2017年3月3日金曜日

チーズの製造方法:実践編 Geotrichum Candidum (ジェオトリクム カンディデュム)

本当は、乳酸菌から少しずつ始めようなどと思っていたが、Géoがなかなか重要な微生物なので、ここから始めることにしよう。
Géoは、現在、日本のラクティック・ドミノンタイプのチーズを作るのに人気の微生物である。Camemberti ほど熟成管理が難しくないので、この微生物のチーズは増えてきている。

Camemberti は、苦味を作りやすいが、Géo はそれほどでもない、と言われている。
この頃あまり見かけないが、Président 社 のカンパーニュというタイプのカマンベールには、Géoが使われていると聞いた。
表皮の苦味が少ないと説明してある。
http://presidentcheese.jp/products/camembert-campagne#.WLc63xjCO8Uより

では、Géo とは、どんな微生物なのだろうか?

Geotrichumの分類方法は、長い間、物議を醸してきた。
というのは、いろいろな名前で呼ばれていたからである。

Geotrichum candidum という酵母の名前は、すでに1809年に登場しているが、その後に多数の類似した名前が出てきている。
例えば、

Botrytis geotricha、Oidium lactis ou Oospora lactis、Endomyces geotrichum、Galactomyces geotrichum、Galactomyces candidus・・・

などである。古い文献では、この名前で出てくることがあるかと思う。

そして、今だに、Géoは酵母とカビの間の生物と言われている。
その菌糸の長さによって、カビに分類されることが多かったのだが、この種の雌雄性によって、現在では、酵母に分類されている。

また、この種は、名前が2つあるのだが、生物工学では、Geotrichum candidumを使うことが多いようである。
チーズ製造の世界では、Geotrichum candidum を使っている。
古い文献には、たまにOidiumも出てくるが・・・

上の部分がGeotrichum candidum である。
https://tel.archives-ouvertes.fr/tel-00828666/file/VA2_MOREL_Guillaume_20122012_-_VA2.pdf より


この種は、大きく分けて、3つのタイプに分類される。

タイプ1: クリーム色で、酵母の形態をしている。最低繁殖温度は、22〜25℃で、30℃になるとあまり増えない。胞子をたくさん作り、菌糸は少ない。どちらかといえば、タンパク質分解力は弱い。

タイプ2: 中間種

タイプ3: 真っ白で、フェルト状になる。最適繁殖温度は、25〜30℃。22℃では、あまり増殖しない。胞子はあまり作らず、菌糸を多く作る。どちらかというと、タンパク質分解力が強い。

このようなタイプは、市販のGéoの説明に書いてあることが多い。
チーズに使う場合、どちらかというと、タイプ2か3を使うことが多いようだ。

左の画像は、コロニー、右の画像は、顕微鏡で見た細胞の写真。
上のコロニーと顕微鏡写真はカビのような菌株、下は酵母のような菌株。
http://microbialfoods.org/geotrichum-candidum-mold-transition/ より


Géoは、熟成の早い段階から発現する。脂肪分解酵素とタンパク質分解酵素を放出し、脂肪酸とペプチドを遊離させて他の微生物に分解させる。そして、チーズの風味と品質に関与するのである。

また、工場製のカマンベールの苦みを抑え、チーズ中に揮発性硫黄化合物を作ることによって、伝統的なカマンベールの風味に近づける作用があるのだ。
チーズが、臭くなるということですかな。

Géoの面白いところは、チーズを作る上で、他の微生物を利用しているとも言えるところだ。何を利用し、何と競合するのか、見てみよう。


  • Géoは、リネンス菌のような、酸性の場所に繁殖できない微生物がコロニーを作れるように準備する(要するに、pHを上げるのですね)。
  • リステリア菌を排除し、Mucorも排除する。


これが何を意味するかというと、Géoがきちんと生えないと、リネンス菌は繁殖できないということだ。まず、Géoを生やさないと、ウォッシュはうまくできない。
リステリア菌を排除してくれるのも、筆者のように、ウォッシュを作っている人間には、まことに重宝する微生物である。

また、Mucorを排除してくれるのもありがたい。
こいつが生えるとチーズが色とりどりになって困る。
ま、中身は食えるのだが、売り物にならない。

結局、Géoは、熟成菌として、チーズの表皮を形成する。
St.marcellin などの表面は、自然のGéo が生えて均一になると、とても綺麗だ。

と、いいとこずくめのようだが、欠陥もある。

例えば、チーズの欠陥の一つ、Peaux de crapaud もGéoのせいだ。
これは、Géoが異常繁殖したもので、うねうねとした盛り上がりがチーズの表皮に現れる。山羊のチーズでは大目に見ることもあるが、基本的に、これは欠陥である。

チーズの表面に異常繁殖したGéo。
山羊のチーズに多い。
http://microbialfoods.org/geotrichum-candidum-mold-transition/ より
筆者もチーズを作るときに、Géoの重要性をよく感じる。
Géoが生えないと、うまく熟成しないのだから。
しかし、市販の乳酸菌でなく、自前のLevainを使っているので、Géoがどうなっているのかわからない。感でするしかないのである。

一つの問題をクリアできたと思ったら、また次の問題が出てきて、といった感じで、エンドレス。
どこまで続くぬかるみぞ、と思うことあり(凹んでいるとき)、やってやろーじゃん!と思うことあり(元気なとき)。

いろいろですな。

やー、数えて見たら、7ヶ月くらい、ブログを書いていない。
最後は確か、8月だったような気がする。
今年は、もうちっと書けるように頑張る!(しかない!)