが(コンテのエメンタル化と言う)、やはり、搾乳時の衛生状態が良くなったことと無関係ではないだろう。

この記事のまとめは、こう結んでいる。

「チーズの中の "穴の原因" は少なくなっている。原乳、プレジュール、そして微生物の種の他にも、伝統的なチーズを製造するために、干草の微粒子の取り込みを必要とするという事実は、無殺菌乳の生産と加工がまだ現在も密接に結びつき、無殺菌乳の伝統的なスイスのチーズの本質を際立たせていることを示す良い例なのである。」

このブログを書き始めたのは、6月の初めだった。
6月がものすごく忙しくて、初めて一ヶ月間ブログをお休みしてしまった。
だいたい、筆者の常として、3、6、9月は狂想曲になってしまうのだが、今年はそれが3月からずっと続いているような状態である。

まだすることが山積みなのだが、しなければならないことを放り出して、他のことをしたくなる困った性格なのである。
分身の術が使えたらいいなと思っている今日この頃である。