2015年1月4日日曜日

2015年の始まり:工房、フロマージュ・ドーメ(Fromage d'Omé)とチーズ塾

あけましておめでとうございます。
本年も、チーズ A to Z をよろしくお願いいたします。

ドーメからもおめでとう!

さて、2015年が始まった。
工房を稼働させてから、3ヶ月目に入り、なんとかうまく回っているようだ。
そこで、2014年を少し振り返ってみると、こんな感じである。

11月中は、カイエとの格闘。
試作品を作っていた時使用したのは、市販のホモタイプの低温殺菌牛乳だった。
タンクローリーで運んでもらう無殺菌の搾りたて牛乳を原料にすると、試作品でうまくいったことが通用しない。
差が大きすぎるのだ。

まず、pHが違う。
市販の牛乳は、絞ってから時間が経っているし、流通時の管理もわからない。
ローリーで運んでくる牛乳は、pHが高いが、市販の牛乳はやや低い。
だから、逆に少し戸惑った感がある。

次に、ノンホモなので、écrémé(脱脂)しないと、MGが高くなりすぎる。
市販の牛乳は、ホモ化してあるので、そのまま使うしかないが、工房で使っている牛乳は、脱脂することができる。
一番初めに脱脂しないで作ってみたが、やはりFromage blancの口当たりが良くない。
現在は、少し脱脂することで落ち着いている。

型の中で反転。

培養したLevain(チーズ種)も全然違う。
試作品の時は、低温殺菌牛乳になるべくフレッシュに近いチーズを混ぜて作っていたのだが、無殺菌の原乳を培養して作るものは、においも違うし、状態も違う。
活動状態もやや違っていたが、やっと落ち着いてきた。

違うことだらけの中で、なんとかうまくカイエを作れるようになったのが、11月末くらい。現在は、なんとか、いつも同じようなカイエができるようになった。

カイエのpHがいいと、こんな風に、ひび割れができる。

カイエにかかりきりになったせいで、11月末から苦労したのが、熟成。
Geoが生えると、あっという間にドロドロになってしまうことが多かった。
これは、試作品の時もあったのだが、なんとも悲しい。
せっかくうまくいきそうで、期待していると、翌日にはドロドロ・・・
なんてことがあり、試作品を作っていた時の方法を考え直してみた。

筆者の工房には、乳酸菌が住みつき始めたらしいが、筆者に似て、過激。
おそらく morge の中にいる熟成菌も強いのだろう。
試作品の時は、においもあまり強くなかったのだが、今の morge は、かなりにおう。
味噌のような風味も、工房のドーメの方が強い。

熟成庫。左はmorgeしていないもの。

morgeしたドーメ。

アップ!

試作品の時は、かなり頻繁に拭いていたが、これを少し変更。
また、morgeで拭くときに、試作品の時は刷毛を使っていたが、工房では手袋をした手で、文字通り、洗っていた。
それを刷毛に戻した。

湿度や温度も、考え直してみた。
チーズの量、熟成庫の広さも考え直した。
ドーメというチーズを、どんなチーズにしたいのかも、考え直した。

やっと、今、うまく回り出したところで、ホッとしている。

しかし、ドーメというチーズは、筆者そっくりである。
  • 個性的。変わり者。
チーズのくせに、味噌みたいな風味を持っていて、この間、柿の種と一緒に食べたら美味しかった・・・
  • 納得がいかないと、いうことを聞かない。
熟成方法がまずいと、すぐドロドロになったりする。
悔しい・・・

しかし、日本のチーズ、という感じになってきて、嬉しい。
日本酒には、ぴったり。
ワインだと、白のほうがいいかもしれない。
クラッカーより、お煎餅のほうが合うことも発見したから、今度はこれで日本酒かな。

Fromage d'Omé。真ん中が少しハゲている・・・

切ったところ。この子は、バランスが良く、美味しかった。

チーズ塾は、このドーメの作り方をベースにした講座である。
1月28日(木)の13:30から、2月1日(日)の11:30までとなっている。
5日間にしたのは、ラクティック・ドミノン( lactique dominant)の製法は、時間がかかるからだ。

概要を載せておこうか。

1月28日(水)     13:30~16:00 講義
·          乳成分について
·          凝固の違い
·          チーズの種(Levain)について
              
                                16:00~17:00 
·          ラクティック・ドミノンチーズの試食会

1月29日(木)     9:00~11:00  実習
·          凝乳酵素の投入(解説)

                                13:00~17:00 講義
·          ラクティック・ドミノン製法のダイヤグラムの説明
·          いろいろなラクティック・ドミノンチーズ

1月30日(金)     9:00~11:30 実習
·          ルーシュを使った型入れ
(フロマージュ・ブランとサン・マルスランタイプを作ります)

                                13:00~17:00 講義
·          ラクティック・ドミノン製法とその他の製法
·          反転(実習)

1月31日(土)     9:00~11:30 実習
·          型だし、塩つけ

                                13:00〜17:00 講義
·          塩の役割
·          熟成
·          反転(実習)
2月1日(日)         9:00〜11:30

·          試食会


費用は、テキスト代、材料費込みで、5日間で¥48600である。
申し込みは、Facebookのチーズ A to Z、フロマージュ・デュ・テロワールの問い合わせメール(http://www.fromagesduterroir.jp)、あるいは、電話でどうぞ。
気軽に問い合わせてくださって、結構である。

なんだか、宣伝になってしまったが、筆者は、多くの人にチーズを知ってもらいたいと思っている。また、チーズを作りたいという人の力になりたいと思っている。
今回は、第一回目。
二回目は、チーズ講座にする予定だ。
三回目は、またチーズ作り講座かな〜

2014年12月10日水曜日

チーズの製造方法:基本編 乳清たんぱく(Protéines solubles)

乳成分を分類するとき、乳たんぱくは、窒素化合物の範疇に入る。
窒素化合物のことを、MAT(Matières Azotées Totales)といい、その中には、蛋白質以外の窒素化合物も入っている。
蛋白質は、以前話したように、MAP(Matières Azotées Protéiques)という。

タンパク質以外の窒素化合物の主なものは、尿素。
約50%を占めている。
しかし、このタンパク質以外の窒素化合物(NPN:Non Protein Nitrogene 英語、MAnP:Matières Azotées non Protéiques フランス語)は、あまりチーズの製造には関係ないので、省く。

さて、乳たんぱくは、カゼインと乳清たんぱくに分けることができる。
カゼインの話はすでにしたので、今回の主題は、乳清たんぱく。

まず、乳清たんぱくとカゼインの違いは、というと、表1をご覧いただきたい。

表1:カゼインと乳清たんぱくの違い

大雑把に言うと、動物の血液に由来する(全てではないが)純粋蛋白質であり、熱に弱く、タンパク質分解酵素で分解できない蛋白質ということになる。
そして、水溶性なので、チーズを作るときには、乳清と一緒にカイエから出て行ってしまう。

では、その実態は?

表2を見ていただこう。

表2

前々回(だったかな?)に載せた表だが、乳清たんぱくのこともよくわかるので、再度掲載。ただ、訂正が2つ。
乳清たんぱくの部分で、牛のβ-ラクトグロブリンとα-ラクトアルブミンの比率が間違っていたので、訂正しておく。また、水溶性アルブミンを血清アルブミンと直すことにする。

まず、β-ラクトグロブリン。

乳清たんぱくの中の大部分を占める。
だいたい50%ほど。
一番の特徴は、人乳には含まれないということである。
ということは、アレルギー源になりやすいということだ。

また、熱変化に弱く、75℃で、熱変性をする。
筆者の持っている資料では、78℃でほぼ100%変質してしまう。

変質するとどうなるか?
まず、粘度を増す。
だから、超高温殺菌(UHT)の牛乳は、舌にねばり付く感覚がある。
そして、チーズ製造にとって困るのは、熱変性すると、β-Lg-CN-κ(β-ラクトグロブリンとカゼインκの複合物)を作り、凝固を妨げるのである。
その結果、凝固が遅れたり、水切れが悪くなったりするのだ。

殺菌乳製のチーズを作るとき、筆者は63℃30分殺菌(低温殺菌:LTLT:Low Temperature Long Time pasteurization)にしているが、チーズによっては、72℃15秒(高温殺菌:HTST:High Temperature Short Time methode sterilization)のこともある。
β-ラクトグロブリンのことを考えたら、63℃30分のほうがいいと思う。
いま、これを書いていて気がついたが、pasteurisationは、「殺菌」だが、stérilisationは、殺菌というより、むしろ「滅菌」とか「消毒」という意味になる。
日本語は、曖昧なものだ。

次に、α-ラクトアルブミン。

人乳では、この乳清たんぱくがほとんどを占めるが、反芻動物では、約20%である。
カルシウムイオンを含んでいるため、熱には割に強く、95℃くらいまで平気である。

血清アルブミン。

反芻動物では、乳清たんぱくの約5%を占める。
血液中で、脂肪酸を運ぶ役目をするとも言われている。

免疫グロブリン。

これは、免疫に関与するタンパク質で、約11%を占める。
初乳では、量が増える。

表にはないが、ラクトフェリンも入っている。
ラクトフェリンは、抗菌活性を持つことで知られているが、免疫グロブリンと同様、初乳の中に多くなる。

最後に、プロテオーズ-ペプトン。

蛋白質といっても良いのだが、プロテアーズで分解されたペプチドでもある。
特徴は、pH4,6で沈殿しないことと、熱変性しにくいこと。
カゼインは、pH4,6で沈殿し、他の乳清たんぱくは、熱変性しやすいのだから、少し変わり種である。

以上のように、いろいろな蛋白質が乳清とともにチーズから出て行ってしまうのだが、これを利用する研究もいろいろあるようだ。


面白い図を見つけたので、日本語にしてみた(図1)。

図1:乳製品製造図
全乳からチーズへの道と、クリームへの道である。

脱脂乳、乳清ともに、水溶性タンパク質と乳糖が入っているのがわかる。
脱脂乳は、そのまま粉乳などにして利用され、乳清はリコッタやブロッチュ、ブルースなどのホエーチーズを作るのに使われてきた。
現在は、技術が発達して、乳清たんぱくをウルトラフィルトラシオンで分離して使うことができるようになり、いろいろな用途で使われているようだ。

スイスの文献で読んだのだが、チーズ製造時に、水溶性蛋白質を添加することもあるそうだ。
ラクレットに乳清蛋白質を加えることによって、食感を柔らかくし、弾力性を持たせる、という文献だったが、溶け具合も向上するらしい。
また、フロマージュ・ブランは、殺菌温度を90℃まで上げて、水溶性タンパク質を変性させ、歩留まりを多くすることは、よく行われている。
また何か、文献を見つけたら、紹介しよう。

乳清というのは、利用価値があるのに、なかなか使い方が厄介だ。

乳清には、sérum doux(セロム・ドゥー)とsérum acide(セロム・アシッド)という、2種類がある。sérum douxはPMのミックスやPPから出るもので、sérum acideは、PMのラクティック・ドミノンから出てくるものである。

ドゥーは、ブルースなど、ホエーチーズにできるし、乳清飲料にもできるのだが、アシッドの方は、難しい。
筆者もブルースができないものかと乳清を煮てみたが、蛋白質のふわふわは浮いてこなかった。
今、何に利用できるのか、文献を探しているところだが、まだ見つかっていない。

一方、工房では、11月の半ば頃まで、カイエと格闘していたが、現在は、チーズの熟成に取り組んでいる。
MOFの ル ムニエ氏が言っていた言葉を思い出す。

「私がチーズを熟成させているのではなく、チーズが熟成するのだ。」

うちのは、なかなかやんちゃな息子どもである。
ま、いいか。

次回は、乳脂肪と乳糖について書こう。
なかなか時間が取れなくて、11月は、一回しか書いてない!
週一、せめて二週に一回書きたい・・・

2014年11月16日日曜日

チーズ工房の只中で

工房を開設してから、3週間たった。
なんと、前回のブログから、ゆうに1ヶ月経ってしまっている。
読んでくださっている方々も、いったいどうなっているの?と思ってらっしゃる(?)と考えて、再度工房がテーマである。

乳清タンパクは、次回、必ず書くことにする。
(大丈夫かな???)

初めの1週間は、機械と乳酸菌との格闘。
フランスで作っていたのとほぼ同じ製造方法だが、原乳が違い、1日の配乳回数が違い、殺菌工程が入るという差。
一応試作品製造の段階で、原乳の差(牛とヤギ)はわかっていたので、あとは、東京の牛乳がどんなものかで対応すれば良いと考えたのだが・・・

殺菌で手こずった。

やったことがなく、機械も初めて使うとなると、試行錯誤もいいとこである。
1回目は、かなり時間がかかったが、なんとかいい状態のカイエができた。
しかし、その後が問題だったのである。

記念すべき第1作目。カイエの状態もよし、だったのに・・・
左側の袋が、水切り用の袋。

フロマージュ・ブロンを作るのに、専用の袋があるのだが、これに何かの臭いが付いていて、せっかく作ったF.Bについてしまったのである。
化学物質的な臭いで、F.B全滅。結局廃棄・・・
幸い、フロマージュ・ドーメは無事。

無事でした。

2回目の商品は、カイエの状態に納得がいかない。
乳酸菌の状態が良くなかったのか?
できた商品は、満足しないが、まずまず。
(現在熟成中だが、思ったより状態が良い。うまくいきそうだ)

3回目が悲劇。
乳酸菌投入後、pHが下がりすぎ、一応凝乳酵素を入れてみたが、全滅。
これには、泣きましたね。
原因は、殺菌の後に牛乳をよく冷やさなかったから。
乳酸菌が増えすぎて、pHが下がりすぎたせいだ。

幸い、大生機設のおかげで改良ができて、うまく冷えるようになった。
そのあとは、うまくいっている。
現在は、なんとか時間割ができ、自由になる時間も取れそうだ。

筆者のチーズは、lactique dominant(ラクティック・ドミノン:乳酸菌優位法)なので、pHを下げるのに時間がかかる。
Brie de Melunは乳酸発酵に18時間かけるが、筆者のチーズも同じように18〜20時間必要だ。このところ、朝工房に行くと、室温が14℃なので、どうすればいいのか、考え中。(青梅は寒い!)
エアコンで室温を18℃まで上げることは可能だが、pHが下がりすぎると怖いので、できない。3回目の失敗は、そのせいだからだ。
下がらない場合は、時間がかかるが、少し温めて下げるようにしている。

乳酸菌は、こちらの思うように働かないのである。
しかし、乳酸菌の言葉が少しずつ聞こえるようになってきた(ような気がする)。

自然に、Geoが生えてきた。
まだpHが上がりきっていない。リネンスがくるまで時間がかかりそう。

原乳である、東京の牛乳は、素晴らしい。
脂肪分が高すぎるきらいはあるが、チーズを作るのに、まったく遜色がない。
筆者は、少しécrémé(エクレメ:脱脂)している。
というのは、そのままだと、熟成に影響が出るし、味がくどくなる。
1回目に作ったF.Bは、脂肪のざらつき感があったが、écréméしてから口当たりが良くなった。

フロマージュ・ブラン 500gと150g。
両方ともナチュール(プレーン)。カンパーニュタイプなので、つぶつぶがある。

熟成庫の容量があまり無いので、ちょっと頭がいたい。
11月7日、8日と、来日していたMOFのロドルフ・ル ムニエ氏の通訳の仕事が入り、その週は製造を1回にして調整したのだが、うまくいかない。
少し違うタイプも作ってみようとして、熟成庫がいっぱいになりつつあるのも事実。
なんとかするしかない。

ここで、一つお知らせ。

見学希望の方へ。
Porte Ouverteという、一般公開を考えていたのだが、毎日何かしら作業があるので、無理そうである。そこで、工房のチーズ販売時間である、水、金、日の午後1時〜5時なら、予約していただければ、見学できるようにしたい。
(申し訳ないが、食品製造なので、お子様は不可)
予約は、このブログでも、Facebookページのメッセージでも、HPのメッセージでも構わない。工房に電話でもいい。

表札。

何人かの方から問い合わせがあったが、こちらが忙しくてご希望に添えなかった。
なんとか、作業の時間割ができたので、見学解禁である。
また、製造の講習は、来年になってから行う予定である。
乞うご期待!

2014年10月13日月曜日

フロマージュ・デュ・テロワール(Fromages du Terroir)始動!

10月10日に、保健所の営業許可がおりた。
正式の許可証は、16日におりるので、20日から営業する事にした。
筆者の屋号は、「フロマージュ・デュ・テロワール(Fromages du Terroir)」。
いま、ホームページも製作中である(手間取っている・・・)。

場所は、青梅市になる。
詳しい連絡先は、ホームページとFromages du TerroirのFacebook(これから作る予定)で見ていただきたい。

筆者が目指しているのは、「青梅」というTerroir(テロワール)に根ざした商品である。
そこで、今度作るチーズは、青梅の小澤酒造株式会社のお酒を使った、ウォッシュタイプとフロマージュ・ブランのプレーン。
しかし、筆者のうちの近所に「ベリーコテージ」という、ブルーベリー、ラズベリー等を作っている農園がある事に気がついた。

ベリーコテージ。ジャムやケーキ、ジュースも扱っている。
これからキウイフルーツの摘み取りがあるそうだ。
季節外れだけれど、フランボアーズ発見!

そこでお話を伺ったら、ドライブルーベリーを作っていると言うので、それを使ったチーズデザートも作る事にした。
ただ、ドライブルーベリーは量が少なく、今は季節ではないので、受注生産になる。
来年からは、そこの製品を使ったチーズデザートをオーナーと企画しているところだ。

写真があまり良くないが、ドライブルーベリー入りのチーズデザート。

ドライブルーベリー入りのチーズデザートは、こんな風に販売する。

前回と今回は、筆者の私事を書いてしまったので、このブログの本質から外れてしまって、申し訳ない。
工房見学を希望している方もいらっしゃるようなので、Port Ouverte、一般公開も考えているのだが、今のところ日時は未定である。
11月のどこかの土曜日かな、とは思っているが・・・

また、チーズ講習は、来年からと考えている。
今年は、ちと無理である・・・
テキスト作りや、パワーポイントも必要だしね。
もちろん、実習もあり。
どんな風にしようか、何のチーズにしようか、楽しんで悩んでいる。

また、次回から、チーズのことについて、追っていく。
カゼインとミネラルまで、なんとか書いてきたので、次回は la protéine sérique(ホエー蛋白)にしようか。

2014年10月4日土曜日

もう少ししたら、チーズを作り始めます!

先週は、もうホントに、バッタバタだった。
29日に、キューヴの搬入、酪農組合との打ち合わせ。
その後は、工房に搬入される機材の受け取りで、工房と自宅を行ったり来たり。
頭の中がそっちでいっぱいで、とてもブログを書ける状態ではなかった。

特に、今綴っているのが小難しい事なので、確認作業をしないと、とても公開できないシロモノ。
いま、フランス語を読むと、頭が爆発しそうで、ちょっと避けてましたな。

ということで。

工房の中を少し紹介。

まず、キューヴ。
やっと来ました、というところ。
静岡にある、大生機設という会社にお願いして、作ってもらった。
100Lまで処理でき、二重構造で、 温水による殺菌も出来る。

100L入ります。無理すれば、110L。

最初は、ラクティック・ドミノンのチーズ生産なので、トロンシュ・カイエ(le tanche caillé:カードナイフ)はつけていない。
いずれ、PPNCも作りたいので、手に入れるつもりだが、まだ早い。

シャリィヨー。熟成庫に置いてある。

次に、シャリィヨー(le chariot)。
この棚みたいな部分に、グリーユ(la grille)という、金網をおさめる。
日本だと、足付きの金網を使う人が多いようで、それだと割とすぐ手に入るようだ。
筆者は、フランスでこのタイプを使っていたので、輸入してもらった。
輸入してくれたのは、小野化工。

下に、キャスターがついているので、移動がらくだし、グリーユを追加すれば、結構な量のチーズを処理できる。
ちなみに、シャリィヨーがあるのは、熟成庫。
これは、内装屋さんが知恵を絞ってくれて、中の壁は、キッチンパネルを貼った。

水滴がついても、すぐに拭けるし、カビも生えにくい。
チーズ工房の内装なんぞ初めてなのに、いろいろアイデアを出してくれた。
施行は、宮坂総合設備。
本当に、お世話になりました(もう少し、追加でお世話になります・・・)。

次は、作業台。
日本だと、カードパレットと言うみたいだが、ここで型詰め等をする。
乳清の排出が出来る作業台が見つからなかったので、これも特注品。
製作は、キューヴと同じ、大生機設。

上にごちゃごちゃ物が乗っているが(キューヴ用の部品)、ここで型入れする。

そのほかは、割愛する。
大きな物は、このくらい。
あ、それから、工房の中は、外から見えるようにした。
明かり取りのためと、ちょっと覗けた方が面白かろうと、はめ殺しの窓がついている。

工房の中から、外が見える。逆もまた真なり・・・

まだまだ細かい物の取り付けがすんでいない。
看板も、まだ無い・・・

2014年9月28日日曜日

チーズの製造方法:基本編 乳中のミネラルとカゼインミセルの関係

前回は、カゼインミセルの話だったが、カゼインミセルとミネラルは、密接な関係にある。
前々回の、乳成分のところで、ミネラルのところに、「構造に組み込まれたもの」、「構造に組み込まれないもの」と書いたが、構造に組み込まれる物は、Ca、P、Mgである。

Ca(カルシウム)、P(リン)、Mg(マグネシウム)は、カゼインミセルを形成するのに、重要な役割を果たす。
特に、CaとPは、リン酸カルシウムとなり、カゼインを繋ぎ、立体的構造を作る「橋」の役割を果たす。

Ca、P、Mgは、それぞれイオンの状態になって水層にも存在するが、特徴的なのは、「コロイド状リン酸カルシウム」となって、カゼインミセル形成に関与している事である。
そして、チーズを作る時には、この「コロイド状リン酸カルシウム」が、重要なのである。

図-1:酸性ジェルの形成

上の図-1を見ていただこう。
酸性ジェルの形成の様子を現した図である。

pH6,6からpH5,4までは、ミセルは均等に水層中にあり、安定しているが、pHが下がるにつれて、少しずつコロイド状リン酸カルシウムが溶けて、カルシウムがカルシウムイオンとなり、水層に溶け出していく。
また、カゼインが溶解していくので、ミセル同士の反発力も低下し、次第に近寄っていくと考えられる。

しかし、ここまでは、ある程度可逆性があり、元の状態に完全に戻るわけではないが、ミセルの再構築がおこる。

pH5,4〜5,2は、ミセルが徐々に分解して、球形を保てなくなっていく段階。
pH5,2〜5,0は、ミセルの不均一化がおこる。
そして、ミセルはほぐれ、反発力を失って、堆積していくのである。

pH5,0以下は、既に酸性のジェル状態になっている。
すなわち、ヨーグルト。
この状態では、カゼインミセルは崩壊して堆積しているだけで、網目構造は無い。
水気を絞ってしまうと、ぼそぼそした食感のもろい生地が出来る。

このタイプは、東洋型のチーズと言われる物で、丸めて天日干しして保存食にする。

次の図は、「酵素凝固ジェル」。

図-2:酵素凝固ジェル

図-2を見ていただきたい。

まず、カゼインミセルにキモシンが作用すると、加水分解がおこり、CMPがミセルを離れて水層に取り込まれる。

毛状のCMPが離れる事によって、帯電がなくなり、ミセルは互いに近寄って、凝集する。
そして、カルシウムをジョイントとして、網目状の組織を作るのである。

このように、酸性のジェルと酵素凝固性ジェルは、かなり成り立ちも状態も違う。
しかし、チーズは、乳酸菌によって、pH調整をし、凝乳酵素を使う事でカイエを作っているわけだから、両方が絡み合って、複雑な組織を作っている事になる。

また、カルシウムとリンが組織を作る上で重要な役割を果たすのだが、pHだけでなく、温度も重要な要素である。
実は、温度を上げると、カルシウムがコロイドから溶け出してしまうのだ。
だから、殺菌乳でチーズを作る場合、CaCl2を加えて、Caを補充するのである。

筆者がチーズ種を作るために、絞り立ての牛乳を分けてもらった時に、少し多めだったので、無殺菌乳のチーズを作ってみた事がある。
全然違う。
よく固まりますな。

市販の殺菌乳は、時間が経っている上に(多分3日くらい)、温度管理が怪しいので、いつも柔らかすぎるカイエになる。
しかも、ホモジナイズドされているから、歩留まりはいいが、やわやわのカイエで乳清の抜けが悪い。
でも、絞り立ての牛乳で作ると、固いカイエになって、乳清の抜けもよい。

フランスの農家で作っている時は、状態の良い原乳を使っているわけだから、うまくできるよな〜、などと、少しいじけていたが、ようやくよい原乳が手に入りそうである。
10月6日と思っていたが、届かない資材があるので、10日に開業予定。

明日、キューヴが届く。
楽しみである。

2014年9月17日水曜日

チーズの製造方法:基本編 ミセル・ド・カゼイン(la micelle de caséine)

前回、カゼインには、4種類ある事を説明した。
では、カゼインは、どのように、乳中に存在しているのだろうか?

カゼインは、ミセル・ド・カゼイン(英語だとカゼインミセル)という塊の状態で、乳中に浮かんでいるとされている。
カゼインは、乳中の蛋白質の中で、チーズ製造に関わる最重要成分であるが、いまだにその構造がよく解っていない、へんてこな物質でもある。

カゼインの構造は、サブミセルからなっているという説が有力のようだが、電子顕微鏡の写真では、よく判らない。

カゼインミセルの電子顕微鏡写真。
(Dalgleish, D.G., P.Spagnuolo and H.D.Goff. 2004)

いくつかのカゼインミセルのモデルを見つけたので、載せておこう。

図-1:サブミセルがはっきりしたモデルともやもやしたモデルがある。

筆者の持っている資料では、図-2のモデルが載っているのだが、フランスで習ったのは、図-3のモデルである。
そのモデルにそって、カゼインミセルとは何ぞや、と考えてみよう。

図-2:フランス語の下に、日本語を入れておいた。リン酸カルシウムでミセルがつながっている。


図-3:筆者が習ったのは、このモデル。(Holt et Al 2003)

上のモデルが、Holt et Alの考えたカゼインミセルのモデルである。
もやもやしているのは、蛋白質の連なり。
そして、真ん中の部分がα-カゼイン、その外側がβ-カゼイン、一番外側がκ-カゼインであり、ひげ根のような蛋白質を生やしている。

ここでは、一番特徴のあるκ-カゼインを説明しよう。

κ-カゼインは、1〜169まで番号をつけたアミノ酸のつながりだが、主に二つの部分からできている。
1〜105までのアミノ酸のつながり部分と、106〜169のアミノ酸のつながり部分である。
この二つの部分がどのように違うかと言うと、106〜169までは、糖を含んで親水性だが、1〜105までは、疎水性なのだ。

ちなみに、α-カゼインもβ-カゼインも疎水性である。
だから、「疎水性と親水性の部分を持っている」事が、κ-カゼインの大きな特徴なのだ。

カゼインミセルがなぜ乳中に浮かんでいるかと言うと、一番外側に位置するκ-カゼインの親水性部分、ミセルの帯電、κ-カゼインの特殊な構造(毛状の蛋白質)のせいである。

ミセルは、-18mVに帯電しているので、その反発力によってくっつくのを免れている。
また、κ-カゼインの105〜169部分は親水性であるが、ミセルの真ん中にあるα-カゼイン、β-カゼインとκ-カゼインの1〜105の部分は、前述の通り、疎水性。

すなわち、疎水性の中心部を親水性の部分が包み込んで水に親和し、帯電してくっつくのを防ぎ、ひげ根のようなものを生やしているせいで、プカプカ(?)浮かんでいる、というわけである。

そうやって浮かんでいるカゼインミセルの大事な毛状の部分を切ってしまうのが、キモシン(la chymosine)。

キモシンがκ-カゼインの105のフェニルアラニン(Phenylalanine)と106のメチオニン(Méthionine)の間を切断すると、1〜105は、パラカゼインκになって、他のカゼインに取り込まれ、106〜169の部分はカゼイノマクロペプチド(le caséinomacropeptide:図-2のCMP)となって、水中に放出される。

帯電が喪失すると反発力がなくなる。
疎水性の部分がむき出しになると、水を避けて、寄り集まる。
だから、ミセル同士の結着がおこる。
また、ひげ根がなくなるせいで、浮いていられなくなる。
だから、カイエを形成するのである。

筆者の恩師は、キモシンじゃなくても、105-106の間は切れる、と言っていた。
切れりゃいいってモンじゃない、とも言ってましたな。
また、カゼインの構造を考える時、重要なのはミネラルである。
図-2にある、リン酸カルシウムが、ミセルの構造にとって、大事な役割を果たす。

次回は、ミネラルの話にしましょうか。