凝乳酵素については、チーズプロフェショナル協会の教本にも説明してあるようで、皆さん知識があるようだが、少し補足をしたいと考えたので、乳酸菌より先に取り上げることにする。
凝乳酵素というと、レンネット(Rennet=Présure)を思い浮かべる人が多いだろう。もしくは、商品名の「カイマックス」であるかもしれない。
それでは、凝乳酵素とは、なんぞや?
一言で言えば、「乳を固める酵素」なのだが、種類が色々あるのだ。
この頃は、フランスでも凝乳酵素を示す言葉として、Enzyme coagulante(オンジンム コアギュロン) を使うことが多い。
なぜかというと、Enzyme coagulante だと、何にでも使えるからである(Présureにはあまり使われないが)。
単にEnzyme というと、「酵素」という意味になるのだが、Présureは少し中身が違う。
それでは、凝乳酵素の種類と違いを紐解いてみよう。
凝乳酵素は、以下の3つに大別される。
- 動物性凝乳酵素
- 植物性凝乳酵素
- 微生物系凝乳酵素
では、まず 1.の動物性凝乳酵素から。
動物性凝乳酵素というと、レンネット(Rennet=Présure)のことと思う方が多いだろう。
しかし、présureは、酵素単体ではないので、Chymosine(キモシン)以外の酵素も入っている。
何かと言うと、Pepsine(ペプシン)だ。
Présureは、Chymosine、Pepsine、アミノ酸、ペプチド、Nacl、その他の酵素で構成されている。決して、Chymosine単体ではない。
このペプチドやら、アミノ酸やらが、チーズの熟成に関与し、複雑な味を作り出すのだ。
だから、フランスのAOCチーズは、凝乳酵素として、Présureしか認めていない。
また、Pepsineだが、これも単体で動物性凝乳酵素として使うことがある。
フランスでは禁止なので、資料がなく、よくわからないのだが、豚あるいは鶏のPepsineを使ったチーズも存在する。
イスラエルとアルジェリアにあると聞いているが、筆者は見たことがないので、わからない。
だから、動物性凝乳酵素は、2種類あることになる。
Présureの定義を書いておこう。
現在、Présureは添加物に分類されているのだが、古い法律には、定義が載っている。
チーズ塾のテキストから抜粋。 |
次に、2. の植物性凝乳酵素だが、これは、古代のギリシャやローマですでに使われていたようである。
イチジクの樹液や朝鮮アザミの雄しべなどから抽出した酵素を使用する。
酵素としては、Cynarase、Cardosine、Ficine、Papaineなどがある。
一説によると、グロースターなどのイギリスのチーズには昔これらが使われていて、チーズが濃い黄色になるのはこの酵素のせいだったとか。
植物と植物性凝乳酵素(チーズ塾のテキストより抜粋) |
また、カルドンは、アーティショーの野生種である。
カルドンの花 https://www.iris-gardening.com/zukan/zukan_images/k52.jpg |
3. の微生物系凝乳酵素は、大きく分けて2種類ある。
カビ系と遺伝子組み換え系である。
まず、カビ系からいってみよう。
よく使われているものは、以下の3種である。
1. Mucor miehei(土中にいる高温菌のカビ)が作るProtéase de Mm
(Mmは、Mucor mieheiの略で、酵素名にもなっている。以下同様)
2. Mucor pusilus (土中にいる中温菌のカビ)が作るProtéase de Mp
3. Chryphonectria Parasitica (栗に寄生するカビ)が作る Protéase de Cp
Protéaseは、蛋白質分解酵素。
要するに、カビが作り出す蛋白質分解酵素というわけだ。
この凝乳酵素は、Présureが不足した折に開発され、安価で、手軽であることから、普及したようである。
手軽である理由は、pHに関係なく固まるという点にある。
Présureは、pHによって、働く力が変わる。
理想のpHは、5,5であり、この付近ではよく働くが、pHが高くなると、少し弱まる。
だから、Présure投入時のpHによって、チーズの性格が決まるとも言える。
しかし、カビ系酵素には、この煩わしさがないようである。
手軽ではあるが、微生物系凝乳酵素は、残念ながら、歩留まりが悪い。
工場製には多く使われるが、フランスの農家製には、あまり使われないようである。
次に、遺伝子組換えを見てみよう。
これは、純粋 Chymosine であるが、これを作り出すのは、遺伝子を組み替えたカビ、酵母、細菌である。
主なものには、以下のような微生物がある。
この遺伝子組み換えの凝乳酵素は、現在、かなり使われている。
安価であるし、カビ系酵素より歩留まりがいい。
粉末になっていたりするので、扱いも簡単だし、変質もしにくい。
ただ、純粋 Chymosine なので、Présureを使ったチーズほど、複雑な味は望めないだろう。
筆者の恩師は、Présureが一番良いと言っていたが、筆者もそれには賛成である。
ただ、工場製のチーズの場合、Présure では採算が取れない(高価であるから)、工程が煩雑になる(適性pH時に投入しなければならない)などのデメリットがあるので、使用するのは難しいだろう。
筆者のところは小さく、生産も多くないし、農家製のチーズ製法を選んでいるので、Présureが一番適している。
しかし、大掛かりな設備なら、Enzyme coagulant でも良いと思うのだ。
適材適所であるかな?
この凝乳酵素は、Présureが不足した折に開発され、安価で、手軽であることから、普及したようである。
手軽である理由は、pHに関係なく固まるという点にある。
Présureは、pHによって、働く力が変わる。
理想のpHは、5,5であり、この付近ではよく働くが、pHが高くなると、少し弱まる。
だから、Présure投入時のpHによって、チーズの性格が決まるとも言える。
しかし、カビ系酵素には、この煩わしさがないようである。
手軽ではあるが、微生物系凝乳酵素は、残念ながら、歩留まりが悪い。
工場製には多く使われるが、フランスの農家製には、あまり使われないようである。
次に、遺伝子組換えを見てみよう。
これは、純粋 Chymosine であるが、これを作り出すのは、遺伝子を組み替えたカビ、酵母、細菌である。
主なものには、以下のような微生物がある。
- Aspergillus awamoris(カビ)
- Kluyveromyces lactis(酵母)
- Echerichia K 12(細菌)
この遺伝子組み換えの凝乳酵素は、現在、かなり使われている。
安価であるし、カビ系酵素より歩留まりがいい。
粉末になっていたりするので、扱いも簡単だし、変質もしにくい。
ただ、純粋 Chymosine なので、Présureを使ったチーズほど、複雑な味は望めないだろう。
筆者の恩師は、Présureが一番良いと言っていたが、筆者もそれには賛成である。
ただ、工場製のチーズの場合、Présure では採算が取れない(高価であるから)、工程が煩雑になる(適性pH時に投入しなければならない)などのデメリットがあるので、使用するのは難しいだろう。
筆者のところは小さく、生産も多くないし、農家製のチーズ製法を選んでいるので、Présureが一番適している。
しかし、大掛かりな設備なら、Enzyme coagulant でも良いと思うのだ。
適材適所であるかな?