2014年12月10日水曜日

チーズの製造方法:基本編 乳清たんぱく(Protéines solubles)

乳成分を分類するとき、乳たんぱくは、窒素化合物の範疇に入る。
窒素化合物のことを、MAT(Matières Azotées Totales)といい、その中には、蛋白質以外の窒素化合物も入っている。
蛋白質は、以前話したように、MAP(Matières Azotées Protéiques)という。

タンパク質以外の窒素化合物の主なものは、尿素。
約50%を占めている。
しかし、このタンパク質以外の窒素化合物(NPN:Non Protein Nitrogene 英語、MAnP:Matières Azotées non Protéiques フランス語)は、あまりチーズの製造には関係ないので、省く。

さて、乳たんぱくは、カゼインと乳清たんぱくに分けることができる。
カゼインの話はすでにしたので、今回の主題は、乳清たんぱく。

まず、乳清たんぱくとカゼインの違いは、というと、表1をご覧いただきたい。

表1:カゼインと乳清たんぱくの違い

大雑把に言うと、動物の血液に由来する(全てではないが)純粋蛋白質であり、熱に弱く、タンパク質分解酵素で分解できない蛋白質ということになる。
そして、水溶性なので、チーズを作るときには、乳清と一緒にカイエから出て行ってしまう。

では、その実態は?

表2を見ていただこう。

表2

前々回(だったかな?)に載せた表だが、乳清たんぱくのこともよくわかるので、再度掲載。ただ、訂正が2つ。
乳清たんぱくの部分で、牛のβ-ラクトグロブリンとα-ラクトアルブミンの比率が間違っていたので、訂正しておく。また、水溶性アルブミンを血清アルブミンと直すことにする。

まず、β-ラクトグロブリン。

乳清たんぱくの中の大部分を占める。
だいたい50%ほど。
一番の特徴は、人乳には含まれないということである。
ということは、アレルギー源になりやすいということだ。

また、熱変化に弱く、75℃で、熱変性をする。
筆者の持っている資料では、78℃でほぼ100%変質してしまう。

変質するとどうなるか?
まず、粘度を増す。
だから、超高温殺菌(UHT)の牛乳は、舌にねばり付く感覚がある。
そして、チーズ製造にとって困るのは、熱変性すると、β-Lg-CN-κ(β-ラクトグロブリンとカゼインκの複合物)を作り、凝固を妨げるのである。
その結果、凝固が遅れたり、水切れが悪くなったりするのだ。

殺菌乳製のチーズを作るとき、筆者は63℃30分殺菌(低温殺菌:LTLT:Low Temperature Long Time pasteurization)にしているが、チーズによっては、72℃15秒(高温殺菌:HTST:High Temperature Short Time methode sterilization)のこともある。
β-ラクトグロブリンのことを考えたら、63℃30分のほうがいいと思う。
いま、これを書いていて気がついたが、pasteurisationは、「殺菌」だが、stérilisationは、殺菌というより、むしろ「滅菌」とか「消毒」という意味になる。
日本語は、曖昧なものだ。

次に、α-ラクトアルブミン。

人乳では、この乳清たんぱくがほとんどを占めるが、反芻動物では、約20%である。
カルシウムイオンを含んでいるため、熱には割に強く、95℃くらいまで平気である。

血清アルブミン。

反芻動物では、乳清たんぱくの約5%を占める。
血液中で、脂肪酸を運ぶ役目をするとも言われている。

免疫グロブリン。

これは、免疫に関与するタンパク質で、約11%を占める。
初乳では、量が増える。

表にはないが、ラクトフェリンも入っている。
ラクトフェリンは、抗菌活性を持つことで知られているが、免疫グロブリンと同様、初乳の中に多くなる。

最後に、プロテオーズ-ペプトン。

蛋白質といっても良いのだが、プロテアーズで分解されたペプチドでもある。
特徴は、pH4,6で沈殿しないことと、熱変性しにくいこと。
カゼインは、pH4,6で沈殿し、他の乳清たんぱくは、熱変性しやすいのだから、少し変わり種である。

以上のように、いろいろな蛋白質が乳清とともにチーズから出て行ってしまうのだが、これを利用する研究もいろいろあるようだ。


面白い図を見つけたので、日本語にしてみた(図1)。

図1:乳製品製造図
全乳からチーズへの道と、クリームへの道である。

脱脂乳、乳清ともに、水溶性タンパク質と乳糖が入っているのがわかる。
脱脂乳は、そのまま粉乳などにして利用され、乳清はリコッタやブロッチュ、ブルースなどのホエーチーズを作るのに使われてきた。
現在は、技術が発達して、乳清たんぱくをウルトラフィルトラシオンで分離して使うことができるようになり、いろいろな用途で使われているようだ。

スイスの文献で読んだのだが、チーズ製造時に、水溶性蛋白質を添加することもあるそうだ。
ラクレットに乳清蛋白質を加えることによって、食感を柔らかくし、弾力性を持たせる、という文献だったが、溶け具合も向上するらしい。
また、フロマージュ・ブランは、殺菌温度を90℃まで上げて、水溶性タンパク質を変性させ、歩留まりを多くすることは、よく行われている。
また何か、文献を見つけたら、紹介しよう。

乳清というのは、利用価値があるのに、なかなか使い方が厄介だ。

乳清には、sérum doux(セロム・ドゥー)とsérum acide(セロム・アシッド)という、2種類がある。sérum douxはPMのミックスやPPから出るもので、sérum acideは、PMのラクティック・ドミノンから出てくるものである。

ドゥーは、ブルースなど、ホエーチーズにできるし、乳清飲料にもできるのだが、アシッドの方は、難しい。
筆者もブルースができないものかと乳清を煮てみたが、蛋白質のふわふわは浮いてこなかった。
今、何に利用できるのか、文献を探しているところだが、まだ見つかっていない。

一方、工房では、11月の半ば頃まで、カイエと格闘していたが、現在は、チーズの熟成に取り組んでいる。
MOFの ル ムニエ氏が言っていた言葉を思い出す。

「私がチーズを熟成させているのではなく、チーズが熟成するのだ。」

うちのは、なかなかやんちゃな息子どもである。
ま、いいか。

次回は、乳脂肪と乳糖について書こう。
なかなか時間が取れなくて、11月は、一回しか書いてない!
週一、せめて二週に一回書きたい・・・

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