2014年7月18日金曜日

チーズと職業病

チーズを製造するのは、重労働である。
コンテなど、PPCの大型のチーズは言わずもがな。
山羊の小さいチーズだって、重労働なのだ。

これは、コンテではなく、ボーフォールのコーペラティヴ。
加熱するため、中の温度は上昇し、職人さんは、いつもランニング姿!

フランスには、女性が25Kg以上のものを持ってはいけない、という法律があるので、熟成士さんは、大概男性である。
女性もいるけれど、ホールの大型チーズを扱うのは難しいだろう。
でも、女性の進出は、嬉しいものである。

そこで、職業病。

できたてのコンテの重量は、約60Kg。米俵とほぼ同じ。
戦前の日本には、米俵を担いで走る教練があったそうだが、大変だったと聞いている。
コンテの場合、米俵と違って、担ぐのは難しい。
何故なら、弾力があって、しなるから、持ちにくいのである。
コンテの作り方は、チーズ A to ZのFacebook Pageに動画をUPしているので、そちらをご覧になっていただきたい。できたてのコンテが、いかに弾力があるか、お解りになると思う。

コンテは、工房で何日か面倒を見てから(préaffinageという)、熟成を専門にする業者に渡す。
それまでは、チーズを作っている人たちが、塩付け、反転して面倒を見るわけだが、これが大変な重労働。

まず、平たい木の棒で、チーズを前にずらす。
ある程度前に出たら、両手で引っ張り出し、膝で支えながら、反動をつけてひっくり返して、棚に戻す。
2日に一回、これを行っている。
また、塩付けする時も、塩をふって、引っ張り出して、丁寧に拭く。
これも大変な仕事だ。

だいたい、一つのコーペラティヴで、一日20個くらい作っているようだ。
筆者の同級生は、25個と言っていたが、型出しを一人でするので、大変だと言っていた。

この状態でおこる疾病は、「椎間板ヘルニア」。
重労働なので、組合が水泳などのスポーツをすすめて、腰痛防止に努めている。
ヘルニアまでいかなくても、チーズ職人に多いのが、腰痛。
特に、農家製の場合、型入れの時に中腰になる事が多いので、腰痛になる事が多い。

ボーフォールのコーペラティヴで。この容器は、ビドン(le bidon)と言いますが、結構な重さ。
筆者は、一人では持てませぬ・・・

以前、やはりFacebook Pageで、カマンベール農家の動画をUPしたが、筆者は、職人さんが、腰痛持ちと見た。
理由は、片手を腰の後ろにまわして作業をしていたから。
腰をかばっているように見える上、かがみ方が不自然だった。
一日に何時間も中腰姿勢を取らなければならないのは、つらい。
子供が跡を継がないのも、無理もない・・・

筆者も山羊農場でチーズ作りをしていた時、手が痛くなった事がある。
手のひらの、親指の付け根あたりが、痛いのである。
なんでだろう、と考えた末に、思い当たったのが、反転作業。
グリーユ(la grille)という、金網の上にのせたチーズを反転させるのには、もう一枚の金網で挟んで反転させる。

二段目の金網に、チーズをのせる。

山羊の場合、チーズと金網の合計で2〜3Kgだと思うので、そんなに重くない。
しかし、筆者は、いつも親指の付け根に重さをかけていたようである。
そこで、重さをかける場所を手のひら全体にしたところ、痛みがなくなった。

又聞きだが、牛乳を手絞りしている農家さんは、親指と人差し指の間の腱を痛める事が多いそうである。
農家製の場合、乳牛の数が少なければいいが、多いと手絞りは大変だ。

また、職業病になるかどうかは疑問だが、乳清(sérum:ホエー)のアレルギーもある。
筆者もなりかけたが、大丈夫だった。
これは、乳清カブレと言ったようなもので、乳清に触れたところが赤くなる。
漆カブレみたいなもんですな。

筆者の場合、赤くなって、痒くて、手がぼろぼろになったが、乾燥する時期が終わると、症状が出なくなった。
薬局で買った薬も効いたようだ。
しかし、山羊農家出身の同級生は、このアレルギーを持っていて、乳清のついたところが、パーっと赤くなるのを見た。
手袋をしないと、チーズに触れないと言っていたが、製造は、大変なようである。

シャロレ(le charolais)タイプのチーズ。右側のバケツの中身が、乳清。

どんな職業にも、疾病はつきものである。
チーズの疾病は、あまり知られていないが、コンテ組合は、職人確保のために、職業病を少なくしようと努力している。
つらい仕事は、やりたくないという若い人が多いのは、日本もフランスも同じ。
でも、若い人たちにこういう仕事の跡を継いでほしい。
年寄りのわがままかもしれないが・・・

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