昨年、このブログを書いたのは、確か2月。
忙しいというのは本当だが、筆者がしたいことは、チーズを作りたい人の手助けをすること。今更ながら、確認したことだ。
今まで、少し、本筋を外れていたのかな、と思っている。
色々な雑用から、少し解放されたので、ブログを続けていきたいと考えている。
続けると言い切れないのが、辛いところだが・・・
ただ、筆者がフランスの専門学校で学んだことを、チーズを作りたい人、作っていて壁にぶつかっている人に、少しでも伝えたいと思っているので、続けていきたいだけである。
さて、乳酸菌である。
乳酸菌という微生物がいるのではなく、消費した糖類から50%以上の乳酸を生成する微生物の総称である。そして、チーズを作る上で、最も重要な微生物である。
乳酸菌に関しては、以前にもこのブログで書いたことがあるが、今回は実践編になるのでもう少し詳しく書いていこう。
乳酸菌の定義は、以前にも書いたが、もう一度復習しておく。
「乳酸菌は、乳酸を多量に作る細菌群の総称である。乳酸菌はグラム陽性(細菌をグラム染色で染色すると青色に染まる)で桿菌(筆者注:形が棒状や円筒状の細菌)または球菌の形態をとり、カタラーゼを生産せず、運動性がなく、胞子を形成せず、(中略)ブドウ糖に対して第一発酵式(ホモ発酵)あるいは第二発酵式(ヘテロ発酵)に従って乳酸を生成することが定義づけられている。」
「畜産食品微生物学 細野明義編(株式会社朝倉書店)」
P34 2.1 微生物の種類(北澤春樹)c.発酵乳製品と微生物 より抜粋
まず、乳酸菌は、グラム陽性菌である。
では、グラム陽性菌とは何か。
グラム染色という染色方法がある。
主として、細菌類を色素によって染色する方法の一つで、細菌を分類する基準の一つである。デンマークのハンス・グラム博士によって発明されたそうだ。
グラム染色によって、細菌類は大きく2種類に分類される。
青紫に染まるものをグラム陽性、赤く染まるものをグラム陰性という。
グラム陽性菌とグラム陰性菌では、細胞壁の構造が違うため、色が変わってくるのである。
グラム陽性菌には、人間に害をなすものも役に立つものがあるが、グラム陰性菌は、人間に害を為すものがほとんどだと、フランスの恩師が力説していた。
下の写真を見て欲しい。桿菌も球菌も見事に青紫色だ。
グラム染色で染めたブルガリクス(棒状の菌)とストレプトコック(丸い菌) http://b.21-bal.com/buhgalteriya/1419/index.html |
球菌と桿菌があるのも特徴の一つ。
球菌は、丸い形、桿菌は棒状である。
ラクトコック・ラクティス http://textbookofbacteriology.net/featured_microbe.html |
ラクトバシリュス ブルガリクス http://phytocode.net/phytoglossary/lactobacillus-bulgaricus/ |
次に、カタラーゼを生産しない、とある。
カタラーゼは、過酸化水素を水と水素に分解するのだが、嫌気性菌はこれを持っていない。過酸化水素は、体に害があるので、好気性の生物は皆(人間も!)カタラーゼを持っている。
乳酸菌は、通性嫌気性菌といって、酸素があってもなくても生きられる微生物である。
無酸素状態で、乳酸菌は、1分子のブドウ糖から、2分子の乳酸と2分子のATP(高エネルギー化合物)を生産する。これが、酸素のある状態では、最終的にブドウ糖を二酸化炭素と水に分解し、36〜38分子のATP生産する。酸素がある方が多くのエネルギーを生産するのに、どちらかというと無酸素状態を好み、カタラーゼがないのは、面白い。
運動性がないのも特徴。
微生物の中には、鞭毛を持って、移動するものがある。
乳酸菌は、移動できないのである。
鞭毛のある緑膿菌とピロリ菌。 https://blogs.yahoo.co.jp/kmatsui00307/30708195.html |
胞子を形成しないのも特徴の一つだが、胞子を形成するのは、カビの特徴。
乳酸菌は、そうではないのである。
青かびの胞子。乳酸菌は、胞子を作らない。 https://www.city.saitama.jp/sciencenavi/kenkou/003/p008951.html |
また、ホモ発酵とヘテロ発酵というのは、発酵のタイプである。
まず、乳酸菌は、グルコースを分解するのに解糖系という経路を使う。
解糖系。乳酸菌は、無酸素状態で1分子のブドウ糖から2分子の乳酸を、酵母は2分子のエタノールを、有酸素状態では、TCA回路に移動して、最終的に二酸化炭素と水、ATPを生産する。 http://www.nyusankin.or.jp/scientific/moriji_4.html |
この経路で、ピルビン酸まで分解すると、乳酸菌は乳酸を、酵母はエタノールを、他の好気性生物はTCA回路でATPを得る。
しかし、乳酸を得るのに、乳酸菌には、二つの経路があるのだ。
それがホモ発酵とヘテロ発酵である。
ホモ発酵は、1分子のブドウ糖から2分子の乳酸と2ATP(エネルギー)を生産する。
C6H12O6(グルコース)→ 2CH3CH(OH)COOH(乳酸)+2ATP
ホモ発酵の様子。1分子のグルコースから、2分子の乳酸ができる。 http://www.nyusankin.or.jp/scientific/moriji_4.html |
この発酵形式をとるのは、ラクトコック ラクティス、ラクトバシリュス ブルガリクスなどである。どちらかというと、pHを下げる力が強い。
ヘテロ発酵は、1分子のグルコースから、1分子の乳酸、エタノール、二酸化炭素を生成する発酵である。
C6H12O6(グルコース)→CH3CH(OH)COOH(乳酸)
+C2H5OH(エタノール)+CO2(二酸化炭素)+ATP (2)
ヘテロ発酵の様子。1分子のグルコースから、1分子の乳酸、エタノール、二酸化炭素ができる。 http://www.nyusankin.or.jp/scientific/moriji_4.html |
乳酸菌の特徴がお分かりいただけただろうか。
最後に、乳酸菌の分類を載せておこう。
細かく分類すると大変なので、チーズによく使われるものを中心にしておく。
大まかな乳酸菌の分類。形と発酵形態でまとめてある。 ビフィドバクテリウムは、乳酸菌ではないが、便宜上載せた。 |
さて、今回はここまで。
次回から、チーズに関与する乳酸菌とその働きをまとめていこう。
一応、チーズ製造講座もしているので、情報は、半分以下と思っていただきたい。
講座に来ていただければ、もっと詳しい話もできますな。
それから、チーズ A to Zによる試みを一つ。
チーズを作っている方、これから作りたい方の手助けを開始する。
作っている方に対しては、トラブルの解消法や、新しいチーズの作り方を解説するなどのことを。これからチーズを作りたい方に対しては、工房設立やチーズの製造方法などに関してのアドヴァイスを。
筆者の都合もあるので、無料とはいかないが、問い合わせをくだされば、なるべく希望に沿うように考える。
それから、時間が取れれば、出張講座も行っていこうと考えている。
人数が揃えば、こちらに来るより、金銭的にも時間的にも楽になると思う。これも問い合わせをいただければ企画してみる。
次回は、チーズ製造に関する乳酸菌の利用について、もう少し突っ込んだ話をしていきたいと思っている。
はじめまして
返信削除検索してたどり着いて、ブログを拝見させてもらっています
ブログにチーズを作る方を手助けしていただけると書いてあったので勝手にコメントを記入しています。
私は山羊を飼育して搾乳をしチーズを作ろうと思って、今年から搾乳の量が12リットル採れるようになりチーズを作ってみています。しかし全く山羊チーズのおいしさにはたどり着けず、なんでだろうと思いながら温度計やPH計をにらみながら過ごしています。美味しくないと感じるのは苦みを感じるためです。
私のやり方は搾乳直後に63度くらい30分の殺菌をした後、38度から35度まで冷却しそこで乳酸菌を入れます、そのときPH6.7から6.6くらい、その後PHが6.4から6.3になるときを見計らって、カイマックスを入れて30分後に型入れをします。型は専用のものでなく、お菓子作り用のカップに布巾を引いて入れています、それから翌朝までホエーを抜いて布巾を替え少々の塩をふり冷蔵庫に入れています。その後1日おきに上下を反転させています、設備は家庭用の台所で作っています。設備が問題であれば仕方がないとあきらめもつきますが、もしそうでなくてやりようがあるとすれば何かヒントでもいただければ幸いです。
すみません、ご多忙のところ申し訳ありません。
面識もなく厚かましいとは思っておりますが、よろしくお願いいたします。
福田誠治 seijif1223@gmail.com
熊本県在住です