チーズ一つ作るのにどのくらいの原乳が必要か、という事を、フランス語では、「le rendement」という。
日本語では、収益率、回収率とでも訳そう。
これは、チーズを作る上では、とても重要な事である。
というのは、チーズの原価や、生産高に影響するからだ。
要するに、少ない原料でたくさんできれば儲かるという事ですな。
1991年の資料なので、少し古いのだが、筆者の恩師、Mietton氏によると、牛乳100kgに対して、収益率は、だいたい以下のようになる。
- 脱脂したフレッシュチーズ :35-45kg
- 型入れしたフレッシュチーズ :16-18kg
- カマンベール :14-15kg
- サン・ポーラン :10,5-11kg
- チェダーチーズ :9,5kg
- エメンタル、コンテ :8,5-9,5kg
「脱脂したフレッシュチーズ」は、日本で見かけるフロマージュ・ブロンの脂肪分0%の物と思っていただいて結構である。
「型入れしたフレッシュチーズ」は、フランスでは、「フェセル(la faisselle)」と呼ぶ、ラクティック・ドミノン製法のカイエを穴あきの型に入れただけのチーズや、山羊チーズなどをさす。カマンベールは、PM、サン・ポーラン、チェダーはPPNC、エメンタル、コンテはPPCである。
フェセル(la faisselle)。このパッケージをカップに入れて売っている。 |
山羊のシャロレタイプ。このチーズは一つ作るのに、2リットルの山羊乳が必要。 |
このチーズの収益率は、24%。PMとしては、かなり高かった。 |
原乳の組成は、動物によって変わる。
例えば、羊乳は、脂肪分、蛋白質ともに、牛乳のほぼ倍。
モッツァレラを作る、水牛乳も、羊乳ほどではないが、蛋白質、脂肪分が多い。
だから、収益率も変わる。
この資料では、動物の種による差は書いていないが、見てもらうと解るように、パット・フレッシュ(la pâte fraîche)とPPCとの差が大きい。
大きな理由は、水分の含有量である。
牛乳の場合で考えると、固形分は、ほぼ10%。
残りが水分である。
だから、収益率は、大まかに言うと10%なのだが、チーズの工程によって、それが変化するのである。
市販のフロマージュ・ブロンの場合、工場製と農家製では作り方が違うが、だいたい、収益率は、上記の通りと思って、差し支えない。
かなり多くの水分を含むので、収益率が良いし、すぐ販売できるので、農家や小さい工房に取っては、強い味方だ。
農家製チーズの講座にいた時、工房を作る時は、フレッシュを必ず入れた方がよいと教わった。熟成させるチーズは、熟成している間収入が無いので、資金的にフレッシュチーズを作る事を勧められる。
フレッシュチーズと他の熟成させるタイプを組み合わせて製造するのが一般的だ。
カマンベールタイプなどは、違う意味で大変である。
例えば、一つ250gのカマンベールを作るとしよう。
AOPでは、大きさが決まっているので、250g以下のチーズは、AOPのカマンベール・ド・ノルマンディーとして、販売できない。
販売をなさっている方は、時々見かけるだろう、大きなカマンベール・ド・ノルマンディーを。250gのはずなのに、300gくらいあったりする。
筆者が見た中で一番大きかったのは、330gあった。
こうなると、蓋がうまく閉まらなくて、不格好なパッケージになる。
これは、標準偏差というものをうまく使えば解消できるのだが、やはり計算がめんどくさい。農家は、いろいろ工夫して、表などを作っているところも多い。
大きくできてしまえば、お客さんは喜ぶが、生産者は損する事になる。
こんな事も、収益率に関係してくる。
サンポーランは、牛乳の固形分をそのまま取り入れた感じである。
ただ、PPNCは、デラクトザージュ(le délactosage:英語では、ウォッシング)という工程があり、ラクトースを排出させるので、それによって収益率が変わってくる。
délactosageの程度を上げれば、ラクトースはほとんど出て行ってしまう。
そうすると、収益率も少なくなる。
チェダーチーズは、チェダリング工程で水分がかなり排出されるし、コンテなどのPPCは、温度を上げる事によって、水分排出を促すので、やはり水分が少なくなる。
という事は、収益率も下がるという事だ。
こう考えると、フレッシュチーズを作ればいいかな?と思うのだが、残念な事に、フレッシュチーズには、付加価値があまり無いのである。
チーズのおいしさは、熟成する事によって醸し出される、「ウマミ」にある。
熟成させるチーズを作るのは難しく、また収益率も下がり、すぐにお金にならない。
でも、その美味しさで、付加価値がつき、ファンがつく。
筆者も、工房で、フレッシュと熟成タイプを作ろうと考えている。
7月に、工房作りのための一山を無事に超える事ができて、ほっとしている。
ホントに7月はドタバタで、あれもこれも考えなくてはならず、また、行動しなくてはならず、家族にも「心、ここに在らずね」と言われたくらい、上の空。
まだ、二つ大きな山があるが、8月半ばまでは、少し落ち着けそうである。
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