2014年8月27日水曜日

チーズ製造方法:序

昨年の9月から、このブログを書き始めたので、約1年続けた事になる。
途中で入院したり、何を書いていいか判らなくなったりしたが、なんとか続けてこられたのは、読んで下さっている方々のおかげである。

楽しみにしているという励まし、質問、アドヴァイス。
始めは、よく言えば専門的、そうでなければ、理屈っぽいチーズブログを書いても、見てくれる人なんぞ、あんまりいないだろ〜な、と思って始めたのだが、読んでくれる人が思ったよりたくさんいらっしゃるようなので、感激している。

筆者も工房の開業が迫り、時間が取れなくなってきているので、このところ、週一でブログを更新する事が多くなった。
不器用なのと、不確かな事は書きたくないという思いで、調べ物をしてから書くようにしていると、なかなか書けない。

このところ、何を書いていったらいいのか、というのが、筆者の課題だった。

結論は、もっとチーズの製造に関して書いていこう、である。

筆者も自分のチーズを作る上で、復習する事も多い。
それなら、書き続けられるのではないかと思ったし、チーズ製造をしたい人に対して、力になれればと考えたからだ。

フランスでチーズの勉強をしていた時、日本に帰ってから、何が出来るのだろうと考えた。
自分で作るのもいいが、それだけではなくて、自分の学んできた事を伝えるのが役目だろうとも、思った。
若い人に、知識を伝えていく事で、農家製のチーズが、たくさん日本で出来るようになれば、産業としても上向きになるのではないかとも。(筆者は若くないので。後何年現役?)

ブルゴーニュのアルピンヌの群れ。

上のアルピンヌたちのマコネ。マコネは、反転しないから、富士山みたいになるのです。

もっと、多くの人にチーズのおいしさを知ってもらうために、色々な活動をしている人はたくさんいる。
仕事や、個人でフランスやイタリアの農家巡りをして、チーズを発信している人たちの、なんと多い事か!

彼らのしている事は、意義のある事だと思う。
筆者は、農家で働いていたし、学校にも行ったが、たくさんの農家を回ったわけではない。だから、働いていたところや学校の情報は持っているが、個々の農家に関しては、情報は無い。

ノルマンディー時代に訪ねた農家のホルスタイン。
ノルマンディーとブルターニュは、ホルスタインが多い。

そして今、自分の工房を作っているところなので、フランスには行けない。
行きたいけれど。
時間と資金に余裕があれば、系統立てて、農家を回る事も可能だが、いかんせん、時間も資金も無い。

だから、筆者は、日本のチーズの製造分野で、貢献したいのだ。
チーズの製造に関する話は、理系になるので、文系の方には難しいと思う。
筆者だって、高校の化学の知識だけでフランスの学校にいた時は、知らない事も結構あった。物理なんぞ、忘れている上に、フランス語。
???の世界だった。

だから、解りやすく書いていこうと考えている。
例えば、pHや酸度。
理屈は解らなくても、どのように使っているかが解れば、何とかなる。

なるべく、理系でない人にも解るように、書いていくつもりである。
筆者の説明では解りにくいと思ったら、本を紹介するなど、色々な人に理解してもらうように、努力をしていく。
でも、解らなかったら、どしどし質問してほしい。
何が解らないかを知る事も、筆者には、重要だからだ。

また、ブログには限度がある。
表を載せたいと思っても、うまくいかないし、言葉で説明するのとは違って、一方通行になりかねない。
いずれ、製造講座を企画するつもりだが、早くて来年になりそうである。

Facebook Pageの方では、フランスのチーズのサイトなどから、情報を仕入れて、きれいな写真も載せる事が出来る。
チーズそのものの情報は、そちらを見てもらうと変化があるだろう。
しかし、ブログは、チーズ製造そのものにスポットを当てよう。

次回からは、製造について。
チーズ製造の教科書の定石通り、始めは、「乳成分」である。

2014年8月20日水曜日

チーズを切り分ける

チーズの切り方は、いろんな人がいろんな事を説明していると思う。
例えば、チーズプロフェショナル協会や、チーズ教室をしている方達など。
みんな、きれいに盛りつけていて、すごいなと思う。
筆者は、きれいに盛りつけたいけれど、チーズの原型がわかった方がいいと思っているので、結局、ゴロゴロにしてしまう。

この写真は、「Produits laitiers」から引用したもの。筆者が作るとこんな風に、ゴロゴロになる・・・
http://www.produits-laitiers.com/2011/03/22/comment-composer-plateau-de-fromages/

フランス時代は、貧乏留学生だったので、ほとんどレストランで食事をした事が無い。
いつも、パンとチーズとワインを買って、家で食べる生活。
たまに、地方にいく事があって、ホテル(高級ではない)に泊まった時はレストランで食べた事もあるが、チーズは自分で切って、お皿に取る事が多かった。

フランス人も、チーズを切る事に関しては無頓着で、ノルマンディーの学校で、カマンベールの試食時に、同級生は(フランス人だ!)、端から切って食べていた。
均等に切る人なんぞ、いない。
筆者がサントモールの端を切って、藁を引き抜いてから反対側を切ろうとしたら、何やってんの、と、怒られたな。

レストラン関係の人は、きちんとするのだろうが、どーでもいいとも思う。
だけど、皆が美味しく食べる、という意味では、きちんと切り分けた方がよい。

今回、筆者はあまりいい写真を持っていないので、「Produits laitiers」の「Comment découper les fromages?(どんな風に、チーズを切るの?)」の記事と
http://www.produits-laitiers.com/2011/11/23/comment-decouper-les-fromages/
「TechnoResto.Org」の「Le service des fromages au restaurant(レストランでのチーズサーヴィス)」http://technoresto.org/tp/ta_fromages_bep/ta_fp.html
のイラストを引用する。「TechnoResto.Org」は、チーズのレストランサーヴィスを書いているので、興味のある方は、どうぞ。チーズサーヴィスのワゴンの図もあった。

Facebook Pageのチーズ A to Zを見た方は、見覚えのある写真だろう。
元々は、「Produits laitiers」の写真のようだ。すごくいい写真だと思う。

これも同じ、「Produits laitiers」から。図形みたいで、面白い。

一番いい方法は、「外側(皮の部分)と内側(柔らかいところ)が均等になるように切り分ける事」である。
しかし、チーズの大きさ、形によって、少し変化する。
ヤギのチーズなんて、どう切るんだ?と思った事もある。
そこで、「Produits laitiers」では、このように提案している。

  • 小さいか、中くらいの大きさで、丸く平たい形(カマンベールやルブロションなど)あるいは、ハート型のもの(ヌシャテルなど):
真ん中と端の部分が等しくなるようにする。真ん中から均等に切るとよい。


  • 丸くて大きいもの(ブリなど):
小さいチーズと同じように三角に切って、それを二つに切る。横に2つに切るといい。


  • ピラミッド型(ヴァランセなど)や筒形(シャロレなど):
丸いチーズのように切り分けるが、薄くなるので、横にして盛りつける。

ヴァランセなど。

ガプロンなど。

  • 四角いもの(マロワルなど):
最初に対角線に切ってから、切り分ける。2の倍数に切る事ができる。

  • 薪形(サントモール・ド・トゥーレーヌなど):
最初の一切れを取り除いてから、均等に切り分ける。サントモール・ド・トゥーレーヌの場合は、チーズをうまく切るために、藁を取り除くとよい。
サントモール・ド・トゥーレーヌの場合、端を切って、藁を抜き、反対側から切るときれいに切れる。
藁ごと切ると、チーズが崩れる。

  • 大型のチーズを切ったもの(コンテ、サレール、モルビエなど):
真ん中の部分を切り分けていき、半分のところで皮が均等になるように切る。


チーズ屋さんだと、コンテなどは、こんな風に大きく切る事が多い。
プラトーにする時は、上の2つのイラストのように切ると、平等になる。

  • ブルーチーズ(ブルードーヴェルニュ、フルム・ダンベールなど):
ロックフォールの場合は、4等分にし、それを扇子状に切る。フルム・ダンベールのような形のものは、始めに上から円盤状に切り、それからカマンベールのように切り分ける。

フルム・ダンベールなどの切り方。

  • 流れる様に柔らかいチーズ(モンドールなど):
上の部分の表皮をナイフで取り除き、スプーンを添える。


  • 特に固いチーズ(ミモレット・エクストラ・ヴィエイユなど):
切るのではなく、砕いて提供する。

また、テット・ド・モアンヌは、ジロールで花びら状にして、提供する。

切り方は、ざっとこんな感じだが、そんなに難しいものではない。
ただ、実際に切ると、なかなかうまくいかなかったりするのだが。
チーズに合わせた器具を使うのが、一番いいと言える。

筆者が、仕事でチーズを切る時に、一番使っていたのが、クロタンナイフ、ギロチン、ワイヤー。
ギロチンは、場所を取るし、高さが決まっているので不便なところもあるが、すごく使いやすいのだ。
カマンベールやポン・レベークなどもこれで切れるし、チェダーも大丈夫。
何しろ、まっすぐ切れるので、きれいなのである。
皮のあるPPNCは、皮にクロタンナイフで切れ目を入れれば、ギロチンでOK。

ワイヤーは、フランスで、持ち手のあるものを売っている。
フランスで買う時に、何を切るのか聞かれたが、何を切りたいのかわからなかった筆者は、適当に2種類買った。
寸法もいろいろあって、大きいチーズだと長く、小さいものを切る時には短いものを使うのだ。これは、かなり仕事で役に立った。

オメガナイフはほとんど使わなかった。
ブリなどのホールは、包丁でないと無理だが、ポーションなら、ギロチンを使っていた。ギロチンの利点は、チーズがくっつかないので、切り口がきれいになること。
ただし、固いものを無理矢理切ろうとすると、ワイヤーが切れてぶっ飛ぶので、ご注意を。

パリの雑貨屋さんで買った、プラトー。ガラス製なので、恐くて使えない・・・
ナイフも付属のもの。別売りで、ネズミの形をしたのもあって、お土産にしたっけ。

先週は、お盆休みで少しのんびりできると思っていたが、ぎっちりアポが入り、毎日出かける体たらく。Facebookの友達が、あちこち遊びにいっているのをいいな〜と見ていた。工房の工事も始まっているので、ますますバタバタの日々が始まりそうである・・・

2014年8月8日金曜日

チーズの起源

筆者は、考古学が好きである。
チーズがどこで生まれたのかにも興味があって、調べたところ、いい本を3冊ほど見つけた。

  • ジャレド・ダイアモンド氏の「銃・病原菌・鉄」
  • ポール・キンステッド氏の「チーズと文明」
  • ジャン・ボテロ氏の「最古の料理」

ピューリッツァ賞受賞。人類史を知るには、いい本です。

最古の料理は、メソポタミアの粘度板を解析したもの。
チーズと文明は、チーズから見た文明史。惜しむらくは、産業革命以降が、イギリスとアメリカに限定されていること。


まず、「銃・病原菌・鉄」は、人類史の本である。
だから、チーズ以外の事もたくさん書いてあり、人間がどのように発展してきたかが解って、興味深い。
この本によると、人間が、初めて食物を栽培し、定住生活に入った地域は、5つ。

  • メソポタミアの肥沃三日月地帯(南西アジア)
  • 中国
  • 中米(メキシコ中部、南部、その近隣の中央アメリカ)
  • 南米のアンデス地帯
  • アメリカ合衆国東部


これらは、確証があるそうだ。
この中で一番古い地域は、肥沃三日月地帯で、紀元前8500年と検証されている。
では、なぜここなのだろうか、どうして紀元前8500年なのだろうか、という疑問にも、この本は答えてくれる。

まず、なぜ人はこの地域で、食料を生産するようになったかと言うと、

  1. この13000年の間に入手可能な自然資源が減少し、狩猟生活をするための動植物確保が難しくなった。
  2. 獲物が少なくなった時期と重なって、気候が変化し、肥沃三日月地帯では、野生の穀類(大麦、小麦など)の自生範囲が拡大した。
  3. 食品生産をする上での知識が蓄積された。

が、理由である。
だから、紀元前8500年ほど前に、人々は肥沃三日月地帯に定住し、作物(主に穀類、豆類)を作って生活するようになったとこの本は伝えてくれる。

そこで、チーズをもたらしてくれる家畜についてだが、ダイアモンド氏は、家畜になった動物を「由緒ある14種」とし、その中でも5種を「メジャーな5種」としている。
それは、

  1. 山羊

である。
この5種の家畜の祖先は、すべてユーラシア大陸に分布していた。
それぞれのご先祖は、

  1. 羊:西アジアおよび中央アジアの「ムフロン」
  2. 山羊:西アジアの山岳地帯に生息する「パサン(ノヤギ)」
  3. 牛:ユーラシア大陸と北アフリカに生息していた「オーロックス」
  4. 豚:イノシシ
  5. 馬:南ロシアに分布していた、野生馬。

であるが、このうち、豚と馬はチーズを作る主な動物ではないので、羊、山羊、牛に話を絞ろう。

羊の先祖は、ムフロンとされているが、この種は現在でもコーカサス、イラン、イラクなどに生存している。ダイアモンド氏によれば、西南アジアで、紀元前8000年くらいに家畜化されたらしい。詳しい事は、以下、URLを参照していただきたい。
http://www.pz-garden.stardust31.com/guutei-moku/usi-ka/muhuron.html

山羊の先祖は、パサンで、これも現在、パキスタンやアルメニアなどに生息している。この動物も、紀元前8000年頃に、西南アジアで家畜化されたと見られている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/パサン
キンステッド氏によると、山羊が先に家畜化されたというのだが、筆者は同じ頃、同じような場所で、山羊と羊が家畜とされたと思う。
というのは、ダイアモンド氏によると、家畜化される動物には、特徴があり、山羊と羊はその点でよく似ているからである。

ダイアモンド氏によると、家畜化できる動物は、

  1. 餌の経済効果がよく(山羊は、身体の割に乳量が多く、何でも食べるので、フランスでは、「貧乏人の牛」と言われる)、
  2. 成長速度が速く、
  3. 繁殖しやすく(種付けしやすい)、
  4. 気性が穏やかで、
  5. パニックを起こさず(パニックを起こすと死んでしまう)、
  6. 序列性のある集団を形成する(人間がその群れのリーダーとなれるから)。

という特徴を持っている。
山羊、羊ともにこの性質を持っており、同じような時期に、同じような場所にいれば、どちらが先とも言えないと思う。

牛は、少し年代が下がって、紀元前6000年頃、西南アジアとインドで。
ヨーロッパの牛と、インドのコブ牛は、原種の牛から何十万年か前に分かれたと考えられている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/オーロックス

さて、いよいよチーズである。

家畜が増えると、人々は、肉を取るためだけではなく、乳も利用する事を考え始める。殺してしまえば、「はい、それまでよ」だが、乳利用ができれば、殺さずにすむ。
「最古の料理」の著者、ボテロ氏によると、メソポタミアの粘度板では、紀元前4000年末期にはチーズ様のものがあったようだ。

メソポタミアの粘度板には、色々な料理の作り方が書いてあり、チーズやバターが調味料として使われた様子が見られる。
ただ、ボテロ氏によると、肉とビールとパンが庶民のごちそうだったようで、乳は酸化が早いので、身分の高い人の飲み物だったようだ。
羊飼いは、乳利用ができたようだが(生乳をすぐに飲める環境にあったから)、もし、チーズ作りが盛んなら、乳利用だけでなく、チーズを作って保存したのではないかと思う。

キンステッド氏は、紀元前6000年くらいからチーズを作っていたという説を唱えていらっしゃる。氏の説は面白いのだが、「こし器」はやはりビール用のもので、チーズ用のものではないと思う。この容器からチーズが発見されれば証明になるが、例えば、乳を入れるために使ったとすれば、やがてヨーグルトから、チーズ用のものになるのは必然なので、やはり証明が難しいように思う。

ボテロ氏の説のように、紀元前4000年末あたりに、乳利用があったとするしか無いだろう。何しろ、文献が無いのだから。

その後、食物の製造と家畜の利用は、驚くべき早さで、ヨーロッパとインドに伝わる。
そして、ヨーロッパでは、独自の発達を遂げていくのだ。
アジアでは、古代のチーズの作り方を継承したように思う。
中国では、家畜が豚と犬であった事が乳利用をしなかった理由になるだろう。

黎明期の人間がどんな風に食べ物を栽培し、家畜を飼っていたのか。
知りたい事は沢山あるけれど、秘密の方がいいのかも?

2014年8月1日金曜日

チーズを作る:収益率(le rendement)

Facebookページ版 チーズ A to Zに、Saint Maure de Touraine 一つにどのくらいの原乳が必要か、という記事をシェアした。
チーズ一つ作るのにどのくらいの原乳が必要か、という事を、フランス語では、「le rendement」という。
日本語では、収益率、回収率とでも訳そう。

これは、チーズを作る上では、とても重要な事である。
というのは、チーズの原価や、生産高に影響するからだ。
要するに、少ない原料でたくさんできれば儲かるという事ですな。

1991年の資料なので、少し古いのだが、筆者の恩師、Mietton氏によると、牛乳100kgに対して、収益率は、だいたい以下のようになる。

  • 脱脂したフレッシュチーズ  :35-45kg
  • 型入れしたフレッシュチーズ :16-18kg
  • カマンベール        :14-15kg
  • サン・ポーラン       :10,5-11kg          
  • チェダーチーズ       :9,5kg
  • エメンタル、コンテ     :8,5-9,5kg 

「脱脂したフレッシュチーズ」は、日本で見かけるフロマージュ・ブロンの脂肪分0%の物と思っていただいて結構である。
「型入れしたフレッシュチーズ」は、フランスでは、「フェセル(la faisselle)」と呼ぶ、ラクティック・ドミノン製法のカイエを穴あきの型に入れただけのチーズや、山羊チーズなどをさす。カマンベールは、PM、サン・ポーラン、チェダーはPPNC、エメンタル、コンテはPPCである。

フェセル(la faisselle)。このパッケージをカップに入れて売っている。
山羊のシャロレタイプ。このチーズは一つ作るのに、2リットルの山羊乳が必要。
このチーズの収益率は、24%。PMとしては、かなり高かった。 

原乳の組成は、動物によって変わる。
例えば、羊乳は、脂肪分、蛋白質ともに、牛乳のほぼ倍。
モッツァレラを作る、水牛乳も、羊乳ほどではないが、蛋白質、脂肪分が多い。
だから、収益率も変わる。

この資料では、動物の種による差は書いていないが、見てもらうと解るように、パット・フレッシュ(la pâte fraîche)とPPCとの差が大きい。
大きな理由は、水分の含有量である。

牛乳の場合で考えると、固形分は、ほぼ10%。
残りが水分である。
だから、収益率は、大まかに言うと10%なのだが、チーズの工程によって、それが変化するのである。

市販のフロマージュ・ブロンの場合、工場製と農家製では作り方が違うが、だいたい、収益率は、上記の通りと思って、差し支えない。
かなり多くの水分を含むので、収益率が良いし、すぐ販売できるので、農家や小さい工房に取っては、強い味方だ。

上部の袋に入っているのが、フロマージュ・ブロンになる。

農家製チーズの講座にいた時、工房を作る時は、フレッシュを必ず入れた方がよいと教わった。熟成させるチーズは、熟成している間収入が無いので、資金的にフレッシュチーズを作る事を勧められる。
フレッシュチーズと他の熟成させるタイプを組み合わせて製造するのが一般的だ。

カマンベールタイプなどは、違う意味で大変である。
例えば、一つ250gのカマンベールを作るとしよう。
AOPでは、大きさが決まっているので、250g以下のチーズは、AOPのカマンベール・ド・ノルマンディーとして、販売できない。

ブリヤ・サヴァランの熟成前。3週間ほど置いておくと、もわっと白カビが生える。

販売をなさっている方は、時々見かけるだろう、大きなカマンベール・ド・ノルマンディーを。250gのはずなのに、300gくらいあったりする。
筆者が見た中で一番大きかったのは、330gあった。
こうなると、蓋がうまく閉まらなくて、不格好なパッケージになる。

これは、標準偏差というものをうまく使えば解消できるのだが、やはり計算がめんどくさい。農家は、いろいろ工夫して、表などを作っているところも多い。
大きくできてしまえば、お客さんは喜ぶが、生産者は損する事になる。
こんな事も、収益率に関係してくる。

サンポーランは、牛乳の固形分をそのまま取り入れた感じである。
ただ、PPNCは、デラクトザージュ(le délactosage:英語では、ウォッシング)という工程があり、ラクトースを排出させるので、それによって収益率が変わってくる。
délactosageの程度を上げれば、ラクトースはほとんど出て行ってしまう。
そうすると、収益率も少なくなる。

サン・ポーランの写真が無かったので、ミモレット。PPNCの同じタイプ。

チェダーチーズは、チェダリング工程で水分がかなり排出されるし、コンテなどのPPCは、温度を上げる事によって、水分排出を促すので、やはり水分が少なくなる。
という事は、収益率も下がるという事だ。

PPCのコンテ。

こう考えると、フレッシュチーズを作ればいいかな?と思うのだが、残念な事に、フレッシュチーズには、付加価値があまり無いのである。
チーズのおいしさは、熟成する事によって醸し出される、「ウマミ」にある。
熟成させるチーズを作るのは難しく、また収益率も下がり、すぐにお金にならない。
でも、その美味しさで、付加価値がつき、ファンがつく。

筆者も、工房で、フレッシュと熟成タイプを作ろうと考えている。

7月に、工房作りのための一山を無事に超える事ができて、ほっとしている。
ホントに7月はドタバタで、あれもこれも考えなくてはならず、また、行動しなくてはならず、家族にも「心、ここに在らずね」と言われたくらい、上の空。

まだ、二つ大きな山があるが、8月半ばまでは、少し落ち着けそうである。

2014年7月29日火曜日

チーズを作る:熟成期間を決めるもの:HFD

フレッシュチーズを作るのはさほど難しくない。
モッツァレラのように、作り方がミックスで、パット・フィレ(la pâte filée)のタイプは、うまくカイエの状態を作らないと、伸びない。
だから、作るのが難しいのだが、フロマージュ・ブロンのようなものは、意外と簡単である。味はともかくとして。

しかし、熟成をさせるチーズは、うまく作らないと、ちゃんと熟成しない。
その時に、指標になる数値があるのだ。
それを、HFDと言う。

HFD(la Humidité du fromage dégraissé)、脂肪除去したチーズ中の水分、とでも訳そうか。英語だと、"Moisture content of the fat-free cheese"である。
計算方法があるのだが、このブログでは、数式を表示できないので省く。
このHFDが、チーズの熟成期間を決めるのである。

おそらく、脂肪分で決まるとか、そのほかの方法があるという方もいらっしゃるだろうが、HFDは、かなり重要である。
筆者もポワトー・シャロントの学校で、これを教わったが、ポリニーからきた同級生は、G/S、すなわち、固形分中の脂肪で決まると教わったと言っていた。

大きなチーズになると、G/Sも指標の一つになるが、やはりHFDの方が、確実である。
何故なら、HFDは、チーズ中の微生物の繁殖を司るからである。
微生物という奴は、理想的な環境がないと、繁殖しない。
水分というのも、大きな理由の一つなのである。

おおまかに、HFDの数値を書いておこう。

  • PM:          67%以上(61%位まで下げるものもある。)
  • PPNC:      54〜63%
  • PPC:        56%以下  


PPNC。色々なタイプがあるので、HFDも色々だが、54〜63%の間である。

白いコンテ。HFDは、熟成がすすんだものより多くなる。
一般的に売っているPPCは、HFD 56%以下。

HFDは、チーズ中の脂肪を除いた固形分中の水分だ。
なぜこの数値が、微生物の生育に関係しているかと言うと、微生物の使う事のできる水分は限られるからである。
脂肪を除去したチーズにある水分は、自由水と言って、微生物が自らの生育に使う事のできる水なのだ。

チーズに含まれる水は、固定水と自由水に分類され、固定水は分子単位の組織に取り込まれているので、脱水すらできない。
自由水は、その名の通り、チーズの中を移動する事もできるし、脱水する事もできる水だ。

例えば、カビ。
シャーレに薄く水を張り、小さいチーズ片をのせる。
水につかった部分と、水から出た部分を作ると、水から出た部分には、カビが生える。
しかし、水につかった部分には、生えない。

これによって解る事は、カビの生育に必要なものは、栄養と空気と水分である事が解る。
比較実験として、チーズを乾燥した状態にし、シャーレにおいてみても、カビは生えない。ただ、始めの実験でも解るように、水がありすぎて、空気を遮断するようでもいけない。適量である事が大事なのだ。

PMのラクティック・ドミノン。ラングル(Langres)。これも、柔らかい。
HFDの数値が大きいほど熟成期間が短く、HFDが小さいほど、長期熟成できるというわけだ。しかし、いつも同じHFDになるとは限らない。
例えば、エポワス(l'Epoisses)や、モンドール(Mont d'Or)のようなチーズは、トロトロになるものと、ならないものがある。これは、HFDが個々のチーズで違うからである。

PMの山羊チーズの場合、HFDは、80%くらいである。
これは、かなり水っぽいのだが、その後乾燥工程があるので、これでよい。
同じPMでも、カマンベールタイプの場合、73〜73,5%で、少し下がる。
乾燥工程がない事、製法がミックスである事を考えると、納得がいく。
白カビの発育のためには、このくらいないと、うまくいかない。

店に届いたばかりの St. Maure de Touraine。柔らかい。HFDは70〜80%。

シャロレ(Charolais)タイプのチーズ。これは、脱水工程が長いので、HFDはやや低い。

PPCでも、コンテなどは、56%ほど、パルミジャーノなどは、51%以下となる。

PMの場合、水分量が多い分だけ、微生物が増えやすい。
筆者は、いま、試作品作りで苦労している。
気候のせいだろうと思っているが、先日は、水っぽくできてしまったチーズにうまくジェオが生えたと思っていたら、その後にドロドロになってしまった。
HFDは計算できなかったが(蛋白質と脂肪の数値がないとできない)、おそらく作りたいチーズのHFDより、相当高かったと考えられる。

本当に、チーズは生きていると実感する今日この頃である。

2014年7月23日水曜日

チーズを作る:プスドモナス(le pseudomonas:シュードモナス)

プスドモナス(英語では、シュードモナスと言っているようだ)は、ちょっと困った微生物である。Pseudomonas fluorescensは毒性がないが、チーズの欠陥を招く微生物だ。
どんな風になるかと言うと、

  • 熟成中に、チーズ表皮をピンクや茶色に変色させ、最終的に黄色のシミを作る。
  • 苦みを作る。
  • 水っぽく、ベトベトした表皮になる。
である。

少し解りにくいが、黄色みを帯びている。これは、牛乳のラクティック・ドミノン製法のチーズ。
だいたい、熟成8〜10日くらいで発現するが、始めは、蛍光色のシミ、次に鮮やかな黄色になり、最終的には、濃いオレンジ色のシミになる。

筆者は山羊のラクティック・ドミノンのチーズを作っていたが、あまり見た事がない。
超ピンクのシミを見た事はある。
あれも、プスドモナスだったのかもしれない。
取り除いたら、なくなってしまったので、解らないが。

このプスドモナスという微生物は、プシクロトロフ(psychrotrophe:耐冷性の)であり、原乳の保存温度が低くても繁殖する。
普通、原乳保存をする時は、4℃が多いのだが、これで増えてしまう。
他の微生物の繁殖が抑えられるので、この微生物が増えてしまうのだ。

原乳のタンク。こういうタンクにためているところがおおい。

筆者のいた農家は、原乳保存温度は、12℃だった。
この温度だと、ほとんど増えない。

コンテなどは、CDCで、原乳の保存温度を10℃から18℃と決めている。
この微生物を繁殖させないためである。
すぐに悪さをしないで、熟成中にするというところがイヤラシい微生物だ。
割と、色々なところにいるようで、水、搾乳道具や、原乳そのものも汚染されてしまう。

面白い事に、天敵みたいな微生物がいる。
ジェオトリクム(le geotrichum)である。
ジェオがうまく繁殖すれば、この微生物の繁殖を抑える事ができるのだ。
チーズ表面のpH管理がうまくいけば、酵母の後にはジェオが生えてくる。

型出しをしてから、2〜3日後には、うっすらジェオが生えてくるのが普通だから、こうなれば、心配ない。
筆者の見た資料では、ジェオトリクムを植え付ける事もすすめていた。
ただし、ジェオも水分がありすぎると、「Peau de crapaud」、いわゆる「ガマ肌」になってしまうから、難しい。

筆者は今のところ、買ってきた低温殺菌牛乳を使って試作しているが、なかなか難しい。
特に、夏は気温が上がるので、流通温度がどうなっているのか解らないうえに、家の温度管理も大変だ。
エアコンをつけると、人間が寒すぎたりして。

9月工房開業を目指していたが、諸事情で、10月始めからになりそうである。

2014年7月18日金曜日

チーズと職業病

チーズを製造するのは、重労働である。
コンテなど、PPCの大型のチーズは言わずもがな。
山羊の小さいチーズだって、重労働なのだ。

これは、コンテではなく、ボーフォールのコーペラティヴ。
加熱するため、中の温度は上昇し、職人さんは、いつもランニング姿!

フランスには、女性が25Kg以上のものを持ってはいけない、という法律があるので、熟成士さんは、大概男性である。
女性もいるけれど、ホールの大型チーズを扱うのは難しいだろう。
でも、女性の進出は、嬉しいものである。

そこで、職業病。

できたてのコンテの重量は、約60Kg。米俵とほぼ同じ。
戦前の日本には、米俵を担いで走る教練があったそうだが、大変だったと聞いている。
コンテの場合、米俵と違って、担ぐのは難しい。
何故なら、弾力があって、しなるから、持ちにくいのである。
コンテの作り方は、チーズ A to ZのFacebook Pageに動画をUPしているので、そちらをご覧になっていただきたい。できたてのコンテが、いかに弾力があるか、お解りになると思う。

コンテは、工房で何日か面倒を見てから(préaffinageという)、熟成を専門にする業者に渡す。
それまでは、チーズを作っている人たちが、塩付け、反転して面倒を見るわけだが、これが大変な重労働。

まず、平たい木の棒で、チーズを前にずらす。
ある程度前に出たら、両手で引っ張り出し、膝で支えながら、反動をつけてひっくり返して、棚に戻す。
2日に一回、これを行っている。
また、塩付けする時も、塩をふって、引っ張り出して、丁寧に拭く。
これも大変な仕事だ。

だいたい、一つのコーペラティヴで、一日20個くらい作っているようだ。
筆者の同級生は、25個と言っていたが、型出しを一人でするので、大変だと言っていた。

この状態でおこる疾病は、「椎間板ヘルニア」。
重労働なので、組合が水泳などのスポーツをすすめて、腰痛防止に努めている。
ヘルニアまでいかなくても、チーズ職人に多いのが、腰痛。
特に、農家製の場合、型入れの時に中腰になる事が多いので、腰痛になる事が多い。

ボーフォールのコーペラティヴで。この容器は、ビドン(le bidon)と言いますが、結構な重さ。
筆者は、一人では持てませぬ・・・

以前、やはりFacebook Pageで、カマンベール農家の動画をUPしたが、筆者は、職人さんが、腰痛持ちと見た。
理由は、片手を腰の後ろにまわして作業をしていたから。
腰をかばっているように見える上、かがみ方が不自然だった。
一日に何時間も中腰姿勢を取らなければならないのは、つらい。
子供が跡を継がないのも、無理もない・・・

筆者も山羊農場でチーズ作りをしていた時、手が痛くなった事がある。
手のひらの、親指の付け根あたりが、痛いのである。
なんでだろう、と考えた末に、思い当たったのが、反転作業。
グリーユ(la grille)という、金網の上にのせたチーズを反転させるのには、もう一枚の金網で挟んで反転させる。

二段目の金網に、チーズをのせる。

山羊の場合、チーズと金網の合計で2〜3Kgだと思うので、そんなに重くない。
しかし、筆者は、いつも親指の付け根に重さをかけていたようである。
そこで、重さをかける場所を手のひら全体にしたところ、痛みがなくなった。

又聞きだが、牛乳を手絞りしている農家さんは、親指と人差し指の間の腱を痛める事が多いそうである。
農家製の場合、乳牛の数が少なければいいが、多いと手絞りは大変だ。

また、職業病になるかどうかは疑問だが、乳清(sérum:ホエー)のアレルギーもある。
筆者もなりかけたが、大丈夫だった。
これは、乳清カブレと言ったようなもので、乳清に触れたところが赤くなる。
漆カブレみたいなもんですな。

筆者の場合、赤くなって、痒くて、手がぼろぼろになったが、乾燥する時期が終わると、症状が出なくなった。
薬局で買った薬も効いたようだ。
しかし、山羊農家出身の同級生は、このアレルギーを持っていて、乳清のついたところが、パーっと赤くなるのを見た。
手袋をしないと、チーズに触れないと言っていたが、製造は、大変なようである。

シャロレ(le charolais)タイプのチーズ。右側のバケツの中身が、乳清。

どんな職業にも、疾病はつきものである。
チーズの疾病は、あまり知られていないが、コンテ組合は、職人確保のために、職業病を少なくしようと努力している。
つらい仕事は、やりたくないという若い人が多いのは、日本もフランスも同じ。
でも、若い人たちにこういう仕事の跡を継いでほしい。
年寄りのわがままかもしれないが・・・