2014年9月17日水曜日

チーズの製造方法:基本編 ミセル・ド・カゼイン(la micelle de caséine)

前回、カゼインには、4種類ある事を説明した。
では、カゼインは、どのように、乳中に存在しているのだろうか?

カゼインは、ミセル・ド・カゼイン(英語だとカゼインミセル)という塊の状態で、乳中に浮かんでいるとされている。
カゼインは、乳中の蛋白質の中で、チーズ製造に関わる最重要成分であるが、いまだにその構造がよく解っていない、へんてこな物質でもある。

カゼインの構造は、サブミセルからなっているという説が有力のようだが、電子顕微鏡の写真では、よく判らない。

カゼインミセルの電子顕微鏡写真。
(Dalgleish, D.G., P.Spagnuolo and H.D.Goff. 2004)

いくつかのカゼインミセルのモデルを見つけたので、載せておこう。

図-1:サブミセルがはっきりしたモデルともやもやしたモデルがある。

筆者の持っている資料では、図-2のモデルが載っているのだが、フランスで習ったのは、図-3のモデルである。
そのモデルにそって、カゼインミセルとは何ぞや、と考えてみよう。

図-2:フランス語の下に、日本語を入れておいた。リン酸カルシウムでミセルがつながっている。


図-3:筆者が習ったのは、このモデル。(Holt et Al 2003)

上のモデルが、Holt et Alの考えたカゼインミセルのモデルである。
もやもやしているのは、蛋白質の連なり。
そして、真ん中の部分がα-カゼイン、その外側がβ-カゼイン、一番外側がκ-カゼインであり、ひげ根のような蛋白質を生やしている。

ここでは、一番特徴のあるκ-カゼインを説明しよう。

κ-カゼインは、1〜169まで番号をつけたアミノ酸のつながりだが、主に二つの部分からできている。
1〜105までのアミノ酸のつながり部分と、106〜169のアミノ酸のつながり部分である。
この二つの部分がどのように違うかと言うと、106〜169までは、糖を含んで親水性だが、1〜105までは、疎水性なのだ。

ちなみに、α-カゼインもβ-カゼインも疎水性である。
だから、「疎水性と親水性の部分を持っている」事が、κ-カゼインの大きな特徴なのだ。

カゼインミセルがなぜ乳中に浮かんでいるかと言うと、一番外側に位置するκ-カゼインの親水性部分、ミセルの帯電、κ-カゼインの特殊な構造(毛状の蛋白質)のせいである。

ミセルは、-18mVに帯電しているので、その反発力によってくっつくのを免れている。
また、κ-カゼインの105〜169部分は親水性であるが、ミセルの真ん中にあるα-カゼイン、β-カゼインとκ-カゼインの1〜105の部分は、前述の通り、疎水性。

すなわち、疎水性の中心部を親水性の部分が包み込んで水に親和し、帯電してくっつくのを防ぎ、ひげ根のようなものを生やしているせいで、プカプカ(?)浮かんでいる、というわけである。

そうやって浮かんでいるカゼインミセルの大事な毛状の部分を切ってしまうのが、キモシン(la chymosine)。

キモシンがκ-カゼインの105のフェニルアラニン(Phenylalanine)と106のメチオニン(Méthionine)の間を切断すると、1〜105は、パラカゼインκになって、他のカゼインに取り込まれ、106〜169の部分はカゼイノマクロペプチド(le caséinomacropeptide:図-2のCMP)となって、水中に放出される。

帯電が喪失すると反発力がなくなる。
疎水性の部分がむき出しになると、水を避けて、寄り集まる。
だから、ミセル同士の結着がおこる。
また、ひげ根がなくなるせいで、浮いていられなくなる。
だから、カイエを形成するのである。

筆者の恩師は、キモシンじゃなくても、105-106の間は切れる、と言っていた。
切れりゃいいってモンじゃない、とも言ってましたな。
また、カゼインの構造を考える時、重要なのはミネラルである。
図-2にある、リン酸カルシウムが、ミセルの構造にとって、大事な役割を果たす。

次回は、ミネラルの話にしましょうか。

2014年9月10日水曜日

チーズの製造方法:基本編 乳中の蛋白質

アーカイブで、以前、乳成分について触れたが、改めて、乳成分についてお話ししよう。
まず、乳中には、なにがあるか?
下の図-1を見てもらうとわかるように、
  • 水分
  • 脂肪
  • 糖分(乳糖)
  • 窒素化合物
  • ミネラル分
である。

図1:乳成分(g/Kg)

今回の主題である、蛋白質は、窒素化合物の中に入る。
え?蛋白質だけじゃないの、とおっしゃる方もいるだろうが、動物の分泌物である。
そんなに単純じゃないのだ。

窒素化合物には、蛋白質と、非蛋白質がある。
窒素化合物非蛋白質の大部分は、尿素。
そのほか、アミノ酸(アミノ酸は、蛋白質ではない)、ペプチド(ペプチドも、蛋白質ではない)、クレアチニン、アンモニアなどがある。

フランスの学校では、このMAPを計測して、実習時の数値としていた。
今のところ、資料が無いので、どの程度、チーズに関与しているのかは、わからない。
老廃物と見なす事もあるようだ。
しかし、乳中には、カゼインだけでなく、色々な窒素化合物がある事を知ってほしい。

次に、チーズ作りに重要な、カゼインである。

カゼインには、
  • カゼインαS(αS-1とαS-2がある)
  • カゼインβ
  • カゼインκ
  • カゼインγ
の4種類がある。
このうち、カゼインγは、カゼインβの分解物なので、あまり気にしなくていいが、他の3種類は、チーズにとって、重要である。

まず、カゼインαS(アルファ エス)。

下の表-1を見てもらうとわかるように、牛乳では、カゼイン合計のうち、46%を占めている。羊乳も多く、47%。しかし、表-2を見てもらうとわかるように、山羊乳は、27%にすぎない。
表-1:動物の種類別による乳中蛋白質の内訳(下記のリンク中の表を日本語にしたもの)
http://www.fouillez-tout.com/bergerie/bergerie_analyse_lait.html

表-2:牛乳、山羊乳、羊乳中の蛋白質の内訳と、カゼインミセルの大きさ
(参照:「Le fromage:第3版」P35 Tableau 8 Caractéristiques micellaires comparées des laits de vache, de chèvre et de brebis.より抜粋)

これが何を意味するのかと言うと、山羊乳では、大きいチーズが作れないという事である。

なぜかと言うと、チーズの骨格である、「網目構造」を作るのは、カゼインαSだからである。そのカゼインαSが少ないのだから、しっかりした骨格が出来ないのだ。
だから、山羊乳では、PPCはほぼ無理である。
混乳なら、可能だが。

羊乳だと、PPCの製造は可能だが、脂肪分が邪魔をするので、長期熟成には向かない。
牛乳でも、長期熟成するコンテ(le comté)やパルミジャーノ・レッジャーノ(il parmigiano reggiano)は、エクレメ(écrémé:脱脂)して、脂肪分を減らしている。

次に、カゼインβ(ベータ)である。

αSが骨格を作るのなら、βは何をするのかと言うと、香味(la flaveur)を作る。
だから、βの多い山羊乳は、必然的に風味が強くなる。
山羊乳の場合、脂肪の分解物等も独特の匂い形成に関係するが、それは、脂肪分のところで説明しよう。

筆者が表-1で面白いと思ったのは、水牛乳である。
脂肪分が多いのは知っていたが、カゼインβが多いのは知らなかった。
という事は、水牛乳で、PPCを作るのは、難しいという事になる。

また、モッツァレラ。
水牛乳のモッツァレラは、牛乳のモッツァレラには無い、独特の柔らかさがある。
これは、カゼインβのせいではないかと推測する。
カイエの骨格が、きちんと出来ないのではないだろうか。
脂肪分だけの問題なら、ジャージー乳でも、同じ食感のものが出来るはずだ。

厳密に言うと、牛は牛属、水牛はアジア水牛属になり、乳成分の比率が違っていても、不思議は無い。

お次ぎは、カゼインκ(カッパ)。

このカゼインは、有名である。
何しろ、凝乳酵素によって、劇的な変化をし、カイエを作るのに、重要な役目をするからである。
κは、面白い事に、山羊乳に多い。

と、ここまで書いてきて、気がついた。
カゼインの構造を説明した方がいい。
ただ、カゼインの構造は、まだ完全に明らかになっているわけではないので、わかる範囲内で書いていこうと思う。

カイエがどのように出来ていくのかも、説明したいので、次回に書く事にしよう。

2014年9月4日木曜日

チーズ製造方法:基本編 乳成分

フランス時代、伝統的チーズ製造の講座にいたころ、"nouveau fromage"という題材のレポートを書いた事がある。
筆者は、全く新しい、今まで無かったようなチーズを作るというレポートを書くのだと思ったが、チームメートは、違った。

「新しいチーズ」という意味は、その工房で、どんなチーズを新しい商品として開発するかという事だったのだ。
筆者のチームメートは、まず、その工房でのキャパシテ、すなわち許容量を考えた。
どうして新しいチーズが必要になったのか、から始まるのである。

筆者の試作品。塩付けの後。ホモ牛乳なので、真っ白できれい!
このチーズは、赤くなるのが遅いのに、柔らかくなるのが早かったので、
筆者と家族のおなかの中へ・・・ワインがすすむ・・・

乳量が増える、作っているものの販売が芳しくない、など、色々な理由を考えて、どんなチーズを商品として加えたらいいのかというところから始まり、原乳の量から、どの程度の大きさのチーズが作れるか、また、個数は?と考えていく。
もちろん、工房の規模、新しい設備投資がどのくらいできるのか、でも変わってくる。

すごく面白い題材だった。

今、このレポートが役に立っている。
どのようなチーズを、どうして、どのような規模で、何を利用して作っていくのか。
筆者の工房に役立つような、課題だった。
そして、その時に考えたように、チーズを作っていこうと考えている。

筆者はどちらかと言うと、山羊専門で、山羊乳の事には詳しい。
何しろ、レポートを書く時、いやというほど調べたからだ。
しかし、いま、日本で作ろうとしているのは、牛乳のチーズだ。
基本は知っているけれど、使いこなすには、これから調べなきゃなるまいと、いろいろ調べてみた。

そこで、「乳成分」である。
まず始めに、チーズが出来る乳か、出来ない乳か、から参ろう。

乳は、大きく二つに分けられる。
Lait albumineux(レ・アルブミノー)とlait caséineux(レ・カゼイノー)である。

以下の表は、参考程度にしていただきたい。
何故なら、牛、山羊、羊の乳の成分比率は、地域や品種によって、変わるからである。

1リットルあたりの乳成分。下記のサイトの表を日本語訳したもの。
http://www.ledomainedetamara.fr/?page_id=133

この表を見てみると、人、馬科の動物は、蛋白質自体が少なく、炭水化物、すなわち、乳糖が多い。これは、脳との関係だろう。
反芻動物と、その他の動物を比べてみると、蛋白質の合計は、トナカイを除けば、その他の動物の方が多い(豚を除く)。
しかし、その他の動物では、カゼインも多いが、アルブミンも多い。

比率から見ると、反芻動物は、カゼイン/蛋白質合計が、78%以上だが、その他の動物は、ウサギを除いて50%以下である。
乳蛋白中、カゼインの比率の多い乳をカゼイノー、カゼインとアルブミンの分量が近いものをアルブミノーと言うのである。

アルブミノーの乳は、アルブミンがカゼインの周りに位置するので、もやっとしたコロイド状にはなるが、固まる事が出来ない。
だから、チーズにはならないのである。
ウサギは面白い事にカゼイノーなのだが、乳量の問題で、チーズ作りには向かない。
巨大なウサギでもいれば、可能だが・・・

また、人乳はアルブミノーなので、幼児は牛乳をうまく消化できないそうだ。
カゼインを消化するのがへたくそなのだろう。
筆者は、子供の頃から牛乳でおなかをこわした事が無いので、よく解らないが・・・

乳のpHは、「Initiation à la technologie fromagère」によると、6,6〜6,8となっている。
これは、カゼイノーのpHであるが、アルブミノーの乳のpHは、もっと高く、中性に近いという事だ。
ただ、pHが低いカゼイノー乳は、チーズを作る時に厄介だ。
pH6,6だと、作れるチーズが限定される。特に、殺菌乳の場合は。
この事は、いずれ、製造について書く時に、書こうと思う。

資料には載っていないが、モンゴルなどでは、ヤクの乳を使って、チーズを作っているそうだから、他の反芻動物でもチーズ製造は、可能だろう。
ただ、トナカイなど、北の方にいる動物の乳は、脂肪分が多いので、チーズを作るのは少し難しくなりそうだ。
あらかじめ、エクレメ(écrémé:脱脂)をしなければ、脱水がうまくいかないだろう。

また、ラクダ乳を使って、工場でチーズを作る試みがあると聞いたが、蛋白質を加えないと難しいとも聞いた。
ラクダ乳の資料が無いので、カゼイノーかアルブミノーかわからないが、固まりにくいらしいので、アルブミノーだろうと推測する。

乳が出れば、何でもチーズになるのではなく、分析すると、こんな風なのである。
羊、山羊が家畜化されたのが、紀元前8000年ごろ、牛は、紀元前6000年頃。
先人たちの知恵の結晶とも言える、食品だ。

次回は、乳成分を細かく見ていこう。
まず始めは、乳蛋白から。

2014年8月27日水曜日

チーズ製造方法:序

昨年の9月から、このブログを書き始めたので、約1年続けた事になる。
途中で入院したり、何を書いていいか判らなくなったりしたが、なんとか続けてこられたのは、読んで下さっている方々のおかげである。

楽しみにしているという励まし、質問、アドヴァイス。
始めは、よく言えば専門的、そうでなければ、理屈っぽいチーズブログを書いても、見てくれる人なんぞ、あんまりいないだろ〜な、と思って始めたのだが、読んでくれる人が思ったよりたくさんいらっしゃるようなので、感激している。

筆者も工房の開業が迫り、時間が取れなくなってきているので、このところ、週一でブログを更新する事が多くなった。
不器用なのと、不確かな事は書きたくないという思いで、調べ物をしてから書くようにしていると、なかなか書けない。

このところ、何を書いていったらいいのか、というのが、筆者の課題だった。

結論は、もっとチーズの製造に関して書いていこう、である。

筆者も自分のチーズを作る上で、復習する事も多い。
それなら、書き続けられるのではないかと思ったし、チーズ製造をしたい人に対して、力になれればと考えたからだ。

フランスでチーズの勉強をしていた時、日本に帰ってから、何が出来るのだろうと考えた。
自分で作るのもいいが、それだけではなくて、自分の学んできた事を伝えるのが役目だろうとも、思った。
若い人に、知識を伝えていく事で、農家製のチーズが、たくさん日本で出来るようになれば、産業としても上向きになるのではないかとも。(筆者は若くないので。後何年現役?)

ブルゴーニュのアルピンヌの群れ。

上のアルピンヌたちのマコネ。マコネは、反転しないから、富士山みたいになるのです。

もっと、多くの人にチーズのおいしさを知ってもらうために、色々な活動をしている人はたくさんいる。
仕事や、個人でフランスやイタリアの農家巡りをして、チーズを発信している人たちの、なんと多い事か!

彼らのしている事は、意義のある事だと思う。
筆者は、農家で働いていたし、学校にも行ったが、たくさんの農家を回ったわけではない。だから、働いていたところや学校の情報は持っているが、個々の農家に関しては、情報は無い。

ノルマンディー時代に訪ねた農家のホルスタイン。
ノルマンディーとブルターニュは、ホルスタインが多い。

そして今、自分の工房を作っているところなので、フランスには行けない。
行きたいけれど。
時間と資金に余裕があれば、系統立てて、農家を回る事も可能だが、いかんせん、時間も資金も無い。

だから、筆者は、日本のチーズの製造分野で、貢献したいのだ。
チーズの製造に関する話は、理系になるので、文系の方には難しいと思う。
筆者だって、高校の化学の知識だけでフランスの学校にいた時は、知らない事も結構あった。物理なんぞ、忘れている上に、フランス語。
???の世界だった。

だから、解りやすく書いていこうと考えている。
例えば、pHや酸度。
理屈は解らなくても、どのように使っているかが解れば、何とかなる。

なるべく、理系でない人にも解るように、書いていくつもりである。
筆者の説明では解りにくいと思ったら、本を紹介するなど、色々な人に理解してもらうように、努力をしていく。
でも、解らなかったら、どしどし質問してほしい。
何が解らないかを知る事も、筆者には、重要だからだ。

また、ブログには限度がある。
表を載せたいと思っても、うまくいかないし、言葉で説明するのとは違って、一方通行になりかねない。
いずれ、製造講座を企画するつもりだが、早くて来年になりそうである。

Facebook Pageの方では、フランスのチーズのサイトなどから、情報を仕入れて、きれいな写真も載せる事が出来る。
チーズそのものの情報は、そちらを見てもらうと変化があるだろう。
しかし、ブログは、チーズ製造そのものにスポットを当てよう。

次回からは、製造について。
チーズ製造の教科書の定石通り、始めは、「乳成分」である。

2014年8月20日水曜日

チーズを切り分ける

チーズの切り方は、いろんな人がいろんな事を説明していると思う。
例えば、チーズプロフェショナル協会や、チーズ教室をしている方達など。
みんな、きれいに盛りつけていて、すごいなと思う。
筆者は、きれいに盛りつけたいけれど、チーズの原型がわかった方がいいと思っているので、結局、ゴロゴロにしてしまう。

この写真は、「Produits laitiers」から引用したもの。筆者が作るとこんな風に、ゴロゴロになる・・・
http://www.produits-laitiers.com/2011/03/22/comment-composer-plateau-de-fromages/

フランス時代は、貧乏留学生だったので、ほとんどレストランで食事をした事が無い。
いつも、パンとチーズとワインを買って、家で食べる生活。
たまに、地方にいく事があって、ホテル(高級ではない)に泊まった時はレストランで食べた事もあるが、チーズは自分で切って、お皿に取る事が多かった。

フランス人も、チーズを切る事に関しては無頓着で、ノルマンディーの学校で、カマンベールの試食時に、同級生は(フランス人だ!)、端から切って食べていた。
均等に切る人なんぞ、いない。
筆者がサントモールの端を切って、藁を引き抜いてから反対側を切ろうとしたら、何やってんの、と、怒られたな。

レストラン関係の人は、きちんとするのだろうが、どーでもいいとも思う。
だけど、皆が美味しく食べる、という意味では、きちんと切り分けた方がよい。

今回、筆者はあまりいい写真を持っていないので、「Produits laitiers」の「Comment découper les fromages?(どんな風に、チーズを切るの?)」の記事と
http://www.produits-laitiers.com/2011/11/23/comment-decouper-les-fromages/
「TechnoResto.Org」の「Le service des fromages au restaurant(レストランでのチーズサーヴィス)」http://technoresto.org/tp/ta_fromages_bep/ta_fp.html
のイラストを引用する。「TechnoResto.Org」は、チーズのレストランサーヴィスを書いているので、興味のある方は、どうぞ。チーズサーヴィスのワゴンの図もあった。

Facebook Pageのチーズ A to Zを見た方は、見覚えのある写真だろう。
元々は、「Produits laitiers」の写真のようだ。すごくいい写真だと思う。

これも同じ、「Produits laitiers」から。図形みたいで、面白い。

一番いい方法は、「外側(皮の部分)と内側(柔らかいところ)が均等になるように切り分ける事」である。
しかし、チーズの大きさ、形によって、少し変化する。
ヤギのチーズなんて、どう切るんだ?と思った事もある。
そこで、「Produits laitiers」では、このように提案している。

  • 小さいか、中くらいの大きさで、丸く平たい形(カマンベールやルブロションなど)あるいは、ハート型のもの(ヌシャテルなど):
真ん中と端の部分が等しくなるようにする。真ん中から均等に切るとよい。


  • 丸くて大きいもの(ブリなど):
小さいチーズと同じように三角に切って、それを二つに切る。横に2つに切るといい。


  • ピラミッド型(ヴァランセなど)や筒形(シャロレなど):
丸いチーズのように切り分けるが、薄くなるので、横にして盛りつける。

ヴァランセなど。

ガプロンなど。

  • 四角いもの(マロワルなど):
最初に対角線に切ってから、切り分ける。2の倍数に切る事ができる。

  • 薪形(サントモール・ド・トゥーレーヌなど):
最初の一切れを取り除いてから、均等に切り分ける。サントモール・ド・トゥーレーヌの場合は、チーズをうまく切るために、藁を取り除くとよい。
サントモール・ド・トゥーレーヌの場合、端を切って、藁を抜き、反対側から切るときれいに切れる。
藁ごと切ると、チーズが崩れる。

  • 大型のチーズを切ったもの(コンテ、サレール、モルビエなど):
真ん中の部分を切り分けていき、半分のところで皮が均等になるように切る。


チーズ屋さんだと、コンテなどは、こんな風に大きく切る事が多い。
プラトーにする時は、上の2つのイラストのように切ると、平等になる。

  • ブルーチーズ(ブルードーヴェルニュ、フルム・ダンベールなど):
ロックフォールの場合は、4等分にし、それを扇子状に切る。フルム・ダンベールのような形のものは、始めに上から円盤状に切り、それからカマンベールのように切り分ける。

フルム・ダンベールなどの切り方。

  • 流れる様に柔らかいチーズ(モンドールなど):
上の部分の表皮をナイフで取り除き、スプーンを添える。


  • 特に固いチーズ(ミモレット・エクストラ・ヴィエイユなど):
切るのではなく、砕いて提供する。

また、テット・ド・モアンヌは、ジロールで花びら状にして、提供する。

切り方は、ざっとこんな感じだが、そんなに難しいものではない。
ただ、実際に切ると、なかなかうまくいかなかったりするのだが。
チーズに合わせた器具を使うのが、一番いいと言える。

筆者が、仕事でチーズを切る時に、一番使っていたのが、クロタンナイフ、ギロチン、ワイヤー。
ギロチンは、場所を取るし、高さが決まっているので不便なところもあるが、すごく使いやすいのだ。
カマンベールやポン・レベークなどもこれで切れるし、チェダーも大丈夫。
何しろ、まっすぐ切れるので、きれいなのである。
皮のあるPPNCは、皮にクロタンナイフで切れ目を入れれば、ギロチンでOK。

ワイヤーは、フランスで、持ち手のあるものを売っている。
フランスで買う時に、何を切るのか聞かれたが、何を切りたいのかわからなかった筆者は、適当に2種類買った。
寸法もいろいろあって、大きいチーズだと長く、小さいものを切る時には短いものを使うのだ。これは、かなり仕事で役に立った。

オメガナイフはほとんど使わなかった。
ブリなどのホールは、包丁でないと無理だが、ポーションなら、ギロチンを使っていた。ギロチンの利点は、チーズがくっつかないので、切り口がきれいになること。
ただし、固いものを無理矢理切ろうとすると、ワイヤーが切れてぶっ飛ぶので、ご注意を。

パリの雑貨屋さんで買った、プラトー。ガラス製なので、恐くて使えない・・・
ナイフも付属のもの。別売りで、ネズミの形をしたのもあって、お土産にしたっけ。

先週は、お盆休みで少しのんびりできると思っていたが、ぎっちりアポが入り、毎日出かける体たらく。Facebookの友達が、あちこち遊びにいっているのをいいな〜と見ていた。工房の工事も始まっているので、ますますバタバタの日々が始まりそうである・・・

2014年8月8日金曜日

チーズの起源

筆者は、考古学が好きである。
チーズがどこで生まれたのかにも興味があって、調べたところ、いい本を3冊ほど見つけた。

  • ジャレド・ダイアモンド氏の「銃・病原菌・鉄」
  • ポール・キンステッド氏の「チーズと文明」
  • ジャン・ボテロ氏の「最古の料理」

ピューリッツァ賞受賞。人類史を知るには、いい本です。

最古の料理は、メソポタミアの粘度板を解析したもの。
チーズと文明は、チーズから見た文明史。惜しむらくは、産業革命以降が、イギリスとアメリカに限定されていること。


まず、「銃・病原菌・鉄」は、人類史の本である。
だから、チーズ以外の事もたくさん書いてあり、人間がどのように発展してきたかが解って、興味深い。
この本によると、人間が、初めて食物を栽培し、定住生活に入った地域は、5つ。

  • メソポタミアの肥沃三日月地帯(南西アジア)
  • 中国
  • 中米(メキシコ中部、南部、その近隣の中央アメリカ)
  • 南米のアンデス地帯
  • アメリカ合衆国東部


これらは、確証があるそうだ。
この中で一番古い地域は、肥沃三日月地帯で、紀元前8500年と検証されている。
では、なぜここなのだろうか、どうして紀元前8500年なのだろうか、という疑問にも、この本は答えてくれる。

まず、なぜ人はこの地域で、食料を生産するようになったかと言うと、

  1. この13000年の間に入手可能な自然資源が減少し、狩猟生活をするための動植物確保が難しくなった。
  2. 獲物が少なくなった時期と重なって、気候が変化し、肥沃三日月地帯では、野生の穀類(大麦、小麦など)の自生範囲が拡大した。
  3. 食品生産をする上での知識が蓄積された。

が、理由である。
だから、紀元前8500年ほど前に、人々は肥沃三日月地帯に定住し、作物(主に穀類、豆類)を作って生活するようになったとこの本は伝えてくれる。

そこで、チーズをもたらしてくれる家畜についてだが、ダイアモンド氏は、家畜になった動物を「由緒ある14種」とし、その中でも5種を「メジャーな5種」としている。
それは、

  1. 山羊

である。
この5種の家畜の祖先は、すべてユーラシア大陸に分布していた。
それぞれのご先祖は、

  1. 羊:西アジアおよび中央アジアの「ムフロン」
  2. 山羊:西アジアの山岳地帯に生息する「パサン(ノヤギ)」
  3. 牛:ユーラシア大陸と北アフリカに生息していた「オーロックス」
  4. 豚:イノシシ
  5. 馬:南ロシアに分布していた、野生馬。

であるが、このうち、豚と馬はチーズを作る主な動物ではないので、羊、山羊、牛に話を絞ろう。

羊の先祖は、ムフロンとされているが、この種は現在でもコーカサス、イラン、イラクなどに生存している。ダイアモンド氏によれば、西南アジアで、紀元前8000年くらいに家畜化されたらしい。詳しい事は、以下、URLを参照していただきたい。
http://www.pz-garden.stardust31.com/guutei-moku/usi-ka/muhuron.html

山羊の先祖は、パサンで、これも現在、パキスタンやアルメニアなどに生息している。この動物も、紀元前8000年頃に、西南アジアで家畜化されたと見られている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/パサン
キンステッド氏によると、山羊が先に家畜化されたというのだが、筆者は同じ頃、同じような場所で、山羊と羊が家畜とされたと思う。
というのは、ダイアモンド氏によると、家畜化される動物には、特徴があり、山羊と羊はその点でよく似ているからである。

ダイアモンド氏によると、家畜化できる動物は、

  1. 餌の経済効果がよく(山羊は、身体の割に乳量が多く、何でも食べるので、フランスでは、「貧乏人の牛」と言われる)、
  2. 成長速度が速く、
  3. 繁殖しやすく(種付けしやすい)、
  4. 気性が穏やかで、
  5. パニックを起こさず(パニックを起こすと死んでしまう)、
  6. 序列性のある集団を形成する(人間がその群れのリーダーとなれるから)。

という特徴を持っている。
山羊、羊ともにこの性質を持っており、同じような時期に、同じような場所にいれば、どちらが先とも言えないと思う。

牛は、少し年代が下がって、紀元前6000年頃、西南アジアとインドで。
ヨーロッパの牛と、インドのコブ牛は、原種の牛から何十万年か前に分かれたと考えられている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/オーロックス

さて、いよいよチーズである。

家畜が増えると、人々は、肉を取るためだけではなく、乳も利用する事を考え始める。殺してしまえば、「はい、それまでよ」だが、乳利用ができれば、殺さずにすむ。
「最古の料理」の著者、ボテロ氏によると、メソポタミアの粘度板では、紀元前4000年末期にはチーズ様のものがあったようだ。

メソポタミアの粘度板には、色々な料理の作り方が書いてあり、チーズやバターが調味料として使われた様子が見られる。
ただ、ボテロ氏によると、肉とビールとパンが庶民のごちそうだったようで、乳は酸化が早いので、身分の高い人の飲み物だったようだ。
羊飼いは、乳利用ができたようだが(生乳をすぐに飲める環境にあったから)、もし、チーズ作りが盛んなら、乳利用だけでなく、チーズを作って保存したのではないかと思う。

キンステッド氏は、紀元前6000年くらいからチーズを作っていたという説を唱えていらっしゃる。氏の説は面白いのだが、「こし器」はやはりビール用のもので、チーズ用のものではないと思う。この容器からチーズが発見されれば証明になるが、例えば、乳を入れるために使ったとすれば、やがてヨーグルトから、チーズ用のものになるのは必然なので、やはり証明が難しいように思う。

ボテロ氏の説のように、紀元前4000年末あたりに、乳利用があったとするしか無いだろう。何しろ、文献が無いのだから。

その後、食物の製造と家畜の利用は、驚くべき早さで、ヨーロッパとインドに伝わる。
そして、ヨーロッパでは、独自の発達を遂げていくのだ。
アジアでは、古代のチーズの作り方を継承したように思う。
中国では、家畜が豚と犬であった事が乳利用をしなかった理由になるだろう。

黎明期の人間がどんな風に食べ物を栽培し、家畜を飼っていたのか。
知りたい事は沢山あるけれど、秘密の方がいいのかも?

2014年8月1日金曜日

チーズを作る:収益率(le rendement)

Facebookページ版 チーズ A to Zに、Saint Maure de Touraine 一つにどのくらいの原乳が必要か、という記事をシェアした。
チーズ一つ作るのにどのくらいの原乳が必要か、という事を、フランス語では、「le rendement」という。
日本語では、収益率、回収率とでも訳そう。

これは、チーズを作る上では、とても重要な事である。
というのは、チーズの原価や、生産高に影響するからだ。
要するに、少ない原料でたくさんできれば儲かるという事ですな。

1991年の資料なので、少し古いのだが、筆者の恩師、Mietton氏によると、牛乳100kgに対して、収益率は、だいたい以下のようになる。

  • 脱脂したフレッシュチーズ  :35-45kg
  • 型入れしたフレッシュチーズ :16-18kg
  • カマンベール        :14-15kg
  • サン・ポーラン       :10,5-11kg          
  • チェダーチーズ       :9,5kg
  • エメンタル、コンテ     :8,5-9,5kg 

「脱脂したフレッシュチーズ」は、日本で見かけるフロマージュ・ブロンの脂肪分0%の物と思っていただいて結構である。
「型入れしたフレッシュチーズ」は、フランスでは、「フェセル(la faisselle)」と呼ぶ、ラクティック・ドミノン製法のカイエを穴あきの型に入れただけのチーズや、山羊チーズなどをさす。カマンベールは、PM、サン・ポーラン、チェダーはPPNC、エメンタル、コンテはPPCである。

フェセル(la faisselle)。このパッケージをカップに入れて売っている。
山羊のシャロレタイプ。このチーズは一つ作るのに、2リットルの山羊乳が必要。
このチーズの収益率は、24%。PMとしては、かなり高かった。 

原乳の組成は、動物によって変わる。
例えば、羊乳は、脂肪分、蛋白質ともに、牛乳のほぼ倍。
モッツァレラを作る、水牛乳も、羊乳ほどではないが、蛋白質、脂肪分が多い。
だから、収益率も変わる。

この資料では、動物の種による差は書いていないが、見てもらうと解るように、パット・フレッシュ(la pâte fraîche)とPPCとの差が大きい。
大きな理由は、水分の含有量である。

牛乳の場合で考えると、固形分は、ほぼ10%。
残りが水分である。
だから、収益率は、大まかに言うと10%なのだが、チーズの工程によって、それが変化するのである。

市販のフロマージュ・ブロンの場合、工場製と農家製では作り方が違うが、だいたい、収益率は、上記の通りと思って、差し支えない。
かなり多くの水分を含むので、収益率が良いし、すぐ販売できるので、農家や小さい工房に取っては、強い味方だ。

上部の袋に入っているのが、フロマージュ・ブロンになる。

農家製チーズの講座にいた時、工房を作る時は、フレッシュを必ず入れた方がよいと教わった。熟成させるチーズは、熟成している間収入が無いので、資金的にフレッシュチーズを作る事を勧められる。
フレッシュチーズと他の熟成させるタイプを組み合わせて製造するのが一般的だ。

カマンベールタイプなどは、違う意味で大変である。
例えば、一つ250gのカマンベールを作るとしよう。
AOPでは、大きさが決まっているので、250g以下のチーズは、AOPのカマンベール・ド・ノルマンディーとして、販売できない。

ブリヤ・サヴァランの熟成前。3週間ほど置いておくと、もわっと白カビが生える。

販売をなさっている方は、時々見かけるだろう、大きなカマンベール・ド・ノルマンディーを。250gのはずなのに、300gくらいあったりする。
筆者が見た中で一番大きかったのは、330gあった。
こうなると、蓋がうまく閉まらなくて、不格好なパッケージになる。

これは、標準偏差というものをうまく使えば解消できるのだが、やはり計算がめんどくさい。農家は、いろいろ工夫して、表などを作っているところも多い。
大きくできてしまえば、お客さんは喜ぶが、生産者は損する事になる。
こんな事も、収益率に関係してくる。

サンポーランは、牛乳の固形分をそのまま取り入れた感じである。
ただ、PPNCは、デラクトザージュ(le délactosage:英語では、ウォッシング)という工程があり、ラクトースを排出させるので、それによって収益率が変わってくる。
délactosageの程度を上げれば、ラクトースはほとんど出て行ってしまう。
そうすると、収益率も少なくなる。

サン・ポーランの写真が無かったので、ミモレット。PPNCの同じタイプ。

チェダーチーズは、チェダリング工程で水分がかなり排出されるし、コンテなどのPPCは、温度を上げる事によって、水分排出を促すので、やはり水分が少なくなる。
という事は、収益率も下がるという事だ。

PPCのコンテ。

こう考えると、フレッシュチーズを作ればいいかな?と思うのだが、残念な事に、フレッシュチーズには、付加価値があまり無いのである。
チーズのおいしさは、熟成する事によって醸し出される、「ウマミ」にある。
熟成させるチーズを作るのは難しく、また収益率も下がり、すぐにお金にならない。
でも、その美味しさで、付加価値がつき、ファンがつく。

筆者も、工房で、フレッシュと熟成タイプを作ろうと考えている。

7月に、工房作りのための一山を無事に超える事ができて、ほっとしている。
ホントに7月はドタバタで、あれもこれも考えなくてはならず、また、行動しなくてはならず、家族にも「心、ここに在らずね」と言われたくらい、上の空。

まだ、二つ大きな山があるが、8月半ばまでは、少し落ち着けそうである。