まず、乳中には、なにがあるか?
下の図-1を見てもらうとわかるように、
- 水分
- 脂肪
- 糖分(乳糖)
- 窒素化合物
- ミネラル分
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図1:乳成分(g/Kg) |
え?蛋白質だけじゃないの、とおっしゃる方もいるだろうが、動物の分泌物である。
そんなに単純じゃないのだ。
窒素化合物には、蛋白質と、非蛋白質がある。
窒素化合物非蛋白質の大部分は、尿素。
そのほか、アミノ酸(アミノ酸は、蛋白質ではない)、ペプチド(ペプチドも、蛋白質ではない)、クレアチニン、アンモニアなどがある。
フランスの学校では、このMAPを計測して、実習時の数値としていた。
今のところ、資料が無いので、どの程度、チーズに関与しているのかは、わからない。
老廃物と見なす事もあるようだ。
しかし、乳中には、カゼインだけでなく、色々な窒素化合物がある事を知ってほしい。
次に、チーズ作りに重要な、カゼインである。
カゼインには、
- カゼインαS(αS-1とαS-2がある)
- カゼインβ
- カゼインκ
- カゼインγ
このうち、カゼインγは、カゼインβの分解物なので、あまり気にしなくていいが、他の3種類は、チーズにとって、重要である。
まず、カゼインαS(アルファ エス)。
下の表-1を見てもらうとわかるように、牛乳では、カゼイン合計のうち、46%を占めている。羊乳も多く、47%。しかし、表-2を見てもらうとわかるように、山羊乳は、27%にすぎない。
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表-1:動物の種類別による乳中蛋白質の内訳(下記のリンク中の表を日本語にしたもの) http://www.fouillez-tout.com/bergerie/bergerie_analyse_lait.html |
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表-2:牛乳、山羊乳、羊乳中の蛋白質の内訳と、カゼインミセルの大きさ (参照:「Le fromage:第3版」P35 Tableau 8 Caractéristiques micellaires comparées des laits de vache, de chèvre et de brebis.より抜粋) |
これが何を意味するのかと言うと、山羊乳では、大きいチーズが作れないという事である。
なぜかと言うと、チーズの骨格である、「網目構造」を作るのは、カゼインαSだからである。そのカゼインαSが少ないのだから、しっかりした骨格が出来ないのだ。
だから、山羊乳では、PPCはほぼ無理である。
混乳なら、可能だが。
羊乳だと、PPCの製造は可能だが、脂肪分が邪魔をするので、長期熟成には向かない。
牛乳でも、長期熟成するコンテ(le comté)やパルミジャーノ・レッジャーノ(il parmigiano reggiano)は、エクレメ(écrémé:脱脂)して、脂肪分を減らしている。
次に、カゼインβ(ベータ)である。
αSが骨格を作るのなら、βは何をするのかと言うと、香味(la flaveur)を作る。
だから、βの多い山羊乳は、必然的に風味が強くなる。
山羊乳の場合、脂肪の分解物等も独特の匂い形成に関係するが、それは、脂肪分のところで説明しよう。
筆者が表-1で面白いと思ったのは、水牛乳である。
脂肪分が多いのは知っていたが、カゼインβが多いのは知らなかった。
という事は、水牛乳で、PPCを作るのは、難しいという事になる。
また、モッツァレラ。
水牛乳のモッツァレラは、牛乳のモッツァレラには無い、独特の柔らかさがある。
これは、カゼインβのせいではないかと推測する。
カイエの骨格が、きちんと出来ないのではないだろうか。
脂肪分だけの問題なら、ジャージー乳でも、同じ食感のものが出来るはずだ。
厳密に言うと、牛は牛属、水牛はアジア水牛属になり、乳成分の比率が違っていても、不思議は無い。
お次ぎは、カゼインκ(カッパ)。
このカゼインは、有名である。
何しろ、凝乳酵素によって、劇的な変化をし、カイエを作るのに、重要な役目をするからである。
κは、面白い事に、山羊乳に多い。
と、ここまで書いてきて、気がついた。
カゼインの構造を説明した方がいい。
ただ、カゼインの構造は、まだ完全に明らかになっているわけではないので、わかる範囲内で書いていこうと思う。
カイエがどのように出来ていくのかも、説明したいので、次回に書く事にしよう。
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