筆者の恩師(フランス人)は、「ヌテラには、水分がない!」と力説していたが、稀な例だろう。
ちなみに、「ヌテラ」とは、フランス人が大好きなチョコレート風味のスプレッド。
ヌテラ。すごく甘いが、ファンも多い。5kg入りなんてのもある。 https://www.ferrero.fr/nutella より |
この水分は、食品保存をするときには邪魔になることも多いが、微生物の繁殖には欠かせない成分でもある。
では、食品中の水分はどんな風になっているか、見ていこう。
まず、食品中の水分は、
- 自由水:環境や温度、湿度の変化で容易に移動や蒸発が起こる水分
- 結合水:食品の成分であるタンパク質や炭水化物と強く結合した水分
下の図は、魚肉の場合だが、魚の干物の場合、外側にある自由水が蒸発して、硬くなると考えられる。
結合水は、成分に付着し、自由水は、周りに存在する。
http://www.nctd.go.jp/senmon/shiryo/suisan/g/g_1/g1_3_a.html より
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いわゆる、「多孔性:porosité」、生地の中に、穴がたくさんあいているのである。
だから、組織の中にある水分は、3つに分けることができる。
- 自由水
- 毛細管現象の水
- ミセルに結びついている水分(結合水)
PPタイプのカイエの構造。 |
上の図の小さい丸は、ミセルを表している。
そして、GPE とPPEとは、以下の意味である。
GPE : Grand Porosité Extramicellaire (ミセル外の大きい孔)
PPE : Petit Porosité Extramicellaire (ミセル外の小さい孔)
GPE は、カイエの網目構造の中にある水分を言い、自由水に当たる。
PPE は、網目構造を作っているミセルの間にある、毛細管現象の水分のことを言う。
カイエ形成後のチーズの製造工程は、脱水であるが、それぞれ脱水方法が異なる。
- GPE:自然脱水
- PPE:ミセルの収縮、加熱
- 結合水:加熱、pH 、凝乳酵素の量
PPEの水分を除くには、加熱するのが良い。PPNCや、PPCは、この方法でこの水分を排出させる。
最後の結合水は、なかなか外には出ないので、pHの調整や、凝乳酵素の量などが大切になってくる。
チーズ中の水分は、チーズの熟成に関係してくるので、とても大事である。
水分が多いと、微生物の活動が活発になり、熟成期間が短くなる。
小さいチーズで、熟成期間の短いラクティック・ドミノンタイプは、型から出した時の水分が多い方が良い。少ないと、微生物の繁殖がうまくいかず、熟成がうまくいかない。
反対に、PPNCやPPCは、水分が多すぎると熟成期間が短くなるので、困るのである。
この水分を図るために、HFD(Humidité dans le fromage dégraissé:脱脂したチーズ中の水分)という計算方法があり、AOPのチーズなどでは決まっていることが多い。
例えば、型から出したばかりの山羊チーズのHFDは、約80%。
これは、かなり多い。モンドールなどもこのくらいになる。
コンテは、熟成したもので、だいたい54%ほどだ。
フレッシュチーズを作ることはさほど難しくはないが、上手く熟成させるのが難しい。
ラクティック・ドミノンタイプは、カイエ製造時に、pHを下げすぎると脱水が進み、できたフレッシュチーズの水分が減る。すると、良い微生物が繁殖せず、プスドモナスや、カビなどの好ましくない微生物が増える。
また、pHが高すぎると、「カイエ ムー:Caillé mou」と言って、柔らかすぎるカイエになる。歩止まりが悪い上に、ジェオトリクムが繁殖しすぎてドロドロになったりする。
適正のHFDにすることは、結構難しいのだが、ここを上手くクリアできれば、あとは楽である。
筆者の工房も、夏と冬では環境が変わるので、上手く熟成させるのは、なかなか難しい。特に、夏は気温が高いのでエアコンをつけると室内が乾燥しすぎたりするので困る。
今年の夏も、苦労したが、なんとか解決策を見つけられそうである。
と、書いてきたら、熟成には、ジェオトリクムが重要だということを思い出した。チーズ製造実践編の乳酸菌の前に、Géoのことを書こう。
上手くGéoが生えたドーメ。苦労した・・・ |
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