2025年9月23日火曜日

Fromage BlancとFromage Fraisの違い

ご無沙汰をしている。都心に店をオープンすることになったので、やたらに忙しい。そういえば、工房を開くときも忙しかったな。しかし、今回は、場所が青梅ではないので、遠いのである。結構、くたびれ加減で、ヘロヘロになってますな。

開店の日時が決まったら、お知らせしよう。

さて、フロマージュ・ブランとフロマージュ・フレについて、色々説があるようだが、フロマージュ・ブランは、「フランスのチーズ」であることを踏まえて、定義などを知ってもらおう。

まず、日本では、CODEXの定義を採用しているので、チェダーのような世界中にあるチーズの定義はあるようだが、フロマージュ・ブランのように、フランスに限られるチーズは、定義が見当たらない。

フロマージュ・ブランを語るのに、ドイツのクワルクを例に取っているのを見たことがあるが、ドイツのクワルクとフランスのフロマージュ・ブランは、別物である。なぜなら、フランスは、独自にフランスチーズの定義を作っているからである。

フランスのフロマージュ・ブランの定義は、こうである。

La dénomination "fromage blanc" est réservée à un fromage non affiné qui, lorsqu'il est fermenté, a subi une fermentation principalement lactique.

Les fromages blancs fermentés et commercialisés avec le qualificatif "frais" ou sous la dénomination "fromage frais" doivent renfermer une flore vivante au moment de la vente au consommateur.


これは、抜粋であるが、日本語訳も載せておこう。


「『フロマージュ・ブラン』という名称は、熟成していないチーズで、主に乳酸発酵をさせたものに与えられる。発酵させてフレッシュな状態で販売されるか、「フロマージュ・フレ」という名で販売されるフロマージュ・ブランは、購入者が買った時に乳酸菌が生きた状態でなければならない。」

と言うことは、フロマージュ・ブランと名乗るには、ラクティック・ドミノン製法であること。消費者の元に届く時にも、乳酸菌が生きていなければならないという条件がつく。

そして、「フロマージュ・フレと言う名で販売されているフロマージュ・ブラン」と言う記載があると言うことは、フロマージュ・ブランをフロマージュ・フレと名前をつけて販売していることがあると言うことだ。因みに、Isignyのフロマージュ・ブランは、「Fromage frais」と書いてある。

https://www.javafoodservice.be/fr/p.480912.html/isigny-fromage-blanc-40-isigny-pot-500-grammes.html

すなわち、フロマージュ・ブランとフロマージュ・フレは同じなのだよ。

日本のフロマージュ・ブランの説明で、「フロマージュ・ブランは、菌が死滅している」と言う記述を見るが、ドイツのクワルクを取り上げて説明しているからだろう。フランスの定義では、「消費者の元に届く時に、菌が生きていなければならない」とある。

おそらく、乳酸菌が生きていると、pHが下がり、酸味が増す、あるいは、熟成して、フレッシュさがなくなるからだと思う。ドイツのクワルクは、それでいいのだと思う。でも、フランスでは、そうではない。

クワルクの製法では、製造の最終段階で、殺菌するようである。これでは、フランスの「フロマージュ・ブラン」の定義には当てはまらない。だから、フランスでは、殺菌はしない。だって、殺菌したら、消費者の元に届いた時に、乳酸菌は、生きてないからだ。

そして、農家製と工場製のフロマージュ・ブランでは、製造方法が違うのである。

農家製は、ラクティック・ドミノンの製法で作る。そして「Lisse」あるいは、「Campagne」と言う種類がある。Lisseは、滑らかであるが、Campagneは、つぶつぶがあって、滑らかではない。これは、何が違うかというと、Campagneは、ラクティック・ドミノンの生地をスプーンなどで、軽く崩しただけ。Lisseは、機械を使って、滑らかにしたもの。

当工房のフロマージュ・ブランは、Campagneである。そして、工場製のフロマージュ・ブランとは、作り方が違うのである。

フロマージュ・ブラン カンパーニュ

どう違うかというと、工場製のフロマージュ・ブランを作る時は、まず初めに「Caillé lactique dégressé séché」と言うものを作る。これは何かというと、脱脂乳からラクティック・ドミノンのカイエを作り、そこから水分を抜いたものだ。そして、その、煎餅のようにカチカチになったカイエと水、クリームを機械で混ぜ合わせて、フロマージュ・ブランを作るのである。

だから、いろいろな脂肪分のフロマージュ・ブランを作ることができる。クリームを混ぜなければ、脂肪分0%。他にも、クリームの量を調節すれば、25%なんかもできる。クワルクは、いろいろな脂肪分の商品があると聞いたが、このように作れば、可能である。

一方、フロマージュ・フレとは、どんなものか?

フロマージュ・フレというのは、ラクティック・ドミノン製法のチーズを型から出して、塩を振っただけのものである。だから、ラクティック・ドミノンのチーズには、フロマージュ・フレがある。エポワスにも、ラングルにもあるのだよ。

プチ・トーメ(ラクティック・ドミノン製法)のフレ

ただ、水分量は違う。フロマージュ・ブランの方が、水分量が多い。筆者のフランスの学校の恩師は、こう言っていた。

「フロマージュ・フレは、熟成させることができるが、フロマージュ・ブランは熟成させない」

その通りである。しかし、当工房のフロマージュ・ブランから水分を抜いて、塩をつければ、熟成可能だなあ・・・

と言うわけで、フロマージュ・ブランは、菌が生きていなければならない。しかし、Caillé lactique dégressé séchéは、カチカチである。乳酸菌は、死滅していないと思うが、どのくらい生き残っているのかな?

クワルクとフロマージュ・ブランは、違うのだと言うことがわかっていただければいい。フランスのチーズとドイツのチーズは、違うのよ。

フランスには、CODEXではない、チーズの定義もある。このチーズの定義は、フランス時代の同級生は、暗唱できたね。他のチーズに関しても、色々定義があって、理屈っぽいフランス人だなあ、と思うのである。



2025年4月15日火曜日

カマンベールもブリーも昔は白くなかった!

 先日、「フランスチーズに親しむ」というイベントを開催した。イル・ド・フランス地方の白カビチーズというテーマを選んのだが、知り合いがFacebookで「白カビチーズの起源はいつですか?」と聞いていたので、調べてみた。すると、なかなか面白いことがわかったので、書いてみることにする。

ブリーというチーズは、かなり古く、ローマ帝国のガリア侵攻(1世紀)まで遡ることができる。しかし、当時のブリーは、オレンジ色か、青灰色だったのである。

下の写真は、マリー・ジュール・ジャスティンによる19世紀の絵画で、「ブリーチーズのチーズ交響曲」という名がついている(ソワソン市立博物館)。この絵の中のブリーはオレンジ色、その横にあるカマンベールらしいチーズは、青灰色である。




そこで、オレンジ色や青灰色のチーズが、なぜ白くなったかをみてみよう

ジャレド・ダイアモンドという、進化生物学者がいるが、その著書「銃・病原菌・鉄」のなかで、「栽培化」を説いている。栽培化というのは、人間が自分たちの都合の良いように、動物や植物を選別して、栽培することだ。たとえば、犬の先祖は狼であるが、人間が飼い慣らして犬としたし、とうもろこしも昔は今ほど大きな身をつけていない。このように、ブリーに色をつける微生物は、この栽培化によって、選別されてきたようである。

最初に家畜化された微生物は、青灰色のPenicillium Biforme(ペニシリウム ビフォルメ)である。この微生物は、ヤギのフレッシュチーズに使用されていたそうな。そして、ブリーの青灰色の微生物から、Penicillium Camembertiが分離されて使用されることとなった。

これは、1897年に、生化学者ジョルジュ・ロジェが、モー農業協会から要請を受けて、ブリーから白いPenicilliumを分離し、研究所で培養に成功してからである。このPenicilliumは、アルピノ(白子)であり、この微生物を使うようになってから、ブリーは白くなったのである。

また、カマンベールは、ロジェの元協力者で、カーン農業試験場の所長であったエミール・ルイーズを通じて、ノルマンディーに伝わった。エミールは、1901年に、カマンベールの製造者に、このPenicilliumを使うように進めたそうである。

現在のPenicillium Camembertiは、クローンである。クローンは、2種類あり、カマンベールやブリーには、白く、綿毛状で、垂直方向に伸びるもの、サン・マルスランタイプには、グレーがかって、ふわふわしていないものが使用される。

クローンであることのデメリットは、遺伝的多様性の低下である。遺伝的多様性が低下すると、品種改良、多様化、新しい用途、条件、基質への適応のプロセスが継続できない。特に、カビは無性生殖なので、長期的には、種の退化に繋がるそうである。これを解決するには、カビの有性生殖を増やすのが良いとのこと。

以上の事から、白カビのチーズができたのは、かなり最近のことで、昔は白くなかったということになる。筆者も、白カビのチーズを作っているが、白カビだけは購入している。自然に生えないからだ。白カビチーズの白カビは、自然なものではなく、人間が作り出したもの?とも言えるのだろう。