2014年6月17日火曜日

チーズを作る:チーズの欠陥(les défauts)

チーズを売っていると、時々、へんてこなチーズに出くわす。
よく見かけるのは、カマンベールの「キャスケット(la casquette)」。
切ってみるとよくわかるのだが、芯の部分が不均一である。
また、チーズ全体も高さが違っているのがわかる。

キャスケット(la casquette)。右側は熟成が進み、左側はまだ芯がある。

こうなっていると、熟成が均一に進まない。
熟成の進んだ部分と進まない部分の差が、味の差になる。
これは、チーズを外から触ってみればよく解るので、筆者はカマンベールを買う時は、よく触って確かめてから買うことにしている。

理由は、型入れをした時に、カイエがうまく均一にならなかったから。
Retournement と言う、反転作業は、一つずつするのではなくて、まとめて行う。
だから、結構な重さになり、力持ちの男なら一人で出来ない事もないが、だいたいは、二人がかりで行う。
それでも、中身が偏ってしまう事があるのだ。

Camembert de Normandie は、型に入れた後、上に薄い金属板を乗せる。
こうすると、カイエが落ち着いて均一になるのだが、これは筆者が学校で教わった事。
工場製では、行っているかどうか・・・

他にもある。
「ガマ肌(le peau de crapaud)」である。
これは、ラクティックのチーズに多い現象で、ジェオトリクムが関与している。

日本でよく見かけるのは、山羊のチーズ。
また、Camembert de Normandieは、ラクティックなので、これにもよくある。
脳みそみたいに、うにょうにょした表面をしていて、これも、味の不均一化をまねく。


美味しそうだが、これはガマ肌(le peau de crapaud)。何年か前に、山羊チーズの組合が、
défautの解決策を考えるプロジェクトを作ったと聞いたが、どうなったのだろう・・・

原因は、水分過多。
チーズの生地に水分が多すぎるとこうなる。
ラクティックのチーズは、カゼインによる網目構造が十分でないので、毛細管現象で、水分が表面に出てくる。水分が出てきた時に、上手に逃がしてやればいいのだが、うまくいかないと、表面にいるジェオトリクムによって、うにょうにょが出来るというわけだ。

また、「猫の毛(le poil de chat)」というのもある。
ミュコー(mucor)というカビが生えたもので、猫の毛のように見えるところからこの名がついた。
これは、いろんなチーズに生えるが、よく見るのは、山羊チーズとPPNC。
サンネクテール(Saint Nectaire)の場合には、Mucorで熟成させているので、当然、生えている。

ふわふわした毛が生えている。こうなると、苦みが出てくる事が多い。

なぜ、こいつが生えると困るのか、というと、見てくれではなくて、このカビは、蛋白質の分解力が強く、チーズがにがくなったり、柔らかくなりすぎたりするからである。
フランスのチーズショップにいた時は、山羊チーズは、Mucorが生えると手でつぶし、PPNCの場合は、紙でこすって取ってましたな。

ちょっとピンぼけなので解りにくいかもしれないが、
左から2本目の奥の方と右から2本目の前の方に生えている。

固いタイプのチーズの場合、日本でよくあるのは、レニュール(Lainure)。
これは、チーズに横に割れ目が入っていて、縦に切ると二つに分かれてしまうもの。
コンテだと、本当の意味でdéfautとは言わないとされているが、ない方がいい。

これは、あまりよくないレニュール。

レニュールの小さいもので、もっと沢山あるものを、ベック(bec)と言う。
こっちは、完璧なdéfautで、見た目も味も良くない。

理由は、型入れの時に空気が入ったかあるいは、カイエ中の微生物によるガスの発生と考えられる。また、カイエの状態によって、よくくっつかなかったということもある。
割れ目がほとんど見えないようなものは、味の変化などもあまり感じないが、割れ目が開いているものは、やはり味に変化が出る。

固いチーズの場合、時々、表面にひび割れが入っているようなものもある。
これも、その部分の熟成がうまくいかない事が多いので、défautの一つである。
原因は、モルジュ(Morge)の不足によって、表面が乾燥したためである。

ボーフォール(Beaufort)のひび割れ。

また、ミル・トゥル(Mille trous)といって、コンテなどにエメンタルのようにたくさん穴があいてしまう現象もある。
プロピオン酸が作るCO2のせいなら、きれいな丸い穴があくのですぐ解るが、硫化水素のせいなら、穴が縦長になり、チーズが膨らんでしまう事もある。
これは、コンテとしては、販売できない。

これは、エメンタル。穴の形がおかしいのが見て取れる。
縦長になっている。

一生懸命作っていても、おかしなチーズが出来てしまう事があるのは、仕方ない。
たくさん出来てしまうと、困るが・・・
試作品を作っていると、本当に、チーズは生き物だなあ、と感じる。
いつも同じ形、味、風味のものは出来ない。
微生物と仲良くなる方法は、ないものかな?

2 件のコメント:

  1. はじめまして、yuuと申します。
    最近、チーズの魅力にはまり、いろいろなチーズを食しているところです。
    試したチーズの歴史などをネットで調べているうちにkazukoさんのblogに辿り着きました。

    チーズ情報満載で本当に楽しいです。
    ワタクシは食べるだけのほんの趣味程度ですが、kazukoさんは作り手なんですね〜

    今後の掲載もすごく楽しみにしております。

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    1. ありがとうございます。ここのところ、忙しくて、先週は一回しかかけませんでしたが、なるべく週二回をクリアすべく、頑張ります!

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