2014年7月11日金曜日

チーズを作る:熟成の進み方

チーズの製造をざっと説明すると、以下のようになる。

原乳は乳酸菌を加えて、マチュラシオン(la maturation)という、乳酸菌の繁殖を促す工程を行う。
この工程は、殺菌乳にも無殺菌乳にも行われるし、どのタイプのチーズにもある。
その後、凝乳酵素を添加して、凝固させ、容器に詰めてそのまま出荷したり(フレッシュ)、型に入れて成形し、熟成させたりする。

そして、できたばかりのカイエ中には、色々な微生物がいるのだ。
無殺菌乳なら乳本来の微生物がいる。
殺菌乳なら、乳本来の微生物が少し残存し、減ってしまった微生物を補うために加えた、乳酸菌(Ferments lactiques)や熟成菌(Ferments d'affinage:熟成のための微生物、と言ったところ)がいる。
無殺菌乳の場合、乳酸菌は加えるが、熟成菌は、あまり加えない。

山羊のチーズいろいろ。真ん中のグレーのものは、カビ系。また、「AB」というのは、自然農法の印。

熟成時に活躍するのが、熟成菌である。

その熟成とは、何ぞや?

乳製品の辞書(フランスのもの)によると、
「チーズに物理化学的変化を与える自然の酵素や微生物によって、味、組織、見た目などが変わっていく期間を言う。チーズの種類によって、期間の長短は変化する。」
となっているが、これではよく解らない。

平たく言うと、チーズに含まれている蛋白質と脂肪が、酵母やカビ、菌によって分解し、風味や味、食感が好ましくなることを言う。
風味が悪くて食べられなかったら、熟成ではなく、腐敗かな?
発酵と腐敗も同じ事で、人間に役立てば発酵、役に立たなければ腐敗というのだから。

さて、それでは、進み方である。

できたばかりのフロマージュ・オン・ブロン(Fromages en blancs:型出ししたばかりの白いチーズのこと。おそらく、英語のグリーンチーズに相当すると思われる)の表面のpHは、かなり低い。
ここでは、変化の解りやすいPMについて、説明しよう。

PMのフレッシュチーズは、pHが4,3〜4,6くらいまで下がる。
ラクティック・ドミノンも、ミックスもこのくらいまで下がるのだ。
そこで、pHが低くても繁殖する微生物の出番となる。
それは何かと言うと、酵母(les levures)。

酵母にもいろいろあって、殺菌乳に加える乳酸菌と混ぜて使うものがある。
フランス語だと、ferments lactiquesだが、英語だとスターターと言うだろう。

酵母が繁殖して、乳酸を消費すると、だんだんpHが上がってくる。
そうすると、次に何がくるか?

ジェオトリクム(Geotrichum candidum)である。
こいつは面白い微生物で、酵母とカビのちょうど中間に当たるようなところに位置する。
そして、この微生物の特徴は、苦みを生産しない、という事なのだ。
これは、もの凄い利点である。

筆者の試作品。きれいにジェオが出て喜んでいたら、あっという間にトロトロになってしまった。
美味しかったけど、商品としては???

カマンベールタイプの白カビチーズの欠点で、一番困るものがgoût amer、「苦み」なのである。多少の苦みなら大目に見る事もできるが、たまに、かなり苦いものにあたったりする事もある。
工場製品では、白カビチーズの欠陥として、大きな課題の一つである。

以前、日本でも売っていたチーズで、プレジデント社の「カンパーニュ」という製品名のカマンベールがあった。
このチーズの色は、真っ白ではなく、やや黄色とグレーを帯びていて、カマンベールとしては、器量よし?ではない。

このチーズに使ってあったのが、ジェオ。
ペニシリウムを使わずに、ジェオだけを使った、面白いチーズだったのだが、今は、あまり見ない。
人気がなかったのかな?

この微生物が、なぜ苦みを作らないかと言うと、短鎖ペプチドを作らないから。

蛋白質は、アミノ酸の羅列で、分子量が多い。
これを急速に分解すると、短いアミノ酸の鎖がたくさんできる。
こいつが、苦みペプチドと呼ばれるものだ。
特に、白カビは、蛋白質の分解力が強いので、急速に分解し、苦みを作る事が多い。

しかし、ジェオだけだと、ホントに、苦みは出ない。
筆者も試作品を作っていて、うまくジェオが生えたものは、美味しくできた。
でも、熟成の進み方は、結構早く、すぐにトロトロになってしまう。
これは、欠点でしたな。
すべてよし、というわけにはいかない。

そして、ジェオの次ぎにくるものは?
ペニシリウム(Penicillium camenberti)である。
かなりpHが上がってからが、こいつの出番。

カマンベルティも色々な種類があって、サンタンドレのように、ふんわりと長い毛足のものから、AOPのカマンベール・ド・ノルマンディーのように、毛足が短くて、少しまだらになるようなものもある。
毛足の長い、ふわふわのものは、蛋白質の分解が早いようだ。
苦みと辛みが出る事が多い。

サンタンドレの写真がなくて、バラカになった。これは、サンタンドレとほぼ同じ。
ふわふわのカビと、脂肪分の高いチーズ。

特に、脂肪分の高い白カビ系は、辛みの出る事も多い。
これは、脂肪の分解によるものだろうが、熟成の若いうちに食べた方が、美味しいと思う。

さて、もっとpHが上がってから出てくるものがある。
ブレビバクテリウム・リネンス(Brevibacterium linens)である。
これも、蛋白質の分解力が強く、苦みの出る事が多い。
しかし、成功すると、旨味の詰まった、おいしいチーズができる。

筆者の試作品で、うまくリネンスが出たもの。

アフィネ・オ・シャブリ(Affiné au chablis)。少し、白カビが生えている。

大雑把に、熟成の進み方を説明したが、これは、あくまでも一般的なものだと思ってほしい。
熟成の進んだカマンベール・ド・ノルマンディーに、赤い斑点が出る事があるが、ある先生は、リネンスと言い、ある先生は、色素を作るのはリネンスだけじゃないから解らないと言うのだ。
結局、調べてみないと解らない、という事だ。

マコネ・ブルー。ブルーは欠陥とされる事もあるが、ラクティック・ドミノンの山羊チーズに出た場合、
歓迎される事もある。

サン・ネクテール(Saint-nectaire)。ミュコー(Mucor)と言うカビで、熟成させる。

チーズの中の微生物群は、人間がコントロールするには複雑すぎると、筆者は考える。
そう考えると、チーズ作りは、いまだに答えの見つからない方程式のようなものだ。
いろんな答えが出るのだもの。

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