モッツァレラのように、作り方がミックスで、パット・フィレ(la pâte filée)のタイプは、うまくカイエの状態を作らないと、伸びない。
だから、作るのが難しいのだが、フロマージュ・ブロンのようなものは、意外と簡単である。味はともかくとして。
しかし、熟成をさせるチーズは、うまく作らないと、ちゃんと熟成しない。
その時に、指標になる数値があるのだ。
それを、HFDと言う。
HFD(la Humidité du fromage dégraissé)、脂肪除去したチーズ中の水分、とでも訳そうか。英語だと、"Moisture content of the fat-free cheese"である。
計算方法があるのだが、このブログでは、数式を表示できないので省く。
このHFDが、チーズの熟成期間を決めるのである。
おそらく、脂肪分で決まるとか、そのほかの方法があるという方もいらっしゃるだろうが、HFDは、かなり重要である。
筆者もポワトー・シャロントの学校で、これを教わったが、ポリニーからきた同級生は、G/S、すなわち、固形分中の脂肪で決まると教わったと言っていた。
大きなチーズになると、G/Sも指標の一つになるが、やはりHFDの方が、確実である。
何故なら、HFDは、チーズ中の微生物の繁殖を司るからである。
微生物という奴は、理想的な環境がないと、繁殖しない。
水分というのも、大きな理由の一つなのである。
おおまかに、HFDの数値を書いておこう。
- PM: 67%以上(61%位まで下げるものもある。)
- PPNC: 54〜63%
- PPC: 56%以下
PPNC。色々なタイプがあるので、HFDも色々だが、54〜63%の間である。 |
白いコンテ。HFDは、熟成がすすんだものより多くなる。 一般的に売っているPPCは、HFD 56%以下。 |
HFDは、チーズ中の脂肪を除いた固形分中の水分だ。
なぜこの数値が、微生物の生育に関係しているかと言うと、微生物の使う事のできる水分は限られるからである。
脂肪を除去したチーズにある水分は、自由水と言って、微生物が自らの生育に使う事のできる水なのだ。
チーズに含まれる水は、固定水と自由水に分類され、固定水は分子単位の組織に取り込まれているので、脱水すらできない。
自由水は、その名の通り、チーズの中を移動する事もできるし、脱水する事もできる水だ。
例えば、カビ。
シャーレに薄く水を張り、小さいチーズ片をのせる。
水につかった部分と、水から出た部分を作ると、水から出た部分には、カビが生える。
しかし、水につかった部分には、生えない。
これによって解る事は、カビの生育に必要なものは、栄養と空気と水分である事が解る。
比較実験として、チーズを乾燥した状態にし、シャーレにおいてみても、カビは生えない。ただ、始めの実験でも解るように、水がありすぎて、空気を遮断するようでもいけない。適量である事が大事なのだ。
PMのラクティック・ドミノン。ラングル(Langres)。これも、柔らかい。 |
例えば、エポワス(l'Epoisses)や、モンドール(Mont d'Or)のようなチーズは、トロトロになるものと、ならないものがある。これは、HFDが個々のチーズで違うからである。
PMの山羊チーズの場合、HFDは、80%くらいである。
これは、かなり水っぽいのだが、その後乾燥工程があるので、これでよい。
同じPMでも、カマンベールタイプの場合、73〜73,5%で、少し下がる。
乾燥工程がない事、製法がミックスである事を考えると、納得がいく。
白カビの発育のためには、このくらいないと、うまくいかない。
店に届いたばかりの St. Maure de Touraine。柔らかい。HFDは70〜80%。 |
シャロレ(Charolais)タイプのチーズ。これは、脱水工程が長いので、HFDはやや低い。 |
PPCでも、コンテなどは、56%ほど、パルミジャーノなどは、51%以下となる。
PMの場合、水分量が多い分だけ、微生物が増えやすい。
筆者は、いま、試作品作りで苦労している。
気候のせいだろうと思っているが、先日は、水っぽくできてしまったチーズにうまくジェオが生えたと思っていたら、その後にドロドロになってしまった。
HFDは計算できなかったが(蛋白質と脂肪の数値がないとできない)、おそらく作りたいチーズのHFDより、相当高かったと考えられる。
本当に、チーズは生きていると実感する今日この頃である。