2016年6月5日日曜日

コンテフェルミエは、なぜ不可能なのか?

以前は、コンテ・フェルミエなどというチーズを売っているところがあったが、現在では、見かけなくなった。誠に良いことである。日本人やアメリカ人は、農家製=良いもの、と考えるきらいがあって、農家製のチーズや食品が受けるようである。

農家製がすべて良いわけではないし、工場製がすべて悪いわけでもあるまい。
しかし、人々は、なぜか「農家製」という響きに惹かれるようである。
農家製=手作り、なのだろう。

コンテに関して言えば、CDCに「コンテ・フェルミエは、可能ではない」と書いてある。

2015年版のカイエ デ シャージュ、

Cahier des charges de l'appellation d'origine « Comté»
Bulletin officiel du Ministère de l'agriculture, de l'agroalimentaire et de la forêt n° 11 -2015

の「第5章 コンテの製造方法 2.6 原乳の混合」という部分に「可能ではない」と記載してあるのだ。
以下は原文。赤字で書いたところがそうである。


"5.2.6 Mélange de laits : Par respect pour les usages locaux, loyaux et constants, le Comté ne peut être fabriqué qu’à partir d’un mélange des laits de plusieurs exploitations et de plusieurs troupeaux nourris, gérés et traits de manière indépendante, de fait la fabrication de Comté fermier n'est pas possible. "

なぜ不可能なのか?

Comté は、いろいろな原乳を混ぜ合わせることによってしか製造できないから、農家製は不可能である、というのだが、他にもいろいろな原因があるのではないか?
と思ったので、ちょっと考えてみることにした。

では、はじめに「農家製」という規定を調べてみよう。

DECRET
Décret n°2007-628 du 27 avril 2007 relatif aux fromages et spécialités fromagères 


という、「チーズ工房で作るチーズと、そのスペシャル品に対する法令」の第9条に、農家製チーズの規定があるので、原文を載せておこう。

Article 9-1 (différé) 
· Créé par Décret n°2013-1010 du 12 novembre 2013 - art. 9 

La dénomination “ fromage fermier “ ou tout autre qualificatif laissant entendre une origine fermière est réservée à un fromage fabriqué selon les techniques traditionnelles par un producteur agricole ne traitant que les laits de sa propre exploitation sur le lieu même de celle-ci. Lorsque l’affinage a lieu en dehors de l’exploitation, l’étiquetage comporte les mentions prévues au 5° du A de l’article 12. 

これによると、「農家製」の表記ができるのは、「一つのチーズの生産者の農場で原乳を取り、その同じ農場で、伝統的製法で作ったチーズ」なのである。また、熟成のみ他の場所で行われた場合にもつけることができる。

この条件を満たせば、Comtéも「農家製」と名をつけることができるはずだ。
では、なぜ不可能なのだろうか?

まず、Comté の製造面から考えてみよう。

Comtéを一つ作るのに、450〜500Lの原乳が必要である。
CDC de Comté を見ると、2008年版には、アトリエには、最高5000L入るキューヴが2〜5個必要とあったが、どうやら2015年版にはその記載はない。
ポリニーの学校のアトリエには、500Lのキューヴが4個あった。
個数が書いてないということは、一つでもいいということになる。

次に、モンベリアルド牛の1日の搾乳量は、2014年で1日約22L。
ということは、500Lの原乳を得るには、乳を出す22頭のモンベリアルド牛がいればいいということになる。ただ、いつも乳を出す牛が22頭となるともう少し数が必要になる。

製造という面からでは、不可能ではない。

次に、作った場合、どうなるかということを考えてみよう。

CDC de Comté によると、Comté を作るための原乳を得る牛の餌や、その他の規則はやたらに厳しい。
例えば、発酵飼料は禁止。ビール粕を与えるものだめ。他の牛の群れとは隔離すること、などなど・・・

また、熟成は、3段階に分かれるため、第二段階以降は熟成士に預けることになる。
一回に一つしか作らないとすると、あまりメリットがなさそうである。
個数を多く作ろうとすると牛の数も増やさなければならない。
放牧もしなければならないので、場所の確保が大変だ。
工房の規模も大きくなるし、人もたくさん雇わなければならなくなる。

今回の2015年版のCDC には、Comté が最大で12個できるキューヴまで許可されている。
ということは、12X500=6000L のキューヴを設置することが可能だ。
筆者のポリニーの同級生たちは、一日に25個くらい作ると言っていた。
そのくらい作らないとメリットがないのだろう。

2015年版のCDC には、「いつの時代も変わらない、地元の習慣を尊重して」と、書いてある。
こんな風に、原乳を混ぜて作ることをComté は選んだのだ。

CDC の最後に表が載っているのだが、そちらにははっきりと

Le mélange de laits de plusieurs exploitations pour la mise en fabrication d’un fromage est obligatoire. Le Comté fermier est interdit. 

Comté fermierは、禁止である」
と記載してある。

Comté はある意味、製造も熟成も機械化が進んでいる。
キューヴは、コンピューター制御。
熟成のお手入れは、ロボットがする。
昔ながらの職人が作るというイメージではない。

人手不足(外国人労働者が増えている)や、職人の職業病の増加(椎間板ヘルニアが多い)などで、機械化を推進してきたが、人間が目で見て、手で確認するところもちゃんと残っている。
乳酸菌やプレジュールは人が投入するし、カイエの大きさや、煮え具合は、職人が確認する。

Comté というチーズは、機械化と農家の製法が程よく混合した製法でできている。
伝統的に原乳を持ち寄って作ったチーズであるという誇りを持って、農家製Comté はないと断言したのである。

Comté のキューヴ

プレスする

Comté en blanc(白いコンテ)



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