2019年6月18日火曜日

乳酸菌のプロローグ

2019年も6月に突入した。

昨年、このブログを書いたのは、確か2月。
忙しいというのは本当だが、筆者がしたいことは、チーズを作りたい人の手助けをすること。今更ながら、確認したことだ。
今まで、少し、本筋を外れていたのかな、と思っている。

色々な雑用から、少し解放されたので、ブログを続けていきたいと考えている。
続けると言い切れないのが、辛いところだが・・・
ただ、筆者がフランスの専門学校で学んだことを、チーズを作りたい人、作っていて壁にぶつかっている人に、少しでも伝えたいと思っているので、続けていきたいだけである。


さて、乳酸菌である。
乳酸菌という微生物がいるのではなく、消費した糖類から50%以上の乳酸を生成する微生物の総称である。そして、チーズを作る上で、最も重要な微生物である。

乳酸菌に関しては、以前にもこのブログで書いたことがあるが、今回は実践編になるのでもう少し詳しく書いていこう。
乳酸菌の定義は、以前にも書いたが、もう一度復習しておく。

「乳酸菌は、乳酸を多量に作る細菌群の総称である。乳酸菌はグラム陽性(細菌をグラム染色で染色すると青色に染まる)で桿菌(筆者注:形が棒状や円筒状の細菌)または球菌の形態をとり、カタラーゼを生産せず、運動性がなく、胞子を形成せず、(中略)ブドウ糖に対して第一発酵式(ホモ発酵)あるいは第二発酵式(ヘテロ発酵)に従って乳酸を生成することが定義づけられている。」
「畜産食品微生物学 細野明義編(株式会社朝倉書店)」
 P34 2.1 微生物の種類(北澤春樹)c.発酵乳製品と微生物 より抜粋

まず、乳酸菌は、グラム陽性菌である。
では、グラム陽性菌とは何か。

グラム染色という染色方法がある。
主として、細菌類を色素によって染色する方法の一つで、細菌を分類する基準の一つである。デンマークのハンス・グラム博士によって発明されたそうだ。

グラム染色によって、細菌類は大きく2種類に分類される。
青紫に染まるものをグラム陽性、赤く染まるものをグラム陰性という。
グラム陽性菌とグラム陰性菌では、細胞壁の構造が違うため、色が変わってくるのである。

グラム陽性菌には、人間に害をなすものも役に立つものがあるが、グラム陰性菌は、人間に害を為すものがほとんどだと、フランスの恩師が力説していた。

下の写真を見て欲しい。桿菌も球菌も見事に青紫色だ。


グラム染色で染めたブルガリクス(棒状の菌)とストレプトコック(丸い菌)
http://b.21-bal.com/buhgalteriya/1419/index.html

球菌と桿菌があるのも特徴の一つ。
球菌は、丸い形、桿菌は棒状である。
ラクトコック・ラクティス
http://textbookofbacteriology.net/featured_microbe.html

ラクトバシリュス ブルガリクス
http://phytocode.net/phytoglossary/lactobacillus-bulgaricus/
コックというのは、丸い形の乳酸菌を指し、バシリュスは、棒状の乳酸菌をさす。

次に、カタラーゼを生産しない、とある。
カタラーゼは、過酸化水素を水と水素に分解するのだが、嫌気性菌はこれを持っていない。過酸化水素は、体に害があるので、好気性の生物は皆(人間も!)カタラーゼを持っている。

乳酸菌は、通性嫌気性菌といって、酸素があってもなくても生きられる微生物である。
無酸素状態で、乳酸菌は、1分子のブドウ糖から、2分子の乳酸と2分子のATP(高エネルギー化合物)を生産する。これが、酸素のある状態では、最終的にブドウ糖を二酸化炭素と水に分解し、36〜38分子のATP生産する。酸素がある方が多くのエネルギーを生産するのに、どちらかというと無酸素状態を好み、カタラーゼがないのは、面白い。

運動性がないのも特徴。
微生物の中には、鞭毛を持って、移動するものがある。
乳酸菌は、移動できないのである。

鞭毛のある緑膿菌とピロリ菌。
https://blogs.yahoo.co.jp/kmatsui00307/30708195.html

胞子を形成しないのも特徴の一つだが、胞子を形成するのは、カビの特徴。
乳酸菌は、そうではないのである。

青かびの胞子。乳酸菌は、胞子を作らない。
https://www.city.saitama.jp/sciencenavi/kenkou/003/p008951.html

また、ホモ発酵とヘテロ発酵というのは、発酵のタイプである。

まず、乳酸菌は、グルコースを分解するのに解糖系という経路を使う。

解糖系。

乳酸菌は、無酸素状態で1分子のブドウ糖から2分子の乳酸を、酵母は2分子のエタノールを、
有酸素状態では、TCA回路に移動して、最終的に二酸化炭素と水、ATPを生産する。
http://www.nyusankin.or.jp/scientific/moriji_4.html

この経路で、ピルビン酸まで分解すると、乳酸菌は乳酸を、酵母はエタノールを、他の好気性生物はTCA回路でATPを得る。
しかし、乳酸を得るのに、乳酸菌には、二つの経路があるのだ。
それがホモ発酵とヘテロ発酵である。

ホモ発酵は、1分子のブドウ糖から2分子の乳酸と2ATP(エネルギー)を生産する。

C6H12O6(グルコース)→ 2CH3CH(OH)COOH(乳酸)+2ATP 


ホモ発酵の様子。1分子のグルコースから、2分子の乳酸ができる。
http://www.nyusankin.or.jp/scientific/moriji_4.html

この発酵形式をとるのは、ラクトコック ラクティス、ラクトバシリュス ブルガリクスなどである。どちらかというと、pHを下げる力が強い。

ヘテロ発酵は、1分子のグルコースから、1分子の乳酸、エタノール、二酸化炭素を生成する発酵である。

C6H12O6(グルコース)→CH3CH(OH)COOH(乳酸)
+C2H5OH(エタノール)+CO2(二酸化炭素)+ATP (2)

ヘテロ発酵の様子。1分子のグルコースから、1分子の乳酸、エタノール、二酸化炭素ができる。
http://www.nyusankin.or.jp/scientific/moriji_4.html
この発酵形式をとるのは、ルコノストックが代表的である。この乳酸菌は、芳香を生成するので、フレッシュタイプのチーズやヨーグルトによく使われる。

乳酸菌の特徴がお分かりいただけただろうか。
最後に、乳酸菌の分類を載せておこう。
細かく分類すると大変なので、チーズによく使われるものを中心にしておく。

大まかな乳酸菌の分類。形と発酵形態でまとめてある。
ビフィドバクテリウムは、乳酸菌ではないが、便宜上載せた。

さて、今回はここまで。
次回から、チーズに関与する乳酸菌とその働きをまとめていこう。
一応、チーズ製造講座もしているので、情報は、半分以下と思っていただきたい。
講座に来ていただければ、もっと詳しい話もできますな。

それから、チーズ A to Zによる試みを一つ。
チーズを作っている方、これから作りたい方の手助けを開始する。
作っている方に対しては、トラブルの解消法や、新しいチーズの作り方を解説するなどのことを。これからチーズを作りたい方に対しては、工房設立やチーズの製造方法などに関してのアドヴァイスを。

筆者の都合もあるので、無料とはいかないが、問い合わせをくだされば、なるべく希望に沿うように考える。
それから、時間が取れれば、出張講座も行っていこうと考えている。
人数が揃えば、こちらに来るより、金銭的にも時間的にも楽になると思う。これも問い合わせをいただければ企画してみる。

次回は、チーズ製造に関する乳酸菌の利用について、もう少し突っ込んだ話をしていきたいと思っている。


2018年2月2日金曜日

寒造りのチーズ

2018年が始まった。
すでに1ヶ月も経過してしまったが、今年もよろしくお願いいたします。

前回が、昨年の8月だったので、かなり間が空いてしまった。
申し訳ない。
筆者としても、1ヶ月に1回は書きたい。
努力します・・・

さて、去年の年末のイベントと今年の新年会で、面白い発見をした。
二つともチーズ関係のイベント、新年会ではない。
年末のイベントは、江戸東京野菜と日本酒の会。
新年会は、北関東の農業生産者さんの会。

年末のイベントでは、東村山の豊島屋酒造の見学をした。
蔵の中を見せてもらって、いろいろな説明を受けたのだが、気になったのが麹を培養しているところ。
案内をしてくれた酒造の方と麹の培養の話をしていたら、乳酸菌の話になった。

豊島屋酒造にて。

麹。

日本酒作りにも乳酸菌を使うことは知っていたが、詳しいことまでは知らなかった。
あとで調べたところによると、乳酸菌は、チーズを作るときと同じように、pHを下げるために使われる。pHを下げ、雑菌の繁殖を抑えるためである。
現在では、速醸酒母といって、乳酸を加える方法が一般的だそうだが、乳酸菌を使う生酛酒母の方法もまだまだ健在。

以前、生酛チーズという項目でブログを書いたことがあるが、それである。
生酛は、低温に保ち、雑菌を抑える。
その間に、有用な微生物が増えて行くのだが、その一つが乳酸菌である。

どんな乳酸菌かというと、Leuconostoc mesenteroidesとLactobacillus sakeiである。
Leuconostoc の方は、柔らかいチーズ製造でも重要な乳酸菌。
ヘテロ発酵だが、芳香を生産するので、フロマージュ・ブランなどには欠かせない。
こいつは、中温菌なのだが、低温に保つ生酛の中でも増えるらしい。
面白い!

もう一つの乳酸菌、Lactobacillus sakei は、低温で増殖する乳酸菌である。
フランスなどでは、肉やソーセージの保存料として使われるらしい。
熟成肉に使えるのかもしれない(?)。
日本だと、日本酒の他に、漬物に使えるようである。
そして、やはり保存に向いているようだ。

Lactobacillus sakei
http://www.inra.fr/Entreprises-Monde-agricole/Offres-de-technologie/Toutes-les-actualites/OT_Lactobacillus-sakeiより

生酛酒母だけではなく、漬物、味噌、醤油などにも乳酸菌が利用されている。
日本にも、乳酸菌は溢れているのだ。
ただ、外国のものとは、少し違うのではないだろうか。

だから、筆者は、この日本の乳酸菌をチーズにも応用できないかと思っている。
というのは、うちの工房では、自前の乳酸菌を使っているので、生酛の製法を応用できないかと思うのである。

筆者のチーズは、和の風味をもっている。
酒粕のような、漬物のような、味噌、醤油に通じるような風味である。
チーズ関係者の方は、筆者のチーズのことを
「食べたことない味」と評価する。

フロマージュ・ドーメ(Fromage d'Omé)

しかし、日本でチーズを作れば、日本の発酵食品である。
日本の味があって、良いではないか!と思うのである。
そして、筆者のチーズは、日本酒との相性が良い。
外国のチーズだと、相性の良いものもあるが、違和感を感じることもある。

チーズとワインを合わせるときによく言われることが、同じ地方のものなら、だいたいは合うのだということ。
それを考えたら、日本のチーズは、日本酒と合うということになりますな。

今年で工房を開いて4年目である。
1年目、2年目は、夏場、乳酸菌に泣かされた。
冬場は問題ないのだが、夏場は乳酸菌に振り回される。

昨年は、なんとかなったが、まだ安心はできない。
生酛の製造方法で、何かヒントがありそうなのだが、
まだどのようにしたらよいのか、模索中である。

北関東の野菜の生産者さんとの新年会で、漬物屋さんが似たようなことを言っていた。
やはり、夏場は漬物の味が今ひとつだそうだ。
漬物や日本酒のように、日本のチーズが、日本の発酵食品になると良いなと思う。

というわけで、次回は、やっと乳酸菌に突入できそうである。
やりたい事(このブログを含む)はたくさんあるのだが、いかんせん、しなければならないことの方が増えすぎて、なかなかやりたいことができなくなっている状態。

でも、続けて行きますからね!

2017年8月8日火曜日

チーズの分類はどのようにしたら良いのか?

先日、知り合いに、チーズの分類について、質問を受けた。

ミモレットに関してであったが、このチーズをPPC(加熱圧搾)に分類していることがあるという。ミモレット・ヴィエイユ(熟成の長いチーズ)は*LR(ラベル・ルージュ)という認証を取っている。CDC(Cahier des charges:カイエ・デ・シャージュ=仕様書)は、まだ完成していないようだが、下書きを読むとDélactosage(デラクトザージュ:カイエをお湯で洗うこと)を行なっているので、PPNC(非加熱圧搾)に分類される。
INAOの分類も、PPNCになっている。
*LR:ラベル・ルージュ;一般に販売されている商品よりも、その品質や製造が優れているものに与えられる国際的認証)

ということは、ミモレットは、製造上の分類では、PPNCであり、PPCではないことになる。また、筆者は、このチーズの6週間熟成というのを販売していたことがあるが、まるでゴム鞠。表皮もツルツルで、包丁ですぐに切れるほどの柔らかさ。これが、熟成するとciron(コナダニ)がつき、表面がボロボロになる。水分も飛んで、生地が硬くなるのである。

また、ゴーダも熟成状態によって、硬さが変わる。
しかし、ゴーダの場合、日本では製造方法がよく知られているため、PPCに分類する人はいない。

このように、チーズの分類は、まちまちである。
筆者は、以前にもチーズの分類として、製造方法による分類を提唱したが、今回は、どうしてこの分類が合理的なのかをもう少し詳しく説明しよう。

まず、チーズの分類方法はいろいろあることを見ていこう。

FAOという国際的組織がある。
英語で "Food and Agriculture Organization of the United Nations" という。
フランス語では、"Organisation des Nation Unies pour l'alimentation et l'agriculture" という。
日本では、「国際連合食糧農業機関」と言っている。

そのFAOでも、チーズの分類をしているが、以下のようになる。


TEFDは、Pourcentage de la teneur en eau dans le fromage dégraissé(フランス語)、英語では、MFFB:Percentage moisture on a fat-ferr basisという。
二つとも、脂肪分を取り除いたチーズ中の水分を表す。

MGES は、Pourcentage de la matière grasse dans l'extrait sec(フランス語)、英語では、FDB:Percentage fat on a dry basisという。
これは、完全に脱水したチーズ中の脂肪分を表す。

あるチーズを例にとって見てみよう。
ここに、チーズ中の水分TEFDが57、脂肪分MGESが53で、ロックフォールと同じ方法で熟成させたチーズがあるとすると、以下のように分類される。

TEFD:57、MGES:53の青カビチーズの場合
すなわち、半硬質で、全脂肪の青カビチーズとなる。

いい分類方法なのだが、難点は、TEFDとMGESがわからないと分類できないところである。

それでは、次に、製造方法による分類方法を見てみよう。

ヨーロッパ型のチーズの特徴は、乳酸菌と凝乳酵素を併用するところにある。
東洋型のチーズは、乳酸菌だけを使うものも多いが、ヨーロッパ型は、ほとんどのチーズが乳酸菌と凝乳酵素を併用している。
ま、例外として、カッテージ(イギリス)、マスカルポーネ(イタリア)などが、乳酸菌か酸のみを利用しているのだが。

そして、凝乳酵素の量によって、

  1. ラクティック・ドミノン(乳酸菌優位法)
  2. ミックス
  3. プレジュール・ドミノン(凝乳酵素優位法)
の3種類に分けられる。
乳酸菌の量はあまり関係なく、種類が違うのみである。

そして、これが製造方法による分類方法になるのである。
まず、1.のラクティック・ドミノン。
これは、山羊チーズを作る時によく用いられる方法である。

凝乳酵素の量は少なく、凝固に時間をかける。
そして、このチーズの特徴は、フレッシュでも熟成させても食べられるということである。山羊のチーズは、ほとんどがここに入る。
フロマージュ・ブランも、ここに入るが、他に熟成させるタイプもある。
例えば、エポワス。このチーズは、ラクティック・ドミノン製法で作り、ウォッシュしたものである。また、自然の表皮である、サン・マルスランなどもここに入る。


2.のミックスには、柔らかいタイプのチーズがほとんど入る。
例えば、Pâte filéeであるモッツァレラ、カマンベールなどの白カビ、ロックフォールのような青カビ、マンステールのようなウォッシュタイプは、すべてここに入る。
これに分類されるチーズの出来たては、ボソボソしていて美味しくない。
熟成させて、初めて美味しくなるのが特徴である。

例外は、モッツァレラ。
これは、出来立てが美味しい。
製法がミックスでも、Pâte Filéeは熟成させなくても美味しいのである。

3.のプレジュール・ドミノンは、3つのタイプに分けることができる。

  • Pâte pressée non cuite(非加熱圧搾)
  • Pâte pressée demi-cuite(半加熱圧搾)
  • Pâte pressée cuite(加熱圧搾)
PPNC(非加熱圧搾)は、カイエ切断の後、40℃以下に加熱する。
PP demi-cuite(半加熱圧搾)は、40〜50℃に加熱する。
PPC(加熱圧搾)は、50℃以上で加熱する。

cuiteとは、「火を通す、煮る」という意味である。
また、これらのチーズは、加熱することと、圧搾することが特徴である。

PPNCは、ゴーダなどに代表される、やや柔らかいチーズである。
チーズによっては、Délactosage(デラクトザージュ:ラクトースを取り除くという意味。英語では、ウォッシングという。カイエをお湯で洗う工程)を行うのも特徴だが、AOPのチーズでは、禁止しているものもある。

PP demi-cuiteには、アボンドンス、アッペンゼルなどが入る。
両方とも、加熱温度は、45〜48℃くらいである。

PPCは、コンテやエメンタール、グリュイエール、パルミジャーノ・レッジャーノが代表的である。

表にしてみると、こうなる。



この分類方法だと、例えば、カマンベールなら、ミックス製法の白カビ熟成タイプ、コンテなら、凝乳酵素優位法のPPC、エポワスなら、乳酸菌優位法のウォッシュタイプ、となる。

白カビだの、青カビだのが乳酸菌優位法とミックスにまたがっているので、ややこしいかもしれないが、製造方法が違うのがわかるので、良いと思う。
例外のカッテージ、マスカルポーネは、凝乳酵素を使っていないので、ラクティック・ドミノンと分けて、ラクティック(酸凝固)という項目を作ればいい。

よく使われている分類方法は、フレッシュ、白カビ、青カビ、ウォッシュ、非加熱圧搾、加熱圧搾、シェーヴルとなっていて、熟成状態と製造状態が混ざっている。
同じウォッシュといっても、マンステールとエポワスでは、作り方が違う。
山羊チーズだけを分けたのは、ラクティック・ドミノンだからだろうか。

この分類方法は、合理的だと思うが、製造方法を知らないとできないというネックがある。しかし、製造方法は、重要だと筆者は思うので、この分類方法を提案するのである。

2017年6月7日水曜日

チーズの製造方法:実践編 凝乳酵素

前回のブログをアップした後に、凝乳酵素についての質問が来た。
凝乳酵素については、チーズプロフェショナル協会の教本にも説明してあるようで、皆さん知識があるようだが、少し補足をしたいと考えたので、乳酸菌より先に取り上げることにする。

凝乳酵素というと、レンネット(Rennet=Présure)を思い浮かべる人が多いだろう。もしくは、商品名の「カイマックス」であるかもしれない。
それでは、凝乳酵素とは、なんぞや?
一言で言えば、「乳を固める酵素」なのだが、種類が色々あるのだ。

この頃は、フランスでも凝乳酵素を示す言葉として、Enzyme coagulante(オンジンム コアギュロン) を使うことが多い。
なぜかというと、Enzyme coagulante だと、何にでも使えるからである(Présureにはあまり使われないが)。
単にEnzyme というと、「酵素」という意味になるのだが、Présureは少し中身が違う。

それでは、凝乳酵素の種類と違いを紐解いてみよう。

凝乳酵素は、以下の3つに大別される。

  1. 動物性凝乳酵素
  2. 植物性凝乳酵素
  3. 微生物系凝乳酵素
である。

では、まず 1.の動物性凝乳酵素から。

動物性凝乳酵素というと、レンネット(Rennet=Présure)のことと思う方が多いだろう。
しかし、présureは、酵素単体ではないので、Chymosine(キモシン)以外の酵素も入っている。
何かと言うと、Pepsine(ペプシン)だ。

Présureは、Chymosine、Pepsine、アミノ酸、ペプチド、Nacl、その他の酵素で構成されている。決して、Chymosine単体ではない。
このペプチドやら、アミノ酸やらが、チーズの熟成に関与し、複雑な味を作り出すのだ。
だから、フランスのAOCチーズは、凝乳酵素として、Présureしか認めていない。

また、Pepsineだが、これも単体で動物性凝乳酵素として使うことがある。
フランスでは禁止なので、資料がなく、よくわからないのだが、豚あるいは鶏のPepsineを使ったチーズも存在する。
イスラエルとアルジェリアにあると聞いているが、筆者は見たことがないので、わからない。

だから、動物性凝乳酵素は、2種類あることになる。

Présureの定義を書いておこう。
現在、Présureは添加物に分類されているのだが、古い法律には、定義が載っている。

チーズ塾のテキストから抜粋。

次に、2. の植物性凝乳酵素だが、これは、古代のギリシャやローマですでに使われていたようである。
イチジクの樹液や朝鮮アザミの雄しべなどから抽出した酵素を使用する。
酵素としては、Cynarase、Cardosine、Ficine、Papaineなどがある。
一説によると、グロースターなどのイギリスのチーズには昔これらが使われていて、チーズが濃い黄色になるのはこの酵素のせいだったとか。

植物と植物性凝乳酵素(チーズ塾のテキストより抜粋)
現在、あまり使用されないのは、牛乳製のチーズに使うと、苦味が強くなるかららしい。だからヤギ乳と羊乳のチーズにしか使われないようである。

また、カルドンは、アーティショーの野生種である。

カルドンの花
https://www.iris-gardening.com/zukan/zukan_images/k52.jpg

3. の微生物系凝乳酵素は、大きく分けて2種類ある。

カビ系と遺伝子組み換え系である。

まず、カビ系からいってみよう。
よく使われているものは、以下の3種である。

1. Mucor miehei(土中にいる高温菌のカビ)が作るProtéase de Mm
 (Mmは、Mucor mieheiの略で、酵素名にもなっている。以下同様)

2. Mucor pusilus (土中にいる中温菌のカビ)が作るProtéase de Mp

3. Chryphonectria Parasitica 栗に寄生するカビ)が作る Protéase de Cp
Protéaseは、蛋白質分解酵素。
要するに、カビが作り出す蛋白質分解酵素というわけだ。
この凝乳酵素は、Présureが不足した折に開発され、安価で、手軽であることから、普及したようである。

手軽である理由は、pHに関係なく固まるという点にある。
Présureは、pHによって、働く力が変わる。
理想のpHは、5,5であり、この付近ではよく働くが、pHが高くなると、少し弱まる。
だから、Présure投入時のpHによって、チーズの性格が決まるとも言える。
しかし、カビ系酵素には、この煩わしさがないようである。

手軽ではあるが、微生物系凝乳酵素は、残念ながら、歩留まりが悪い。
工場製には多く使われるが、フランスの農家製には、あまり使われないようである。

次に、遺伝子組換えを見てみよう。

これは、純粋 Chymosine であるが、これを作り出すのは、遺伝子を組み替えたカビ、酵母、細菌である。
主なものには、以下のような微生物がある。

  1. Aspergillus awamoris(カビ)
  2. Kluyveromyces lactis(酵母)
  3. Echerichia K 12(細菌)
このうち、3.のEcherichia K 12 は、病原性大腸菌であるが、遺伝子組換えをして、毒性をなくしてある。

この遺伝子組み換えの凝乳酵素は、現在、かなり使われている。
安価であるし、カビ系酵素より歩留まりがいい。
粉末になっていたりするので、扱いも簡単だし、変質もしにくい。

ただ、純粋 Chymosine なので、Présureを使ったチーズほど、複雑な味は望めないだろう。

筆者の恩師は、Présureが一番良いと言っていたが、筆者もそれには賛成である。
ただ、工場製のチーズの場合、Présure では採算が取れない(高価であるから)、工程が煩雑になる(適性pH時に投入しなければならない)などのデメリットがあるので、使用するのは難しいだろう。

筆者のところは小さく、生産も多くないし、農家製のチーズ製法を選んでいるので、Présureが一番適している。
しかし、大掛かりな設備なら、Enzyme coagulant でも良いと思うのだ。

適材適所であるかな?


2017年3月3日金曜日

チーズの製造方法:実践編 Geotrichum Candidum (ジェオトリクム カンディデュム)

本当は、乳酸菌から少しずつ始めようなどと思っていたが、Géoがなかなか重要な微生物なので、ここから始めることにしよう。
Géoは、現在、日本のラクティック・ドミノンタイプのチーズを作るのに人気の微生物である。Camemberti ほど熟成管理が難しくないので、この微生物のチーズは増えてきている。

Camemberti は、苦味を作りやすいが、Géo はそれほどでもない、と言われている。
この頃あまり見かけないが、Président 社 のカンパーニュというタイプのカマンベールには、Géoが使われていると聞いた。
表皮の苦味が少ないと説明してある。
http://presidentcheese.jp/products/camembert-campagne#.WLc63xjCO8Uより

では、Géo とは、どんな微生物なのだろうか?

Geotrichumの分類方法は、長い間、物議を醸してきた。
というのは、いろいろな名前で呼ばれていたからである。

Geotrichum candidum という酵母の名前は、すでに1809年に登場しているが、その後に多数の類似した名前が出てきている。
例えば、

Botrytis geotricha、Oidium lactis ou Oospora lactis、Endomyces geotrichum、Galactomyces geotrichum、Galactomyces candidus・・・

などである。古い文献では、この名前で出てくることがあるかと思う。

そして、今だに、Géoは酵母とカビの間の生物と言われている。
その菌糸の長さによって、カビに分類されることが多かったのだが、この種の雌雄性によって、現在では、酵母に分類されている。

また、この種は、名前が2つあるのだが、生物工学では、Geotrichum candidumを使うことが多いようである。
チーズ製造の世界では、Geotrichum candidum を使っている。
古い文献には、たまにOidiumも出てくるが・・・

上の部分がGeotrichum candidum である。
https://tel.archives-ouvertes.fr/tel-00828666/file/VA2_MOREL_Guillaume_20122012_-_VA2.pdf より


この種は、大きく分けて、3つのタイプに分類される。

タイプ1: クリーム色で、酵母の形態をしている。最低繁殖温度は、22〜25℃で、30℃になるとあまり増えない。胞子をたくさん作り、菌糸は少ない。どちらかといえば、タンパク質分解力は弱い。

タイプ2: 中間種

タイプ3: 真っ白で、フェルト状になる。最適繁殖温度は、25〜30℃。22℃では、あまり増殖しない。胞子はあまり作らず、菌糸を多く作る。どちらかというと、タンパク質分解力が強い。

このようなタイプは、市販のGéoの説明に書いてあることが多い。
チーズに使う場合、どちらかというと、タイプ2か3を使うことが多いようだ。

左の画像は、コロニー、右の画像は、顕微鏡で見た細胞の写真。
上のコロニーと顕微鏡写真はカビのような菌株、下は酵母のような菌株。
http://microbialfoods.org/geotrichum-candidum-mold-transition/ より


Géoは、熟成の早い段階から発現する。脂肪分解酵素とタンパク質分解酵素を放出し、脂肪酸とペプチドを遊離させて他の微生物に分解させる。そして、チーズの風味と品質に関与するのである。

また、工場製のカマンベールの苦みを抑え、チーズ中に揮発性硫黄化合物を作ることによって、伝統的なカマンベールの風味に近づける作用があるのだ。
チーズが、臭くなるということですかな。

Géoの面白いところは、チーズを作る上で、他の微生物を利用しているとも言えるところだ。何を利用し、何と競合するのか、見てみよう。


  • Géoは、リネンス菌のような、酸性の場所に繁殖できない微生物がコロニーを作れるように準備する(要するに、pHを上げるのですね)。
  • リステリア菌を排除し、Mucorも排除する。


これが何を意味するかというと、Géoがきちんと生えないと、リネンス菌は繁殖できないということだ。まず、Géoを生やさないと、ウォッシュはうまくできない。
リステリア菌を排除してくれるのも、筆者のように、ウォッシュを作っている人間には、まことに重宝する微生物である。

また、Mucorを排除してくれるのもありがたい。
こいつが生えるとチーズが色とりどりになって困る。
ま、中身は食えるのだが、売り物にならない。

結局、Géoは、熟成菌として、チーズの表皮を形成する。
St.marcellin などの表面は、自然のGéo が生えて均一になると、とても綺麗だ。

と、いいとこずくめのようだが、欠陥もある。

例えば、チーズの欠陥の一つ、Peaux de crapaud もGéoのせいだ。
これは、Géoが異常繁殖したもので、うねうねとした盛り上がりがチーズの表皮に現れる。山羊のチーズでは大目に見ることもあるが、基本的に、これは欠陥である。

チーズの表面に異常繁殖したGéo。
山羊のチーズに多い。
http://microbialfoods.org/geotrichum-candidum-mold-transition/ より
筆者もチーズを作るときに、Géoの重要性をよく感じる。
Géoが生えないと、うまく熟成しないのだから。
しかし、市販の乳酸菌でなく、自前のLevainを使っているので、Géoがどうなっているのかわからない。感でするしかないのである。

一つの問題をクリアできたと思ったら、また次の問題が出てきて、といった感じで、エンドレス。
どこまで続くぬかるみぞ、と思うことあり(凹んでいるとき)、やってやろーじゃん!と思うことあり(元気なとき)。

いろいろですな。

やー、数えて見たら、7ヶ月くらい、ブログを書いていない。
最後は確か、8月だったような気がする。
今年は、もうちっと書けるように頑張る!(しかない!)







2016年8月31日水曜日

チーズの製造方法:基本編 チーズ中の水分

大部分の食物中には、水分がある。
筆者の恩師(フランス人)は、「ヌテラには、水分がない!」と力説していたが、稀な例だろう。
ちなみに、「ヌテラ」とは、フランス人が大好きなチョコレート風味のスプレッド。

ヌテラ。すごく甘いが、ファンも多い。5kg入りなんてのもある。
https://www.ferrero.fr/nutella より
しかし、ヌテラは例外で、ほとんどの食品には、水分が含まれている。
この水分は、食品保存をするときには邪魔になることも多いが、微生物の繁殖には欠かせない成分でもある。

では、食品中の水分はどんな風になっているか、見ていこう。

まず、食品中の水分は、

  • 自由水:環境や温度、湿度の変化で容易に移動や蒸発が起こる水分
  • 結合水:食品の成分であるタンパク質や炭水化物と強く結合した水分
に分けられる。
下の図は、魚肉の場合だが、魚の干物の場合、外側にある自由水が蒸発して、硬くなると考えられる。

結合水は、成分に付着し、自由水は、周りに存在する。
http://www.nctd.go.jp/senmon/shiryo/suisan/g/g_1/g1_3_a.html より
普通の食品の場合はこんな感じだが、チーズの場合、組織が普通の食品とは少し違う。
いわゆる、「多孔性:porosité」、生地の中に、穴がたくさんあいているのである。
だから、組織の中にある水分は、3つに分けることができる。

  • 自由水
  • 毛細管現象の水
  • ミセルに結びついている水分(結合水)
これは、下の図を見てもらうとわかるが、カイエの網目構造に水分が収まっているのだ。

PPタイプのカイエの構造。

上の図の小さい丸は、ミセルを表している。
そして、GPE とPPEとは、以下の意味である。

GPE : Grand Porosité Extramicellaire (ミセル外の大きい孔)
PPE : Petit Porosité Extramicellaire (ミセル外の小さい孔)

GPE は、カイエの網目構造の中にある水分を言い、自由水に当たる。
PPE は、網目構造を作っているミセルの間にある、毛細管現象の水分のことを言う。

カイエ形成後のチーズの製造工程は、脱水であるが、それぞれ脱水方法が異なる。

  • GPE:自然脱水
  • PPE:ミセルの収縮、加熱
  • 結合水:加熱、pH 、凝乳酵素の量
GPEの中にある水分を除くには、ラクティック・ドミノンタイプや、ミックスで使われる、いわゆる自然脱水。カイエを型に入れると自然にセロムが出てくるというやつである。この時、カイエを細断するとより早く多くの水分が出る。

PPEの水分を除くには、加熱するのが良い。PPNCや、PPCは、この方法でこの水分を排出させる。

最後の結合水は、なかなか外には出ないので、pHの調整や、凝乳酵素の量などが大切になってくる。

チーズ中の水分は、チーズの熟成に関係してくるので、とても大事である。
水分が多いと、微生物の活動が活発になり、熟成期間が短くなる。
小さいチーズで、熟成期間の短いラクティック・ドミノンタイプは、型から出した時の水分が多い方が良い。少ないと、微生物の繁殖がうまくいかず、熟成がうまくいかない。

反対に、PPNCやPPCは、水分が多すぎると熟成期間が短くなるので、困るのである。

この水分を図るために、HFD(Humidité dans le fromage dégraissé:脱脂したチーズ中の水分)という計算方法があり、AOPのチーズなどでは決まっていることが多い。

例えば、型から出したばかりの山羊チーズのHFDは、約80%。
これは、かなり多い。モンドールなどもこのくらいになる。
コンテは、熟成したもので、だいたい54%ほどだ。

フレッシュチーズを作ることはさほど難しくはないが、上手く熟成させるのが難しい。

ラクティック・ドミノンタイプは、カイエ製造時に、pHを下げすぎると脱水が進み、できたフレッシュチーズの水分が減る。すると、良い微生物が繁殖せず、プスドモナスや、カビなどの好ましくない微生物が増える。

また、pHが高すぎると、「カイエ ムー:Caillé mou」と言って、柔らかすぎるカイエになる。歩止まりが悪い上に、ジェオトリクムが繁殖しすぎてドロドロになったりする。

適正のHFDにすることは、結構難しいのだが、ここを上手くクリアできれば、あとは楽である。

筆者の工房も、夏と冬では環境が変わるので、上手く熟成させるのは、なかなか難しい。特に、夏は気温が高いのでエアコンをつけると室内が乾燥しすぎたりするので困る。
今年の夏も、苦労したが、なんとか解決策を見つけられそうである。

と、書いてきたら、熟成には、ジェオトリクムが重要だということを思い出した。チーズ製造実践編の乳酸菌の前に、Géoのことを書こう。

上手くGéoが生えたドーメ。苦労した・・・


2016年6月5日日曜日

コンテフェルミエは、なぜ不可能なのか?

以前は、コンテ・フェルミエなどというチーズを売っているところがあったが、現在では、見かけなくなった。誠に良いことである。日本人やアメリカ人は、農家製=良いもの、と考えるきらいがあって、農家製のチーズや食品が受けるようである。

農家製がすべて良いわけではないし、工場製がすべて悪いわけでもあるまい。
しかし、人々は、なぜか「農家製」という響きに惹かれるようである。
農家製=手作り、なのだろう。

コンテに関して言えば、CDCに「コンテ・フェルミエは、可能ではない」と書いてある。

2015年版のカイエ デ シャージュ、

Cahier des charges de l'appellation d'origine « Comté»
Bulletin officiel du Ministère de l'agriculture, de l'agroalimentaire et de la forêt n° 11 -2015

の「第5章 コンテの製造方法 2.6 原乳の混合」という部分に「可能ではない」と記載してあるのだ。
以下は原文。赤字で書いたところがそうである。


"5.2.6 Mélange de laits : Par respect pour les usages locaux, loyaux et constants, le Comté ne peut être fabriqué qu’à partir d’un mélange des laits de plusieurs exploitations et de plusieurs troupeaux nourris, gérés et traits de manière indépendante, de fait la fabrication de Comté fermier n'est pas possible. "

なぜ不可能なのか?

Comté は、いろいろな原乳を混ぜ合わせることによってしか製造できないから、農家製は不可能である、というのだが、他にもいろいろな原因があるのではないか?
と思ったので、ちょっと考えてみることにした。

では、はじめに「農家製」という規定を調べてみよう。

DECRET
Décret n°2007-628 du 27 avril 2007 relatif aux fromages et spécialités fromagères 


という、「チーズ工房で作るチーズと、そのスペシャル品に対する法令」の第9条に、農家製チーズの規定があるので、原文を載せておこう。

Article 9-1 (différé) 
· Créé par Décret n°2013-1010 du 12 novembre 2013 - art. 9 

La dénomination “ fromage fermier “ ou tout autre qualificatif laissant entendre une origine fermière est réservée à un fromage fabriqué selon les techniques traditionnelles par un producteur agricole ne traitant que les laits de sa propre exploitation sur le lieu même de celle-ci. Lorsque l’affinage a lieu en dehors de l’exploitation, l’étiquetage comporte les mentions prévues au 5° du A de l’article 12. 

これによると、「農家製」の表記ができるのは、「一つのチーズの生産者の農場で原乳を取り、その同じ農場で、伝統的製法で作ったチーズ」なのである。また、熟成のみ他の場所で行われた場合にもつけることができる。

この条件を満たせば、Comtéも「農家製」と名をつけることができるはずだ。
では、なぜ不可能なのだろうか?

まず、Comté の製造面から考えてみよう。

Comtéを一つ作るのに、450〜500Lの原乳が必要である。
CDC de Comté を見ると、2008年版には、アトリエには、最高5000L入るキューヴが2〜5個必要とあったが、どうやら2015年版にはその記載はない。
ポリニーの学校のアトリエには、500Lのキューヴが4個あった。
個数が書いてないということは、一つでもいいということになる。

次に、モンベリアルド牛の1日の搾乳量は、2014年で1日約22L。
ということは、500Lの原乳を得るには、乳を出す22頭のモンベリアルド牛がいればいいということになる。ただ、いつも乳を出す牛が22頭となるともう少し数が必要になる。

製造という面からでは、不可能ではない。

次に、作った場合、どうなるかということを考えてみよう。

CDC de Comté によると、Comté を作るための原乳を得る牛の餌や、その他の規則はやたらに厳しい。
例えば、発酵飼料は禁止。ビール粕を与えるものだめ。他の牛の群れとは隔離すること、などなど・・・

また、熟成は、3段階に分かれるため、第二段階以降は熟成士に預けることになる。
一回に一つしか作らないとすると、あまりメリットがなさそうである。
個数を多く作ろうとすると牛の数も増やさなければならない。
放牧もしなければならないので、場所の確保が大変だ。
工房の規模も大きくなるし、人もたくさん雇わなければならなくなる。

今回の2015年版のCDC には、Comté が最大で12個できるキューヴまで許可されている。
ということは、12X500=6000L のキューヴを設置することが可能だ。
筆者のポリニーの同級生たちは、一日に25個くらい作ると言っていた。
そのくらい作らないとメリットがないのだろう。

2015年版のCDC には、「いつの時代も変わらない、地元の習慣を尊重して」と、書いてある。
こんな風に、原乳を混ぜて作ることをComté は選んだのだ。

CDC の最後に表が載っているのだが、そちらにははっきりと

Le mélange de laits de plusieurs exploitations pour la mise en fabrication d’un fromage est obligatoire. Le Comté fermier est interdit. 

Comté fermierは、禁止である」
と記載してある。

Comté はある意味、製造も熟成も機械化が進んでいる。
キューヴは、コンピューター制御。
熟成のお手入れは、ロボットがする。
昔ながらの職人が作るというイメージではない。

人手不足(外国人労働者が増えている)や、職人の職業病の増加(椎間板ヘルニアが多い)などで、機械化を推進してきたが、人間が目で見て、手で確認するところもちゃんと残っている。
乳酸菌やプレジュールは人が投入するし、カイエの大きさや、煮え具合は、職人が確認する。

Comté というチーズは、機械化と農家の製法が程よく混合した製法でできている。
伝統的に原乳を持ち寄って作ったチーズであるという誇りを持って、農家製Comté はないと断言したのである。

Comté のキューヴ

プレスする

Comté en blanc(白いコンテ)