2014年9月4日木曜日

チーズ製造方法:基本編 乳成分

フランス時代、伝統的チーズ製造の講座にいたころ、"nouveau fromage"という題材のレポートを書いた事がある。
筆者は、全く新しい、今まで無かったようなチーズを作るというレポートを書くのだと思ったが、チームメートは、違った。

「新しいチーズ」という意味は、その工房で、どんなチーズを新しい商品として開発するかという事だったのだ。
筆者のチームメートは、まず、その工房でのキャパシテ、すなわち許容量を考えた。
どうして新しいチーズが必要になったのか、から始まるのである。

筆者の試作品。塩付けの後。ホモ牛乳なので、真っ白できれい!
このチーズは、赤くなるのが遅いのに、柔らかくなるのが早かったので、
筆者と家族のおなかの中へ・・・ワインがすすむ・・・

乳量が増える、作っているものの販売が芳しくない、など、色々な理由を考えて、どんなチーズを商品として加えたらいいのかというところから始まり、原乳の量から、どの程度の大きさのチーズが作れるか、また、個数は?と考えていく。
もちろん、工房の規模、新しい設備投資がどのくらいできるのか、でも変わってくる。

すごく面白い題材だった。

今、このレポートが役に立っている。
どのようなチーズを、どうして、どのような規模で、何を利用して作っていくのか。
筆者の工房に役立つような、課題だった。
そして、その時に考えたように、チーズを作っていこうと考えている。

筆者はどちらかと言うと、山羊専門で、山羊乳の事には詳しい。
何しろ、レポートを書く時、いやというほど調べたからだ。
しかし、いま、日本で作ろうとしているのは、牛乳のチーズだ。
基本は知っているけれど、使いこなすには、これから調べなきゃなるまいと、いろいろ調べてみた。

そこで、「乳成分」である。
まず始めに、チーズが出来る乳か、出来ない乳か、から参ろう。

乳は、大きく二つに分けられる。
Lait albumineux(レ・アルブミノー)とlait caséineux(レ・カゼイノー)である。

以下の表は、参考程度にしていただきたい。
何故なら、牛、山羊、羊の乳の成分比率は、地域や品種によって、変わるからである。

1リットルあたりの乳成分。下記のサイトの表を日本語訳したもの。
http://www.ledomainedetamara.fr/?page_id=133

この表を見てみると、人、馬科の動物は、蛋白質自体が少なく、炭水化物、すなわち、乳糖が多い。これは、脳との関係だろう。
反芻動物と、その他の動物を比べてみると、蛋白質の合計は、トナカイを除けば、その他の動物の方が多い(豚を除く)。
しかし、その他の動物では、カゼインも多いが、アルブミンも多い。

比率から見ると、反芻動物は、カゼイン/蛋白質合計が、78%以上だが、その他の動物は、ウサギを除いて50%以下である。
乳蛋白中、カゼインの比率の多い乳をカゼイノー、カゼインとアルブミンの分量が近いものをアルブミノーと言うのである。

アルブミノーの乳は、アルブミンがカゼインの周りに位置するので、もやっとしたコロイド状にはなるが、固まる事が出来ない。
だから、チーズにはならないのである。
ウサギは面白い事にカゼイノーなのだが、乳量の問題で、チーズ作りには向かない。
巨大なウサギでもいれば、可能だが・・・

また、人乳はアルブミノーなので、幼児は牛乳をうまく消化できないそうだ。
カゼインを消化するのがへたくそなのだろう。
筆者は、子供の頃から牛乳でおなかをこわした事が無いので、よく解らないが・・・

乳のpHは、「Initiation à la technologie fromagère」によると、6,6〜6,8となっている。
これは、カゼイノーのpHであるが、アルブミノーの乳のpHは、もっと高く、中性に近いという事だ。
ただ、pHが低いカゼイノー乳は、チーズを作る時に厄介だ。
pH6,6だと、作れるチーズが限定される。特に、殺菌乳の場合は。
この事は、いずれ、製造について書く時に、書こうと思う。

資料には載っていないが、モンゴルなどでは、ヤクの乳を使って、チーズを作っているそうだから、他の反芻動物でもチーズ製造は、可能だろう。
ただ、トナカイなど、北の方にいる動物の乳は、脂肪分が多いので、チーズを作るのは少し難しくなりそうだ。
あらかじめ、エクレメ(écrémé:脱脂)をしなければ、脱水がうまくいかないだろう。

また、ラクダ乳を使って、工場でチーズを作る試みがあると聞いたが、蛋白質を加えないと難しいとも聞いた。
ラクダ乳の資料が無いので、カゼイノーかアルブミノーかわからないが、固まりにくいらしいので、アルブミノーだろうと推測する。

乳が出れば、何でもチーズになるのではなく、分析すると、こんな風なのである。
羊、山羊が家畜化されたのが、紀元前8000年ごろ、牛は、紀元前6000年頃。
先人たちの知恵の結晶とも言える、食品だ。

次回は、乳成分を細かく見ていこう。
まず始めは、乳蛋白から。

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