2014年1月28日火曜日

チーズを作る:原乳編 乳酸菌

乳酸菌というと、皆さんは、何を思い出すだろうか?
乳酸菌飲料だろうか、それともヨーグルト?
実は、日本の糠漬も乳酸菌が働いているのだ。
では、乳酸菌て、何だろう?

フランスのチーズ屋さん。右側のバケツはフロマージュ・ブラン、真ん中にはトム、左側にはブルーチーズがある。使用している乳酸菌は、それぞれ違い、チーズの特徴を出している。

乳酸菌の定義を表す最適な文章を見つけたので、引用する。

「乳酸菌は、乳酸を多量に作る細菌群の総称である。乳酸菌はグラム陽性(細菌をグラム染色で染色すると青色に染まる)で桿菌(筆者注:形が棒状や円筒状の細菌)または球菌の形態をとり、カタラーゼを生産せず、運動性がなく、胞子を形成せず、(中略)ブドウ糖に対して第一発酵式(ホモ発酵)あるいは第二発酵式(ヘテロ発酵)に従って乳酸を生成することが定義づけられている。」
「畜産食品微生物学 細野明義編(株式会社朝倉書店)」
 P34 2.1 微生物の種類(北澤春樹)c.発酵乳製品と微生物 より抜粋

カタラーゼは、簡単に言うと細胞内の毒素を過酸化水素を使って解毒する酵素のこと。WikipediaのURLを貼っておく。http://ja.wikipedia.org/wiki/カタラーゼ
また、第一発酵式とは、乳酸のみを生産する発酵、第二発酵式とは、乳酸の他に二酸化炭素とエタノールを生産する発酵である。

この定義は、チーズの学校にいたとき、試験に出た。
そのくらい大事なのである。

固めるだけなら、プレジュールだけでいいのである。
筆者も学校で、いろいろな固まり方を実験した時に、乳酸菌だけではヨーグルト状になるだけ、プレジュールだけだと、固い杏仁豆腐のようになるのを見ている。
だからなんで乳酸菌を使うの?と聞かれると、チーズの特徴を作るためと云えばいいだろうか。

乳酸菌は、乳中の乳糖を乳酸に変える。だから、pHが下がり、乳は酸性になる。
どのくらいのpHの時に、プレジュールを加えるかというのが、チーズを作るときの最重要事項である。これで作るチーズの性格が決まってしまうからである。
ちなみに、ハードタイプのpHは高め、ソフトタイプのpHは低めである。
バスク地方の牛乳製トム。高温菌がやや多く使われる。

山羊のチーズ。製法もラクティックなので、中温菌がメイン。

それだけではない。
乳酸菌は、種々の酵素を持っていて、これがチーズの熟成に深く関係するのである。
例えば、加熱圧搾タイプ(Pâte pressée cuite)は、50℃以上に加熱する工程があるので、中温菌(mésophile)は死んでしまうが、どっこい、酵素はなくならない。高温菌(thermophile)は、死滅しない。
ソフトタイプは、中温菌が熟成に関与する。
このように、乳酸菌由来の酵素は、熟成にとって重要な要素の一つなのである。

使用する乳酸菌は、チーズの種類によって変わる。
ソフトタイプは、中温菌、加熱圧搾タイプは高温菌を多く使う。
ラクトコックという、中温菌の写真のURLを貼っておこう。
http://genome.jgi-psf.org/laccr/laccr.jpg
もう一つ、ヨーグルトに使われるので有名な高温菌、ラクトバシリュス・ブルガリクス(lactobasillus bulgaricus)の写真のURLもつけておこう。
http://ytpo.net/viruses/adpanela/images/lactobacillus_bulgaricus_4.jpg

日本だと、乳酸菌は飲料とヨーグルトくらいしか、知名度がないが、近年、プロバイオティクス(les probiotiques)が注目されている。プロバイオティクスは、

「腸内微生物叢のバランスを改善する事によって、宿主の健康に好影響を与える生菌体」
「畜産食品微生物学 細野明義編 (株式会社朝倉書店)」
P113 4.3 発酵乳(金子勉)e. 発酵乳の栄養生理作用とプロバイオティクス より

とされ、2001年に、FAOとOMSで規定もされている。
筆者の大好きな山羊チーズが沢山。これを食べて健康になれるなら、一石二鳥!

筆者は、からだにいいから食べるというより、美味しいから食べるという主義なので、チーズに健康を保つ要素があると言われてもピンとこない。
でも、好きだから食べているものが、健康によければ、こんなにいい事はない。
このごろ、食べていないので、そろそろ禁断症状が・・・

2014年1月24日金曜日

AOPのチーズ:牛編 ブルー・ド・ジェックス オー ジュラ

ブルー・ド・ジェックスというチーズがある。
日本では、あまり見かけないが、ジュラ地方の大型のブルーチーズである。
イタリアのゴルゴンゾラも12Kgほどあるから、大型チーズの部類に入るが、フランスのブルーで、6〜9Kgというのは、かなり大きい。

表皮は、白っぽくて、中身は、弾力があって柔らかい。

表皮には「Gex」の文字がある。ブルー・ド・ジェックスであるという証拠。
これは、プラクチックの板をカイエにのせて作る。
圧搾はしないので、重みで自然にGexの文字が、彫り込まれるのだ。
少し見づらいが、カイエの真ん中に、プラスチック製のジェックスの文字が見える。
ブルー・ド・ジェックス。左側に「Gex」の文字が見える。

中身は、細かい青カビが散らばっていて、ロックフォールなどとは少し違う様子である。生地は、少し、もちもちした感じで、弾力がある。
どちらかというと、サンネクテールなどの柔らかいセミハード系に、ブルーが入っている面持ちである。
かっと断面。カビが細かく散らばっている。

原乳は、ジュラ地方の牛、モンベリアルドとシメンタール・フランセーズ。
青カビは、ペニシリウム・グロクムとペニシリウム・ロックフォルティ。
塩分が、0,8%と少ないので(ロックフォールは3%くらい)、食べやすいブルーチーズだ。
ブルー・ド・ジェックスの型に入ったカイエ。

AOC取得は、1977年だが、2007年に名前を少し変更している。
規則によると、現在は、「ブルー・ド・ジェックス オー ジュラ」(Bleu de Gex haut Jura)あるいは「ブルー・ド・セモンセル」(Bleu de Septmoncel)であるが、以前は、「ブルー・ド・ジェックス」、「ブルー・ド・セモンセル」、「ブル・デュ・オー ジュラ」だった。
名前の単純化のためである。

元々は、13世紀にドフィネ地方から移民してきた人々によって、製法がもたらされたらしい。それがサン・クロードの修道院経由で、一般化したようである。
18世紀には、オー ジュラ(haut Jura)で、シャレ・ダルパージュ(Chalet d'alpage)か、フリュイティエール(la fruitière)で作っていたと言われている。
カーヴで熟成中。

ジュラのAOCチーズの中では、生産量が一番少ない。
理由は、工房に行くとよくわかる。
ジュラは、コンテの製造地域が広い。そして、モルビエを一緒に作っているところが多く、季節になるとモンドールも作るところが多い。
しかし、ジェックスは少し様子が違うのだ。一緒に作っているところがあまりない。もちろん、作れる地域も関係してくるのだが。

まず、キューヴの形が完全に違う。コンテとモルビエは同じキューヴを使う事が出来るが、ジェックスは、蒲鉾を引き延ばしたような、ブルーチーズ特有のキューヴを使う。また、ペニシリウムは扱いが難しい。繁殖力が強いので、きちんと処理しないと、他のチーズに青カビが生えてしまう。
筆者が見学した工房は、モルビエとコンテも作っていたが、工房は分かれていた。
ブルー・ド・ジェックスのキューヴ。蒲鉾を逆さにしたみたいな形。
穴をあける針。

ブルー・ド・ジェックスの組合は、知名度を上げたいらしいが、フランスのブルーチーズはロックフォールを代表とする、小型で水気がたっぷりある柔らかいものが主流なので、苦戦しているようだ。また、よいものを見つけるのも難しいようである。筆者の元同居人(フランス人)も、ジェックスは美味しいと思うものがなかなかないと言っていた。2009年の暮れに見学に行った時、組合の女性が、サスナージュと共同でプロモーションをしたいが、うまくいかないと云っていた。現在は、どうなったのだろう?

筆者はジェックスが大好きである。
ロックフォールも好きだが、素朴で塩味も強くないこのチーズは、そのまま、ぱくぱく食べられる。残ったら、ピザやグラタンに乗せて溶かして食べても美味しい。地元ではあまり高くなかったが、日本では手に入れにくいし、高いなあ・・・

2014年1月21日火曜日

チーズを作る:原乳編 乳成分

牛乳製のチーズは多い。
だから、牛乳の研究は進んでいて、成分の分析も明確である。山羊乳については、牛乳ほどではないが、近年、研究が進んでいるようだ。
しかし、羊乳に関しては、あまり研究が進んでいない。
ブリ・ド・モー。2008年のサロン・ド・フロマージュにて。

山羊や羊は、種類だけでなく、住んでいる場所でかなり乳組成が変わる。
筆者もレポートを書くとき、山羊乳の組成をインターネットから引用したところ、その資料が北アフリカのものだと先生に指摘された事がある。一般的ではないので、不適切というわけだ。
BIO(自然食品)の山羊チーズ。マコンの市場にて。

今回、羊乳の成分をインターネットで探したところ、カナダの資料を見つけた。
割と信用できる数値だったので、URLを貼っておく。フランス語だが、参考にしていただきたい。
http://www.fouillez-tout.com/bergerie/Tableau_lait.jpg

一口に乳と言っても、2種類ある。
アルブミノー(Albumineux)とカゼイノー(Caséineux)である。
アルブミノーは、乳中の蛋白として、アルブミン(水溶性蛋白質)が多く、脂肪分が少なく、乳糖が多い。人、馬、犬、猫等の乳に多い型である。
カゼイノーは、乳中蛋白で、カゼインが多い(牛だと、約80%がカゼイン)。牛、山羊、羊、トナカイ、面白い事にウサギもこのタイプである。

この二つの違いは、凝乳酵素で固まるか固まらないか、である。
カゼインがないと、凝乳酵素で固まらないのだ。
水溶性蛋白なら、熱で凝固するのだが、酵素で凝固しない。
乳があれば、チーズになるというものではないのだ。

さて、乳成分だが、一番解明されている、牛乳の成分を説明する。
まず、乳組成のうち、一番多いものが水分である。以下、順番に%で示そう。
(Initiation à la technologie fromagère:2003年 第2版より)
  1. 水分:  87-88%(多いと90%ほどになる)
  2. 乳糖:  4,7-5,2%
  3. 脂肪分: 3,3-4,5%(牛の種類、餌、季節によって、変動する)
  4. 蛋白質: 3,2-3,6%(牛の種類で多少変わるが、餌等によって変動しない)
  5. ミネラル:0,85-0,95%(カルシウム、リン等)
水分が約90%なので、チーズ一個作るのには、約10倍の牛乳が必要というわけである。
乳糖は、水に溶けているため、乳清と一緒にカイエの外に出る。残っていると、熟成中に悪さをするので、フレッシュタイプ以外は必要ない。
脂肪、蛋白質は、ほとんどすべてカイエ内に残る。主なチーズの構成成分である。
ミネラルはカルシウムとリンがチーズ組織に影響を与える、重要な要素である。

これは牛乳の場合だが、山羊と羊の場合は、成分組成が少し違う。
山羊乳の成分組成は、牛乳と似ているが、カゼインの組成(乳中のカゼインは、4種類ある)、脂肪球の大きさ等が変わる。
羊乳の場合は、もっと違うのだ。

添付したURLの表を見ていただきたい。
羊の場合は、水分以外の固形分が多い。(牛:vache、山羊:chèvre、羊:brebis)
特に目立つのが、脂肪分の多さだ。牛の約2倍ある。
(Total des solides:固形分、Matières grasses:脂肪分)
蛋白質も多いが、乳糖はさほど差がない。
という事は、歩留まりがいい、すなわち、少ない量の原乳で、チーズがたくさん出来るというわけである。しかしよくしたもので、羊の乳量は少なく、おまけに泌乳期間が短いのだ。
コルシカの羊のチーズ、Venaco。

羊のチーズは、脂肪分が高いので、味がいくぶん甘い。
ロックフォールを食べた後に、口の中に甘みを感じた事はないだろうか?
牛乳製のブルーチーズではない事だ。
また、チーズの脂肪分が多くなるので、こってりしたチーズになる。
ロックフォールと同じ地方にペライユという、羊乳のカマンベールに似たチーズがあるが、こってりしていて、口当たりもいい。
ロックフォール用の乳生産が多くなりすぎたので、このチーズを作るようになったと聞く。

筆者は羊に興味を持っていた。
何故なら、毛、肉、乳、すべてを利用できるので、利用価値が高いと思っていた。
しかし、チーズを作る事がメインになるなら、難しそうである。
牛は飼うのが大変だから、筆者が飼うとなると、やっぱり山羊になりそうだ。


2014年1月17日金曜日

AOPのチーズ:牛編 コンテ

フランスのAOPのチーズ中、生産量は、堂々第一位。
2012年の生産量は57886トン、チーズにすると、実に1450000個に相当する。
パリのスーパーマーケットでも、パック入りをよく見かけた。
比較的若いコンテがパック入りで売っているようで、そのまま食べても、料理に使っても、安くておいしい。
2012年のサロン・デュ・フロマージュにて。右上から時計と反対回りに、
コンテ、モルビエ、ブルー・ド・ジェックス、モンドール。

1958年にAOCを取得しているが、このときは、「グリュイエール・ド・コンテ あるいは コンテ」(Gryère de COMTE ou COMTE)となっている。その後、1996年にAOPを取得し、2008年に規則を改めている。その中では、名前は「コンテ」(COMTE)のみ。グリュイエールの名を捨てている。

グリュイエールというのは、諸説あるのだが、スイスやフランスなどのアルプス周辺で作っていた大型のチーズを意味しているようである。コンテの「グリュイエール・ド・コンテ」という名は、「コンテ地方の大型チーズ」のような意味だろう。AOPのチーズは、名前を「通り名」から変更する事がある。コンテは、グリュイエールとの混同を嫌ったのだろう。他にも、モンドールやシャヴィニョルの例がある。
コンテの熟成庫。真ん中は、コンテの手入れをする機械。

このチーズは、製造施設に特徴がある。
フリュイティエール(la fruitière)という名の、コーペラティヴ(協同組合)で作るのだ。この協同組合に、乳生産者が原乳を集め、コンテを作る。だからこの協同組合の役員は、乳生産者である。このシステムは、8世紀頃から始まり、今も続いている。

こうなった背景には、アルプスの気候の厳しさが無関係ではない。
アルプスの冬は寒さが厳しく、食料の貯蔵が必要になる。
そのために、夏の間に牛乳を持ち寄って、大型のチーズを作り、皆で分けていたのだ。チーズは親方が作り、持ってきた牛乳の量によってチーズを配分し、親方は給料をもらっていたようである。
筆者は、冬の間にコンテを保存しておくという石の容器を見た事がある。コンテがすっぽり入る入れ物で、石の蓋付き。そのままチーズを切り分けられるようになっていた。

コンテの熟成のメッカは、ポリニーというちいさな町である。ここに、メゾン・デュ・コンテという博物館(実際は、CIGCという、コンテの生産者団体の施設だが)がある。筆者も何度か行ったが、4€はらって、20分くらいのヴィデオを見て、職員と一緒に館内を回って、最後に試食するというコースである。ヴィデオは英語もあるらしい。筆者は英語よりフランス語の方がいいので、英語ヴァージョンはしらない。説明はフランス語だったが、英語もあるかも・・・
メゾン・デュ・コンテ。

コンテは、商業的に成功したチーズである。
資料が少し古くて申し訳ないが、2011年では、総輸出量が2630トン。輸出先は、

  1. ドイツ:1021トン
  2. ベルギー:810トン
  3. アメリカ:538トン
  4. イギリス:194トン
  5. 日本:62トン
である。筆者が学校に行っていた、2009年に、CIGCで講義を受けたときは、一位がアメリカ、二位がロシア、三位が日本と説明を受けた(統計は、2008年以前と思われる)。現在は、中国市場も視野に入れているそうである。

一つのコンテを作るためには、約400Lの牛乳が必要である。牛は、モンベリアルドかシメンタール・フランセーズと決まっている。
また、工房内には、キューヴという名の、銅製の釜が2個以上必要。
一個5000L以下の大きさと決まっている。
ときどき、コンテの農家製と言って売っているのを日本で見かけるのだが、怪しい。
というのは、もし400Lのキューヴ(学校でしか、見た事ない)が2個あったとしても、1日に800L以上の牛乳を集めるのは、農家では難しい。その上、一日一つしか製造しないとなると、商売にならない。だから、コンテの農家製というのは、存在しないはずである。
コンテのキューヴ。

カナダやロシアでコンテの偽物が出たり、地元でも「赤いカゼインマーク」の偽物コンテ騒ぎがあったそうだ。人気のあるチーズだから、まねされるとはいえ、CIGCは、その対応に忙しい。
筆者も日本の某アトリエで撮影したコンテ風のチーズを、偶然学校で先生と同級生に見られた事があるが、反応が大変だった。「日本人が、コンテをコピーしている」と言われた。
出来て間もない、コンテ。緑色の楕円がカゼインマーク。

コンテは、その味を保つために、色々な研究を重ねている。
その一つに、「土壌」がある。
土壌の違いが、同じコンテでも、コーペラティヴの場所によって、味の違いを生む。
だから、いくらよその国でまねをしても、コンテの味にはならない。
作り方をまねしても、違うチーズなのである。

筆者は、コンテに憧れてポリニーの学校に行った。
残念ながら、企業研修は、コンテのコーペラティヴでは出来なかったが(男の世界で、女はなかなか雇ってもらえない)、コンテの製造方法、その他を学ぶ事が出来て、とてもよかったと思っている。
日本にもコンテのサイトがあるので、URLを添付しておこう。

2014年1月14日火曜日

チーズを作る:原乳編 牛

世界で一番多く製造されているのは、牛乳製のチーズである。
日本の乳用では、ホルスタイン種の牛がほとんどで、ブラウンスイス種とジャージー種をちらほら見かけるだけだ。
ヨーロッパだと、肉用、乳用で、沢山の種類がある。
今回は、フランスでチーズ用の牛乳を生産している牛をご紹介しよう。
放牧の風景。サヴォアにて。

  • モンベリアルド(la Montbéliarde)
フランスの西部に多く分布、特にフランシュ・コンテ地方に多い。と云うのは、コンテチーズ(以下コンテ)を製造する地域では、モンベリアルドとシメンタール・フランセーズ以外の種類の牛を排除したからである。これは、牛の混血を防ぐためと、牛乳の混乳を防ぐためである。と云うのは、コンテの原乳は、モンベリアルドとシメンタール・フランセーズと決まっているからだ。

この牛乳は、蛋白質、脂肪に富み、しかも良質で、チーズ作りに最適である。その上、乳量も程々にある。現在は、フランスのあちこちで飼育され、乳用牛では、第二位の地位を占める。他の地域で、牛の群れの中に一頭だけ、モンベリアルドがいるのを何度か見た。聞いてみたら、子牛に乳をやるためだそうである。貰い乳ですな。

チーズの学校の先生にも、牛乳のチーズを作るなら、モンベリアルドがいいと薦められたが、日本では難しい。
モンベリアルド。コーペラティブの農場にて。

  • ホルスタイン(la Prim'Holstein)
日本でよく見かける、白地に黒の斑点の牛。フランスでも、乳用牛として、堂々第一位。フランスのブルターニュ、ノルマンディー地方に多い。オランダ原産だが、その乳量の多さで人気があり、品種改良されて、ヨーロッパ、アメリカ、オセアニアなどにも多い。

チーズの原乳として使われる事も多いが、蛋白質、脂肪ともに少なめ。
乳量は多いので、どちらかというと、飲料乳と工場製チーズ向けだろう。
AOCチーズの原料として指定される事はほとんどない。
フランスのAOCチーズは、牛の種類を地元産に限定している事が多いが、乳量は少なくても、チーズ作りに重要な、蛋白質が多くて良質である牛を選んでいるからだ。

筆者もノルマンディーにいた頃は、ノルマンディー牛より、ホルスタインをよく見かけた。学校で飼っていたのもホルスタインだった。
ノルマンディーやブルターニュは、工場製のソフトタイプと工場製エメンタールの製造が盛んなところである。それらのチーズの原乳となるのだ。
写真は、以下のURLを参照していただきたい。
http://zookan.lin.gr.jp/kototen/rakuno/r422_1.htm

  • ノルモンド(la Normande)
カマンベールの原乳を提供する牛。ホルスタインと同様、ブルターニュ、ノルマンディーに多い。近頃は、アフリカにもいるそうで、環境に対しての適応力が買われている。
フランスでは、乳用牛として、第三位。
この牛乳の特徴は、何と言っても脂肪分の高さ。モンベリアルドに比べても高い。その代わりに、乳量はやや少ない。

ノルマンディーは、バターも有名で、料理もクリームとバターを使ったこってりしたものが多い。
ノルマンディーにいた時に感じたのは、とにかく、「ものすごく寒い!」。
農家に下宿していたのだが、暖房があっても寒くて、布団をぐるぐる巻いて、みの虫状態で勉強していた。
だから、脂肪分たっぷりの食事が好まれ、ノルモンドが歓迎されたのだろう。
写真は、以下のサイトを見てほしい。
http://www.lanormande.com/web/la_vache_normande.html

  • アボンダンス(l'Abondance)
ローヌ・アルプ地方に多く、乳用牛の第四位である。原産は、オート・サヴォア。
多くのAOCチーズの原乳を提供している。

アボンダンスというAOCチーズがある。アボンダンス牛は、このチーズの原乳を提供すると云われているが、現実は、ルブロションに持っていかれて、原乳がモンベリアルドになっていると現地で聞いた。アボンダンスは、わりとマイナーなチーズだが、ルブロションは、近頃テレビコマーシャルでも宣伝しているくらい、売れているようだから、やむを得ない事なのか・・・

夏は、標高の高い斜面に放牧されている。ボーフォール・シャレ・ダルパージュは、この牛とタリーヌ牛の、夏の牛乳を使い、標高1500m以上の高地で製造する。
夏のサヴォアは、高山植物が咲き乱れて、とてもきれいだった。
その中で草を食んでいた牛たちが、印象に残っている。
アボンダンス。サヴォアの放牧地にて。

  • タリーヌ(la Trine)
タロンテーズ(la Tarentaise)とも言う。
この牛の特徴は、からだが小さいこと。そして、美人である(美牛?)
モンベリアルドは、どっちかというと、器量がよくないのだが(それもカワイイが)、タリーヌは、ほんとにきれいである。子牛は、とてもかわいい。

この牛もボーフォールなど、サヴォア地方のチーズの原乳を提供している。
放牧していても、搾乳時間になるとちゃんと戻ってくる。そして、搾乳場では、糞をしない。終わって出てくると、用を足すので、小屋の周りは糞だらけになるが、中はきれいだ。本当に、頭がいい。
山羊はどちらかというと、言う事をきかない。
搾乳時間になっても逃げ回ったり、首根っこをつかまれても、足を踏ん張って嫌がる。
牛が人間の家畜として多く飼われているのも、この頭の良さと従順さと無関係ではあるまい。
タリーヌ。夏のサヴォアにて。


  • ブラウンスイス(la Brune)
スイス原産の乳牛。日本でもチーズ工房を持っている農家が飼っている事がある。
19世紀にフランスに来たようであるが、現在は、その乳が、蛋白質に優れている事に注目されて、フランスでもチーズ用に飼われている事が多い。
フランスの南に多い。

筆者もバスク地方に行った時に、農場でこの牛を飼っていたのを見た事がある。そこは、色々な牛がいたのだが(例に漏れず、モンベリアルドが一頭だけいた)、飼い主は、この牛はチーズに向いているとほめていた。
日本でも、牛乳にこだわるチーズ工房は、この牛乳を使う事が多い。
筆者もいずれチーズを作るときは、この牛の牛乳を使いたいと考えている。
ブラウンスイス。バスクにて。


フランスの主な乳用牛は、以上だが、他にもサレール牛、オーブラック牛などがいる。しかし、肉用がメインのようなので、今回は割愛する。
チーズを作るための原料乳は、ものすごく大事である。その成分が、チーズの味、風味などを左右するからだ。

牛、山羊、羊がチーズを作るための主な動物だが、その成分組成は違う。
「チーズを作る」編で、次回は、乳の成分組成について書くつもりである。
羊については、成分組成の話の時に、ざっと、説明しよう。

2014年1月10日金曜日

AOPのチーズ:山羊編 マコネ

ブルゴーニュのチーズというと、エポワスを思い出す人が多いだろう。
実際、エポワスは、ブルゴーニュの広い範囲で生産されている。
しかし、マコンのある地域、ソンネ・ロワール(Saone-et-Loire)は、農家製山羊チーズ生産では、フランスで第一位である。そこで唯一のAOP山羊チーズ、マコネをご紹介しよう。
マコネ作成中!
型から出したマコネ

ちいさなチーズである。
規則によると、規定の熟成が終わった時に、50〜65gである事が義務づけられている。
マコネフレッシュとして売っているものも見かけるが、型出しから10日間は熟成庫に置いておかなければならないので、厳密に言うと、あれはマコネではない。

富士山のような形をしているのは、型がてっぺんを切り取った円錐形のような形をしているから。そして、このチーズもラングルと同じように、反転させないのだ。
同じ型を使った、「ブトン・ド・キュロット」(パンツのボタンと云う名前!)は、型の中で反転させるが、このチーズはしないので、あんな形になる。
ブトン・ド・キュロット
どちらかというと、地元消費である。
日本では、あまり見かけない。
チーズショップで働いていた時に、無理を言って筆者が働いていた農場のマコネを輸入してもらっていた。一時期、渋谷のフェルミエで見かけた事もある。
しかし、あまり一般的ではないようだ。

現在では、生産農家が減って、INAOの資料では10軒の製造農家と書いてあるが、2010年の時点で、地元で7軒と聞いている。
同じAOPでも、シャヴィニョルやサントモール・ド・トゥーレーヌのように、有名なものはいいのだが、あまり有名でないものは、厳しいのだろう。

食べ方は、そのまま食後に食べる事が多い。
レシピも見つけたが、そのまま食べた方が美味しいと思う。
地元では、フレ、ドゥミセック、ブリュテ(青カビが表面に生えているもの)と熟成段階で分かれている。青カビが生えている、というと、ギョッとする人もいるだろうが、これが美味しいのである。固くしまった生地が、ほこほこしていて、ブルゴーニュの白ワイン、サン・ヴェロンやプイイ・フュッセなどと一緒に食べると、絶品。
青カビの生えたマコネ。生地がしまっていて、絶品!

山羊のチーズを敬遠する方が多いが、山羊チーズは、管理が難しい。
日本の店頭では、乾燥しすぎてかちかちになったり、味が辛くなりすぎる事もあるので、ちゃんとした管理をしているところで購入する事をお勧めする。
山羊チーズは、美味しいですぞ!

2014年1月7日火曜日

チーズを作る:原乳編 山羊

2014年、新しい年がやってきました。
今年も、チーズ A to Zをよろしくお願いいたします。

今年は午年だが、筆者の独断と偏見によって、今年最初のテーマは「山羊」である。
昨年は、テーマがバラバラだと感じたので、今年は順序立てて綴っていこうと考えている。そこで、まず始めに、原乳。山羊といこう。

日本にいるのは、ほとんど日本ザーネン種という、スイスサーネンを日本の風土に合うように改良した種である。在来種もいるが、数が少なく、肉用が多いようだ。
そこで、フランスに目を向けてみよう。
ブルゴーニュの農家の山羊。ここは、各地方の希少種もいた。

フランスの山羊の種類は、10種類ほど。
羊や牛は、肉用もいるのだが、山羊はほとんど乳用である。現在は、子ヤギの肉利用、毛皮の利用もされているようだ。
乳利用の種類については、チーズ製造の為に飼っている種と、飲料乳用の種がいる。
ここでは、チーズの原乳をとるための主な山羊をご紹介しよう。

  • アルピンヌ(l'Alpine)
スイス原産の茶色の山羊。アルプスの羊が飼えない荒れた土地で、飼育されていた。現在では、フランスの広い範囲で飼育されている。その乳質の良さから、AOPのチーズの原乳と定められている事も多い。
筆者はフランスで、山羊の牧場で働いていた。二つ目の牧場は、マコネを作っていて、アルピンヌを飼っていた。この山羊は、好奇心が旺盛で、そばに寄ってくる。取り巻かれてあちこちかじられる。初めて山羊の牧場に見学に言ったときは、着ていたコートがヨダレだらけになった。頭、角と角の間(角は子供の頃に抜いてしまうので、角の痕だが)を掻いてやると、嬉しそうな様子である。乳量は、年間700L程度。乳中の蛋白質、脂肪とも高く、良質。現在はサーネンも許可されているAOPのチーズの原乳は、少しずつこの山羊乳にシフトしてきている。
アルピンヌの群れ。大きな角を持っているのがブック(雄山羊)。
ちなみにシェーヴルは雌山羊の事。


  • サーネン(la Saanen)
スイス原産の白い山羊。皆さんもよくご存知の、アルプスの少女ハイジに出てくる山羊である。1910年代にフランスにやってきて、中央部から南西部にかけて広がった。世界中で一番飼育されている種である。
この山羊の特徴は、おとなしくて従順である事。だから世界中に広まったと言える。
また、乳量が多いのも特徴で、年間900〜1000Lである。
乳中の蛋白質、脂肪の量は低め。
この山羊とのおつきあいは、一つ目の山羊牧場。出産ラッシュのときは、子ヤギの世話をしていた。子ヤギは生まれてすぐ親から離してしまい、初乳を飲ませた後に、専用の粉ミルクを与える。これがなかなか難しくて、大変。飲んでくれないからだ。サーネンの子ヤギはかわいいけれど、アルピンヌより死んでしまう事が多かったように思う・・・
サーネンのブック。ブックは、臭いがきつい・・・

サーネンのシェーヴル。まだ若い。


  • ポワトヴィン(la Poitevine)
フランスの中西部原産(Niortあたり)。フランスの山羊チーズのメッカ、ポワトー・シャラント原産である。1925年にはやった熱病で、その数を減らしたが、現在は、数を増やそうという計画が進行し、順調に数を増やしている。
年間500Lの乳量は、少ない。ただ、乳質はよく、フランスのチーズ作りに向いていると云われる。乳利用しかしない山羊だそうである。フランスの西部に多い。写真は、こちらを参照してほしい。
http://fr.wikipedia.org/wiki/Poitevine_(race_caprine)


  • コルス(la Corse)
コルシカ原産。4000年以上前の骨が発見されている、古い土着の種である。
この山羊乳で、コルシカの山羊チーズを作っている。この山羊の写真もこちらを参照してほしい。
http://fr.wikipedia.org/wiki/Corse_(race_caprine)


  • ピレネー(la Pyrénéene)
ピレネー原産だが、いつ頃からいるのか、はっきりしないらしい。
5000年前からと云う説もある。
主に飲料乳用として、飼われていた。羊の群れに混ぜて放牧し、羊飼いの飲料乳を提供していたのである。
この種もポワトヴィンのように、20世紀の中頃にほとんど全滅しかけた。
現在は、数を増やすための計画が進行中。
チーズのトム・ド・ピレネーの原乳となる。
ピレネー。毛足が長いのが特徴。


  • ロヴ(la Rove)
フランス、地中海辺りの原産。三角形の角が特徴である。
この山羊も羊と一緒に移牧され、肉と飲料乳を牧夫に提供していた。
現在は、AOPのチーズ、ペラルドン、ピコドン、バノンの原乳と定められている。
ロヴ。隣のお尻は、アルピンヌ。


ポワトヴィンが多い西部で働いた事がないので、世話をした事はないが、チーズ学校の先生にはこの3種がフランスを代表する山羊だと教わった。
ポワトヴィンのチーズを作ってみたいものだ。