2017年8月8日火曜日

チーズの分類はどのようにしたら良いのか?

先日、知り合いに、チーズの分類について、質問を受けた。

ミモレットに関してであったが、このチーズをPPC(加熱圧搾)に分類していることがあるという。ミモレット・ヴィエイユ(熟成の長いチーズ)は*LR(ラベル・ルージュ)という認証を取っている。CDC(Cahier des charges:カイエ・デ・シャージュ=仕様書)は、まだ完成していないようだが、下書きを読むとDélactosage(デラクトザージュ:カイエをお湯で洗うこと)を行なっているので、PPNC(非加熱圧搾)に分類される。
INAOの分類も、PPNCになっている。
*LR:ラベル・ルージュ;一般に販売されている商品よりも、その品質や製造が優れているものに与えられる国際的認証)

ということは、ミモレットは、製造上の分類では、PPNCであり、PPCではないことになる。また、筆者は、このチーズの6週間熟成というのを販売していたことがあるが、まるでゴム鞠。表皮もツルツルで、包丁ですぐに切れるほどの柔らかさ。これが、熟成するとciron(コナダニ)がつき、表面がボロボロになる。水分も飛んで、生地が硬くなるのである。

また、ゴーダも熟成状態によって、硬さが変わる。
しかし、ゴーダの場合、日本では製造方法がよく知られているため、PPCに分類する人はいない。

このように、チーズの分類は、まちまちである。
筆者は、以前にもチーズの分類として、製造方法による分類を提唱したが、今回は、どうしてこの分類が合理的なのかをもう少し詳しく説明しよう。

まず、チーズの分類方法はいろいろあることを見ていこう。

FAOという国際的組織がある。
英語で "Food and Agriculture Organization of the United Nations" という。
フランス語では、"Organisation des Nation Unies pour l'alimentation et l'agriculture" という。
日本では、「国際連合食糧農業機関」と言っている。

そのFAOでも、チーズの分類をしているが、以下のようになる。


TEFDは、Pourcentage de la teneur en eau dans le fromage dégraissé(フランス語)、英語では、MFFB:Percentage moisture on a fat-ferr basisという。
二つとも、脂肪分を取り除いたチーズ中の水分を表す。

MGES は、Pourcentage de la matière grasse dans l'extrait sec(フランス語)、英語では、FDB:Percentage fat on a dry basisという。
これは、完全に脱水したチーズ中の脂肪分を表す。

あるチーズを例にとって見てみよう。
ここに、チーズ中の水分TEFDが57、脂肪分MGESが53で、ロックフォールと同じ方法で熟成させたチーズがあるとすると、以下のように分類される。

TEFD:57、MGES:53の青カビチーズの場合
すなわち、半硬質で、全脂肪の青カビチーズとなる。

いい分類方法なのだが、難点は、TEFDとMGESがわからないと分類できないところである。

それでは、次に、製造方法による分類方法を見てみよう。

ヨーロッパ型のチーズの特徴は、乳酸菌と凝乳酵素を併用するところにある。
東洋型のチーズは、乳酸菌だけを使うものも多いが、ヨーロッパ型は、ほとんどのチーズが乳酸菌と凝乳酵素を併用している。
ま、例外として、カッテージ(イギリス)、マスカルポーネ(イタリア)などが、乳酸菌か酸のみを利用しているのだが。

そして、凝乳酵素の量によって、

  1. ラクティック・ドミノン(乳酸菌優位法)
  2. ミックス
  3. プレジュール・ドミノン(凝乳酵素優位法)
の3種類に分けられる。
乳酸菌の量はあまり関係なく、種類が違うのみである。

そして、これが製造方法による分類方法になるのである。
まず、1.のラクティック・ドミノン。
これは、山羊チーズを作る時によく用いられる方法である。

凝乳酵素の量は少なく、凝固に時間をかける。
そして、このチーズの特徴は、フレッシュでも熟成させても食べられるということである。山羊のチーズは、ほとんどがここに入る。
フロマージュ・ブランも、ここに入るが、他に熟成させるタイプもある。
例えば、エポワス。このチーズは、ラクティック・ドミノン製法で作り、ウォッシュしたものである。また、自然の表皮である、サン・マルスランなどもここに入る。


2.のミックスには、柔らかいタイプのチーズがほとんど入る。
例えば、Pâte filéeであるモッツァレラ、カマンベールなどの白カビ、ロックフォールのような青カビ、マンステールのようなウォッシュタイプは、すべてここに入る。
これに分類されるチーズの出来たては、ボソボソしていて美味しくない。
熟成させて、初めて美味しくなるのが特徴である。

例外は、モッツァレラ。
これは、出来立てが美味しい。
製法がミックスでも、Pâte Filéeは熟成させなくても美味しいのである。

3.のプレジュール・ドミノンは、3つのタイプに分けることができる。

  • Pâte pressée non cuite(非加熱圧搾)
  • Pâte pressée demi-cuite(半加熱圧搾)
  • Pâte pressée cuite(加熱圧搾)
PPNC(非加熱圧搾)は、カイエ切断の後、40℃以下に加熱する。
PP demi-cuite(半加熱圧搾)は、40〜50℃に加熱する。
PPC(加熱圧搾)は、50℃以上で加熱する。

cuiteとは、「火を通す、煮る」という意味である。
また、これらのチーズは、加熱することと、圧搾することが特徴である。

PPNCは、ゴーダなどに代表される、やや柔らかいチーズである。
チーズによっては、Délactosage(デラクトザージュ:ラクトースを取り除くという意味。英語では、ウォッシングという。カイエをお湯で洗う工程)を行うのも特徴だが、AOPのチーズでは、禁止しているものもある。

PP demi-cuiteには、アボンドンス、アッペンゼルなどが入る。
両方とも、加熱温度は、45〜48℃くらいである。

PPCは、コンテやエメンタール、グリュイエール、パルミジャーノ・レッジャーノが代表的である。

表にしてみると、こうなる。



この分類方法だと、例えば、カマンベールなら、ミックス製法の白カビ熟成タイプ、コンテなら、凝乳酵素優位法のPPC、エポワスなら、乳酸菌優位法のウォッシュタイプ、となる。

白カビだの、青カビだのが乳酸菌優位法とミックスにまたがっているので、ややこしいかもしれないが、製造方法が違うのがわかるので、良いと思う。
例外のカッテージ、マスカルポーネは、凝乳酵素を使っていないので、ラクティック・ドミノンと分けて、ラクティック(酸凝固)という項目を作ればいい。

よく使われている分類方法は、フレッシュ、白カビ、青カビ、ウォッシュ、非加熱圧搾、加熱圧搾、シェーヴルとなっていて、熟成状態と製造状態が混ざっている。
同じウォッシュといっても、マンステールとエポワスでは、作り方が違う。
山羊チーズだけを分けたのは、ラクティック・ドミノンだからだろうか。

この分類方法は、合理的だと思うが、製造方法を知らないとできないというネックがある。しかし、製造方法は、重要だと筆者は思うので、この分類方法を提案するのである。

2017年6月7日水曜日

チーズの製造方法:実践編 凝乳酵素

前回のブログをアップした後に、凝乳酵素についての質問が来た。
凝乳酵素については、チーズプロフェショナル協会の教本にも説明してあるようで、皆さん知識があるようだが、少し補足をしたいと考えたので、乳酸菌より先に取り上げることにする。

凝乳酵素というと、レンネット(Rennet=Présure)を思い浮かべる人が多いだろう。もしくは、商品名の「カイマックス」であるかもしれない。
それでは、凝乳酵素とは、なんぞや?
一言で言えば、「乳を固める酵素」なのだが、種類が色々あるのだ。

この頃は、フランスでも凝乳酵素を示す言葉として、Enzyme coagulante(オンジンム コアギュロン) を使うことが多い。
なぜかというと、Enzyme coagulante だと、何にでも使えるからである(Présureにはあまり使われないが)。
単にEnzyme というと、「酵素」という意味になるのだが、Présureは少し中身が違う。

それでは、凝乳酵素の種類と違いを紐解いてみよう。

凝乳酵素は、以下の3つに大別される。

  1. 動物性凝乳酵素
  2. 植物性凝乳酵素
  3. 微生物系凝乳酵素
である。

では、まず 1.の動物性凝乳酵素から。

動物性凝乳酵素というと、レンネット(Rennet=Présure)のことと思う方が多いだろう。
しかし、présureは、酵素単体ではないので、Chymosine(キモシン)以外の酵素も入っている。
何かと言うと、Pepsine(ペプシン)だ。

Présureは、Chymosine、Pepsine、アミノ酸、ペプチド、Nacl、その他の酵素で構成されている。決して、Chymosine単体ではない。
このペプチドやら、アミノ酸やらが、チーズの熟成に関与し、複雑な味を作り出すのだ。
だから、フランスのAOCチーズは、凝乳酵素として、Présureしか認めていない。

また、Pepsineだが、これも単体で動物性凝乳酵素として使うことがある。
フランスでは禁止なので、資料がなく、よくわからないのだが、豚あるいは鶏のPepsineを使ったチーズも存在する。
イスラエルとアルジェリアにあると聞いているが、筆者は見たことがないので、わからない。

だから、動物性凝乳酵素は、2種類あることになる。

Présureの定義を書いておこう。
現在、Présureは添加物に分類されているのだが、古い法律には、定義が載っている。

チーズ塾のテキストから抜粋。

次に、2. の植物性凝乳酵素だが、これは、古代のギリシャやローマですでに使われていたようである。
イチジクの樹液や朝鮮アザミの雄しべなどから抽出した酵素を使用する。
酵素としては、Cynarase、Cardosine、Ficine、Papaineなどがある。
一説によると、グロースターなどのイギリスのチーズには昔これらが使われていて、チーズが濃い黄色になるのはこの酵素のせいだったとか。

植物と植物性凝乳酵素(チーズ塾のテキストより抜粋)
現在、あまり使用されないのは、牛乳製のチーズに使うと、苦味が強くなるかららしい。だからヤギ乳と羊乳のチーズにしか使われないようである。

また、カルドンは、アーティショーの野生種である。

カルドンの花
https://www.iris-gardening.com/zukan/zukan_images/k52.jpg

3. の微生物系凝乳酵素は、大きく分けて2種類ある。

カビ系と遺伝子組み換え系である。

まず、カビ系からいってみよう。
よく使われているものは、以下の3種である。

1. Mucor miehei(土中にいる高温菌のカビ)が作るProtéase de Mm
 (Mmは、Mucor mieheiの略で、酵素名にもなっている。以下同様)

2. Mucor pusilus (土中にいる中温菌のカビ)が作るProtéase de Mp

3. Chryphonectria Parasitica 栗に寄生するカビ)が作る Protéase de Cp
Protéaseは、蛋白質分解酵素。
要するに、カビが作り出す蛋白質分解酵素というわけだ。
この凝乳酵素は、Présureが不足した折に開発され、安価で、手軽であることから、普及したようである。

手軽である理由は、pHに関係なく固まるという点にある。
Présureは、pHによって、働く力が変わる。
理想のpHは、5,5であり、この付近ではよく働くが、pHが高くなると、少し弱まる。
だから、Présure投入時のpHによって、チーズの性格が決まるとも言える。
しかし、カビ系酵素には、この煩わしさがないようである。

手軽ではあるが、微生物系凝乳酵素は、残念ながら、歩留まりが悪い。
工場製には多く使われるが、フランスの農家製には、あまり使われないようである。

次に、遺伝子組換えを見てみよう。

これは、純粋 Chymosine であるが、これを作り出すのは、遺伝子を組み替えたカビ、酵母、細菌である。
主なものには、以下のような微生物がある。

  1. Aspergillus awamoris(カビ)
  2. Kluyveromyces lactis(酵母)
  3. Echerichia K 12(細菌)
このうち、3.のEcherichia K 12 は、病原性大腸菌であるが、遺伝子組換えをして、毒性をなくしてある。

この遺伝子組み換えの凝乳酵素は、現在、かなり使われている。
安価であるし、カビ系酵素より歩留まりがいい。
粉末になっていたりするので、扱いも簡単だし、変質もしにくい。

ただ、純粋 Chymosine なので、Présureを使ったチーズほど、複雑な味は望めないだろう。

筆者の恩師は、Présureが一番良いと言っていたが、筆者もそれには賛成である。
ただ、工場製のチーズの場合、Présure では採算が取れない(高価であるから)、工程が煩雑になる(適性pH時に投入しなければならない)などのデメリットがあるので、使用するのは難しいだろう。

筆者のところは小さく、生産も多くないし、農家製のチーズ製法を選んでいるので、Présureが一番適している。
しかし、大掛かりな設備なら、Enzyme coagulant でも良いと思うのだ。

適材適所であるかな?


2017年3月3日金曜日

チーズの製造方法:実践編 Geotrichum Candidum (ジェオトリクム カンディデュム)

本当は、乳酸菌から少しずつ始めようなどと思っていたが、Géoがなかなか重要な微生物なので、ここから始めることにしよう。
Géoは、現在、日本のラクティック・ドミノンタイプのチーズを作るのに人気の微生物である。Camemberti ほど熟成管理が難しくないので、この微生物のチーズは増えてきている。

Camemberti は、苦味を作りやすいが、Géo はそれほどでもない、と言われている。
この頃あまり見かけないが、Président 社 のカンパーニュというタイプのカマンベールには、Géoが使われていると聞いた。
表皮の苦味が少ないと説明してある。
http://presidentcheese.jp/products/camembert-campagne#.WLc63xjCO8Uより

では、Géo とは、どんな微生物なのだろうか?

Geotrichumの分類方法は、長い間、物議を醸してきた。
というのは、いろいろな名前で呼ばれていたからである。

Geotrichum candidum という酵母の名前は、すでに1809年に登場しているが、その後に多数の類似した名前が出てきている。
例えば、

Botrytis geotricha、Oidium lactis ou Oospora lactis、Endomyces geotrichum、Galactomyces geotrichum、Galactomyces candidus・・・

などである。古い文献では、この名前で出てくることがあるかと思う。

そして、今だに、Géoは酵母とカビの間の生物と言われている。
その菌糸の長さによって、カビに分類されることが多かったのだが、この種の雌雄性によって、現在では、酵母に分類されている。

また、この種は、名前が2つあるのだが、生物工学では、Geotrichum candidumを使うことが多いようである。
チーズ製造の世界では、Geotrichum candidum を使っている。
古い文献には、たまにOidiumも出てくるが・・・

上の部分がGeotrichum candidum である。
https://tel.archives-ouvertes.fr/tel-00828666/file/VA2_MOREL_Guillaume_20122012_-_VA2.pdf より


この種は、大きく分けて、3つのタイプに分類される。

タイプ1: クリーム色で、酵母の形態をしている。最低繁殖温度は、22〜25℃で、30℃になるとあまり増えない。胞子をたくさん作り、菌糸は少ない。どちらかといえば、タンパク質分解力は弱い。

タイプ2: 中間種

タイプ3: 真っ白で、フェルト状になる。最適繁殖温度は、25〜30℃。22℃では、あまり増殖しない。胞子はあまり作らず、菌糸を多く作る。どちらかというと、タンパク質分解力が強い。

このようなタイプは、市販のGéoの説明に書いてあることが多い。
チーズに使う場合、どちらかというと、タイプ2か3を使うことが多いようだ。

左の画像は、コロニー、右の画像は、顕微鏡で見た細胞の写真。
上のコロニーと顕微鏡写真はカビのような菌株、下は酵母のような菌株。
http://microbialfoods.org/geotrichum-candidum-mold-transition/ より


Géoは、熟成の早い段階から発現する。脂肪分解酵素とタンパク質分解酵素を放出し、脂肪酸とペプチドを遊離させて他の微生物に分解させる。そして、チーズの風味と品質に関与するのである。

また、工場製のカマンベールの苦みを抑え、チーズ中に揮発性硫黄化合物を作ることによって、伝統的なカマンベールの風味に近づける作用があるのだ。
チーズが、臭くなるということですかな。

Géoの面白いところは、チーズを作る上で、他の微生物を利用しているとも言えるところだ。何を利用し、何と競合するのか、見てみよう。


  • Géoは、リネンス菌のような、酸性の場所に繁殖できない微生物がコロニーを作れるように準備する(要するに、pHを上げるのですね)。
  • リステリア菌を排除し、Mucorも排除する。


これが何を意味するかというと、Géoがきちんと生えないと、リネンス菌は繁殖できないということだ。まず、Géoを生やさないと、ウォッシュはうまくできない。
リステリア菌を排除してくれるのも、筆者のように、ウォッシュを作っている人間には、まことに重宝する微生物である。

また、Mucorを排除してくれるのもありがたい。
こいつが生えるとチーズが色とりどりになって困る。
ま、中身は食えるのだが、売り物にならない。

結局、Géoは、熟成菌として、チーズの表皮を形成する。
St.marcellin などの表面は、自然のGéo が生えて均一になると、とても綺麗だ。

と、いいとこずくめのようだが、欠陥もある。

例えば、チーズの欠陥の一つ、Peaux de crapaud もGéoのせいだ。
これは、Géoが異常繁殖したもので、うねうねとした盛り上がりがチーズの表皮に現れる。山羊のチーズでは大目に見ることもあるが、基本的に、これは欠陥である。

チーズの表面に異常繁殖したGéo。
山羊のチーズに多い。
http://microbialfoods.org/geotrichum-candidum-mold-transition/ より
筆者もチーズを作るときに、Géoの重要性をよく感じる。
Géoが生えないと、うまく熟成しないのだから。
しかし、市販の乳酸菌でなく、自前のLevainを使っているので、Géoがどうなっているのかわからない。感でするしかないのである。

一つの問題をクリアできたと思ったら、また次の問題が出てきて、といった感じで、エンドレス。
どこまで続くぬかるみぞ、と思うことあり(凹んでいるとき)、やってやろーじゃん!と思うことあり(元気なとき)。

いろいろですな。

やー、数えて見たら、7ヶ月くらい、ブログを書いていない。
最後は確か、8月だったような気がする。
今年は、もうちっと書けるように頑張る!(しかない!)







2016年8月31日水曜日

チーズの製造方法:基本編 チーズ中の水分

大部分の食物中には、水分がある。
筆者の恩師(フランス人)は、「ヌテラには、水分がない!」と力説していたが、稀な例だろう。
ちなみに、「ヌテラ」とは、フランス人が大好きなチョコレート風味のスプレッド。

ヌテラ。すごく甘いが、ファンも多い。5kg入りなんてのもある。
https://www.ferrero.fr/nutella より
しかし、ヌテラは例外で、ほとんどの食品には、水分が含まれている。
この水分は、食品保存をするときには邪魔になることも多いが、微生物の繁殖には欠かせない成分でもある。

では、食品中の水分はどんな風になっているか、見ていこう。

まず、食品中の水分は、

  • 自由水:環境や温度、湿度の変化で容易に移動や蒸発が起こる水分
  • 結合水:食品の成分であるタンパク質や炭水化物と強く結合した水分
に分けられる。
下の図は、魚肉の場合だが、魚の干物の場合、外側にある自由水が蒸発して、硬くなると考えられる。

結合水は、成分に付着し、自由水は、周りに存在する。
http://www.nctd.go.jp/senmon/shiryo/suisan/g/g_1/g1_3_a.html より
普通の食品の場合はこんな感じだが、チーズの場合、組織が普通の食品とは少し違う。
いわゆる、「多孔性:porosité」、生地の中に、穴がたくさんあいているのである。
だから、組織の中にある水分は、3つに分けることができる。

  • 自由水
  • 毛細管現象の水
  • ミセルに結びついている水分(結合水)
これは、下の図を見てもらうとわかるが、カイエの網目構造に水分が収まっているのだ。

PPタイプのカイエの構造。

上の図の小さい丸は、ミセルを表している。
そして、GPE とPPEとは、以下の意味である。

GPE : Grand Porosité Extramicellaire (ミセル外の大きい孔)
PPE : Petit Porosité Extramicellaire (ミセル外の小さい孔)

GPE は、カイエの網目構造の中にある水分を言い、自由水に当たる。
PPE は、網目構造を作っているミセルの間にある、毛細管現象の水分のことを言う。

カイエ形成後のチーズの製造工程は、脱水であるが、それぞれ脱水方法が異なる。

  • GPE:自然脱水
  • PPE:ミセルの収縮、加熱
  • 結合水:加熱、pH 、凝乳酵素の量
GPEの中にある水分を除くには、ラクティック・ドミノンタイプや、ミックスで使われる、いわゆる自然脱水。カイエを型に入れると自然にセロムが出てくるというやつである。この時、カイエを細断するとより早く多くの水分が出る。

PPEの水分を除くには、加熱するのが良い。PPNCや、PPCは、この方法でこの水分を排出させる。

最後の結合水は、なかなか外には出ないので、pHの調整や、凝乳酵素の量などが大切になってくる。

チーズ中の水分は、チーズの熟成に関係してくるので、とても大事である。
水分が多いと、微生物の活動が活発になり、熟成期間が短くなる。
小さいチーズで、熟成期間の短いラクティック・ドミノンタイプは、型から出した時の水分が多い方が良い。少ないと、微生物の繁殖がうまくいかず、熟成がうまくいかない。

反対に、PPNCやPPCは、水分が多すぎると熟成期間が短くなるので、困るのである。

この水分を図るために、HFD(Humidité dans le fromage dégraissé:脱脂したチーズ中の水分)という計算方法があり、AOPのチーズなどでは決まっていることが多い。

例えば、型から出したばかりの山羊チーズのHFDは、約80%。
これは、かなり多い。モンドールなどもこのくらいになる。
コンテは、熟成したもので、だいたい54%ほどだ。

フレッシュチーズを作ることはさほど難しくはないが、上手く熟成させるのが難しい。

ラクティック・ドミノンタイプは、カイエ製造時に、pHを下げすぎると脱水が進み、できたフレッシュチーズの水分が減る。すると、良い微生物が繁殖せず、プスドモナスや、カビなどの好ましくない微生物が増える。

また、pHが高すぎると、「カイエ ムー:Caillé mou」と言って、柔らかすぎるカイエになる。歩止まりが悪い上に、ジェオトリクムが繁殖しすぎてドロドロになったりする。

適正のHFDにすることは、結構難しいのだが、ここを上手くクリアできれば、あとは楽である。

筆者の工房も、夏と冬では環境が変わるので、上手く熟成させるのは、なかなか難しい。特に、夏は気温が高いのでエアコンをつけると室内が乾燥しすぎたりするので困る。
今年の夏も、苦労したが、なんとか解決策を見つけられそうである。

と、書いてきたら、熟成には、ジェオトリクムが重要だということを思い出した。チーズ製造実践編の乳酸菌の前に、Géoのことを書こう。

上手くGéoが生えたドーメ。苦労した・・・


2016年6月5日日曜日

コンテフェルミエは、なぜ不可能なのか?

以前は、コンテ・フェルミエなどというチーズを売っているところがあったが、現在では、見かけなくなった。誠に良いことである。日本人やアメリカ人は、農家製=良いもの、と考えるきらいがあって、農家製のチーズや食品が受けるようである。

農家製がすべて良いわけではないし、工場製がすべて悪いわけでもあるまい。
しかし、人々は、なぜか「農家製」という響きに惹かれるようである。
農家製=手作り、なのだろう。

コンテに関して言えば、CDCに「コンテ・フェルミエは、可能ではない」と書いてある。

2015年版のカイエ デ シャージュ、

Cahier des charges de l'appellation d'origine « Comté»
Bulletin officiel du Ministère de l'agriculture, de l'agroalimentaire et de la forêt n° 11 -2015

の「第5章 コンテの製造方法 2.6 原乳の混合」という部分に「可能ではない」と記載してあるのだ。
以下は原文。赤字で書いたところがそうである。


"5.2.6 Mélange de laits : Par respect pour les usages locaux, loyaux et constants, le Comté ne peut être fabriqué qu’à partir d’un mélange des laits de plusieurs exploitations et de plusieurs troupeaux nourris, gérés et traits de manière indépendante, de fait la fabrication de Comté fermier n'est pas possible. "

なぜ不可能なのか?

Comté は、いろいろな原乳を混ぜ合わせることによってしか製造できないから、農家製は不可能である、というのだが、他にもいろいろな原因があるのではないか?
と思ったので、ちょっと考えてみることにした。

では、はじめに「農家製」という規定を調べてみよう。

DECRET
Décret n°2007-628 du 27 avril 2007 relatif aux fromages et spécialités fromagères 


という、「チーズ工房で作るチーズと、そのスペシャル品に対する法令」の第9条に、農家製チーズの規定があるので、原文を載せておこう。

Article 9-1 (différé) 
· Créé par Décret n°2013-1010 du 12 novembre 2013 - art. 9 

La dénomination “ fromage fermier “ ou tout autre qualificatif laissant entendre une origine fermière est réservée à un fromage fabriqué selon les techniques traditionnelles par un producteur agricole ne traitant que les laits de sa propre exploitation sur le lieu même de celle-ci. Lorsque l’affinage a lieu en dehors de l’exploitation, l’étiquetage comporte les mentions prévues au 5° du A de l’article 12. 

これによると、「農家製」の表記ができるのは、「一つのチーズの生産者の農場で原乳を取り、その同じ農場で、伝統的製法で作ったチーズ」なのである。また、熟成のみ他の場所で行われた場合にもつけることができる。

この条件を満たせば、Comtéも「農家製」と名をつけることができるはずだ。
では、なぜ不可能なのだろうか?

まず、Comté の製造面から考えてみよう。

Comtéを一つ作るのに、450〜500Lの原乳が必要である。
CDC de Comté を見ると、2008年版には、アトリエには、最高5000L入るキューヴが2〜5個必要とあったが、どうやら2015年版にはその記載はない。
ポリニーの学校のアトリエには、500Lのキューヴが4個あった。
個数が書いてないということは、一つでもいいということになる。

次に、モンベリアルド牛の1日の搾乳量は、2014年で1日約22L。
ということは、500Lの原乳を得るには、乳を出す22頭のモンベリアルド牛がいればいいということになる。ただ、いつも乳を出す牛が22頭となるともう少し数が必要になる。

製造という面からでは、不可能ではない。

次に、作った場合、どうなるかということを考えてみよう。

CDC de Comté によると、Comté を作るための原乳を得る牛の餌や、その他の規則はやたらに厳しい。
例えば、発酵飼料は禁止。ビール粕を与えるものだめ。他の牛の群れとは隔離すること、などなど・・・

また、熟成は、3段階に分かれるため、第二段階以降は熟成士に預けることになる。
一回に一つしか作らないとすると、あまりメリットがなさそうである。
個数を多く作ろうとすると牛の数も増やさなければならない。
放牧もしなければならないので、場所の確保が大変だ。
工房の規模も大きくなるし、人もたくさん雇わなければならなくなる。

今回の2015年版のCDC には、Comté が最大で12個できるキューヴまで許可されている。
ということは、12X500=6000L のキューヴを設置することが可能だ。
筆者のポリニーの同級生たちは、一日に25個くらい作ると言っていた。
そのくらい作らないとメリットがないのだろう。

2015年版のCDC には、「いつの時代も変わらない、地元の習慣を尊重して」と、書いてある。
こんな風に、原乳を混ぜて作ることをComté は選んだのだ。

CDC の最後に表が載っているのだが、そちらにははっきりと

Le mélange de laits de plusieurs exploitations pour la mise en fabrication d’un fromage est obligatoire. Le Comté fermier est interdit. 

Comté fermierは、禁止である」
と記載してある。

Comté はある意味、製造も熟成も機械化が進んでいる。
キューヴは、コンピューター制御。
熟成のお手入れは、ロボットがする。
昔ながらの職人が作るというイメージではない。

人手不足(外国人労働者が増えている)や、職人の職業病の増加(椎間板ヘルニアが多い)などで、機械化を推進してきたが、人間が目で見て、手で確認するところもちゃんと残っている。
乳酸菌やプレジュールは人が投入するし、カイエの大きさや、煮え具合は、職人が確認する。

Comté というチーズは、機械化と農家の製法が程よく混合した製法でできている。
伝統的に原乳を持ち寄って作ったチーズであるという誇りを持って、農家製Comté はないと断言したのである。

Comté のキューヴ

プレスする

Comté en blanc(白いコンテ)



2016年4月8日金曜日

チーズの製造方法:基本編 乳糖

2月からブログを書こうとしていたのだが、Bloggerがうまく動かず困っていた。
知人のPCに詳しい人に教えてもらって、やっとなんとか書けるようになったのである。
お待たせして、申し訳ない。

さて、ちょうど去年の今頃に、乳脂肪について書いている。
乳成分で残っているのは、糖分と水分だけだ。
今回は、乳糖について説明しよう。

乳糖というと、Sérum(ホエー)に出てしまうから、チーズにとって、あまり重要だと思われていないようだ。
ところがどっこい、かなり重要な成分である。

チーズ製造で重要な働きをする乳酸菌は、乳糖を消費して乳酸を作る。
その乳酸は、微生物の餌になる。
そして、微生物が乳酸を分解するといろいろな物質ができ、それがチーズの風味となるのである。

また、乳酸を消費する微生物は、タンパク質分解酵素や脂肪分解酵素も持っているので、熟成にも関与する。
だから、乳糖は、微生物の餌になり、風味を形成し、間接的に、熟成にも関与するということになるだろう。

では、乳糖とは、どんなものだろうか?

糖類は、単糖類、二糖類、多糖類に分類されるが、乳糖は、「二糖類」という糖である。

グルコース(ブドウ糖)とガラクトースが結合したもので、大きな特徴は、分解しにくいということ。
なぜ分解しにくいのかというと、乳という赤ん坊の食料が微生物に汚染されては困るからだと言われている。

もし、乳糖ではなく乳中の糖分がブドウ糖だったら、それをめがけていろいろな微生物がやってくる。
中には、好ましくないものもいるだろう。
それを防ぐために、わざわざ分解しにくい糖分を含んでいるようなのだ。

では、乳糖はどんな形をしているかというと、下図のように、

化学式は、C12H22O11である。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ラクトース より

二つの糖が合体している。

そして、ラクターゼ(乳糖分解酵素)で加水分解すると、下の図のようになる。

乳糖分解酵素によって、ガラクトースとグルコースに分解する。
http://topics.foodpeptide.com/?eid=1283371 より    
ガラクトースを分解する微生物もいるが、ほとんどの微生物は、グルコースを糧とする。

グルコースを分解し、乳酸を作るのに、微生物は、「解糖系:エムデン-マイヤーホフ経路」を使う。

解糖系の図式。fromagerie:T.I.Qより

この経路は、嫌気性であり、酸素があると、ピルビン酸から「クエン酸回路:TCA回路」へ移動し、乳酸はできない。
ただし、エネルギーは、クエン酸回路の方が多くできる。

クエン酸回路の図を貼っておこう。

ピルビン酸のところで回路が分かれている。

http://blog.livedoor.jp/megikaya/archives/2015-01.html より

まず、ブドウ糖は、解糖系によってピルビン酸にまで分解される。
その後、無酸素状態なら、乳酸を作る経路へと向かう。
酸素のある状態なら乳酸を作らず、エネルギーを多く作るクエン酸回路へと移動する。
乳酸菌は、嫌気性菌であり、好気性菌であるという、少し変わった菌なのである。

このへんは、ややこしいので、乳酸菌のことを書くときにもう少し説明しよう。
今回は、チーズ中の水分についても書くつもりだったが、かなり長くなりそうなので、またの機会にしよう。
https://ja.wikipeda.org/wik

2016年1月11日月曜日

生酛チーズ

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

チーズのお供え

昨年の目標は、とにかく生乳の一年のサイクルを確認し、ドーメ、その他のチーズの完成と、新しいチーズを生み出すこと、だった。
なんとか、一年のサイクルを確認し、新しいチーズを作ることもできた。
まずまずである。
長かったようで、短かった一年だった。

ドーメは、筆者が初めに目指したような、柔らかいチーズになっている。
エポワスのようではなく、スーマントランやアフィディリスのような感じ。
ほとんど完成に近いのだが、もう少し工夫が必要かもしれない。
現在は、焼酎だけでなく、日本酒で拭いた物も作っている。
比べてみると、微妙に味が違うのも面白い。

その日本酒だが、小澤酒造の「元禄」という、生酛系のお酒を使っている。
このお酒は、元禄時代の製法を取り入れているので、米をあまり磨かない。
だから、ほんのり色づき、味わいも力強い。

左が元禄、右が武州伝説(焼酎)

ところで、「生酛」とは、なんだろう?

日本酒は、乳酸菌の力を借りて、雑菌を抑えながら酵母を増やす方法をとる。
いろいろなやり方があるそうだが、現在の主流は、速醸法で、市販の乳酸菌を使う。
しかし、生酛は、昔ながらの方法で、自然の乳酸菌の力を借りて、酵母を増やす。
その自然の乳酸菌を作るのに手間と時間がかかる上に、職人の腕も必要となる。

筆者は、もともと日本酒が大好きで、ショップにいた頃は、お酒のこともよく知らずに、チーズと日本酒を合わせて遊んでいた。昨年の暮れに、やっと日本酒の利き酒講座に出席する機会があって、お酒の知識を少しばかり手に入れた。また、生酛を作っている方とお話をする機会もあって、乳酸菌を作る苦労話も聞いた。

そこで、はたと気がついた。
発酵食品は、お酒もチーズも同じ。
うちのチーズは、乳酸菌を手作りしているから、まるで生酛ですな。
去年の最大の発見は、「うちのチーズは、生酛チーズ」だということかもしれない。

元禄も生酛。
うちのチーズも生酛。
だから、元禄で拭いたチーズは、まろやかになり、少し甘いのだろう。

現在のドーメ。やわやわトロトロ!

今年は、日本酒とチーズの会も考え中。
昔、遊んだことが生きてきそうである。
面白くなってきたぞ!と浮かれているのが困ったものである。

しかし、お酒とチーズの相性は、もう少し後で語ることにしよう。

今回のブログ後半は、16日から始まるチーズ塾について、少し説明(少し宣伝)。
全13回で、1月〜6月の期間。
長丁場になるが、チーズ製造を知りたい人には、良いですぞ!

第一回 「乳成分総論と水」 
     2016年1月16日(土)13:30〜17:00
    
第二回 「タンパク質とミネラル」
     2016年1月23日(土)13:30〜17:00
    
第三回 「乳脂肪と乳糖」      
     2016年2月6日(土)13:30〜17:00
    
第四回 「乳酸菌」
     2016年2月20日(土)13:30〜17:00
    
第五回 「凝乳酵素」     
     2016年2月27日(土)13:30〜17:00

第六回 「チーズ製造総論」     
     2016年3月12日(土)13:30〜17:00

第七回 「製造各論:ラクティック・ドミノン」     
     2016年3月19日(土)13:30〜17:00

第八回 「製造各論:ミックス」     
     2016年4月2日(土)13:30〜17:00

第九回 「製造各論:非加熱圧搾(PPNC)」     
     2016年5月14日(土)13:30〜17:00

第十回 「製造各論:加熱圧搾(PPC)」     
     2016年5月28日(土)13:30〜17:00

第十一回 「熟成」     
     2016年6月11日(土)13:30〜17:00

第十二回 「チーズの欠陥」     
     2016年6月18日(土)13:30〜17:00

第十三回 「チーズと疾病」     
     2016年6月25日(土)13:00〜17:00

3月20日(日)、21日(月)でラクティック・ドミノンの製造実習を行う予定。

かなり詳しい製造講座になりそうである。
なるべく月に2回くらいにしようと思ったが、2月が3回になってしまったな。

13回全部と実習をまとめて申し込むと15万円、単発だと一回¥12,000である。
(実習は、3日分で¥37,800)
まだ二人くらいなら入れるので、興味のある方はどうぞ。

現在テキスト執筆中だが、チーズの世界が面白くてワクワクする。
チーズの不思議な世界へ、いざゆかん!