2014年8月8日金曜日

チーズの起源

筆者は、考古学が好きである。
チーズがどこで生まれたのかにも興味があって、調べたところ、いい本を3冊ほど見つけた。

  • ジャレド・ダイアモンド氏の「銃・病原菌・鉄」
  • ポール・キンステッド氏の「チーズと文明」
  • ジャン・ボテロ氏の「最古の料理」

ピューリッツァ賞受賞。人類史を知るには、いい本です。

最古の料理は、メソポタミアの粘度板を解析したもの。
チーズと文明は、チーズから見た文明史。惜しむらくは、産業革命以降が、イギリスとアメリカに限定されていること。


まず、「銃・病原菌・鉄」は、人類史の本である。
だから、チーズ以外の事もたくさん書いてあり、人間がどのように発展してきたかが解って、興味深い。
この本によると、人間が、初めて食物を栽培し、定住生活に入った地域は、5つ。

  • メソポタミアの肥沃三日月地帯(南西アジア)
  • 中国
  • 中米(メキシコ中部、南部、その近隣の中央アメリカ)
  • 南米のアンデス地帯
  • アメリカ合衆国東部


これらは、確証があるそうだ。
この中で一番古い地域は、肥沃三日月地帯で、紀元前8500年と検証されている。
では、なぜここなのだろうか、どうして紀元前8500年なのだろうか、という疑問にも、この本は答えてくれる。

まず、なぜ人はこの地域で、食料を生産するようになったかと言うと、

  1. この13000年の間に入手可能な自然資源が減少し、狩猟生活をするための動植物確保が難しくなった。
  2. 獲物が少なくなった時期と重なって、気候が変化し、肥沃三日月地帯では、野生の穀類(大麦、小麦など)の自生範囲が拡大した。
  3. 食品生産をする上での知識が蓄積された。

が、理由である。
だから、紀元前8500年ほど前に、人々は肥沃三日月地帯に定住し、作物(主に穀類、豆類)を作って生活するようになったとこの本は伝えてくれる。

そこで、チーズをもたらしてくれる家畜についてだが、ダイアモンド氏は、家畜になった動物を「由緒ある14種」とし、その中でも5種を「メジャーな5種」としている。
それは、

  1. 山羊

である。
この5種の家畜の祖先は、すべてユーラシア大陸に分布していた。
それぞれのご先祖は、

  1. 羊:西アジアおよび中央アジアの「ムフロン」
  2. 山羊:西アジアの山岳地帯に生息する「パサン(ノヤギ)」
  3. 牛:ユーラシア大陸と北アフリカに生息していた「オーロックス」
  4. 豚:イノシシ
  5. 馬:南ロシアに分布していた、野生馬。

であるが、このうち、豚と馬はチーズを作る主な動物ではないので、羊、山羊、牛に話を絞ろう。

羊の先祖は、ムフロンとされているが、この種は現在でもコーカサス、イラン、イラクなどに生存している。ダイアモンド氏によれば、西南アジアで、紀元前8000年くらいに家畜化されたらしい。詳しい事は、以下、URLを参照していただきたい。
http://www.pz-garden.stardust31.com/guutei-moku/usi-ka/muhuron.html

山羊の先祖は、パサンで、これも現在、パキスタンやアルメニアなどに生息している。この動物も、紀元前8000年頃に、西南アジアで家畜化されたと見られている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/パサン
キンステッド氏によると、山羊が先に家畜化されたというのだが、筆者は同じ頃、同じような場所で、山羊と羊が家畜とされたと思う。
というのは、ダイアモンド氏によると、家畜化される動物には、特徴があり、山羊と羊はその点でよく似ているからである。

ダイアモンド氏によると、家畜化できる動物は、

  1. 餌の経済効果がよく(山羊は、身体の割に乳量が多く、何でも食べるので、フランスでは、「貧乏人の牛」と言われる)、
  2. 成長速度が速く、
  3. 繁殖しやすく(種付けしやすい)、
  4. 気性が穏やかで、
  5. パニックを起こさず(パニックを起こすと死んでしまう)、
  6. 序列性のある集団を形成する(人間がその群れのリーダーとなれるから)。

という特徴を持っている。
山羊、羊ともにこの性質を持っており、同じような時期に、同じような場所にいれば、どちらが先とも言えないと思う。

牛は、少し年代が下がって、紀元前6000年頃、西南アジアとインドで。
ヨーロッパの牛と、インドのコブ牛は、原種の牛から何十万年か前に分かれたと考えられている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/オーロックス

さて、いよいよチーズである。

家畜が増えると、人々は、肉を取るためだけではなく、乳も利用する事を考え始める。殺してしまえば、「はい、それまでよ」だが、乳利用ができれば、殺さずにすむ。
「最古の料理」の著者、ボテロ氏によると、メソポタミアの粘度板では、紀元前4000年末期にはチーズ様のものがあったようだ。

メソポタミアの粘度板には、色々な料理の作り方が書いてあり、チーズやバターが調味料として使われた様子が見られる。
ただ、ボテロ氏によると、肉とビールとパンが庶民のごちそうだったようで、乳は酸化が早いので、身分の高い人の飲み物だったようだ。
羊飼いは、乳利用ができたようだが(生乳をすぐに飲める環境にあったから)、もし、チーズ作りが盛んなら、乳利用だけでなく、チーズを作って保存したのではないかと思う。

キンステッド氏は、紀元前6000年くらいからチーズを作っていたという説を唱えていらっしゃる。氏の説は面白いのだが、「こし器」はやはりビール用のもので、チーズ用のものではないと思う。この容器からチーズが発見されれば証明になるが、例えば、乳を入れるために使ったとすれば、やがてヨーグルトから、チーズ用のものになるのは必然なので、やはり証明が難しいように思う。

ボテロ氏の説のように、紀元前4000年末あたりに、乳利用があったとするしか無いだろう。何しろ、文献が無いのだから。

その後、食物の製造と家畜の利用は、驚くべき早さで、ヨーロッパとインドに伝わる。
そして、ヨーロッパでは、独自の発達を遂げていくのだ。
アジアでは、古代のチーズの作り方を継承したように思う。
中国では、家畜が豚と犬であった事が乳利用をしなかった理由になるだろう。

黎明期の人間がどんな風に食べ物を栽培し、家畜を飼っていたのか。
知りたい事は沢山あるけれど、秘密の方がいいのかも?

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