2014年9月10日水曜日

チーズの製造方法:基本編 乳中の蛋白質

アーカイブで、以前、乳成分について触れたが、改めて、乳成分についてお話ししよう。
まず、乳中には、なにがあるか?
下の図-1を見てもらうとわかるように、
  • 水分
  • 脂肪
  • 糖分(乳糖)
  • 窒素化合物
  • ミネラル分
である。

図1:乳成分(g/Kg)

今回の主題である、蛋白質は、窒素化合物の中に入る。
え?蛋白質だけじゃないの、とおっしゃる方もいるだろうが、動物の分泌物である。
そんなに単純じゃないのだ。

窒素化合物には、蛋白質と、非蛋白質がある。
窒素化合物非蛋白質の大部分は、尿素。
そのほか、アミノ酸(アミノ酸は、蛋白質ではない)、ペプチド(ペプチドも、蛋白質ではない)、クレアチニン、アンモニアなどがある。

フランスの学校では、このMAPを計測して、実習時の数値としていた。
今のところ、資料が無いので、どの程度、チーズに関与しているのかは、わからない。
老廃物と見なす事もあるようだ。
しかし、乳中には、カゼインだけでなく、色々な窒素化合物がある事を知ってほしい。

次に、チーズ作りに重要な、カゼインである。

カゼインには、
  • カゼインαS(αS-1とαS-2がある)
  • カゼインβ
  • カゼインκ
  • カゼインγ
の4種類がある。
このうち、カゼインγは、カゼインβの分解物なので、あまり気にしなくていいが、他の3種類は、チーズにとって、重要である。

まず、カゼインαS(アルファ エス)。

下の表-1を見てもらうとわかるように、牛乳では、カゼイン合計のうち、46%を占めている。羊乳も多く、47%。しかし、表-2を見てもらうとわかるように、山羊乳は、27%にすぎない。
表-1:動物の種類別による乳中蛋白質の内訳(下記のリンク中の表を日本語にしたもの)
http://www.fouillez-tout.com/bergerie/bergerie_analyse_lait.html

表-2:牛乳、山羊乳、羊乳中の蛋白質の内訳と、カゼインミセルの大きさ
(参照:「Le fromage:第3版」P35 Tableau 8 Caractéristiques micellaires comparées des laits de vache, de chèvre et de brebis.より抜粋)

これが何を意味するのかと言うと、山羊乳では、大きいチーズが作れないという事である。

なぜかと言うと、チーズの骨格である、「網目構造」を作るのは、カゼインαSだからである。そのカゼインαSが少ないのだから、しっかりした骨格が出来ないのだ。
だから、山羊乳では、PPCはほぼ無理である。
混乳なら、可能だが。

羊乳だと、PPCの製造は可能だが、脂肪分が邪魔をするので、長期熟成には向かない。
牛乳でも、長期熟成するコンテ(le comté)やパルミジャーノ・レッジャーノ(il parmigiano reggiano)は、エクレメ(écrémé:脱脂)して、脂肪分を減らしている。

次に、カゼインβ(ベータ)である。

αSが骨格を作るのなら、βは何をするのかと言うと、香味(la flaveur)を作る。
だから、βの多い山羊乳は、必然的に風味が強くなる。
山羊乳の場合、脂肪の分解物等も独特の匂い形成に関係するが、それは、脂肪分のところで説明しよう。

筆者が表-1で面白いと思ったのは、水牛乳である。
脂肪分が多いのは知っていたが、カゼインβが多いのは知らなかった。
という事は、水牛乳で、PPCを作るのは、難しいという事になる。

また、モッツァレラ。
水牛乳のモッツァレラは、牛乳のモッツァレラには無い、独特の柔らかさがある。
これは、カゼインβのせいではないかと推測する。
カイエの骨格が、きちんと出来ないのではないだろうか。
脂肪分だけの問題なら、ジャージー乳でも、同じ食感のものが出来るはずだ。

厳密に言うと、牛は牛属、水牛はアジア水牛属になり、乳成分の比率が違っていても、不思議は無い。

お次ぎは、カゼインκ(カッパ)。

このカゼインは、有名である。
何しろ、凝乳酵素によって、劇的な変化をし、カイエを作るのに、重要な役目をするからである。
κは、面白い事に、山羊乳に多い。

と、ここまで書いてきて、気がついた。
カゼインの構造を説明した方がいい。
ただ、カゼインの構造は、まだ完全に明らかになっているわけではないので、わかる範囲内で書いていこうと思う。

カイエがどのように出来ていくのかも、説明したいので、次回に書く事にしよう。

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