2019年6月18日火曜日

チーズの製造方法:実践編 乳酸菌のプロローグ

2019年も6月に突入した。

昨年、このブログを書いたのは、確か2月。
忙しいというのは本当だが、筆者がしたいことは、チーズを作りたい人の手助けをすること。今更ながら、確認したことだ。
今まで、少し、本筋を外れていたのかな、と思っている。

色々な雑用から、少し解放されたので、ブログを続けていきたいと考えている。
続けると言い切れないのが、辛いところだが・・・
ただ、筆者がフランスの専門学校で学んだことを、チーズを作りたい人、作っていて壁にぶつかっている人に、少しでも伝えたいと思っているので、続けていきたいだけである。


さて、乳酸菌である。
乳酸菌という微生物がいるのではなく、消費した糖類から50%以上の乳酸を生成する微生物の総称である。そして、チーズを作る上で、最も重要な微生物である。

乳酸菌に関しては、以前にもこのブログで書いたことがあるが、今回は実践編になるのでもう少し詳しく書いていこう。
乳酸菌の定義は、以前にも書いたが、もう一度復習しておく。

「乳酸菌は、乳酸を多量に作る細菌群の総称である。乳酸菌はグラム陽性(細菌をグラム染色で染色すると青色に染まる)で桿菌(筆者注:形が棒状や円筒状の細菌)または球菌の形態をとり、カタラーゼを生産せず、運動性がなく、胞子を形成せず、(中略)ブドウ糖に対して第一発酵式(ホモ発酵)あるいは第二発酵式(ヘテロ発酵)に従って乳酸を生成することが定義づけられている。」
「畜産食品微生物学 細野明義編(株式会社朝倉書店)」
 P34 2.1 微生物の種類(北澤春樹)c.発酵乳製品と微生物 より抜粋

まず、乳酸菌は、グラム陽性菌である。
では、グラム陽性菌とは何か。

グラム染色という染色方法がある。
主として、細菌類を色素によって染色する方法の一つで、細菌を分類する基準の一つである。デンマークのハンス・グラム博士によって発明されたそうだ。

グラム染色によって、細菌類は大きく2種類に分類される。
青紫に染まるものをグラム陽性、赤く染まるものをグラム陰性という。
グラム陽性菌とグラム陰性菌では、細胞壁の構造が違うため、色が変わってくるのである。

グラム陽性菌には、人間に害をなすものも役に立つものがあるが、グラム陰性菌は、人間に害を為すものがほとんどだと、フランスの恩師が力説していた。

下の写真を見て欲しい。桿菌も球菌も見事に青紫色だ。


グラム染色で染めたブルガリクス(棒状の菌)とストレプトコック(丸い菌)
http://b.21-bal.com/buhgalteriya/1419/index.html

球菌と桿菌があるのも特徴の一つ。
球菌は、丸い形、桿菌は棒状である。
ラクトコック・ラクティス
http://textbookofbacteriology.net/featured_microbe.html

ラクトバシリュス ブルガリクス
http://phytocode.net/phytoglossary/lactobacillus-bulgaricus/
コックというのは、丸い形の乳酸菌を指し、バシリュスは、棒状の乳酸菌をさす。

次に、カタラーゼを生産しない、とある。
カタラーゼは、過酸化水素を水と水素に分解するのだが、嫌気性菌はこれを持っていない。過酸化水素は、体に害があるので、好気性の生物は皆(人間も!)カタラーゼを持っている。

乳酸菌は、通性嫌気性菌といって、酸素があってもなくても生きられる微生物である。
無酸素状態で、乳酸菌は、1分子のブドウ糖から、2分子の乳酸と2分子のATP(高エネルギー化合物)を生産する。これが、酸素のある状態では、最終的にブドウ糖を二酸化炭素と水に分解し、36〜38分子のATP生産する。酸素がある方が多くのエネルギーを生産するのに、どちらかというと無酸素状態を好み、カタラーゼがないのは、面白い。

運動性がないのも特徴。
微生物の中には、鞭毛を持って、移動するものがある。
乳酸菌は、移動できないのである。

鞭毛のある緑膿菌とピロリ菌。
https://blogs.yahoo.co.jp/kmatsui00307/30708195.html

胞子を形成しないのも特徴の一つだが、胞子を形成するのは、カビの特徴。
乳酸菌は、そうではないのである。

青かびの胞子。乳酸菌は、胞子を作らない。
https://www.city.saitama.jp/sciencenavi/kenkou/003/p008951.html

また、ホモ発酵とヘテロ発酵というのは、発酵のタイプである。

まず、乳酸菌は、グルコースを分解するのに解糖系という経路を使う。

解糖系。

乳酸菌は、無酸素状態で1分子のブドウ糖から2分子の乳酸を、酵母は2分子のエタノールを、
有酸素状態では、TCA回路に移動して、最終的に二酸化炭素と水、ATPを生産する。
http://www.nyusankin.or.jp/scientific/moriji_4.html

この経路で、ピルビン酸まで分解すると、乳酸菌は乳酸を、酵母はエタノールを、他の好気性生物はTCA回路でATPを得る。
しかし、乳酸を得るのに、乳酸菌には、二つの経路があるのだ。
それがホモ発酵とヘテロ発酵である。

ホモ発酵は、1分子のブドウ糖から2分子の乳酸と2ATP(エネルギー)を生産する。

C6H12O6(グルコース)→ 2CH3CH(OH)COOH(乳酸)+2ATP 


ホモ発酵の様子。1分子のグルコースから、2分子の乳酸ができる。
http://www.nyusankin.or.jp/scientific/moriji_4.html

この発酵形式をとるのは、ラクトコック ラクティス、ラクトバシリュス ブルガリクスなどである。どちらかというと、pHを下げる力が強い。

ヘテロ発酵は、1分子のグルコースから、1分子の乳酸、エタノール、二酸化炭素を生成する発酵である。

C6H12O6(グルコース)→CH3CH(OH)COOH(乳酸)
+C2H5OH(エタノール)+CO2(二酸化炭素)+ATP (2)

ヘテロ発酵の様子。1分子のグルコースから、1分子の乳酸、エタノール、二酸化炭素ができる。
http://www.nyusankin.or.jp/scientific/moriji_4.html
この発酵形式をとるのは、ルコノストックが代表的である。この乳酸菌は、芳香を生成するので、フレッシュタイプのチーズやヨーグルトによく使われる。

乳酸菌の特徴がお分かりいただけただろうか。
最後に、乳酸菌の分類を載せておこう。
細かく分類すると大変なので、チーズによく使われるものを中心にしておく。

大まかな乳酸菌の分類。形と発酵形態でまとめてある。
ビフィドバクテリウムは、乳酸菌ではないが、便宜上載せた。

さて、今回はここまで。
次回から、チーズに関与する乳酸菌とその働きをまとめていこう。
一応、チーズ製造講座もしているので、情報は、半分以下と思っていただきたい。
講座に来ていただければ、もっと詳しい話もできますな。

それから、チーズ A to Zによる試みを一つ。
チーズを作っている方、これから作りたい方の手助けを開始する。
作っている方に対しては、トラブルの解消法や、新しいチーズの作り方を解説するなどのことを。これからチーズを作りたい方に対しては、工房設立やチーズの製造方法などに関してのアドヴァイスを。

筆者の都合もあるので、無料とはいかないが、問い合わせをくだされば、なるべく希望に沿うように考える。
それから、時間が取れれば、出張講座も行っていこうと考えている。
人数が揃えば、こちらに来るより、金銭的にも時間的にも楽になると思う。これも問い合わせをいただければ企画してみる。

次回は、チーズ製造に関する乳酸菌の利用について、もう少し突っ込んだ話をしていきたいと思っている。