2020年4月17日金曜日

チーズの製造方法:実践編 乳酸菌の種類

前回は、能書きだったが、今回は、乳酸菌をどのようにチーズに使うかを書いていくつもりである。筆者は、能書きも必要だと思っているので、前回は乳酸菌の定義について書いた。乳糖を分解して乳酸を作る微生物は、乳酸菌だけではない。ビフィズス菌も、大腸菌も乳糖を分解して、乳酸を作る。しかし、彼らのことは、乳酸菌とは言わない。

定義が大事なのは、決まっていなかったら、なんでもありになってしまうからである。
乳糖を分解する微生物、という括りになってしまったら、大腸菌だって、乳酸菌の一種になってしまう。だから、定義が大切なのである。

と言っても定義だけ聞いていても、面白くもなんともない。
実際に、どんな種類があって、どんな風にチーズに活用するのかが、面白いのである。
しかし、乳酸菌の定義は、フランスの学校の試験に出ましたな。
やはり重要なのである。

さて、前回のブログの最後に表を載せた。
詳しい説明をしていないので、わからない方も多いだろう。
もう一度載せておこう。

主な乳酸菌の分類
カルノ-バクテリウムとビフィド-バクテリウムは便宜上入れてある。

前回の定義のところで、形については丸い球菌と棒状の桿菌があることは書いた。
表の左側は球菌、右側は桿菌である。
その下の「繁殖温度」のところに、「中温菌」「高温菌」とある。
これはなんだろう?

中温菌は、30℃くらいで繁殖が活発になる。
高温菌は、40℃くらいで繁殖が活発になる。
要するに、繁殖が活発になる温度が違うわけである。

チーズの種類によって、製造するときの温度が違う。
ラクティック・ドミノンはヤギチーズの場合、22℃。牛乳の場合は、もう少し高くて良い。なぜなら、凝乳時間が長くて温度が低いと、脂肪分が浮いてきてしまうからである。
ミックス、PPNC、PPCなら、乳酸菌を使うときの温度は、だいたい32℃。

こう考えると、中温菌で良いのではないかと思うが、PPCでは、50℃以上に温度を上げる工程があるので、中温菌だけではうまくいかない。やはり、高温菌の出番だろう。
実際、50℃以上に加熱しても、高温菌は、全滅しない。

また、例外として、ミックスのモッツァレラは高温菌を使う。
高温(80〜90℃)のお湯で練るという工程があるからだろう。
また、イタリアは、高温菌をよく使うようで、柔らかいチーズにも高温菌を使うと聞いたことがある。フランスでは、PPNCにも中温菌を使う。
国によって、乳酸菌の使い方も違うようである。

だから、ラクティック・ドミノンのチーズを作るときには、中温菌のみで良い。
ミックス、PPNCなら、やはり中温菌。ただ、高温菌のストレプトコックは、Textureを作ると言われているので、混ぜることもあるそうだ。
PPCは、高温菌を使う、ということになる。
これは、温度だけによる使用である。pHの下がり具合も関係あるけどね。

チーズの風味に関しても、やはり使い分けがある。
表の一番下の、発酵タイプのところを見て欲しい。
ホモ発酵とヘテロ発酵と書いてある。
これはなんだろう?

ホモ発酵は、ほどんどの乳糖を乳酸に変換する。
図式は、以下の通りである。

C6H12O6(グルコース)→ 2CH 3CH(OH)COOH(乳酸)+2ATP
(ATPは、エネルギーを作る)
グルコース1分子から、2個の乳酸を生成するという式である。

このように、たくさんの乳酸を生成し、pHを下げる働きが強いのがホモ発酵をする乳酸菌である。


ホモ型乳酸発酵(EMP経路)
「乳酸菌とビフィズス菌の基礎講座」より(信州大学名誉教授 細野 明義氏による)

一方、ヘテロ発酵は、
C6H12O6(グルコース)→CH3CH(OH)COOH(乳酸)
+C2H5OH(エタノール)+CO 2(二酸化炭素)+ATP
という式になり、グルコース1分子から乳酸1個、エタノールと二酸化炭素を作る。
だから、pHを下げる力は強くない。

ヘテロ型乳酸発酵(HMP経路)
「乳酸菌とビフィズス菌の基礎講座」より(信州大学名誉教授 細野 明義氏による)

ヘテロ発酵をする乳酸菌で、チーズによく使われるのが、ルコノストックである。この乳酸菌は、芳香を作り出すので、フレッシュチーズ(フロマージュ・ブランなど)には、必ず入っている。

こんなふうに、チーズによって乳酸菌を使い分けると、チーズ作りもうまくいく。
メーカーも乳酸菌は、「スターター」と言って、すでにいろいろな乳酸菌を混合し、何々のチーズ向き、として販売している。
ただ、筆者は「スターター」という言い方は、好きではない。
一番最初に入れるから、「スターター」というのだろうが、その中には、乳酸菌も熟成菌も入っていることが多い。

例えば、ウォッシュタイプの「スターター」には、リネンス菌が入っていたりする。
それはそれでいいのだが、リネンス菌は熟成菌であり、乳酸菌ではない。
自分の作りたいチーズにどの乳酸菌が必要なのかを知っていれば、「スターター」も選ぶことが出来るのだ。

チーズの性質を決めるのは、凝乳酵素投入時のpHだが、チーズの風味を決めるのは乳酸菌である。筆者のところは、乳酸菌も自前で作っているから、その時々で風味が変わる。
大まかには、同じような風味になるのだが、今日はちょっと匂いが酸っぱいかな?とか、いい匂いだなーとか、毎回微妙に違う。

先日、生産者の方とお話ししたが、どうも日本のチーズ生産者は、マニュアルがお好きなようで。1時間経ったらこれ。30分したらこうする。
筆者とは正反対である。

当工房では、徳川家康方式である。
「鳴かぬなら鳴くまで待とう時鳥」である。
pHが落ちないなら、落ちるまで待とうという方式だから、待ち時間ができる時もある。
もちろん、筆者も職人の端くれだから、ただ待っているわけではないけどね。

この原稿の初稿は、昨年に書いている。
前の原稿をUPしてすぐに続きを書いたのだが、完成する前に忙しくなって投稿には至らなかった。現在は、新型コロナウィルスのせいで、製造を間引きし、直売所も休みを増やしているから、少し時間が取れそうだ。

次に書きたいことは、決まっている。
「ルコノストックの反乱」。
さて、どんな内容ですかな?

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