2022年8月13日土曜日

フランスのチーズとイタリアのチーズ

日本のチーズ生産者の方は、イタリアチーズが気に入っているようである。

筆者は、フランスでチーズの製法を学んだので、どちらかというと、フランス贔屓。
かといって、イタリアのチーズをけなしているわけではない。
イタリアにもいいチーズが沢山あるのはよくわかっているが、いくつかを除くと、どれも同じような味だな、と思っていた。

それが何故だか、イタリアチーズの講習を受けて、判明したのである。

北海道の酪恵舎の井ノ口氏が、イタリアのチーズとフランスのチーズの違いを書いている。
それは、以下のURLで見ていただきたい。

https://www.rakukeisya.jp/cheese_mamechishiki/italian_cheese/

彼の言っていることは、イタリアのチーズでは正しいのだろう。
しかし、筆者からしてみれば、フランスのチーズの多様性が書いていないことが残念である。

ヨーロッパのチーズは、基本的にエトルリア人がもたらしたものであるというのが定説である。エトルリア人は今のイタリア半島の先住民族であったらしい。そして、ローマが台頭してエトルリア人はローマに同化したが、チーズ製造の文化はローマに継承された。
その頃、フランスはまだ未開の土地で、ローマの属領となったマルセイユやリヨンなどが発達した。そして、ローマ人はチーズをフランスに持ち込んだようである。

エトルリア人の都市
https://kotobank.jp/word/エトルリア人-36976より

スペインはローマの属領になったため、チーズ文化があるが、「金髪の野蛮人」と称されたドイツには、ローマの文化が伝わらなかったため、チーズ文化がほとんどないのだろう。
「ダニチーズ」という文化は、かなり後になってできたものだろうと推測する。

ローマが衰退し、フランスでは、独自にチーズの文化ができたようだ。

イギリス人によれば、コンテはグリュイエールのコピー?だし、山のチーズが王道であるらしいが、フランスにおいては、山のチーズは冬の食料としての意味がある。平地のチーズは、人々の楽しみのためにあり、挙句は王侯貴族に愛されたというので、イギリス人は気に入らないらしい。

コンテの熟成庫 機械で手入れする

グリュイエールの熟成庫
https://www.gruyere.com/accueil

おそらくイタリアもフランスも、チーズの起源なんぞ、似たようなもんだと筆者は思う。
それが、フランス人気質とイタリア人気質で変わったのだと思う。
井ノ口氏が言っているように、イタリアのチーズは素朴なのだろう。
フランスは、王侯貴族が出現し、彼らの美食のために、美味しいチーズが献上されたということもあるだろう。イタリアは、国として統合したのがフランスより遅い。

フランスでは、統合することで、フランス語の強制やその他、いろいろな制約があったようだが・・・ともあれ、フランスとイタリアのチーズの製造の違いが面白いのである。

どこが違うかって?
フランスのチーズは、製造が面倒臭いのである。
イタリアのチーズは、よく言えばおおらか。悪く言えば、大雑把。

一番の違いは、凝乳酵素を入れるときのpHと、使用する乳酸菌である。

フランスでは、凝乳酵素を入れる時のpHがチーズの性格を決めると言っている。
例えば、ラクティック・ドミノンだと、pHは最低6,2くらい。それが、ミックスのカマンベールになると、6,4。PPNC(非加熱圧搾)では、6,6。PPC(加熱圧搾)では、6,7以上。pHの値で、チーズの性格が決まり、その後の工程を続けるか、修正するかを決める。ここをうまく調節しないと、カイエの性質が変わるからだ。

ところが、イタリアのチーズは、モッツァレッラ(ミックス)で6,4、PPNC(非加熱圧搾)で6,4、パルミジャーノ・レッジャーノ(加熱圧搾)で6,4。同じなのである。

又聞きだが、モッツァレッラの製造で、凝乳酵素を入れる時のpHはあまり関係ないと言っている方がいるそうだ。pHか、ストレッチテストで確認するかで、成形のタイミングを見ているようである。毎日作っているならそれも可能。だが、筆者のように、月に2回くらいしか作っていないと、データが大切になる。

それから、もう一つ大事なことは、イタリアのチーズでは、乳酸菌の中温菌を使わないということだ。理由は、扱いが難しいからだそうだ。フランスでは、ほとんどのチーズが中温菌を使用する。PPCでも中温菌は使うのである。

筆者が高温菌を培養するために見つけた資料では、自然のストレプトコックの培養は難しい上、中温菌を使うより、Typicité(特異性)がないと結論していた。フランス人は、チーズの個性を最も大切にする。
確かに、中温菌の扱いは難しいかもしれない。しかし、それを制御するのが、醍醐味なのではないか?
そして、中温菌と高温菌を使いこなしてこそ、チーズの多様性があるのではないかと思っている。

国によって、チーズの製造方法も変わる。
筆者はイタリアのチーズの製造は、よく知らなかった。
フランスと同じだろうと思っていたら、ずいぶん違うようである。
これで、筆者の疑問が一つ解けた。

筆者は、今まで、イタリアのチーズは、味にあまり差がないと思っていた。
パルミジャーノや、ゴルゴンゾーラなどは別格だが、特にPPNCのチーズに関しては、みんな同じような味だと思っていた。今回、製造を学んで、納得がいったのである。

フランスの製法が一番いいとは言わない。
イタリアは、その製法を選んだだけだから。
しかし、好みとしては、フランスチーズの方がいいですなー
料理に使うのではなく、チーズそのものの旨味を感じられる方が、筆者の好みである。

ま、人それぞれ。
自分がどのように感じるか。
どのように味わいたいか。
それが、一番大事かな。

2022年5月24日火曜日

牛乳再構築技術(reconstitué)

あっという間に、5月も半分を過ぎた。
いろいろあって、なかなかブログも更新できないのが悩みの種だ。
書きたいことは、いっぱいあるのだが、如何せん、時間と乗り気(こちらが重要だ)がないのが、なかなか更新しない理由である。

さて、チーズ塾では、「新しい技術」と言って、ウルトラフィルトラシオン(Ultrafiltration)とルコンスティテュエ(Reconsutitué)の講習をするのだが、Reconstituéに関して言えば、日本の食料販売に関して、問題があるのではないかと思って、ここでいろいろ書くことにする。

Reconstituéとは、アナログ・チーズのことである。
フランス語でアナログというと、「類似品」なのだ。
その名の通り、チーズのようで、チーズではない商品のことである。

先日、某スーパーで昼飯として惣菜を購入した。
パッケージに記載してあったのは、「チーズと大葉の鶏竜田揚げ」。
チーズも大葉も竜田揚げも好きなので、昼飯として購入した。

結果は、「なんじゃこりゃ!」←松田優作風に!

一口食べると、マーガリンの味がする。
筆者は、マーガリンが大嫌いなので、すぐにわかる。
また、チーズの味はしない。油っぽいだけ。

本物のチーズを使っていれば、問題ないはずだ。しかし、チーズ好きの人間にとって、「チーズとなんとか」と書いてあって、チーズの味がしなければ、詐欺である。
実際、この商品の原材料の表示には、「チーズ」のチの字もない。

チーズの文字が小さいのは、なんで?


他にもある。
以前、同じスーパーで、ピッツァを購入した。家族が食べたいというので。
確か、「クワトロフォルマッジのピザ」と書いてあったような気がする。
同様に、原材料にチーズの文字はない。不味い。家族もがっかりしていた。

このチーズもどきは、先ほど言った、「アナログチーズ」というやつである。
日本では、以前、「第三のチーズ」とか、「植物性油脂のチーズ」などと言っていた。
流石に、これはチーズではないので、現在は、「チーズ」という文字はパッケージにない。
その代わり、シュレッドチーズのようなパッケージで、「とろけるミックス」などと書いてある。以下のURLが「アナログチーズ」のサイト。

https://www.marinfood-onlineshop.com/SHOP/116118/list.html

そのパッケージの裏側の、原材料のところを見てみたまえ。
ナチュラルチーズの他に、いろいろ書いてある。なぜなら、この「チーズもどき」だけでは不味いので、本物のチーズも混ぜるからである。
本当のシュレッドチーズなら、「ナチュラルチーズ、セルロース」くらいの表示しかない。

では、この「チーズもどき」とは何か。
説明しようではないか。

筆者が。フランスの乳製品専門学校にいた時、工場製のチーズを作る講座にいたことがある。その時は、プロセスチーズの作り方や、モッツァレッラ(工場製のヤツね)などを勉強したのだが、その中に、「アナログチーズ」の作り方もあった。
アナログチーズは、フランスでもよく使われているらしい。
「アナログのピッツァチーズ」もあるから。

左上:本物のチーズ
右上:偽物50%、本物50%
下:偽物100%

一体どのようなものかというと、ざっくりいえば、脱脂粉乳に植物性油脂とデンプンを混ぜて、もう一度「乳もどき」を作り、それで「チーズもどき」を作るのである。
乳組成は、タンパク質、脂肪、糖分であるから、とりあえずそれらしいものは入っている。

ただ、脱脂粉乳にすると、カゼインは元の姿ではないので、加工しなければならない。また、脂肪分は、クリームとして取り出し、バターになっている。フランスでは、余剰な生乳を脱脂粉乳とバターで保存するのだが、バターは無くなっても脱脂粉乳が残るのである。

脱脂粉乳だけでは、「乳もどき」にはならない。バターにした脂肪分は値段が高い。
そこで注目したのが、「パーム油」。他にもいろいろな植物性油脂が使われているらしい。
そして、乳成分中で一番多い「糖分」は、澱粉で補う。
そのほか、味を補うため、化学調味料も入れる。

この「チーズもどき」の宣伝になるような話だが、検査をすると、原材料は自然のものであるという科学者もいる。しかし、自然の材料を使っていても、チーズではないのに、「チーズ」と表記することが問題なのである。

このチーズもどき、単体では不味い。
だから、本物のチーズと混ぜて使うのだ。
フランスの動画で、市販のピッツァを調べると、「4種類のチーズ」と書いてあっても、「3種類のチーズとチーズもどき」ということをバラしているものがある。

日本では、まだチーズが苦手な人もいるので、チーズらしくない「もどき」を好む人もいると思う。それはそれでいい。しかし、チーズを使っていないのに、商品名に「チーズとなんとか」とか、「4種類のチーズのピッツァ」と書くのは、詐欺である。

詳しいことは、講座に譲るとして、皆さんも「チーズとなんとか」と書いてある惣菜を見たら、裏の原材料を見て確認した方がいい。そんな惣菜に当たったら、チーズ好きなら、確実にがっかりするだろうから。

フランスでは、余剰の脱脂粉乳を使う手段として、こういう技術を使うようになったらしいが、開発したのはアメリカである。筆者は、自然が一番だと思っているので、このような、あまりにも経済観念だけが一人歩きするのは好きじゃない。こういうものがあっても構わないが、本物のチーズであるかのように誤魔化すのが嫌なのだ。

この「チーズもどき」は、値段が安い。確か、本物のモッツァレッラが15€/Kgなのに、この「チーズもどき」は、40セント/Kgなのである!
おそらく、日本でも、いろいろなところで使われているだろう。原材料を表示しなくていい商品なら、絶対に使っている。例えば、飲食店など。

https://www.francetvinfo.fr/economie/commerce/video-comment-reconnaitre-le-vrai-fromage-du-faux-fromage-analogue-ou-fromage-artificiel_947249.html

日本人は、食べ物にお金を使わないという話も聞いたことがあるが、そうとも思えない節がある。ちゃんとした食べ物を知らないだけなのかもしれないと思うのだ。
ファストフードが台頭した後に生まれた子供たちは、それが普通だと思う。
筆者のように、まだ冷蔵庫の普及が少なく、毎日ご飯を作る食材を買いに行っていた時代に子供だった人なら、わかるだろう。

ただ、悲しいことに、筆者の親世代は、便利なものがいいと思っているので、カップ麺などが大好きである。しかし、あれは健康には良くない。特にお年寄りには。塩分量が多いので、腎臓が悪くなったりするからだ。

食べ物は、大事である。
そして、表示はきちんとしないとね。

今回は、なんだか食べ物全体のことになってしまったようだが、チーズだけでなく、「食べ物」を考えようと思っている。
なかなか続きの製造総論が書けないのだが、ちょっと寄り道が多くなるかもしれない。
総論も面白いんだけど、能書きだからなー

とりあえず、今回はここまで。
次回は、いつになることやら・・・