2013年12月27日金曜日

エポワス:チーズの王様

前回、チーズ好きのプラトーを作ったが、悲しい事にヤギのチーズは家族にあらかた食べられた。筆者が食べたのは2口ですぞ、2口!
ロックフォールとナポレオンは、なんとか確保できて、コンフィチュールと蜂蜜をかけて食べた。
最高ですね。
だから、熟成の成功したエポワスは、熟成庫に入れて死守している。
セコいな・・・
と云う事で、エポワスについて、ウンチクを少し。
ベルトー社のエポワス。

19世紀の美食家、ブリヤ−サヴァランをして、「チーズの王様」と言わしめた、エポワス。
起源は、16世紀にまでさかのぼると言われている。
始めは、ウォッシュタイプのご多分に漏れず、修道院チーズだったらしい。
それが、農民に受け継がれたが、彼らは作り方を自分たちで改良していったのである。
初めて文献に出てくるのは、1775年。
1914年頃まで、多くの文献で賞賛され、作り方もこの間に確定したと言われている。

1914年から1956年頃にかけて、2度の大戦と農家製のチーズの衰退によって、エポワスも衰退時期に入る。
1950年には、たった2軒の農家が作っていただけだった。
1956年にベルトー社がエポワスの生産を始め、以降、何人かの生産者が、チーズをよみがえらせて今日に至るのである。

2012年では、1296トンを生産し、その約30%が輸出されている。
主な輸出国は、ヨーロッパ各国、カナダ、アメリカである。
現在、作り手はレティエが3軒、農家が1軒である。
エポワスのサイトのURLをのせておこう。
http://www.fromage-epoisses.com

作り方を見ていると、マール・ド・ブルゴーニュで表面を拭うのは、1953年の資料に出てくる。それ以前は、塩水だったり、マール・ド・ブルゴーニュだったりするようだ。
ラクティックのチーズは熟成、と云うより、うまく熟成させるための製造が難しいのだが、うまく熟成させると、至極柔らかくなって、美味なのである。

パリのチーズ屋さんで働いていた時に、エポワスは箱に入っていなかった。
ベルトー社のものだったが、下に紙が敷いてあるだけの、裸ん坊。
それを熟成してから、ラップして売っていたが、いつも柔らかいわけではない。
日本で働いていたときの知識で、エポワスは、柔らかくなるもんだ、ならないのはおかしいと思って、マダムに「こういうエポワスも売るんですか」と聞いてみたら、「固いのもあるし、こういうのは、こういうのが好きな人が買うから、置いときなさい」と云われて、そーなんだ・・・と目から鱗。
その後、学校の実習でラクティックのチーズの作り方を学んで、柔らかくなったり、ならなかったりする理論を学んで納得。
それ以来、チーズの食べ方は、自分の好きにしていいんだと思うようになった。

筆者はエポワスの味が好きである。
だからスプーンですくえなくてもいい。切って、そのまま食べる。
柔らかくなりすぎると、少し苦みが出るので、パンに塗って食べるのが好きだ。
今回は、熟成に挑戦してみたら、すごくうまくいって、とても嬉しい。
だから、写真を載せてしまおう。
熟成庫に入れて、1週間弱。美味です。

今年の9月からぽつぽつ始めたブログを読んでくださっている方たちに、ありがとう!
来年は、もう少し幅広く情報を発信したいと考えている。
Facebookページも同じ名前で展開しているので、興味があったら覗いてもらえると嬉しい。来年は、もう少し充実させる予定である。

来年は、皆様にとって、よい年になりますように。
よいお年を!

2013年12月20日金曜日

チーズプラトー:チーズ大好き人間編

筆者はチーズ大好き人間である。
チーズの会社に勤めていたときは、社販でパカパカ買っていたが、辞めた後はなかなか買えない。
高いのである。
家族がチーズ好きなので、それに便乗して買っている。禁断症状が出ているくらいなのだが、このブログのために(と言い訳しながら)、好きなチーズを買いあさった。
現在、冷蔵庫と熟成庫がチーズでいっぱいである。

嬉しい。

さて、チーズ好きの方のためのプラトー、どんなものが出来たか、ご覧に入れよう。

チーズ好きのためのプラトー
一番上は、干しぶどうとイチジク。時計回りに、ナポレオン10-12ヶ月熟成、ル・メロワ・ブラン(ヤギのチーズ)、エポワス、パルミジャーノ・レッジャーノ36ヶ月熟成、ロックフォール。お皿はバスク地方の特産品。

それぞれのチーズを説明しよう。

ナポレオン10-12ヶ月熟成
ナポレオン10-12ヶ月熟成:2011年にMOF(Meilleur Ouvrier de France:フランス最高職人)を勝ち取った、ドミニク・ブーシェ氏が手がけたチーズ。MOFは、シュバリエと違い、厳しい試験を突破しなければならない(シュバリエは認定)。氏が試験を受けた2011年、最終審査に残ったのは9人。合格したのは、たったの2人だった。
同じバスク地方のオッソ・イラティに似たチーズだが、こちらは彼のオリジナルなので、AOPは持っていない。羊乳特有のほろっとした食感は、脂肪分の高さによるもの。最後に残るふわっとした甘みが、羊乳チーズである事を示している。販売員の男性にウィスキーにあうと云われたが、むしろ産地の近いボルドーの赤ワインに合いそう。筆者なら、メルローかな。スリーズ・ノワール(黒いサクランボ)のジャムと合わせると美味しい。


ル・メロワ・ブラン
ル・メロワ・ブラン:筆者も初めて見るチーズ。フランスでは、ヤギのチーズをいたる所で作っていて、AOPなどを取得したもの以外は、よくわからない。名前のない、ただの"ヤギのチーズ"なんてのもあるくらいだ。
完全形はひし形だったが、半分に切ってもらった。エチケット(ラベル)を貰わなかったので、産地もわからないが、比較的状態が良かった。ただ、12月はヤギのチーズの時期ではない。5-6月頃が、一番美味しい時期だろう。筆者は、ヤギチーズ大好き人間。来年の5、6月、手に入れる事が出来れば面白い。


エポワス(ベルトー社)
エポワス:ブルゴーニュの有名なウォッシュチーズ。マール・ド・ブルゴーニュというブランデーの一種で表面を拭って仕上げる。このチーズはラクティックなので、うまく熟成すると、スプーンですくえるほど柔らかくなる。ただし、そういう風に熟成させるのは難しいが・・・
今回のチーズは、ベルトー社のもの。一時廃れかけたというエポワスを見事に復活させた立役者である。他のメーカーもあるし、一軒だけフェルミエ(農家製)もあるのだが、日本では、ベルトーのものが多いようである。
ウォッシュなので、冬によく売れるが、フランスでも値の張るこのチーズ、日本だと高嶺の花だ。筆者も大好きなのだが、クリスマスくらいしか、買えない。


パルミジャーノ・レッジャーノ36ヶ月熟成
パルミジャーノ・レッジャーノ36ヶ月熟成:世界的に有名な、イタリアのチーズ。本当の名前は、パルミジャーノ・レッジャーノだが、アメリカ読みのパルメザンでも有名(ちなみにフランスではパルメザンと言っている)。最低でも1年の熟成が必要で、巷によく出回っているものは、2年ものが多い。これはたまたま見つけた3年もの。以前、高島屋のペックで4年ものを見つけた事があるが、3年以上のものは専門店以外ではあまり見かけない。家族もチーズ好きで、レッジャーノの安いものを買って帰ったら、ブーイングが出たので、罪滅ぼし。
アミノ酸の塊があり、食べるとコリコリした食感がたまらない。バルサミコ酢をかけると美味しいそうだが、筆者はまだやった事がない。塩気がしっかりついているので、キャンティあたりのイタリアワインがよく合う。このチーズは、全部食べられる。ワックスなんぞ使っていない皮も料理に使えるのだ。シチューやカレー、スープなど、煮込む料理の時に一緒に煮込むと、出汁にもなるし、とろとろになって美味!


ロックフォール
ロックフォール:ブルーチーズの王様とも言える、フランスのチーズ。シャルルマーニュ大帝時代に既に存在していたと云われる、古いチーズで、ロックフォール・シュル・スールゾン村で熟成させたものしか、この名を名乗れない。イタリアのゴルゴンゾラ、イギリスのスティルトンとともに世界3大ブルーチーズとも言われ(日本でしか通用しない言い回し)、日本でもファンが多い。
羊乳製なので、白い生地をしている。また、他のチーズと違って、カビの入り方が、丸くて大きい。これはある乳酸菌の力によるもの。
脂肪分がやや高いので、コクがあり、ねっとりとした口当たり。青カビは塩分を好むため、塩気も強くしてあるが、羊乳特有の後味の甘さがたまらない。
ウチの家族は、そのまま切って食べてしまうが、筆者はバゲットの薄切りにのせて食べるのが好きである。気分によって、蜂蜜もかける。
筆者がロックフォール村に行ったのはずいぶん前だが、ロックフォールの熟成庫が圧巻だった。ロックフォールのサイトのURLをつけておこう。工場だが、作っているところのヴィデオも見られる。
http://www.roquefort.fr/actualites/decouvrir/le-fromage/

今回のチーズの購入先は、
ナポレオン、ル・メロワ・ブランは立川ルミネのチーズ王国、エポワス、パルミジャーノ・レッジャーノ36ヶ月、ロックフォールは立川ルミネの成城石井である。

皆さんが、自分の好きなチーズを見つけられる事を祈って。

2013年12月17日火曜日

チーズプラトー:チーズを食べてみたい人編

クリスマスになると、チーズが売れる。
ワインと一緒に楽しむ人が増えて、洋風のしゃれたつまみとして定着しつつあるのだろう。今回は、クリスマスにチーズを食べてみたい人向けに、食べやすいチーズプラトーの提案である。食べてみたいけど、まだよく解らない、買ってみて美味しくなかったらどうしよう、という方達の道しるべになればいいと思っている。

筆者が今日作成したプラトー。
一番上のカップ入りがブルサン・チャイブ、時計回りに、ドライフルーツのイチジク、赤いチーズがミモレット、隣の四角い白いチーズがバラカ、その横がピエダングロワ、斜め上がコンテ。コンテ横の黒いのは、干しぶどう。

これでは、何のチーズかよくわからないと思うので、一つずつご紹介しよう。

ブルサンチャイブ。
ブルサンチャイブ:フランス産のクリームチーズ。人気のチーズで、ニンニク入り、チャイブ入り、胡椒入り、ブルーチーズ入り、イチジク・レーズン入り、等がある。パンやクラッカーに塗って食べると、美味。ニンニク入りは、ソースとして、料理等にも使える。

ミモレット18ヶ月熟成
ミモレット:これは、18ヶ月熟成。他にも、6ヶ月、12ヶ月などがある。赤い色が特徴。なぜか、男性に人気がある。カラスミに味が似ているので、吟醸酒などともよくあう。18ヶ月などの固いものは、一晩冷蔵庫から出しておいてから切ると簡単。

バラカ。
バラカ:馬蹄型をした、カマンベールににたチーズ。馬蹄形は、フランスで幸運を呼ぶと言われている。ただし、筆者はフランスで見た事がない。どうやら、輸出用のチーズらしい。原乳にクリームを添加しているので、食べやすいがかなり高脂肪。チーズ全体から見て、43%の脂肪分である。パンやクラッカーにのせて食べると美味。フルーティーな白ワインとどうぞ。

ピエダングロワ。右斜め下の赤い封蠟が目印。
ピエダングロワ:カマンベールと間違えそうな色と形だが、分類はウォッシュになる。ウォッシュには珍しく、高脂肪で、チーズ100g中の脂肪分は、31%。普通のウォッシュが23%前後だから、バラカほどではないが、高脂肪である。根強いファンがいるチーズの一つ。パッケージが頻繁に変わっているが、赤い封蠟を模した印がこのチーズの特徴である。そのまま食べても、パンやクラッカーにのせても美味しい。軽めの赤ワインとよく合う。

コンテ。
コンテ:スイスとの国境に近い、フランシュ・コンテ地方のチーズ。原型は、40Kgほどもある、大きな山のチーズである。フランス人が大好きなチーズの一つで、パリのスーパーマーケットでもパック入りをよく見かける。長期熟成したものは、中にアミノ酸の結晶が出来て、コクが増してくる。パンにのせるより、そのまま食べた方が美味。辛口の白ワインか、シェリーがよくあう。

今回のチーズは、すべてフランス産。ブルサンがカルディ、その他は成城石井で購入した。

チーズプラトーを作るときは、ドライフルーツを添えると見栄えもよいし、箸休めのようになっていい。今回のプラトーは、だいたい1200円くらいで出来た。
この時期は、チーズの専門店で、チーズの盛り合わせを売っている事も多いが、こんな風に自分で組み合わせてみるのも楽しい。

次回は、マニアックチーズ・プラトーを作ってみようかな?

2013年12月13日金曜日

チーズに使う凝乳酵素

フランスにいた時に使っていた、チーズ製造法の参考書を読み返して、日本語に翻訳している。
いつ、訳し終えるのか、未定。
なにしろ、891ページもある分厚い本。しかも、フランス時代は、講義に必要なところだけを拾い読みしかできなかった。まだ目を通していないところも沢山ある。

2007年に出版の本だから、最新の情報とは違うところもあるだろう。
工場製のチーズに関する事が多いが、農家で作るチーズにも応用できるところが沢山ある、いい本である。
そして、現在読み返しているところが、"凝乳酵素"。
なかなか読み終わらない、参考書・・・

この間、チーズの製造の記事のところで、凝乳酵素について少し書いた。
今回は、もう少し詳しく書こう。

凝乳酵素は、大きく分けて4種類ある。

  1. プレジュール(=レンネット)
  2. 植物性凝乳酵素
  3. カビの作り出す酵素
  4. 遺伝子組み換えキモシン(キモシン=凝乳酵素)
1. プレジュールは、乳離れしていないウシ科の動物の第4胃から抽出される物質であり、主に2つの酵素、"キモシン"、"ペプシン=胃に含まれる消化酵素"からなる。

2. "植物性凝乳酵素"は、古くから使われてきた、イチジクの樹液などに含まれる酵素。現在でも、ポルトガルの"セーラ"と云うチーズが、"朝鮮アザミ"の雄しべの抽出物を凝乳物質として使っているので有名。扱いが難しく、工場では使われない。

3. "カビの作り出す酵素"は、ある種のカビが生産する、キモシンと同じような働きをする酵素である。利用するカビはいくつかあるが、工場で作っており、メーカーによって、原料が違う。

4. "遺伝子組み換えキモシン"は、遺伝子を組み換えた微生物(大腸菌など)に合成させた、純粋なキモシン。

ここで、ちょっと筆者が"プレジュール"と云う言葉に固執する理由を述べておこう。

1.の"プレジュール"の英訳が、"レンネット"である。

フランス語では、3と4の酵素については違う名前があり、3だと"カビ性酵素"、4だと"遺伝子組み換えキモシン"。そして、"凝固プロテアーゼ(protéase coagulante)"、あるいは"凝乳酵素(enzyme coagulante)"という、凝乳酵素全体としての名前がある。
フランスのチーズの箱には、原材料として何を使っているか、書いてある。プレジュールは、プレジュール(présure)と書いてあるが、"enzyme coagulante"と書いてあれば、カビ性酵素の可能性が高い。と云うのは、遺伝子組み換えの酵素は、フランスではまだ許可されていないはずだからだ。
バラカと云うチーズ。

真ん中辺りに、"présure"という文字が見える。バラカはプレジュール使用のチーズだった。

しかし、英語圏では、2の場合だけでなく、3も4も、"植物性レンネット(vegetal rennet)"という言葉を使うのだ。だから、レンネットという言葉は、曖昧だと思う。
特にアメリカでは、遺伝子組み換え酵素をよく使う。
値段が安いのと、凝固させる時に、原乳のpH調整がプレジュールより簡単だからである。筆者のフランス時代の先生によれば、アメリカ産の工場製のチーズは、ほとんど遺伝子組み換えレンネットを使っているそうだ。

英語圏でこの酵素の利用が多いのには、もうひとつ、重要な理由がある。
英語圏に多い、ベジタリアンのためなのである。
ベジタリアンには、いくつか段階があって、チーズを食べる人たちと、日本のお坊さんのように、完全に動物性たんぱく質を摂取しない人たちがいるのだ。
チーズを食べるベジタリアンたちにとって、動物性原料は御法度だから、彼らのために"植物性レンネット"を使うチーズがあるのだろう。だったら、"遺伝子組み換えキモシン"あるいは、"カビ性酵素"と書いてほしい。

しかし、フランス時代、先生が、"chymosine fermentaire" = 発酵キモシンという言葉を使っていた。筆者が疑問に思って質問したら、"遺伝子組み換えキモシン"だと響きが悪いので、"chymosine fermentaire" = 発酵キモシンと言うのだと言う返事だった。
なんだか、誤魔化しているみたいで、気持ちが悪い。

ベジタリアンの人たちの為にこのようなチーズがあり、工場製のチーズでは、伝統的なプレジュールを使わなくても問題ない、と、筆者は思う。ただ、ごまかさず、何を使っているか、きちんと記載してほしいだけだ。
アイルランドのチェダーチーズ。


アイルランドチェダーの裏ばり。四角で囲んだ下に、原材料が書いてある。
Pasteurised Milk, Cheese Culture(乳酸菌), Salt, Enzymes(酵素).
酵素しか書いていないので、遺伝子組み換え酵素の可能性が高い。 

また、プレジュールをとるために、乳離れしていない幼獣を殺していると非難している人もいるようだが、これは非難されるべき事ではない。
確かにプレジュールをとるのだが、肉もきちんと食用にしているはずだ。しかも、プレジュールをとるのは、雄なのである。
乳利用するために家畜を飼う人々にとって、雄は一頭いればいい。だから、雄は、ほとんど子供のうちに、肉用になる。筆者はヤギの牧場にいたが、雄の子ヤギはある程度の大きさになると、肉用に売っぱらわれた。ソーセージになるのである。
また、種付け用の雄も、アラブ人が買って、食用にしていた(牧場の裏で解体していた!)。
だから、決して残酷なのではなく、そういう文化なのである。
人間は、基本的に肉も野菜も食べる雑食性の動物なのだ。

筆者は、フランスで、日本人が、クジラを食べるのはいけない、と、全然知らないフランス人から怒られた事がある。
筆者としては、なんで怒られるのか、理解できなかった。筆者が子供の頃、クジラはよく学校給食で食べていたし、安くておいしい肉の代表だったからだ。
しかし、クジラを食べる文化のない人たちには、理解できないのだろう。
でも、いろいろな文化があるのだと筆者は思う。お互いの文化を認めないと、解り合えない。

人間は、霞を食べて生きられない。
ベジタリアンが食べる植物だって、生き物なのである。
だったら、残さないで、全部利用するのが、我々の礼儀なのではないだろうか・・・

2013年12月9日月曜日

モンドールとウォッシュチーズ

寒い季節は、ウォッシュタイプのチーズがいい。
暑い季節は、匂いが気になるし、味がくどくていけない。
寒い季節に、赤ワインや、シャルドネと一緒に食べると、いっそう美味しい。
前回、モンドールの事を説明したから、今度は食べ方といこう。

昨日、"チーズに親しむ会"を催し、前回紹介したモンドールを皆で味わった。
全部で6種類のチーズを出したが、モンドールはおおむね女性陣に人気で、男性陣は、ミモレットやコンテ等に軍配を上げていた。
やはり、匂いが気になるらしい。

確かに、水で洗って、熟成庫に入れていたから、トロッと仕上がっていたが、匂いはきつめだった。
熟成のさせ方は簡単。洗剤などがついていないブラシを水につけてこするだけ。熟成庫は、10℃、湿度約95%に設定したが、普通の冷蔵庫でもOK。アルミホイルで包んで、ビニール袋に入れて、野菜室に置こう。このとき、濡らして丸めたティッシュなどを一緒に入れると乾燥を防ぐのでなおよい。
水で洗ったモンドール

スプーンですくって、パンやクラッカーにのせて食べると本当に美味。
余ってしまっても平気だ。
白ワインを少しかけて、200℃のオーヴンで焼くだけ。このとき、上部をアルミホイルで覆う事を忘れずに。
これは、パンでも美味しいが、ジャガイモとの相性が抜群である。
モンドールのサイトでは、フランス語だが、ビデオも見られる。
女性が器用にモンドールを箱に入れているのを見る事ができる。
http://www.mont-dor.com/#

モンドールの色はあまり赤くないが、普通ウォッシュタイプのチーズは、赤い色素を出す微生物のせいで表面が赤くなる。
エポワス、マンステールなどが有名。
エポワスは、日本でも人気で、スーパーマーケットなどでも見かけるようになった。
美味しいが、モンドールと同じく、値が張るのが欠点。
一番右の赤いチーズがエポワス。少し、固めでしたね。

マンステールもクサイがおいしいチーズである。
パリでクミン入りのマンステールを見つけて買って食べてみたら、美味しかった。筆者はハーブや香辛料は平気だから美味しく感じたのかもしれないが。
パリで食べた、クミン入りマンステール。美味!

ウォッシュチーズは、日本酒によく合う。
一度、試しててみてはいかがかな?

2013年12月6日金曜日

クリスマスのチーズ、モンドール

チーズの製造なんぞという堅苦しい事ばかり書いたので、ここらでちょっと一休み。
凝乳酵素の話は、ちょっとあとで。
と云う事で、今回のテーマは"モンドール"。

フランス西北部、スイスとの国境に近いジュラ地方に、AOP(Appellation d'Origine Protégée:ヨーロッパで保護している食品が名乗れる呼称)を取得した、モンドールというチーズがある。近年、クリスマスのチーズとして、とみに有名になってきた。クリスマスシーズンになると、パリでもよく見かける。
日本でも人気で、クリスマス近くになると、よく売れているようである。
先日購入したモンドール。現在熟成中。

さてこのチーズ、分類から言うと、ソフトタイプ中の、ウォッシュという事になる。
特徴は、"エピセア"(写真のチーズのすぐ外側に見える、焦げ茶色の木)と云う、もみの木の一種の皮で周りをぐるっと巻いてある事だろう。木の匂いのする、ちょっと変わったチーズである。

歴史をひもとくと、起源は中世にまでさかのぼる事ができるそうだ。
中世の修道院の"l'hospice"(=オスピス:旅人、巡礼等を無料で泊める、修道院付属宿泊所)で作っていたらしい。初出の文献は、1764年のジョン・ジャック ルソーの手紙だそうである。また、ルイ15世の食卓にも上がっていたとも言われている。

ジュラ地方のチーズは、山のチーズであり、コンテ、モルビエ、ブルー・ド・ジェックス等がAOPとして有名であるが、このモンドールは、山のチーズだが、修道院チーズでもある。大きさが3種類あり、大きいものでも3Kgほどである。
コンテが40-45Kgほど、モルビエが7-10Kgほど、ブルー・ド・ジェックスが7Kgくらいだから、小さいチーズなのである。
AOP規則によると、重さが480g-3,2Kgとなっているが、だいたい小さいサイズが480g、中くらいのものが700g、大きいものが2,8Kgくらいと記憶している。

山のチーズには大きいものが多い。冬の食料にするためである。ジュラ地方は冬の寒さが厳しく、積雪も多いので、夏のように牛の食料が十分ではない。
必然的に、干し草のみになり、乳量は減るのである。
乳量が減ると、コンテのように大きいチーズを作るのは難しい。コンテ一つを作るのに、450Lほどの牛乳が必要になるからだ。
ジュラ地方は、今でも行われている"コーペラティブ"と呼ばれる協同組合を作って、原乳を持ち寄ってチーズを作る習慣がある。だから大きいチーズが作れる。
しかし、モンドールは修道院チーズが発祥なので、山のチーズなのに小さいと考えられるのだ。

昔の名前が、また面白い。
"木のチーズ"、"クリームのチーズ"、"釣りの餌のチーズ"。
釣りの餌のチーズ、の意味がよくわからないのだが、直訳するとこうなる。
今度ジュラに行ったら、どういう意味か、確かめようと思っている。

また、ヴァシュランというのは、牛のチーズの総称のようで、起源はあまり古くないらしい。コンテもこの名がついていた事があるようだ。
ジュラ山脈を挟んで、フランス産は"モンドール"、スイス産は"ヴァシュラン・モンドール"と云っている。その差は原乳の違い。
フランス産は、無殺菌乳、スイス産は殺菌乳である。

製造が8月15日から翌年の3月15日まで、店頭に並べる事ができるのは、9月10日から5月10日までと云う、限られた時期にしか、食べられないチーズ。
輸入食品を扱っているスーパーや、チーズの専門店でみつける事ができるだろう。
次回は、その食べ方と、余ったときのお楽しみを伝授しよう。
パリのチーズ屋さん。ショーケースの上に乗っているのがモンドール。

同じくパリのチーズ屋さん。赤い箱ではなく、その上の木の箱がモンドール。700gくらいのものが主流。

2013年12月2日月曜日

チーズの製造方法 2 "凝固"

前回は、原乳の話をしゃべりすぎた。
チーズをすでに製造している方達は、こんな事は百も承知という事柄だろうが、これから自分でチーズを作りたいという方達には、大前提になる大事な話だったので、つい力が入ってしまった。
やっと、本題であるチーズ製造の話へ移る事ができて、ほっとしている。

さて、第1段階にあたる、"凝固"。
チーズプロフェショナル協会の教科書にもあるが、乳凝固には、3つの方法がある。

  1. 酵素による凝固
  2. 酸による凝固
  3. 熱による凝固
である。

酸による凝固は、ヨーグルトと考えてよい。
筆者が子供の頃、牛乳にオレンジジュースを混ぜて、かなり柔らかいゼリー状のものを作ってよく食べていた。飲むヨーグルトのオレンジ味みたいで、美味しかった記憶があるが、これが典型的な酸凝固。
ヤギチーズのカイエ・ラクティック製造中!


熱による凝固というのは、少し特別になる。
蛋白質は、熱によって凝固するという性質がある。
皆さんも、やけどをする事があるだろう。
これは、人間の皮膚蛋白の熱凝固である。

液体である乳中の蛋白質は、2種類あり、カゼインと水溶性蛋白質である。
カゼインは熱の影響をあまり受けないが、水溶性蛋白質は、比較的低温でも影響を受ける。
牛乳を加熱すると、上に膜ができるが、これは水溶性蛋白質が固まったもので、この現象を"ラムズデン現象"と言っているようだが、よくわからない(外国の文献があまりない)。
チーズでは、インドのパニールや、セロム(乳清=ホエー)から作るチーズ、リコッタやブロッチュなどが熱凝固チーズに相当する。ただ、これらのチーズは、酸凝固の力も使っている。

チーズを作るには、二つの力を借りて凝固させているように思える。
熱凝固も酸の力を借りているし、酵素凝固も乳酸菌の力を借りて凝固させるからである。
ただ、遊牧民たちのチーズは、酸凝固だけのようで、脱水したあとに天日干しし、乾燥させて保存している。一般的に、東洋型チーズは酸凝固、西洋型チーズは酵素凝固と言われるが、厳密に言うと、酵素凝固だけのチーズは、ほとんどない。

"チーズと文明"のポール・キンステッド氏によると、酵素凝固は、かなり古くから存在していたらしい。そして、植物性酵素、動物性酵素ともに使用されていたそうである。
先日お話しした、チーズの分類中の"ラクティック"も、ちゃんと酸凝固と酵素凝固を組み合わせて作っている。原乳のpHとプレジュールの量で、カイエが決まるのである。

一口に酵素凝固と言っても、色々な酵素がある。
大きく分けて、伝統的な、植物性酵素と動物性酵素、最新技術によるカビの酵素と遺伝子組み換え微生物によって合成した酵素がある。
筆者が"レンネット"と云わずに"プレジュール"を使っているのも理由があってこそ。最新技術による酵素の名前が、まぎわらしいからなのである。
凝固メカニズムは難しいので、次回は、凝乳酵素のお話をしようと思っている。
ブルゴーニュのヤギチーズ工房案内。後ろの建物にヤギがいる。

チーズ工房内。窓際のバケツの中にカイエが入ってる!