前々回の、乳成分のところで、ミネラルのところに、「構造に組み込まれたもの」、「構造に組み込まれないもの」と書いたが、構造に組み込まれる物は、Ca、P、Mgである。
Ca(カルシウム)、P(リン)、Mg(マグネシウム)は、カゼインミセルを形成するのに、重要な役割を果たす。
特に、CaとPは、リン酸カルシウムとなり、カゼインを繋ぎ、立体的構造を作る「橋」の役割を果たす。
Ca、P、Mgは、それぞれイオンの状態になって水層にも存在するが、特徴的なのは、「コロイド状リン酸カルシウム」となって、カゼインミセル形成に関与している事である。
そして、チーズを作る時には、この「コロイド状リン酸カルシウム」が、重要なのである。
図-1:酸性ジェルの形成 |
上の図-1を見ていただこう。
酸性ジェルの形成の様子を現した図である。
pH6,6からpH5,4までは、ミセルは均等に水層中にあり、安定しているが、pHが下がるにつれて、少しずつコロイド状リン酸カルシウムが溶けて、カルシウムがカルシウムイオンとなり、水層に溶け出していく。
また、カゼインが溶解していくので、ミセル同士の反発力も低下し、次第に近寄っていくと考えられる。
しかし、ここまでは、ある程度可逆性があり、元の状態に完全に戻るわけではないが、ミセルの再構築がおこる。
pH5,4〜5,2は、ミセルが徐々に分解して、球形を保てなくなっていく段階。
pH5,2〜5,0は、ミセルの不均一化がおこる。
そして、ミセルはほぐれ、反発力を失って、堆積していくのである。
pH5,0以下は、既に酸性のジェル状態になっている。
すなわち、ヨーグルト。
この状態では、カゼインミセルは崩壊して堆積しているだけで、網目構造は無い。
水気を絞ってしまうと、ぼそぼそした食感のもろい生地が出来る。
このタイプは、東洋型のチーズと言われる物で、丸めて天日干しして保存食にする。
次の図は、「酵素凝固ジェル」。
図-2:酵素凝固ジェル |
図-2を見ていただきたい。
まず、カゼインミセルにキモシンが作用すると、加水分解がおこり、CMPがミセルを離れて水層に取り込まれる。
毛状のCMPが離れる事によって、帯電がなくなり、ミセルは互いに近寄って、凝集する。
そして、カルシウムをジョイントとして、網目状の組織を作るのである。
このように、酸性のジェルと酵素凝固性ジェルは、かなり成り立ちも状態も違う。
しかし、チーズは、乳酸菌によって、pH調整をし、凝乳酵素を使う事でカイエを作っているわけだから、両方が絡み合って、複雑な組織を作っている事になる。
また、カルシウムとリンが組織を作る上で重要な役割を果たすのだが、pHだけでなく、温度も重要な要素である。
実は、温度を上げると、カルシウムがコロイドから溶け出してしまうのだ。
だから、殺菌乳でチーズを作る場合、CaCl2を加えて、Caを補充するのである。
筆者がチーズ種を作るために、絞り立ての牛乳を分けてもらった時に、少し多めだったので、無殺菌乳のチーズを作ってみた事がある。
全然違う。
よく固まりますな。
市販の殺菌乳は、時間が経っている上に(多分3日くらい)、温度管理が怪しいので、いつも柔らかすぎるカイエになる。
しかも、ホモジナイズドされているから、歩留まりはいいが、やわやわのカイエで乳清の抜けが悪い。
でも、絞り立ての牛乳で作ると、固いカイエになって、乳清の抜けもよい。
フランスの農家で作っている時は、状態の良い原乳を使っているわけだから、うまくできるよな〜、などと、少しいじけていたが、ようやくよい原乳が手に入りそうである。
10月6日と思っていたが、届かない資材があるので、10日に開業予定。
明日、キューヴが届く。
楽しみである。