2014年8月27日水曜日

チーズ製造方法:序

昨年の9月から、このブログを書き始めたので、約1年続けた事になる。
途中で入院したり、何を書いていいか判らなくなったりしたが、なんとか続けてこられたのは、読んで下さっている方々のおかげである。

楽しみにしているという励まし、質問、アドヴァイス。
始めは、よく言えば専門的、そうでなければ、理屈っぽいチーズブログを書いても、見てくれる人なんぞ、あんまりいないだろ〜な、と思って始めたのだが、読んでくれる人が思ったよりたくさんいらっしゃるようなので、感激している。

筆者も工房の開業が迫り、時間が取れなくなってきているので、このところ、週一でブログを更新する事が多くなった。
不器用なのと、不確かな事は書きたくないという思いで、調べ物をしてから書くようにしていると、なかなか書けない。

このところ、何を書いていったらいいのか、というのが、筆者の課題だった。

結論は、もっとチーズの製造に関して書いていこう、である。

筆者も自分のチーズを作る上で、復習する事も多い。
それなら、書き続けられるのではないかと思ったし、チーズ製造をしたい人に対して、力になれればと考えたからだ。

フランスでチーズの勉強をしていた時、日本に帰ってから、何が出来るのだろうと考えた。
自分で作るのもいいが、それだけではなくて、自分の学んできた事を伝えるのが役目だろうとも、思った。
若い人に、知識を伝えていく事で、農家製のチーズが、たくさん日本で出来るようになれば、産業としても上向きになるのではないかとも。(筆者は若くないので。後何年現役?)

ブルゴーニュのアルピンヌの群れ。

上のアルピンヌたちのマコネ。マコネは、反転しないから、富士山みたいになるのです。

もっと、多くの人にチーズのおいしさを知ってもらうために、色々な活動をしている人はたくさんいる。
仕事や、個人でフランスやイタリアの農家巡りをして、チーズを発信している人たちの、なんと多い事か!

彼らのしている事は、意義のある事だと思う。
筆者は、農家で働いていたし、学校にも行ったが、たくさんの農家を回ったわけではない。だから、働いていたところや学校の情報は持っているが、個々の農家に関しては、情報は無い。

ノルマンディー時代に訪ねた農家のホルスタイン。
ノルマンディーとブルターニュは、ホルスタインが多い。

そして今、自分の工房を作っているところなので、フランスには行けない。
行きたいけれど。
時間と資金に余裕があれば、系統立てて、農家を回る事も可能だが、いかんせん、時間も資金も無い。

だから、筆者は、日本のチーズの製造分野で、貢献したいのだ。
チーズの製造に関する話は、理系になるので、文系の方には難しいと思う。
筆者だって、高校の化学の知識だけでフランスの学校にいた時は、知らない事も結構あった。物理なんぞ、忘れている上に、フランス語。
???の世界だった。

だから、解りやすく書いていこうと考えている。
例えば、pHや酸度。
理屈は解らなくても、どのように使っているかが解れば、何とかなる。

なるべく、理系でない人にも解るように、書いていくつもりである。
筆者の説明では解りにくいと思ったら、本を紹介するなど、色々な人に理解してもらうように、努力をしていく。
でも、解らなかったら、どしどし質問してほしい。
何が解らないかを知る事も、筆者には、重要だからだ。

また、ブログには限度がある。
表を載せたいと思っても、うまくいかないし、言葉で説明するのとは違って、一方通行になりかねない。
いずれ、製造講座を企画するつもりだが、早くて来年になりそうである。

Facebook Pageの方では、フランスのチーズのサイトなどから、情報を仕入れて、きれいな写真も載せる事が出来る。
チーズそのものの情報は、そちらを見てもらうと変化があるだろう。
しかし、ブログは、チーズ製造そのものにスポットを当てよう。

次回からは、製造について。
チーズ製造の教科書の定石通り、始めは、「乳成分」である。

2014年8月20日水曜日

チーズを切り分ける

チーズの切り方は、いろんな人がいろんな事を説明していると思う。
例えば、チーズプロフェショナル協会や、チーズ教室をしている方達など。
みんな、きれいに盛りつけていて、すごいなと思う。
筆者は、きれいに盛りつけたいけれど、チーズの原型がわかった方がいいと思っているので、結局、ゴロゴロにしてしまう。

この写真は、「Produits laitiers」から引用したもの。筆者が作るとこんな風に、ゴロゴロになる・・・
http://www.produits-laitiers.com/2011/03/22/comment-composer-plateau-de-fromages/

フランス時代は、貧乏留学生だったので、ほとんどレストランで食事をした事が無い。
いつも、パンとチーズとワインを買って、家で食べる生活。
たまに、地方にいく事があって、ホテル(高級ではない)に泊まった時はレストランで食べた事もあるが、チーズは自分で切って、お皿に取る事が多かった。

フランス人も、チーズを切る事に関しては無頓着で、ノルマンディーの学校で、カマンベールの試食時に、同級生は(フランス人だ!)、端から切って食べていた。
均等に切る人なんぞ、いない。
筆者がサントモールの端を切って、藁を引き抜いてから反対側を切ろうとしたら、何やってんの、と、怒られたな。

レストラン関係の人は、きちんとするのだろうが、どーでもいいとも思う。
だけど、皆が美味しく食べる、という意味では、きちんと切り分けた方がよい。

今回、筆者はあまりいい写真を持っていないので、「Produits laitiers」の「Comment découper les fromages?(どんな風に、チーズを切るの?)」の記事と
http://www.produits-laitiers.com/2011/11/23/comment-decouper-les-fromages/
「TechnoResto.Org」の「Le service des fromages au restaurant(レストランでのチーズサーヴィス)」http://technoresto.org/tp/ta_fromages_bep/ta_fp.html
のイラストを引用する。「TechnoResto.Org」は、チーズのレストランサーヴィスを書いているので、興味のある方は、どうぞ。チーズサーヴィスのワゴンの図もあった。

Facebook Pageのチーズ A to Zを見た方は、見覚えのある写真だろう。
元々は、「Produits laitiers」の写真のようだ。すごくいい写真だと思う。

これも同じ、「Produits laitiers」から。図形みたいで、面白い。

一番いい方法は、「外側(皮の部分)と内側(柔らかいところ)が均等になるように切り分ける事」である。
しかし、チーズの大きさ、形によって、少し変化する。
ヤギのチーズなんて、どう切るんだ?と思った事もある。
そこで、「Produits laitiers」では、このように提案している。

  • 小さいか、中くらいの大きさで、丸く平たい形(カマンベールやルブロションなど)あるいは、ハート型のもの(ヌシャテルなど):
真ん中と端の部分が等しくなるようにする。真ん中から均等に切るとよい。


  • 丸くて大きいもの(ブリなど):
小さいチーズと同じように三角に切って、それを二つに切る。横に2つに切るといい。


  • ピラミッド型(ヴァランセなど)や筒形(シャロレなど):
丸いチーズのように切り分けるが、薄くなるので、横にして盛りつける。

ヴァランセなど。

ガプロンなど。

  • 四角いもの(マロワルなど):
最初に対角線に切ってから、切り分ける。2の倍数に切る事ができる。

  • 薪形(サントモール・ド・トゥーレーヌなど):
最初の一切れを取り除いてから、均等に切り分ける。サントモール・ド・トゥーレーヌの場合は、チーズをうまく切るために、藁を取り除くとよい。
サントモール・ド・トゥーレーヌの場合、端を切って、藁を抜き、反対側から切るときれいに切れる。
藁ごと切ると、チーズが崩れる。

  • 大型のチーズを切ったもの(コンテ、サレール、モルビエなど):
真ん中の部分を切り分けていき、半分のところで皮が均等になるように切る。


チーズ屋さんだと、コンテなどは、こんな風に大きく切る事が多い。
プラトーにする時は、上の2つのイラストのように切ると、平等になる。

  • ブルーチーズ(ブルードーヴェルニュ、フルム・ダンベールなど):
ロックフォールの場合は、4等分にし、それを扇子状に切る。フルム・ダンベールのような形のものは、始めに上から円盤状に切り、それからカマンベールのように切り分ける。

フルム・ダンベールなどの切り方。

  • 流れる様に柔らかいチーズ(モンドールなど):
上の部分の表皮をナイフで取り除き、スプーンを添える。


  • 特に固いチーズ(ミモレット・エクストラ・ヴィエイユなど):
切るのではなく、砕いて提供する。

また、テット・ド・モアンヌは、ジロールで花びら状にして、提供する。

切り方は、ざっとこんな感じだが、そんなに難しいものではない。
ただ、実際に切ると、なかなかうまくいかなかったりするのだが。
チーズに合わせた器具を使うのが、一番いいと言える。

筆者が、仕事でチーズを切る時に、一番使っていたのが、クロタンナイフ、ギロチン、ワイヤー。
ギロチンは、場所を取るし、高さが決まっているので不便なところもあるが、すごく使いやすいのだ。
カマンベールやポン・レベークなどもこれで切れるし、チェダーも大丈夫。
何しろ、まっすぐ切れるので、きれいなのである。
皮のあるPPNCは、皮にクロタンナイフで切れ目を入れれば、ギロチンでOK。

ワイヤーは、フランスで、持ち手のあるものを売っている。
フランスで買う時に、何を切るのか聞かれたが、何を切りたいのかわからなかった筆者は、適当に2種類買った。
寸法もいろいろあって、大きいチーズだと長く、小さいものを切る時には短いものを使うのだ。これは、かなり仕事で役に立った。

オメガナイフはほとんど使わなかった。
ブリなどのホールは、包丁でないと無理だが、ポーションなら、ギロチンを使っていた。ギロチンの利点は、チーズがくっつかないので、切り口がきれいになること。
ただし、固いものを無理矢理切ろうとすると、ワイヤーが切れてぶっ飛ぶので、ご注意を。

パリの雑貨屋さんで買った、プラトー。ガラス製なので、恐くて使えない・・・
ナイフも付属のもの。別売りで、ネズミの形をしたのもあって、お土産にしたっけ。

先週は、お盆休みで少しのんびりできると思っていたが、ぎっちりアポが入り、毎日出かける体たらく。Facebookの友達が、あちこち遊びにいっているのをいいな〜と見ていた。工房の工事も始まっているので、ますますバタバタの日々が始まりそうである・・・

2014年8月8日金曜日

チーズの起源

筆者は、考古学が好きである。
チーズがどこで生まれたのかにも興味があって、調べたところ、いい本を3冊ほど見つけた。

  • ジャレド・ダイアモンド氏の「銃・病原菌・鉄」
  • ポール・キンステッド氏の「チーズと文明」
  • ジャン・ボテロ氏の「最古の料理」

ピューリッツァ賞受賞。人類史を知るには、いい本です。

最古の料理は、メソポタミアの粘度板を解析したもの。
チーズと文明は、チーズから見た文明史。惜しむらくは、産業革命以降が、イギリスとアメリカに限定されていること。


まず、「銃・病原菌・鉄」は、人類史の本である。
だから、チーズ以外の事もたくさん書いてあり、人間がどのように発展してきたかが解って、興味深い。
この本によると、人間が、初めて食物を栽培し、定住生活に入った地域は、5つ。

  • メソポタミアの肥沃三日月地帯(南西アジア)
  • 中国
  • 中米(メキシコ中部、南部、その近隣の中央アメリカ)
  • 南米のアンデス地帯
  • アメリカ合衆国東部


これらは、確証があるそうだ。
この中で一番古い地域は、肥沃三日月地帯で、紀元前8500年と検証されている。
では、なぜここなのだろうか、どうして紀元前8500年なのだろうか、という疑問にも、この本は答えてくれる。

まず、なぜ人はこの地域で、食料を生産するようになったかと言うと、

  1. この13000年の間に入手可能な自然資源が減少し、狩猟生活をするための動植物確保が難しくなった。
  2. 獲物が少なくなった時期と重なって、気候が変化し、肥沃三日月地帯では、野生の穀類(大麦、小麦など)の自生範囲が拡大した。
  3. 食品生産をする上での知識が蓄積された。

が、理由である。
だから、紀元前8500年ほど前に、人々は肥沃三日月地帯に定住し、作物(主に穀類、豆類)を作って生活するようになったとこの本は伝えてくれる。

そこで、チーズをもたらしてくれる家畜についてだが、ダイアモンド氏は、家畜になった動物を「由緒ある14種」とし、その中でも5種を「メジャーな5種」としている。
それは、

  1. 山羊

である。
この5種の家畜の祖先は、すべてユーラシア大陸に分布していた。
それぞれのご先祖は、

  1. 羊:西アジアおよび中央アジアの「ムフロン」
  2. 山羊:西アジアの山岳地帯に生息する「パサン(ノヤギ)」
  3. 牛:ユーラシア大陸と北アフリカに生息していた「オーロックス」
  4. 豚:イノシシ
  5. 馬:南ロシアに分布していた、野生馬。

であるが、このうち、豚と馬はチーズを作る主な動物ではないので、羊、山羊、牛に話を絞ろう。

羊の先祖は、ムフロンとされているが、この種は現在でもコーカサス、イラン、イラクなどに生存している。ダイアモンド氏によれば、西南アジアで、紀元前8000年くらいに家畜化されたらしい。詳しい事は、以下、URLを参照していただきたい。
http://www.pz-garden.stardust31.com/guutei-moku/usi-ka/muhuron.html

山羊の先祖は、パサンで、これも現在、パキスタンやアルメニアなどに生息している。この動物も、紀元前8000年頃に、西南アジアで家畜化されたと見られている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/パサン
キンステッド氏によると、山羊が先に家畜化されたというのだが、筆者は同じ頃、同じような場所で、山羊と羊が家畜とされたと思う。
というのは、ダイアモンド氏によると、家畜化される動物には、特徴があり、山羊と羊はその点でよく似ているからである。

ダイアモンド氏によると、家畜化できる動物は、

  1. 餌の経済効果がよく(山羊は、身体の割に乳量が多く、何でも食べるので、フランスでは、「貧乏人の牛」と言われる)、
  2. 成長速度が速く、
  3. 繁殖しやすく(種付けしやすい)、
  4. 気性が穏やかで、
  5. パニックを起こさず(パニックを起こすと死んでしまう)、
  6. 序列性のある集団を形成する(人間がその群れのリーダーとなれるから)。

という特徴を持っている。
山羊、羊ともにこの性質を持っており、同じような時期に、同じような場所にいれば、どちらが先とも言えないと思う。

牛は、少し年代が下がって、紀元前6000年頃、西南アジアとインドで。
ヨーロッパの牛と、インドのコブ牛は、原種の牛から何十万年か前に分かれたと考えられている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/オーロックス

さて、いよいよチーズである。

家畜が増えると、人々は、肉を取るためだけではなく、乳も利用する事を考え始める。殺してしまえば、「はい、それまでよ」だが、乳利用ができれば、殺さずにすむ。
「最古の料理」の著者、ボテロ氏によると、メソポタミアの粘度板では、紀元前4000年末期にはチーズ様のものがあったようだ。

メソポタミアの粘度板には、色々な料理の作り方が書いてあり、チーズやバターが調味料として使われた様子が見られる。
ただ、ボテロ氏によると、肉とビールとパンが庶民のごちそうだったようで、乳は酸化が早いので、身分の高い人の飲み物だったようだ。
羊飼いは、乳利用ができたようだが(生乳をすぐに飲める環境にあったから)、もし、チーズ作りが盛んなら、乳利用だけでなく、チーズを作って保存したのではないかと思う。

キンステッド氏は、紀元前6000年くらいからチーズを作っていたという説を唱えていらっしゃる。氏の説は面白いのだが、「こし器」はやはりビール用のもので、チーズ用のものではないと思う。この容器からチーズが発見されれば証明になるが、例えば、乳を入れるために使ったとすれば、やがてヨーグルトから、チーズ用のものになるのは必然なので、やはり証明が難しいように思う。

ボテロ氏の説のように、紀元前4000年末あたりに、乳利用があったとするしか無いだろう。何しろ、文献が無いのだから。

その後、食物の製造と家畜の利用は、驚くべき早さで、ヨーロッパとインドに伝わる。
そして、ヨーロッパでは、独自の発達を遂げていくのだ。
アジアでは、古代のチーズの作り方を継承したように思う。
中国では、家畜が豚と犬であった事が乳利用をしなかった理由になるだろう。

黎明期の人間がどんな風に食べ物を栽培し、家畜を飼っていたのか。
知りたい事は沢山あるけれど、秘密の方がいいのかも?

2014年8月1日金曜日

チーズを作る:収益率(le rendement)

Facebookページ版 チーズ A to Zに、Saint Maure de Touraine 一つにどのくらいの原乳が必要か、という記事をシェアした。
チーズ一つ作るのにどのくらいの原乳が必要か、という事を、フランス語では、「le rendement」という。
日本語では、収益率、回収率とでも訳そう。

これは、チーズを作る上では、とても重要な事である。
というのは、チーズの原価や、生産高に影響するからだ。
要するに、少ない原料でたくさんできれば儲かるという事ですな。

1991年の資料なので、少し古いのだが、筆者の恩師、Mietton氏によると、牛乳100kgに対して、収益率は、だいたい以下のようになる。

  • 脱脂したフレッシュチーズ  :35-45kg
  • 型入れしたフレッシュチーズ :16-18kg
  • カマンベール        :14-15kg
  • サン・ポーラン       :10,5-11kg          
  • チェダーチーズ       :9,5kg
  • エメンタル、コンテ     :8,5-9,5kg 

「脱脂したフレッシュチーズ」は、日本で見かけるフロマージュ・ブロンの脂肪分0%の物と思っていただいて結構である。
「型入れしたフレッシュチーズ」は、フランスでは、「フェセル(la faisselle)」と呼ぶ、ラクティック・ドミノン製法のカイエを穴あきの型に入れただけのチーズや、山羊チーズなどをさす。カマンベールは、PM、サン・ポーラン、チェダーはPPNC、エメンタル、コンテはPPCである。

フェセル(la faisselle)。このパッケージをカップに入れて売っている。
山羊のシャロレタイプ。このチーズは一つ作るのに、2リットルの山羊乳が必要。
このチーズの収益率は、24%。PMとしては、かなり高かった。 

原乳の組成は、動物によって変わる。
例えば、羊乳は、脂肪分、蛋白質ともに、牛乳のほぼ倍。
モッツァレラを作る、水牛乳も、羊乳ほどではないが、蛋白質、脂肪分が多い。
だから、収益率も変わる。

この資料では、動物の種による差は書いていないが、見てもらうと解るように、パット・フレッシュ(la pâte fraîche)とPPCとの差が大きい。
大きな理由は、水分の含有量である。

牛乳の場合で考えると、固形分は、ほぼ10%。
残りが水分である。
だから、収益率は、大まかに言うと10%なのだが、チーズの工程によって、それが変化するのである。

市販のフロマージュ・ブロンの場合、工場製と農家製では作り方が違うが、だいたい、収益率は、上記の通りと思って、差し支えない。
かなり多くの水分を含むので、収益率が良いし、すぐ販売できるので、農家や小さい工房に取っては、強い味方だ。

上部の袋に入っているのが、フロマージュ・ブロンになる。

農家製チーズの講座にいた時、工房を作る時は、フレッシュを必ず入れた方がよいと教わった。熟成させるチーズは、熟成している間収入が無いので、資金的にフレッシュチーズを作る事を勧められる。
フレッシュチーズと他の熟成させるタイプを組み合わせて製造するのが一般的だ。

カマンベールタイプなどは、違う意味で大変である。
例えば、一つ250gのカマンベールを作るとしよう。
AOPでは、大きさが決まっているので、250g以下のチーズは、AOPのカマンベール・ド・ノルマンディーとして、販売できない。

ブリヤ・サヴァランの熟成前。3週間ほど置いておくと、もわっと白カビが生える。

販売をなさっている方は、時々見かけるだろう、大きなカマンベール・ド・ノルマンディーを。250gのはずなのに、300gくらいあったりする。
筆者が見た中で一番大きかったのは、330gあった。
こうなると、蓋がうまく閉まらなくて、不格好なパッケージになる。

これは、標準偏差というものをうまく使えば解消できるのだが、やはり計算がめんどくさい。農家は、いろいろ工夫して、表などを作っているところも多い。
大きくできてしまえば、お客さんは喜ぶが、生産者は損する事になる。
こんな事も、収益率に関係してくる。

サンポーランは、牛乳の固形分をそのまま取り入れた感じである。
ただ、PPNCは、デラクトザージュ(le délactosage:英語では、ウォッシング)という工程があり、ラクトースを排出させるので、それによって収益率が変わってくる。
délactosageの程度を上げれば、ラクトースはほとんど出て行ってしまう。
そうすると、収益率も少なくなる。

サン・ポーランの写真が無かったので、ミモレット。PPNCの同じタイプ。

チェダーチーズは、チェダリング工程で水分がかなり排出されるし、コンテなどのPPCは、温度を上げる事によって、水分排出を促すので、やはり水分が少なくなる。
という事は、収益率も下がるという事だ。

PPCのコンテ。

こう考えると、フレッシュチーズを作ればいいかな?と思うのだが、残念な事に、フレッシュチーズには、付加価値があまり無いのである。
チーズのおいしさは、熟成する事によって醸し出される、「ウマミ」にある。
熟成させるチーズを作るのは難しく、また収益率も下がり、すぐにお金にならない。
でも、その美味しさで、付加価値がつき、ファンがつく。

筆者も、工房で、フレッシュと熟成タイプを作ろうと考えている。

7月に、工房作りのための一山を無事に超える事ができて、ほっとしている。
ホントに7月はドタバタで、あれもこれも考えなくてはならず、また、行動しなくてはならず、家族にも「心、ここに在らずね」と言われたくらい、上の空。

まだ、二つ大きな山があるが、8月半ばまでは、少し落ち着けそうである。