2014年4月18日金曜日

チーズと病原菌:リステリア菌

チーズ業界の人間にとって、リステリア菌は、目の敵である。
フランスでも同じで、原乳中に検出されてはいけない菌の一つだ。
こいつが検出されたら、チーズはすべて廃棄。
原因を突き止めるために、その工房は、製造禁止となる。

サロン・ド・フロマージュでみた、色々なチーズ。美味しそう・・・

なんで、こんなに忌み嫌われるのか?

この菌は、日和見菌なので、健常者に対しては、重篤な症状を起こさないが、身体の弱っている人、抵抗力の弱い人に対しては、重篤な症状を起こすからである。
だから、お年寄り、子供、妊婦、それから免疫力が低下している人は、注意しなければならない。
内閣府の食品安全委員会のPDFを見つけたので、URLを貼っておく。
症状、その他はこちらで確認していただきたい。
http://www.fsc.go.jp/sonota/listeria.pdf

じゃあ、どんな菌で、どういう風に我々の口に入るのだろう?

我々は、リステリア菌と一口に言っているが、6種類あり、そのうちの「リステリア・モノシトジェンヌ(Listeria monocytogenes)」が、人間に対して害を及ぼす。
厄介なのは、そこらへん中にいること。
動物の糞、サイレージなどの餌、土壌、水・・・
チーズを作る上での環境の至る所にいるのである。

この菌の特徴として、

  • 熱に弱い。(72℃-20sで死滅する)
  • pH5,6以下で増加しない。
  • 塩分に強い。
  • 水分量97%が最適。

である。
これを見ると、リスクのあるチーズが、自ずと解る。
そう、PM、すなわち、ソフトタイプの白カビ、青カビ、ウォッシュなどである。

フランスだと、ウォッシュタイプでこの菌による重大な事故も起こっている。
そのために、2007年に、カマンベールAOPに殺菌乳の使用を許可してほしいという、大手企業からの要請もあった。INAOは拒否したが。

だけど、ちょっと考えてほしい。
原乳に検出されてはいけない菌なのだ。
だから、原乳には入っていないと考えられるのだ。
従って、チーズを作る時に入ると考えていい。
それを防ぐためには、何をすればいいかというと、設備の衛生管理、特に人間の衛生管理である。

使用する水に関しては、水質検査が義務であり、設備の衛生も定期的にしなければならないはずだ。
問題は、人間なのである。

ENIL時代の、PMの先生がこぼしていた。
その先生は、モンドールの指導にいく事も多々あったらしいのだが、コンテとモンドールを一緒に作っている工房(ほとんどがそうだが)では、モンドールに対する衛生観念が低いと言っていた。
彼によれば、コンテはPPCすなわち、56℃くらいにまで温度を上げる工程があるので、リステリア菌に対するリスクが低い。そのために、モンドールに対しても、同じ意識になってしまうとの事だった。

筆者がENILで学んでいた頃だから、統計の年度が古いと思うが、10年ほど前の統計で、コンテの表皮にリステリアが出たという資料を見たことがある。
その後は、0になっていたから、そのときだけなのだろう。
コンテの場合、表皮は食べない。固くてまずいっすよね。

だから、衛生に対する意識が低いのだと先生はぼやいていたのだ。
筆者も、少し恐ろしい張り紙をモンドールの工場で見た事がある。
「落としたチーズは、棚に戻さない事」
という事は、戻している人がいるという事ですな・・・

また、「菌は、飛んでこない。」というのも見た事がある。
フランス人の悪口を言うわけではないが、男女を問わず、トイレの後に、手を洗わない人が多い。個人の住宅では、トイレと風呂場が別の場合、トイレの中に手を洗う設備がないのが普通だ。
ノルマンディーの学校時代にも、先生が口を酸っぱくして、手洗いの大事さを説いていた。カマンベールの本場だものな。

少し画像が悪いが、ノルマンディーの工場見学時の写真。ちゃんとキャップ、マスク、手袋をしている。

という事で。
日本の衛生志向は、少し行き過ぎの感もあるが、衛生観念がないのも困る。
日本の衛生環境なら、きちんと管理をすれば、無殺菌乳でチーズが作れそうだが、保健所が許可しないようである。
また、妊婦は、無殺菌乳製の白カビ、青カビ、ウォッシュ、また、フランス製に限らず、無殺菌乳製で、表皮も食べるものにも、注意したほうがいいだろう。

2 件のコメント:

  1. 初めてコメントさせていただきます、と言いますか、今日初めてこのサイトを発見しました。リステリア菌のことは昨年受験したCP試験にも出てましたが、教本記載はなく、あまり詳しく書いてあるものもなく、なんとなくシュレッドチーズのことだけの印象でしたが、わかりやすく説明してあり大変役に立ちました。他のページもとても勉強になります。ありがとうございます!

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    1. 浜田様、返信が遅れてすみません。ブログに興味を持っていただいて、ありがとうございます。CPに限らず、日本ではリスクの事をあまり語らない傾向があるようです。でも、リスクを知る事も重要だと思っているので、これを書いた次第です。これからもよろしくお願いします!

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