2013年12月13日金曜日

チーズに使う凝乳酵素

フランスにいた時に使っていた、チーズ製造法の参考書を読み返して、日本語に翻訳している。
いつ、訳し終えるのか、未定。
なにしろ、891ページもある分厚い本。しかも、フランス時代は、講義に必要なところだけを拾い読みしかできなかった。まだ目を通していないところも沢山ある。

2007年に出版の本だから、最新の情報とは違うところもあるだろう。
工場製のチーズに関する事が多いが、農家で作るチーズにも応用できるところが沢山ある、いい本である。
そして、現在読み返しているところが、"凝乳酵素"。
なかなか読み終わらない、参考書・・・

この間、チーズの製造の記事のところで、凝乳酵素について少し書いた。
今回は、もう少し詳しく書こう。

凝乳酵素は、大きく分けて4種類ある。

  1. プレジュール(=レンネット)
  2. 植物性凝乳酵素
  3. カビの作り出す酵素
  4. 遺伝子組み換えキモシン(キモシン=凝乳酵素)
1. プレジュールは、乳離れしていないウシ科の動物の第4胃から抽出される物質であり、主に2つの酵素、"キモシン"、"ペプシン=胃に含まれる消化酵素"からなる。

2. "植物性凝乳酵素"は、古くから使われてきた、イチジクの樹液などに含まれる酵素。現在でも、ポルトガルの"セーラ"と云うチーズが、"朝鮮アザミ"の雄しべの抽出物を凝乳物質として使っているので有名。扱いが難しく、工場では使われない。

3. "カビの作り出す酵素"は、ある種のカビが生産する、キモシンと同じような働きをする酵素である。利用するカビはいくつかあるが、工場で作っており、メーカーによって、原料が違う。

4. "遺伝子組み換えキモシン"は、遺伝子を組み換えた微生物(大腸菌など)に合成させた、純粋なキモシン。

ここで、ちょっと筆者が"プレジュール"と云う言葉に固執する理由を述べておこう。

1.の"プレジュール"の英訳が、"レンネット"である。

フランス語では、3と4の酵素については違う名前があり、3だと"カビ性酵素"、4だと"遺伝子組み換えキモシン"。そして、"凝固プロテアーゼ(protéase coagulante)"、あるいは"凝乳酵素(enzyme coagulante)"という、凝乳酵素全体としての名前がある。
フランスのチーズの箱には、原材料として何を使っているか、書いてある。プレジュールは、プレジュール(présure)と書いてあるが、"enzyme coagulante"と書いてあれば、カビ性酵素の可能性が高い。と云うのは、遺伝子組み換えの酵素は、フランスではまだ許可されていないはずだからだ。
バラカと云うチーズ。

真ん中辺りに、"présure"という文字が見える。バラカはプレジュール使用のチーズだった。

しかし、英語圏では、2の場合だけでなく、3も4も、"植物性レンネット(vegetal rennet)"という言葉を使うのだ。だから、レンネットという言葉は、曖昧だと思う。
特にアメリカでは、遺伝子組み換え酵素をよく使う。
値段が安いのと、凝固させる時に、原乳のpH調整がプレジュールより簡単だからである。筆者のフランス時代の先生によれば、アメリカ産の工場製のチーズは、ほとんど遺伝子組み換えレンネットを使っているそうだ。

英語圏でこの酵素の利用が多いのには、もうひとつ、重要な理由がある。
英語圏に多い、ベジタリアンのためなのである。
ベジタリアンには、いくつか段階があって、チーズを食べる人たちと、日本のお坊さんのように、完全に動物性たんぱく質を摂取しない人たちがいるのだ。
チーズを食べるベジタリアンたちにとって、動物性原料は御法度だから、彼らのために"植物性レンネット"を使うチーズがあるのだろう。だったら、"遺伝子組み換えキモシン"あるいは、"カビ性酵素"と書いてほしい。

しかし、フランス時代、先生が、"chymosine fermentaire" = 発酵キモシンという言葉を使っていた。筆者が疑問に思って質問したら、"遺伝子組み換えキモシン"だと響きが悪いので、"chymosine fermentaire" = 発酵キモシンと言うのだと言う返事だった。
なんだか、誤魔化しているみたいで、気持ちが悪い。

ベジタリアンの人たちの為にこのようなチーズがあり、工場製のチーズでは、伝統的なプレジュールを使わなくても問題ない、と、筆者は思う。ただ、ごまかさず、何を使っているか、きちんと記載してほしいだけだ。
アイルランドのチェダーチーズ。


アイルランドチェダーの裏ばり。四角で囲んだ下に、原材料が書いてある。
Pasteurised Milk, Cheese Culture(乳酸菌), Salt, Enzymes(酵素).
酵素しか書いていないので、遺伝子組み換え酵素の可能性が高い。 

また、プレジュールをとるために、乳離れしていない幼獣を殺していると非難している人もいるようだが、これは非難されるべき事ではない。
確かにプレジュールをとるのだが、肉もきちんと食用にしているはずだ。しかも、プレジュールをとるのは、雄なのである。
乳利用するために家畜を飼う人々にとって、雄は一頭いればいい。だから、雄は、ほとんど子供のうちに、肉用になる。筆者はヤギの牧場にいたが、雄の子ヤギはある程度の大きさになると、肉用に売っぱらわれた。ソーセージになるのである。
また、種付け用の雄も、アラブ人が買って、食用にしていた(牧場の裏で解体していた!)。
だから、決して残酷なのではなく、そういう文化なのである。
人間は、基本的に肉も野菜も食べる雑食性の動物なのだ。

筆者は、フランスで、日本人が、クジラを食べるのはいけない、と、全然知らないフランス人から怒られた事がある。
筆者としては、なんで怒られるのか、理解できなかった。筆者が子供の頃、クジラはよく学校給食で食べていたし、安くておいしい肉の代表だったからだ。
しかし、クジラを食べる文化のない人たちには、理解できないのだろう。
でも、いろいろな文化があるのだと筆者は思う。お互いの文化を認めないと、解り合えない。

人間は、霞を食べて生きられない。
ベジタリアンが食べる植物だって、生き物なのである。
だったら、残さないで、全部利用するのが、我々の礼儀なのではないだろうか・・・

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