2025年4月15日火曜日

カマンベールもブリーも昔は白くなかった!

 先日、「フランスチーズに親しむ」というイベントを開催した。イル・ド・フランス地方の白カビチーズというテーマを選んのだが、知り合いがFacebookで「白カビチーズの起源はいつですか?」と聞いていたので、調べてみた。すると、なかなか面白いことがわかったので、書いてみることにする。

ブリーというチーズは、かなり古く、ローマ帝国のガリア侵攻(1世紀)まで遡ることができる。しかし、当時のブリーは、オレンジ色か、青灰色だったのである。

下の写真は、マリー・ジュール・ジャスティンによる19世紀の絵画で、「ブリーチーズのチーズ交響曲」という名がついている(ソワソン市立博物館)。この絵の中のブリーはオレンジ色、その横にあるカマンベールらしいチーズは、青灰色である。




そこで、オレンジ色や青灰色のチーズが、なぜ白くなったかをみてみよう

ジャレド・ダイアモンドという、進化生物学者がいるが、その著書「銃・病原菌・鉄」のなかで、「栽培化」を説いている。栽培化というのは、人間が自分たちの都合の良いように、動物や植物を選別して、栽培することだ。たとえば、犬の先祖は狼であるが、人間が飼い慣らして犬としたし、とうもろこしも昔は今ほど大きな身をつけていない。このように、ブリーに色をつける微生物は、この栽培化によって、選別されてきたようである。

最初に家畜化された微生物は、青灰色のPenicillium Biforme(ペニシリウム ビフォルメ)である。この微生物は、ヤギのフレッシュチーズに使用されていたそうな。そして、ブリーの青灰色の微生物から、Penicillium Camembertiが分離されて使用されることとなった。

これは、1897年に、生化学者ジョルジュ・ロジェが、モー農業協会から要請を受けて、ブリーから白いPenicilliumを分離し、研究所で培養に成功してからである。このPenicilliumは、アルピノ(白子)であり、この微生物を使うようになってから、ブリーは白くなったのである。

また、カマンベールは、ロジェの元協力者で、カーン農業試験場の所長であったエミール・ルイーズを通じて、ノルマンディーに伝わった。エミールは、1901年に、カマンベールの製造者に、このPenicilliumを使うように進めたそうである。

現在のPenicillium Camembertiは、クローンである。クローンは、2種類あり、カマンベールやブリーには、白く、綿毛状で、垂直方向に伸びるもの、サン・マルスランタイプには、グレーがかって、ふわふわしていないものが使用される。

クローンであることのデメリットは、遺伝的多様性の低下である。遺伝的多様性が低下すると、品種改良、多様化、新しい用途、条件、基質への適応のプロセスが継続できない。特に、カビは無性生殖なので、長期的には、種の退化に繋がるそうである。これを解決するには、カビの有性生殖を増やすのが良いとのこと。

以上の事から、白カビのチーズができたのは、かなり最近のことで、昔は白くなかったということになる。筆者も、白カビのチーズを作っているが、白カビだけは購入している。自然に生えないからだ。白カビチーズの白カビは、自然なものではなく、人間が作り出したもの?とも言えるのだろう。