2014年4月25日金曜日

チーズと病原菌:エシェリシア・コリ(Escherichia coli O157:H7)

フランスでは、チーズを作る原乳に発見されてはいけない微生物は、2種類。
前回お話しした、リステリア・モノシトジェンヌとサルモネラ菌である。
しかし、昨今、O157による、チーズの汚染が問題となっているのだ。

Escherichia coli O157:H7(腸管出血性大腸菌:以下E.coli)は、動物の糞便中に見られ、それに汚染された水や食物を介して感染する。
筆者がフランスに滞在中も、カマンベールで1回、ステック・アシェという、牛ひき肉だけで作ったハンバーグの中毒が1回出ている。
もちろん、すべて回収。
出した工場、あるいは工房は、一定期間製造中止になる。

いろいろなPM。無殺菌乳だと、リスクが大きい。

E.coliが怖いのは、100個ほどでも症状が出ること。
(普通の菌なら、100万個以上ないと、症状は出にくい。)
そして、溶血性尿毒症症候群と脳症を起こす事である。
また、感染してもほとんど症状が出ず、治ってしまう事がある。
その場合でも、1〜2週間は菌が排出されるため、感染源になる事があるのだ。

ほとんどの食品の販売員は、月に一回、検便をしているはずである。
チーズの販売員も例外ではない。
筆者は、その検便で1回、サルモネラで引っかかった事がある。
本人に自覚症状は全くなし。

後で聞いた話だが、サルモネラは保菌者になる事があるそうで、完全に菌がなくなるまで、仕事はできないのだ。筆者は、すごく強い薬を飲まなければならなかった。
その時にきた書類を見たら、O157も検査対象になっていた。

E.coliは、動物の糞便中に見られる。
大腸菌なのだから、当然だ。
チーズへの感染経路を考えると、リステリアと同じく、水か人間になる。
しかし、リステリアと違うのは、動物の糞便にいるという事で、これは、無殺菌乳に、入ることがある。だから、その分、リスクが高い。
E.coliは、加熱に弱いので、殺菌乳のチーズなら、リスクが低いが。

フランスの文献を読んでいると、リステリアとE.coliは、かなり出ている。
昨年の3月には、AOPの山羊チーズ、セル・シュル・シェールの農家製にE.coliが検出されたようだし、今年の2月には、「Carrefour:カルフール」マークのロックフォールにE.coliが出て、注意を呼びかけている。
また、今年の3月に農家製のマンステールからリステリアが検出されている。

面白い事に、ラクティックの山羊チーズには、リステリア菌は、ほぼ検出されない。
前々回に書いたように、pHが低いからである。
しかし、O157には、汚染されてしまうのだ。

山羊チーズいろいろ。大好きである。

フランスのDGALLa Direction Générale de l'Alimentation)、大まかにいうと、フランスの農業省にある機関で、農産物などの品質管理や検査を行う所だが、2014年の年間の計画で、無殺菌乳のチーズに対して、E.coliの監視を行うようである。
近年、汚染件数が増えているからだろう。
鶏肉などに対するサルモネラ菌も同時に行う様子だ。

21日に、埼玉県で、O157患者が出ている。

保育園で4人だそうだ。
重傷者はいないようだが、感染経路はどうなっているのだろう?

怖い事ばかりかいてしまったが、怖がる事はない。

日本のチーズは、殺菌乳製だし、ちゃんと正規の輸入をしたチーズは、税関で検査をしているはずだから。
もし、検出されたら、国内には入れず、全部廃棄だ。
正規輸入でない、並行輸入のチーズなんかなら、ちと怖いかもしれないが。

2014年4月22日火曜日

チーズを作る:ウルトラフィルトラシオン(l'ultrafiltration)

チーズを作るテクニックの一つとして、ウルトラフィルトラシオンというものがある。英語だと、ウルトラフィルトレーションかな?
昔のテレビコマーシャルで、「海水を真水にします」というのがあったが、それの親戚だ。小さな穴があいた管を通す事によって、液体中の水分量を調節する事といえば、いいだろうか。
要するに、「膜」の技術である。

色々なものに応用されているようだが、チーズの製造にも使われている。
フランスのギオトー社(Guilloteau)のチーズがそうだ。
日本でよく見かけるのは、パヴェ・ダフィノワ、フロマジェ・ダフィノワ。
パヴェ・ダフィノワは、脂肪分がノーマルタイプのようだが、計算すると50%ほど。
フロマジェ・ダフィノワは、60%ほどだから、ダブルクリームである。

フロマジェ・ダフィノワ。立川のチーズ王国で購入。
残念ながら、パヴェ・ダフィノワは手に入らなかった。

特徴は、口当たりがいい。
何というか、普通のチーズにない食感。
こってりしているのに、滑らかな感じがするのである。
真ん中の芯の部分もクリームっぽい。
ギオトー社のサイトでは、均一性がある、とあった。

フロマジェ・ダフィノワの断面。均一である。

クロミエ フェルミエ。断面が不均一で、気泡も見える。

なぜそうなるのか?

これは、製造方法にある。
ウルトラフィルトラシオンと普通のチーズの製造方法は、違うのだ。

一般的に、チーズの作り方は、3段階に分かれると、以前説明した。
順番は、1. 凝固、2. 脱水、3. 熟成 である。
しかし、ウルトラフィルトラシオンは、この順番が違うのである。
1. 脱水、2. 凝固、3. 熟成 になる。

この方法は、膜によって、水分を濾し、蛋白質その他の有機物を濃縮する技術なのである。
手順は、次の様になる。

  1. 原乳を管に通す。
  2. 蛋白質の多いレトンタ(Rétentat)が管に残り、ほとんど水分であるペルメア(Perméat)は、穴から排出される。
  3. レトンタに乳酸菌、プレジュールを投入して、凝固させる。
  4. 凝固したカイエを成形して、熟成させる。
こんな感じである。
もちろん、水分調節もするし、管を通す時には、圧力をかける。

使い方によって変わるが、穴の大きさは、ざっと、0,1〜0,01ミクロンの間。
目的は、蛋白質の回収と考えていい。
ウルトラフィルトラシオンをつかう最大のメリットは、乳清蛋白をチーズ中に取り込める事なのだ。本来なら、水溶性蛋白は、乳清とともに排出されるのだが、この方法を使うとチーズ中に残るのである。

だから食感が、他のチーズと違う。
乳清蛋白が入っている分、蛋白質の含有量が多いからだ。
また、型入れも楽だし、時間の節約になる。
普通のチーズだと、カイエを穴のあいた型に入れて、一日くらい置いておく。
この工程がなくなるのだから。

チーズの学校にいたとき、筆者のクラスはこの実習をしなかったが、他のクラスが行っていて、話を聞いたら、絹ごし豆腐みたいな塊を切り分けたと言っていた。
見られなかったのは残念だが、何となく想像がつく。

また、ミクロフィルトラシオン(la microfiltration)という技術もある。
こちらはもう少し穴が大きくなり、主に菌の芽胞などを除去するのに使われているそうだ。

工場製のチーズの技術は、高度になってきている。
フランスのカマンベール工場は、右から牛乳を流すと、左側では、チーズになっている。
アメリカのチェダー工場は、完全密封をしていて、全自動。
人間は覗き窓から製造を監督しているだけだ。
完全密封のキューヴから、真空パックされたチーズの塊が最終商品として出てくる。
後は、冷蔵庫にフォークリフトで運んで(塊がでかい!)熟成させるのだ。

これも一つの方法だろう。
しかし、食べ物が大地や海に根ざし、人間がそれを育んできた事を忘れてはいけないのだと、つくづく思うのである。

2014年4月18日金曜日

チーズと病原菌:リステリア菌

チーズ業界の人間にとって、リステリア菌は、目の敵である。
フランスでも同じで、原乳中に検出されてはいけない菌の一つだ。
こいつが検出されたら、チーズはすべて廃棄。
原因を突き止めるために、その工房は、製造禁止となる。

サロン・ド・フロマージュでみた、色々なチーズ。美味しそう・・・

なんで、こんなに忌み嫌われるのか?

この菌は、日和見菌なので、健常者に対しては、重篤な症状を起こさないが、身体の弱っている人、抵抗力の弱い人に対しては、重篤な症状を起こすからである。
だから、お年寄り、子供、妊婦、それから免疫力が低下している人は、注意しなければならない。
内閣府の食品安全委員会のPDFを見つけたので、URLを貼っておく。
症状、その他はこちらで確認していただきたい。
http://www.fsc.go.jp/sonota/listeria.pdf

じゃあ、どんな菌で、どういう風に我々の口に入るのだろう?

我々は、リステリア菌と一口に言っているが、6種類あり、そのうちの「リステリア・モノシトジェンヌ(Listeria monocytogenes)」が、人間に対して害を及ぼす。
厄介なのは、そこらへん中にいること。
動物の糞、サイレージなどの餌、土壌、水・・・
チーズを作る上での環境の至る所にいるのである。

この菌の特徴として、

  • 熱に弱い。(72℃-20sで死滅する)
  • pH5,6以下で増加しない。
  • 塩分に強い。
  • 水分量97%が最適。

である。
これを見ると、リスクのあるチーズが、自ずと解る。
そう、PM、すなわち、ソフトタイプの白カビ、青カビ、ウォッシュなどである。

フランスだと、ウォッシュタイプでこの菌による重大な事故も起こっている。
そのために、2007年に、カマンベールAOPに殺菌乳の使用を許可してほしいという、大手企業からの要請もあった。INAOは拒否したが。

だけど、ちょっと考えてほしい。
原乳に検出されてはいけない菌なのだ。
だから、原乳には入っていないと考えられるのだ。
従って、チーズを作る時に入ると考えていい。
それを防ぐためには、何をすればいいかというと、設備の衛生管理、特に人間の衛生管理である。

使用する水に関しては、水質検査が義務であり、設備の衛生も定期的にしなければならないはずだ。
問題は、人間なのである。

ENIL時代の、PMの先生がこぼしていた。
その先生は、モンドールの指導にいく事も多々あったらしいのだが、コンテとモンドールを一緒に作っている工房(ほとんどがそうだが)では、モンドールに対する衛生観念が低いと言っていた。
彼によれば、コンテはPPCすなわち、56℃くらいにまで温度を上げる工程があるので、リステリア菌に対するリスクが低い。そのために、モンドールに対しても、同じ意識になってしまうとの事だった。

筆者がENILで学んでいた頃だから、統計の年度が古いと思うが、10年ほど前の統計で、コンテの表皮にリステリアが出たという資料を見たことがある。
その後は、0になっていたから、そのときだけなのだろう。
コンテの場合、表皮は食べない。固くてまずいっすよね。

だから、衛生に対する意識が低いのだと先生はぼやいていたのだ。
筆者も、少し恐ろしい張り紙をモンドールの工場で見た事がある。
「落としたチーズは、棚に戻さない事」
という事は、戻している人がいるという事ですな・・・

また、「菌は、飛んでこない。」というのも見た事がある。
フランス人の悪口を言うわけではないが、男女を問わず、トイレの後に、手を洗わない人が多い。個人の住宅では、トイレと風呂場が別の場合、トイレの中に手を洗う設備がないのが普通だ。
ノルマンディーの学校時代にも、先生が口を酸っぱくして、手洗いの大事さを説いていた。カマンベールの本場だものな。

少し画像が悪いが、ノルマンディーの工場見学時の写真。ちゃんとキャップ、マスク、手袋をしている。

という事で。
日本の衛生志向は、少し行き過ぎの感もあるが、衛生観念がないのも困る。
日本の衛生環境なら、きちんと管理をすれば、無殺菌乳でチーズが作れそうだが、保健所が許可しないようである。
また、妊婦は、無殺菌乳製の白カビ、青カビ、ウォッシュ、また、フランス製に限らず、無殺菌乳製で、表皮も食べるものにも、注意したほうがいいだろう。

2014年4月15日火曜日

チーズアレルギー

筆者は、医者ではないが、医療家のハシクレなので、病気や菌に興味がある。
今回、チーズのアレルギーについて書こうと思ったのは、2012年12月20日に起こった、調布市立富士見台小学校での事故が、気になったからである。

5年生の女の子が、粉チーズ入りのチヂミを食べて、アナフィラキシーショックを起こしてなくなったという記事である。
その子は、乳製品のアレルギーである事が解っていて、粉チーズの入っていない給食を食べた後に、チーズ入りをおかわりしている。
その結果、アナフィラキシーショックを起こしたというわけだ。

詳細は、調布市の報告書があるので、そのURLを貼っておく。
http://www.city.chofu.tokyo.jp/www/contents/1363069358235/files/kensyou.pdf

乳製品のアレルギーは、乳糖に対するものと、乳蛋白に対するものと、2つある。

乳糖に対するものは、牛乳を飲むとおなかをこわしたりする事で、「乳糖不耐性症」と呼ばれ、東洋人に多いとされている。
しかし、「チーズと文明」の作者である、ポール・キンステッド氏によると、人間は長い間をかけて、牛乳が飲めるようになったそうである。
だから、乳文化の長い歴史を持つ、ヨーロッパ人に乳糖不耐性症が少ないのも理解できる。

インドはともかく、中国や日本、韓国ではあまり乳利用をしてこなかった。
特に日本では、明治の頃、牛乳を飲むと角が生えるという噂もあったそうだから、乳糖に対する耐性が出来なかったのも、仕方ないか。
しかし、このアレルギーは、乳糖を除去した牛乳なら問題ない。
市販もされている。

問題は、乳蛋白に対するアレルギーである。
先ほどの事件も、乳蛋白に対するアレルギーだと思われる。
乳には、大まかに分けて、3つの蛋白質が存在する。

  • カゼイン(la caséine)
  • α−ラクトアルブミン(l'alpha lactalbumine)
  • β−ラクトブロブリン(la β lactoglobuline)

カゼインは、乳中にカゼインミセルの形で、α−ラクトアルブミンとβ−ラクトブロブリンは、乳清蛋白といい、乳清中に存在する。
カゼインは、乳蛋白中78〜80%を占め、ほとんどがチーズ中に移動する。
乳清蛋白は、乳清とともに流れ出て、ほとんどチーズ中には残らない。(フレッシュチーズを除く)

アレルギーは、このどれかに対して起こるようで、3つ全部に対しては起こらないというフランスの文献を読んだ事がある。
だから、パリの友人のご亭主が、牛乳アレルギーだが山羊チーズなら大丈夫と言って、ぱくぱく食べていたのに、何の不思議も抱かなかった。
友人は日本人だが、ご亭主はフランス人だったから、多分、自分が何のアレルギーなのかをよく知っていたと思われるが、一歩間違えると怖い事だなと思う。

というのは、「LES PRODUITS LAITIERS」という、フランスのサイトで、このような記事を見つけたからだ。
2010年に、フランスの小児科医の協会によって出版されたとあるが、
「乳アレルギーは、90%が6歳以下で自然に治癒する。
しかし、山羊乳、羊乳、豆乳などを代わりに与えると、それらに対するアレルギーのリスクが大きくなるので、与えてはいけない。
大人の乳製品アレルギーは、特異なものである。」

この記事から考えると、牛乳アレルギーだけど、山羊はいいとは言えない。
また、大人のアレルギーの危険性が高いのは、アレルギー全般にいえる事で、例えば、大人になってから喘息になると、重篤である。

アレルギーでの事故があると騒がれるが、当事者以外の人も、もっと関心を持ってほしいものである。
特に、乳製品販売の人たちは、アレルギーに対して、ある程度の知識が必要だと思う。
試食を出しているなら、なおさらだ。

おいしそうなチーズがいっぱい。これが食べられなくなったら・・・地獄だ!

怖がる必要はないが、食べ物アレルギーだと解ったら、今のところ、注意するしかないのだろう。
アレルギーで検索していると、食べてはいけないものを除いたはずなのに、気分が悪くなったという記事を見かける。
成分表示など、きちんとしてほしいものである。

2014年4月10日木曜日

チーズを作る:プレジュール(la présure=レンネット)

プレジュール(=レンネット、以下プレジュール)は、動物性凝乳酵素である。
近年、評判が悪いようだが、古くから使われている、自然なものだ。
日本で、インターネットなどで買えるのは、ほとんどがカビ系凝乳酵素、ヴェジェタル・レンネットという奴である。
プレジュールは高価なのと、消費期限が短いという短所があるから、あまり売っていないのだろう。

筆者の使っている、農家用プレジュール。

では、プレジュールとは何ぞや?

「乳離れしていない反芻動物の幼獣の第4胃から抽出した、凝固剤。キモシンという、酵素の働きからなる。チーズ製造時に、乳凝固の為に使用される。」
(Wikipedia:http://fr.wikipedia.org/wiki/Présure

Wikipediaでは、このような説明である。
しかし、実際には、プレジュールの中には、キモシン以外にも、色々な物質が入っていて、乳凝固と熟成に関与している。
何が入っているかというと、ペプシン(成人の胃の中にもある、蛋白質分解酵素)、Naclである。

乳凝固に関する酵素は、いろいろ研究されている。
プレジュールの需要が増え、供給が足りなくなった時には、他の物質も利用されてきた。現在のように、カビ由来の酵素や、遺伝子組み換えの大腸菌に作らせる純粋キモシンが普及する前は、豚や鶏のペプシンなども利用されていた。
フランスでは許可されていないが、イスラエルでは使っているようである。

フランスで許可されていないので、筆者は豚のペプシンを使った事がない。
だから、どういうふうになるのかは知らないが、フランスの学校の先生は、こう強調していた。
κカゼインを分解する事だけが、プレジュールの役名ではないと。
そして、プレジュールの中には、キモシンだけではなく、ペプシンやNaclもあるので、チーズの風味がよくなるのだ、と。

プレジュールは、凝乳酵素としての働きだけでなく、熟成酵素としての役割も果たすわけだ。

筆者はチーズ造りに関して、プレジュールが一番だと思っているが、現在の需要を考えると、そんな事も言っていられない。
ただ、何の酵素を使っているのか、明記してほしいと思う。
酵素は、番号があるから、チーズのパッケージに酵素番号でも書いてくれればいいのだが。
フランスのチーズは、乳酸菌、凝乳酵素も表示してあるものが多いので、確認できる。
日本は、生乳と塩しか表示していない。そのほかの材料は、表示義務がないのだろう。

さて、そのプレジュールだが、キモシンの含有量によって、いろいろ種類がある。
また、山羊のプレジュールも羊のプレジュールもある。
牛の場合、普通の万能タイプは、520mg/lのキモシンが入っているもの。
コンテなど、PPCを作るには、810mg/lのものを使う。

パリに住んでいたときに買ったチーズ。PPC(ボーフォール?コンテ?)、サン・マル、クロタン。
PPCでボーフォールなら、伝統的なプレジュール。市販していない。コンテなら、810mg/lのもの。
サン・マルは、PM用で、キモシン含有量が少ないもの。クロタンは、山羊のプレジュールだろう。

筆者が山羊チーズを作っていた時には、山羊のプレジュールを使っていたが、牧場によっては、牛のプレジュールを使っている所もあった。
また、サロン・ド・フロマージュで、プレジュールのブースにいた方は、山羊のプレジュールを牛乳に使うといいのだ、と力説していた。
あまり使ってないと思うが・・・

筆者が現在使っているのは、農家用のプレジュール。
中身は、50mg/l以上のキモシンが入っていると、パッケージに書いてあった。
少ないので、PM向けだろうな。

ちなみに、筆者はプレジュールをなめた事があるが、すごーくしょっぱくて、まずい。
作っている工場の見学に行った事もあるが、独特の匂いがしていた記憶がある。
案内をしてくれた人に、マコネを作っていると言ったら、マコネには、ウチのプレジュールが最高なんだと言っていた。

プレジュールは、値段が高いので、近頃は敬遠され気味である。
しかし、廃物利用になるのだから、合理的だと思う。
筆者は、プレジュールを使うぞ〜。

2014年4月4日金曜日

メゾン・デュ・コンテ(Maison du Comté)

コンテというチーズは、成功したチーズとして、フランスの生産者内で有名である。
早くからテレビコマーシャルを出し、品質を保つための努力をしてきたおかげで、AOPのチーズとしてフランスで消費量第一位。
輸出も多い。

そのコンテの産業統合部門(la filière)として、いくつか施設があるのだが、その中で主なのが、メゾン・デュ・コンテである。
コンテの品質管理や統計などから、販促まで行っている。
筆者は、ポリニーのENILに入学する前に1回、入学してから2回行っている。

メゾン・デュ・コンテ。ENILのすぐそば。

筆者が一人で行ったときは、こんな感じだった。

まず、受付で、入場料を払う。確か、4€だった。
その時にどこからきたのか、聞かれて、日本からと答えたら、英語で話しかけられたような気がする。

次に、ヴィデオは英語のほうがいいかと聞かれた。
20分ほどのヴィデオを見るのである。
フランス語がいいと答えた。
英語版もあるようなので、フランス語の苦手な方は、そちらにしてもらうといい。

見学の時間になると、入り口にある大きな地図をもとに、説明係によって、コンテの説明が始まる。
ポリニーの話、牛の話など、子供も見学にきていたので、解りやすく話していたようだ。

次に、ヴィデオ。
20分ほどなのだが、生産者のインタヴューや、原乳の話や、盛りだくさんだったのを覚えている。
後の同級生の父親が熟成師として有名だったらしく、ヴィデオに出ていた。
同級生は、チーズが嫌いで、筆者としては、なんでコンテの講座にいるのかよくわからなかったが・・・

昔のビドン。

それから、会場の見学が始まり、昔のビドン(le bidon:牛乳を入れる容器)、コンテのダミー、干し草などの展示を解説してくれる。
匂いの種類を示すような展示もある。
コンテの匂いを分類するのも一つの研究なのだ。

ダミー。熟成庫には、こんな風に、並んでいる。

匂いの説明。胡椒やら、蜂蜜やら、いろんな匂いがあった。

昔の器具や、コンテ用牛乳の経路のディオラマなどもあったな。
最後に、試食。
色々な熟成のコンテが3種類出た。
確か、6か月、13か月、18か月だったかな?

ここで試食をした。売店もあるぞ。

ここで、少し面白い事を発見。
筆者以外は、全員フランス人で、コンテを食べなれている人が多かったのだが、熟成の好みが、筆者とまるで違うのである。
フランス人は、13か月くらいの、フリュイテ(fruité)と呼ぶタイプが好きなようである。
筆者は、販売をしていたので、日本人の好みがだいたい解るが、日本人は、ヴューコンテ(Vieux Comté:18か月以上の熟成)すなわち、熟成の長い物を好む傾向がある。

そのときは、まだENIL入学前だったが、ENILに入ってからも面白い事があった。

メゾン・デュ・コンテの中に入っているのは、CIGCという機関なのだが、これは先ほど言ったように販促や作ったコンテに対する手助けをする所と考えていい。
コンテの製作に関しては、CTFCという機関があり、そこで失敗の原因究明や、品質向上のための研究をしたりする。また、技術者として、農家や工房を回る人もここに所属しているようである。

そこで、コンテを見て、味わって、何点取るかという講義を受けた事があった。
コンテ・エクストラとコンテ、そしてコンテとして販売できない物を分類するための講義である。
いくつか形や色や味を見て点数をつけたのだが、その中で、意見がまっぷたつに分かれた物があったのだ。
他の物は、だいたい点数のつき方が似ていたのに。

12点以下と18点以上という意見が分かれたこのコンテは、コンテ・エクストラになっただろうか?
否!
点数は、確か14点ギリギリだったような気がするが、説明してくれた先生の話によると、このコンテは、甘みが強すぎて、意見が分かれたので、最終的に単なるコンテ、茶色の帯のコンテになったというのだ。
要するに、味のバランスが悪いと判断されたのだろう。

筆者は、美味しいと思って、18点つけた。
でも、ぼろくそな点をつけていた同級生もいたから、やはり味覚というのは、色々なのだなと、改めて感じた。

筆者もチーズ造りを始めようとしているところ。
日本人好みにしようとは思わないのだが、どういう味にしたらいいのかなーと悩んでいる。
一つだけ、心に決めているのが、ここのチーズを作ろうという事だけである!

2014年4月1日火曜日

チーズを作る:チーズ種(le levain:ルヴァン)

パン種というのは、割と一般的だが、チーズ種というのは、あまり聞かない。
英語では、「スターター」と言っているようである。
始めに入れるから、スターターってのは、直接的で、意味が分からないのが難点である。

フランス語だと、ルヴァン(le levain)、パン種でも同じ言葉を使うが、要するに発酵させる酵母や乳酸菌が入ったヨーグルト状の物をさす事が多い。
ちなみに、工場でよく使うフリーズドライした乳酸菌の事は、ルヴァンとは言わない。

工場では、培養したフリーズドライの乳酸菌を使うのが一般的である。
理由は、いつも同じ味が出来るから。
工場製チーズの一番の目標は、いつも同じ味で、一定の量を提供する事だからだ。
扱いやすさも魅力的である。
冷蔵庫に入れておけば、かなり保つのだ。

しかし、デメリットも多々ある。
こいつは、活性化が遅く(そりゃそうだ。寝てるみたいなもんだから)、pHを調整するのに時間がかかる。
もう一つの難点は、チーズにとって大問題である、バクテリオ・ファージの発生が起こる事である。

バクテリオ・ファージは、乳酸菌に取り付いて、コピーしてしまうウィルスの事で、こいつが取り付くと、乳酸菌が死んでしまい、チーズは出来ない。
同じ乳酸菌を使い続けると、バクテリオ・ファージが発生するので、工場では、一定のサイクルで乳酸菌を替える必要が出てくる。

興味のある方は、wikiのURLをどうぞ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ファージ

一方、農家やアトリエなどでは、チーズ種として、ルヴァンを使ったり、前日の乳清を使ったりする。もちろん、そのまま使えるルヴァンも買えるし、ルヴァンの母体となる乳酸菌を買って、培養する事もできる。
しかし、自分の所で作ったルヴァンや、前日の乳清は、土着菌の宝庫だから、これらを使えば、その土地のチーズが出来るし、コストも安いので、使う人が多い。

ただし、ルヴァンはめんどくさい。手間がかかるのである。
なかなか酸度が上がらず、作るのに失敗する事もある。
また、乳清を使う場合、バクテリオ・ファージが出る事もある。
バクテリオ・ファージが出ると、大損害なので、農家は知恵を絞っているのだが、なかなか退治できない。
筆者も、前回の試作品失敗は、ファージを疑っている。

さて、筆者は、ルヴァン造りからやり直し。
昨日、また磯沼ミルクファームにおじゃましてきた。
ルヴァン作成のため、牛乳を分けてもらいに行ったのだ。
磯沼さんが自ら絞ってくれて、ブラウンスイスの絞りたてを分けてもらう事が出来た。

ブラウンスイス牛の牛乳を手絞りしてくれた。

全部見えないけど、「磯沼ミルクファーム」と書いてある、かわいいBidon。

現在、作成中だが、ドキドキだ。
フランス時代は、あんまり心配した事はない。
出来なかったのは、1回だけ。
フリーズドライの乳酸菌で代用したら、時間がかかってうんざりしたのを覚えている。
いつもなら、小一時間で適性酸度になるのが、4時間以上かかったのだから。
期限切れではなかったが、古かったのも時間がかかった理由だろう。
作業がすべて止まってしまい、仕事にならなかった。

出来上がるのは、おそらく木曜日か金曜日だ。
うまくできればいいのだが・・・
心配である。