2014年11月16日日曜日

チーズ工房の只中で

工房を開設してから、3週間たった。
なんと、前回のブログから、ゆうに1ヶ月経ってしまっている。
読んでくださっている方々も、いったいどうなっているの?と思ってらっしゃる(?)と考えて、再度工房がテーマである。

乳清タンパクは、次回、必ず書くことにする。
(大丈夫かな???)

初めの1週間は、機械と乳酸菌との格闘。
フランスで作っていたのとほぼ同じ製造方法だが、原乳が違い、1日の配乳回数が違い、殺菌工程が入るという差。
一応試作品製造の段階で、原乳の差(牛とヤギ)はわかっていたので、あとは、東京の牛乳がどんなものかで対応すれば良いと考えたのだが・・・

殺菌で手こずった。

やったことがなく、機械も初めて使うとなると、試行錯誤もいいとこである。
1回目は、かなり時間がかかったが、なんとかいい状態のカイエができた。
しかし、その後が問題だったのである。

記念すべき第1作目。カイエの状態もよし、だったのに・・・
左側の袋が、水切り用の袋。

フロマージュ・ブロンを作るのに、専用の袋があるのだが、これに何かの臭いが付いていて、せっかく作ったF.Bについてしまったのである。
化学物質的な臭いで、F.B全滅。結局廃棄・・・
幸い、フロマージュ・ドーメは無事。

無事でした。

2回目の商品は、カイエの状態に納得がいかない。
乳酸菌の状態が良くなかったのか?
できた商品は、満足しないが、まずまず。
(現在熟成中だが、思ったより状態が良い。うまくいきそうだ)

3回目が悲劇。
乳酸菌投入後、pHが下がりすぎ、一応凝乳酵素を入れてみたが、全滅。
これには、泣きましたね。
原因は、殺菌の後に牛乳をよく冷やさなかったから。
乳酸菌が増えすぎて、pHが下がりすぎたせいだ。

幸い、大生機設のおかげで改良ができて、うまく冷えるようになった。
そのあとは、うまくいっている。
現在は、なんとか時間割ができ、自由になる時間も取れそうだ。

筆者のチーズは、lactique dominant(ラクティック・ドミノン:乳酸菌優位法)なので、pHを下げるのに時間がかかる。
Brie de Melunは乳酸発酵に18時間かけるが、筆者のチーズも同じように18〜20時間必要だ。このところ、朝工房に行くと、室温が14℃なので、どうすればいいのか、考え中。(青梅は寒い!)
エアコンで室温を18℃まで上げることは可能だが、pHが下がりすぎると怖いので、できない。3回目の失敗は、そのせいだからだ。
下がらない場合は、時間がかかるが、少し温めて下げるようにしている。

乳酸菌は、こちらの思うように働かないのである。
しかし、乳酸菌の言葉が少しずつ聞こえるようになってきた(ような気がする)。

自然に、Geoが生えてきた。
まだpHが上がりきっていない。リネンスがくるまで時間がかかりそう。

原乳である、東京の牛乳は、素晴らしい。
脂肪分が高すぎるきらいはあるが、チーズを作るのに、まったく遜色がない。
筆者は、少しécrémé(エクレメ:脱脂)している。
というのは、そのままだと、熟成に影響が出るし、味がくどくなる。
1回目に作ったF.Bは、脂肪のざらつき感があったが、écréméしてから口当たりが良くなった。

フロマージュ・ブラン 500gと150g。
両方ともナチュール(プレーン)。カンパーニュタイプなので、つぶつぶがある。

熟成庫の容量があまり無いので、ちょっと頭がいたい。
11月7日、8日と、来日していたMOFのロドルフ・ル ムニエ氏の通訳の仕事が入り、その週は製造を1回にして調整したのだが、うまくいかない。
少し違うタイプも作ってみようとして、熟成庫がいっぱいになりつつあるのも事実。
なんとかするしかない。

ここで、一つお知らせ。

見学希望の方へ。
Porte Ouverteという、一般公開を考えていたのだが、毎日何かしら作業があるので、無理そうである。そこで、工房のチーズ販売時間である、水、金、日の午後1時〜5時なら、予約していただければ、見学できるようにしたい。
(申し訳ないが、食品製造なので、お子様は不可)
予約は、このブログでも、Facebookページのメッセージでも、HPのメッセージでも構わない。工房に電話でもいい。

表札。

何人かの方から問い合わせがあったが、こちらが忙しくてご希望に添えなかった。
なんとか、作業の時間割ができたので、見学解禁である。
また、製造の講習は、来年になってから行う予定である。
乞うご期待!

2014年10月13日月曜日

フロマージュ・デュ・テロワール(Fromages du Terroir)始動!

10月10日に、保健所の営業許可がおりた。
正式の許可証は、16日におりるので、20日から営業する事にした。
筆者の屋号は、「フロマージュ・デュ・テロワール(Fromages du Terroir)」。
いま、ホームページも製作中である(手間取っている・・・)。

場所は、青梅市になる。
詳しい連絡先は、ホームページとFromages du TerroirのFacebook(これから作る予定)で見ていただきたい。

筆者が目指しているのは、「青梅」というTerroir(テロワール)に根ざした商品である。
そこで、今度作るチーズは、青梅の小澤酒造株式会社のお酒を使った、ウォッシュタイプとフロマージュ・ブランのプレーン。
しかし、筆者のうちの近所に「ベリーコテージ」という、ブルーベリー、ラズベリー等を作っている農園がある事に気がついた。

ベリーコテージ。ジャムやケーキ、ジュースも扱っている。
これからキウイフルーツの摘み取りがあるそうだ。
季節外れだけれど、フランボアーズ発見!

そこでお話を伺ったら、ドライブルーベリーを作っていると言うので、それを使ったチーズデザートも作る事にした。
ただ、ドライブルーベリーは量が少なく、今は季節ではないので、受注生産になる。
来年からは、そこの製品を使ったチーズデザートをオーナーと企画しているところだ。

写真があまり良くないが、ドライブルーベリー入りのチーズデザート。

ドライブルーベリー入りのチーズデザートは、こんな風に販売する。

前回と今回は、筆者の私事を書いてしまったので、このブログの本質から外れてしまって、申し訳ない。
工房見学を希望している方もいらっしゃるようなので、Port Ouverte、一般公開も考えているのだが、今のところ日時は未定である。
11月のどこかの土曜日かな、とは思っているが・・・

また、チーズ講習は、来年からと考えている。
今年は、ちと無理である・・・
テキスト作りや、パワーポイントも必要だしね。
もちろん、実習もあり。
どんな風にしようか、何のチーズにしようか、楽しんで悩んでいる。

また、次回から、チーズのことについて、追っていく。
カゼインとミネラルまで、なんとか書いてきたので、次回は la protéine sérique(ホエー蛋白)にしようか。

2014年10月4日土曜日

もう少ししたら、チーズを作り始めます!

先週は、もうホントに、バッタバタだった。
29日に、キューヴの搬入、酪農組合との打ち合わせ。
その後は、工房に搬入される機材の受け取りで、工房と自宅を行ったり来たり。
頭の中がそっちでいっぱいで、とてもブログを書ける状態ではなかった。

特に、今綴っているのが小難しい事なので、確認作業をしないと、とても公開できないシロモノ。
いま、フランス語を読むと、頭が爆発しそうで、ちょっと避けてましたな。

ということで。

工房の中を少し紹介。

まず、キューヴ。
やっと来ました、というところ。
静岡にある、大生機設という会社にお願いして、作ってもらった。
100Lまで処理でき、二重構造で、 温水による殺菌も出来る。

100L入ります。無理すれば、110L。

最初は、ラクティック・ドミノンのチーズ生産なので、トロンシュ・カイエ(le tanche caillé:カードナイフ)はつけていない。
いずれ、PPNCも作りたいので、手に入れるつもりだが、まだ早い。

シャリィヨー。熟成庫に置いてある。

次に、シャリィヨー(le chariot)。
この棚みたいな部分に、グリーユ(la grille)という、金網をおさめる。
日本だと、足付きの金網を使う人が多いようで、それだと割とすぐ手に入るようだ。
筆者は、フランスでこのタイプを使っていたので、輸入してもらった。
輸入してくれたのは、小野化工。

下に、キャスターがついているので、移動がらくだし、グリーユを追加すれば、結構な量のチーズを処理できる。
ちなみに、シャリィヨーがあるのは、熟成庫。
これは、内装屋さんが知恵を絞ってくれて、中の壁は、キッチンパネルを貼った。

水滴がついても、すぐに拭けるし、カビも生えにくい。
チーズ工房の内装なんぞ初めてなのに、いろいろアイデアを出してくれた。
施行は、宮坂総合設備。
本当に、お世話になりました(もう少し、追加でお世話になります・・・)。

次は、作業台。
日本だと、カードパレットと言うみたいだが、ここで型詰め等をする。
乳清の排出が出来る作業台が見つからなかったので、これも特注品。
製作は、キューヴと同じ、大生機設。

上にごちゃごちゃ物が乗っているが(キューヴ用の部品)、ここで型入れする。

そのほかは、割愛する。
大きな物は、このくらい。
あ、それから、工房の中は、外から見えるようにした。
明かり取りのためと、ちょっと覗けた方が面白かろうと、はめ殺しの窓がついている。

工房の中から、外が見える。逆もまた真なり・・・

まだまだ細かい物の取り付けがすんでいない。
看板も、まだ無い・・・

2014年9月28日日曜日

チーズの製造方法:基本編 乳中のミネラルとカゼインミセルの関係

前回は、カゼインミセルの話だったが、カゼインミセルとミネラルは、密接な関係にある。
前々回の、乳成分のところで、ミネラルのところに、「構造に組み込まれたもの」、「構造に組み込まれないもの」と書いたが、構造に組み込まれる物は、Ca、P、Mgである。

Ca(カルシウム)、P(リン)、Mg(マグネシウム)は、カゼインミセルを形成するのに、重要な役割を果たす。
特に、CaとPは、リン酸カルシウムとなり、カゼインを繋ぎ、立体的構造を作る「橋」の役割を果たす。

Ca、P、Mgは、それぞれイオンの状態になって水層にも存在するが、特徴的なのは、「コロイド状リン酸カルシウム」となって、カゼインミセル形成に関与している事である。
そして、チーズを作る時には、この「コロイド状リン酸カルシウム」が、重要なのである。

図-1:酸性ジェルの形成

上の図-1を見ていただこう。
酸性ジェルの形成の様子を現した図である。

pH6,6からpH5,4までは、ミセルは均等に水層中にあり、安定しているが、pHが下がるにつれて、少しずつコロイド状リン酸カルシウムが溶けて、カルシウムがカルシウムイオンとなり、水層に溶け出していく。
また、カゼインが溶解していくので、ミセル同士の反発力も低下し、次第に近寄っていくと考えられる。

しかし、ここまでは、ある程度可逆性があり、元の状態に完全に戻るわけではないが、ミセルの再構築がおこる。

pH5,4〜5,2は、ミセルが徐々に分解して、球形を保てなくなっていく段階。
pH5,2〜5,0は、ミセルの不均一化がおこる。
そして、ミセルはほぐれ、反発力を失って、堆積していくのである。

pH5,0以下は、既に酸性のジェル状態になっている。
すなわち、ヨーグルト。
この状態では、カゼインミセルは崩壊して堆積しているだけで、網目構造は無い。
水気を絞ってしまうと、ぼそぼそした食感のもろい生地が出来る。

このタイプは、東洋型のチーズと言われる物で、丸めて天日干しして保存食にする。

次の図は、「酵素凝固ジェル」。

図-2:酵素凝固ジェル

図-2を見ていただきたい。

まず、カゼインミセルにキモシンが作用すると、加水分解がおこり、CMPがミセルを離れて水層に取り込まれる。

毛状のCMPが離れる事によって、帯電がなくなり、ミセルは互いに近寄って、凝集する。
そして、カルシウムをジョイントとして、網目状の組織を作るのである。

このように、酸性のジェルと酵素凝固性ジェルは、かなり成り立ちも状態も違う。
しかし、チーズは、乳酸菌によって、pH調整をし、凝乳酵素を使う事でカイエを作っているわけだから、両方が絡み合って、複雑な組織を作っている事になる。

また、カルシウムとリンが組織を作る上で重要な役割を果たすのだが、pHだけでなく、温度も重要な要素である。
実は、温度を上げると、カルシウムがコロイドから溶け出してしまうのだ。
だから、殺菌乳でチーズを作る場合、CaCl2を加えて、Caを補充するのである。

筆者がチーズ種を作るために、絞り立ての牛乳を分けてもらった時に、少し多めだったので、無殺菌乳のチーズを作ってみた事がある。
全然違う。
よく固まりますな。

市販の殺菌乳は、時間が経っている上に(多分3日くらい)、温度管理が怪しいので、いつも柔らかすぎるカイエになる。
しかも、ホモジナイズドされているから、歩留まりはいいが、やわやわのカイエで乳清の抜けが悪い。
でも、絞り立ての牛乳で作ると、固いカイエになって、乳清の抜けもよい。

フランスの農家で作っている時は、状態の良い原乳を使っているわけだから、うまくできるよな〜、などと、少しいじけていたが、ようやくよい原乳が手に入りそうである。
10月6日と思っていたが、届かない資材があるので、10日に開業予定。

明日、キューヴが届く。
楽しみである。

2014年9月17日水曜日

チーズの製造方法:基本編 ミセル・ド・カゼイン(la micelle de caséine)

前回、カゼインには、4種類ある事を説明した。
では、カゼインは、どのように、乳中に存在しているのだろうか?

カゼインは、ミセル・ド・カゼイン(英語だとカゼインミセル)という塊の状態で、乳中に浮かんでいるとされている。
カゼインは、乳中の蛋白質の中で、チーズ製造に関わる最重要成分であるが、いまだにその構造がよく解っていない、へんてこな物質でもある。

カゼインの構造は、サブミセルからなっているという説が有力のようだが、電子顕微鏡の写真では、よく判らない。

カゼインミセルの電子顕微鏡写真。
(Dalgleish, D.G., P.Spagnuolo and H.D.Goff. 2004)

いくつかのカゼインミセルのモデルを見つけたので、載せておこう。

図-1:サブミセルがはっきりしたモデルともやもやしたモデルがある。

筆者の持っている資料では、図-2のモデルが載っているのだが、フランスで習ったのは、図-3のモデルである。
そのモデルにそって、カゼインミセルとは何ぞや、と考えてみよう。

図-2:フランス語の下に、日本語を入れておいた。リン酸カルシウムでミセルがつながっている。


図-3:筆者が習ったのは、このモデル。(Holt et Al 2003)

上のモデルが、Holt et Alの考えたカゼインミセルのモデルである。
もやもやしているのは、蛋白質の連なり。
そして、真ん中の部分がα-カゼイン、その外側がβ-カゼイン、一番外側がκ-カゼインであり、ひげ根のような蛋白質を生やしている。

ここでは、一番特徴のあるκ-カゼインを説明しよう。

κ-カゼインは、1〜169まで番号をつけたアミノ酸のつながりだが、主に二つの部分からできている。
1〜105までのアミノ酸のつながり部分と、106〜169のアミノ酸のつながり部分である。
この二つの部分がどのように違うかと言うと、106〜169までは、糖を含んで親水性だが、1〜105までは、疎水性なのだ。

ちなみに、α-カゼインもβ-カゼインも疎水性である。
だから、「疎水性と親水性の部分を持っている」事が、κ-カゼインの大きな特徴なのだ。

カゼインミセルがなぜ乳中に浮かんでいるかと言うと、一番外側に位置するκ-カゼインの親水性部分、ミセルの帯電、κ-カゼインの特殊な構造(毛状の蛋白質)のせいである。

ミセルは、-18mVに帯電しているので、その反発力によってくっつくのを免れている。
また、κ-カゼインの105〜169部分は親水性であるが、ミセルの真ん中にあるα-カゼイン、β-カゼインとκ-カゼインの1〜105の部分は、前述の通り、疎水性。

すなわち、疎水性の中心部を親水性の部分が包み込んで水に親和し、帯電してくっつくのを防ぎ、ひげ根のようなものを生やしているせいで、プカプカ(?)浮かんでいる、というわけである。

そうやって浮かんでいるカゼインミセルの大事な毛状の部分を切ってしまうのが、キモシン(la chymosine)。

キモシンがκ-カゼインの105のフェニルアラニン(Phenylalanine)と106のメチオニン(Méthionine)の間を切断すると、1〜105は、パラカゼインκになって、他のカゼインに取り込まれ、106〜169の部分はカゼイノマクロペプチド(le caséinomacropeptide:図-2のCMP)となって、水中に放出される。

帯電が喪失すると反発力がなくなる。
疎水性の部分がむき出しになると、水を避けて、寄り集まる。
だから、ミセル同士の結着がおこる。
また、ひげ根がなくなるせいで、浮いていられなくなる。
だから、カイエを形成するのである。

筆者の恩師は、キモシンじゃなくても、105-106の間は切れる、と言っていた。
切れりゃいいってモンじゃない、とも言ってましたな。
また、カゼインの構造を考える時、重要なのはミネラルである。
図-2にある、リン酸カルシウムが、ミセルの構造にとって、大事な役割を果たす。

次回は、ミネラルの話にしましょうか。

2014年9月10日水曜日

チーズの製造方法:基本編 乳中の蛋白質

アーカイブで、以前、乳成分について触れたが、改めて、乳成分についてお話ししよう。
まず、乳中には、なにがあるか?
下の図-1を見てもらうとわかるように、
  • 水分
  • 脂肪
  • 糖分(乳糖)
  • 窒素化合物
  • ミネラル分
である。

図1:乳成分(g/Kg)

今回の主題である、蛋白質は、窒素化合物の中に入る。
え?蛋白質だけじゃないの、とおっしゃる方もいるだろうが、動物の分泌物である。
そんなに単純じゃないのだ。

窒素化合物には、蛋白質と、非蛋白質がある。
窒素化合物非蛋白質の大部分は、尿素。
そのほか、アミノ酸(アミノ酸は、蛋白質ではない)、ペプチド(ペプチドも、蛋白質ではない)、クレアチニン、アンモニアなどがある。

フランスの学校では、このMAPを計測して、実習時の数値としていた。
今のところ、資料が無いので、どの程度、チーズに関与しているのかは、わからない。
老廃物と見なす事もあるようだ。
しかし、乳中には、カゼインだけでなく、色々な窒素化合物がある事を知ってほしい。

次に、チーズ作りに重要な、カゼインである。

カゼインには、
  • カゼインαS(αS-1とαS-2がある)
  • カゼインβ
  • カゼインκ
  • カゼインγ
の4種類がある。
このうち、カゼインγは、カゼインβの分解物なので、あまり気にしなくていいが、他の3種類は、チーズにとって、重要である。

まず、カゼインαS(アルファ エス)。

下の表-1を見てもらうとわかるように、牛乳では、カゼイン合計のうち、46%を占めている。羊乳も多く、47%。しかし、表-2を見てもらうとわかるように、山羊乳は、27%にすぎない。
表-1:動物の種類別による乳中蛋白質の内訳(下記のリンク中の表を日本語にしたもの)
http://www.fouillez-tout.com/bergerie/bergerie_analyse_lait.html

表-2:牛乳、山羊乳、羊乳中の蛋白質の内訳と、カゼインミセルの大きさ
(参照:「Le fromage:第3版」P35 Tableau 8 Caractéristiques micellaires comparées des laits de vache, de chèvre et de brebis.より抜粋)

これが何を意味するのかと言うと、山羊乳では、大きいチーズが作れないという事である。

なぜかと言うと、チーズの骨格である、「網目構造」を作るのは、カゼインαSだからである。そのカゼインαSが少ないのだから、しっかりした骨格が出来ないのだ。
だから、山羊乳では、PPCはほぼ無理である。
混乳なら、可能だが。

羊乳だと、PPCの製造は可能だが、脂肪分が邪魔をするので、長期熟成には向かない。
牛乳でも、長期熟成するコンテ(le comté)やパルミジャーノ・レッジャーノ(il parmigiano reggiano)は、エクレメ(écrémé:脱脂)して、脂肪分を減らしている。

次に、カゼインβ(ベータ)である。

αSが骨格を作るのなら、βは何をするのかと言うと、香味(la flaveur)を作る。
だから、βの多い山羊乳は、必然的に風味が強くなる。
山羊乳の場合、脂肪の分解物等も独特の匂い形成に関係するが、それは、脂肪分のところで説明しよう。

筆者が表-1で面白いと思ったのは、水牛乳である。
脂肪分が多いのは知っていたが、カゼインβが多いのは知らなかった。
という事は、水牛乳で、PPCを作るのは、難しいという事になる。

また、モッツァレラ。
水牛乳のモッツァレラは、牛乳のモッツァレラには無い、独特の柔らかさがある。
これは、カゼインβのせいではないかと推測する。
カイエの骨格が、きちんと出来ないのではないだろうか。
脂肪分だけの問題なら、ジャージー乳でも、同じ食感のものが出来るはずだ。

厳密に言うと、牛は牛属、水牛はアジア水牛属になり、乳成分の比率が違っていても、不思議は無い。

お次ぎは、カゼインκ(カッパ)。

このカゼインは、有名である。
何しろ、凝乳酵素によって、劇的な変化をし、カイエを作るのに、重要な役目をするからである。
κは、面白い事に、山羊乳に多い。

と、ここまで書いてきて、気がついた。
カゼインの構造を説明した方がいい。
ただ、カゼインの構造は、まだ完全に明らかになっているわけではないので、わかる範囲内で書いていこうと思う。

カイエがどのように出来ていくのかも、説明したいので、次回に書く事にしよう。

2014年9月4日木曜日

チーズ製造方法:基本編 乳成分

フランス時代、伝統的チーズ製造の講座にいたころ、"nouveau fromage"という題材のレポートを書いた事がある。
筆者は、全く新しい、今まで無かったようなチーズを作るというレポートを書くのだと思ったが、チームメートは、違った。

「新しいチーズ」という意味は、その工房で、どんなチーズを新しい商品として開発するかという事だったのだ。
筆者のチームメートは、まず、その工房でのキャパシテ、すなわち許容量を考えた。
どうして新しいチーズが必要になったのか、から始まるのである。

筆者の試作品。塩付けの後。ホモ牛乳なので、真っ白できれい!
このチーズは、赤くなるのが遅いのに、柔らかくなるのが早かったので、
筆者と家族のおなかの中へ・・・ワインがすすむ・・・

乳量が増える、作っているものの販売が芳しくない、など、色々な理由を考えて、どんなチーズを商品として加えたらいいのかというところから始まり、原乳の量から、どの程度の大きさのチーズが作れるか、また、個数は?と考えていく。
もちろん、工房の規模、新しい設備投資がどのくらいできるのか、でも変わってくる。

すごく面白い題材だった。

今、このレポートが役に立っている。
どのようなチーズを、どうして、どのような規模で、何を利用して作っていくのか。
筆者の工房に役立つような、課題だった。
そして、その時に考えたように、チーズを作っていこうと考えている。

筆者はどちらかと言うと、山羊専門で、山羊乳の事には詳しい。
何しろ、レポートを書く時、いやというほど調べたからだ。
しかし、いま、日本で作ろうとしているのは、牛乳のチーズだ。
基本は知っているけれど、使いこなすには、これから調べなきゃなるまいと、いろいろ調べてみた。

そこで、「乳成分」である。
まず始めに、チーズが出来る乳か、出来ない乳か、から参ろう。

乳は、大きく二つに分けられる。
Lait albumineux(レ・アルブミノー)とlait caséineux(レ・カゼイノー)である。

以下の表は、参考程度にしていただきたい。
何故なら、牛、山羊、羊の乳の成分比率は、地域や品種によって、変わるからである。

1リットルあたりの乳成分。下記のサイトの表を日本語訳したもの。
http://www.ledomainedetamara.fr/?page_id=133

この表を見てみると、人、馬科の動物は、蛋白質自体が少なく、炭水化物、すなわち、乳糖が多い。これは、脳との関係だろう。
反芻動物と、その他の動物を比べてみると、蛋白質の合計は、トナカイを除けば、その他の動物の方が多い(豚を除く)。
しかし、その他の動物では、カゼインも多いが、アルブミンも多い。

比率から見ると、反芻動物は、カゼイン/蛋白質合計が、78%以上だが、その他の動物は、ウサギを除いて50%以下である。
乳蛋白中、カゼインの比率の多い乳をカゼイノー、カゼインとアルブミンの分量が近いものをアルブミノーと言うのである。

アルブミノーの乳は、アルブミンがカゼインの周りに位置するので、もやっとしたコロイド状にはなるが、固まる事が出来ない。
だから、チーズにはならないのである。
ウサギは面白い事にカゼイノーなのだが、乳量の問題で、チーズ作りには向かない。
巨大なウサギでもいれば、可能だが・・・

また、人乳はアルブミノーなので、幼児は牛乳をうまく消化できないそうだ。
カゼインを消化するのがへたくそなのだろう。
筆者は、子供の頃から牛乳でおなかをこわした事が無いので、よく解らないが・・・

乳のpHは、「Initiation à la technologie fromagère」によると、6,6〜6,8となっている。
これは、カゼイノーのpHであるが、アルブミノーの乳のpHは、もっと高く、中性に近いという事だ。
ただ、pHが低いカゼイノー乳は、チーズを作る時に厄介だ。
pH6,6だと、作れるチーズが限定される。特に、殺菌乳の場合は。
この事は、いずれ、製造について書く時に、書こうと思う。

資料には載っていないが、モンゴルなどでは、ヤクの乳を使って、チーズを作っているそうだから、他の反芻動物でもチーズ製造は、可能だろう。
ただ、トナカイなど、北の方にいる動物の乳は、脂肪分が多いので、チーズを作るのは少し難しくなりそうだ。
あらかじめ、エクレメ(écrémé:脱脂)をしなければ、脱水がうまくいかないだろう。

また、ラクダ乳を使って、工場でチーズを作る試みがあると聞いたが、蛋白質を加えないと難しいとも聞いた。
ラクダ乳の資料が無いので、カゼイノーかアルブミノーかわからないが、固まりにくいらしいので、アルブミノーだろうと推測する。

乳が出れば、何でもチーズになるのではなく、分析すると、こんな風なのである。
羊、山羊が家畜化されたのが、紀元前8000年ごろ、牛は、紀元前6000年頃。
先人たちの知恵の結晶とも言える、食品だ。

次回は、乳成分を細かく見ていこう。
まず始めは、乳蛋白から。