昔のテレビコマーシャルで、「海水を真水にします」というのがあったが、それの親戚だ。小さな穴があいた管を通す事によって、液体中の水分量を調節する事といえば、いいだろうか。
要するに、「膜」の技術である。
色々なものに応用されているようだが、チーズの製造にも使われている。
フランスのギオトー社(Guilloteau)のチーズがそうだ。
日本でよく見かけるのは、パヴェ・ダフィノワ、フロマジェ・ダフィノワ。
パヴェ・ダフィノワは、脂肪分がノーマルタイプのようだが、計算すると50%ほど。
フロマジェ・ダフィノワは、60%ほどだから、ダブルクリームである。
フロマジェ・ダフィノワ。立川のチーズ王国で購入。 残念ながら、パヴェ・ダフィノワは手に入らなかった。 |
特徴は、口当たりがいい。
何というか、普通のチーズにない食感。
こってりしているのに、滑らかな感じがするのである。
真ん中の芯の部分もクリームっぽい。
ギオトー社のサイトでは、均一性がある、とあった。
フロマジェ・ダフィノワの断面。均一である。 |
クロミエ フェルミエ。断面が不均一で、気泡も見える。 |
なぜそうなるのか?
これは、製造方法にある。
ウルトラフィルトラシオンと普通のチーズの製造方法は、違うのだ。
一般的に、チーズの作り方は、3段階に分かれると、以前説明した。
順番は、1. 凝固、2. 脱水、3. 熟成 である。
しかし、ウルトラフィルトラシオンは、この順番が違うのである。
1. 脱水、2. 凝固、3. 熟成 になる。
この方法は、膜によって、水分を濾し、蛋白質その他の有機物を濃縮する技術なのである。
手順は、次の様になる。
- 原乳を管に通す。
- 蛋白質の多いレトンタ(Rétentat)が管に残り、ほとんど水分であるペルメア(Perméat)は、穴から排出される。
- レトンタに乳酸菌、プレジュールを投入して、凝固させる。
- 凝固したカイエを成形して、熟成させる。
もちろん、水分調節もするし、管を通す時には、圧力をかける。
使い方によって変わるが、穴の大きさは、ざっと、0,1〜0,01ミクロンの間。
目的は、蛋白質の回収と考えていい。
ウルトラフィルトラシオンをつかう最大のメリットは、乳清蛋白をチーズ中に取り込める事なのだ。本来なら、水溶性蛋白は、乳清とともに排出されるのだが、この方法を使うとチーズ中に残るのである。
だから食感が、他のチーズと違う。
乳清蛋白が入っている分、蛋白質の含有量が多いからだ。
また、型入れも楽だし、時間の節約になる。
普通のチーズだと、カイエを穴のあいた型に入れて、一日くらい置いておく。
この工程がなくなるのだから。
チーズの学校にいたとき、筆者のクラスはこの実習をしなかったが、他のクラスが行っていて、話を聞いたら、絹ごし豆腐みたいな塊を切り分けたと言っていた。
見られなかったのは残念だが、何となく想像がつく。
また、ミクロフィルトラシオン(la microfiltration)という技術もある。
こちらはもう少し穴が大きくなり、主に菌の芽胞などを除去するのに使われているそうだ。
工場製のチーズの技術は、高度になってきている。
フランスのカマンベール工場は、右から牛乳を流すと、左側では、チーズになっている。
アメリカのチェダー工場は、完全密封をしていて、全自動。
人間は覗き窓から製造を監督しているだけだ。
完全密封のキューヴから、真空パックされたチーズの塊が最終商品として出てくる。
後は、冷蔵庫にフォークリフトで運んで(塊がでかい!)熟成させるのだ。
これも一つの方法だろう。
しかし、食べ物が大地や海に根ざし、人間がそれを育んできた事を忘れてはいけないのだと、つくづく思うのである。
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