2014年1月14日火曜日

チーズを作る:原乳編 牛

世界で一番多く製造されているのは、牛乳製のチーズである。
日本の乳用では、ホルスタイン種の牛がほとんどで、ブラウンスイス種とジャージー種をちらほら見かけるだけだ。
ヨーロッパだと、肉用、乳用で、沢山の種類がある。
今回は、フランスでチーズ用の牛乳を生産している牛をご紹介しよう。
放牧の風景。サヴォアにて。

  • モンベリアルド(la Montbéliarde)
フランスの西部に多く分布、特にフランシュ・コンテ地方に多い。と云うのは、コンテチーズ(以下コンテ)を製造する地域では、モンベリアルドとシメンタール・フランセーズ以外の種類の牛を排除したからである。これは、牛の混血を防ぐためと、牛乳の混乳を防ぐためである。と云うのは、コンテの原乳は、モンベリアルドとシメンタール・フランセーズと決まっているからだ。

この牛乳は、蛋白質、脂肪に富み、しかも良質で、チーズ作りに最適である。その上、乳量も程々にある。現在は、フランスのあちこちで飼育され、乳用牛では、第二位の地位を占める。他の地域で、牛の群れの中に一頭だけ、モンベリアルドがいるのを何度か見た。聞いてみたら、子牛に乳をやるためだそうである。貰い乳ですな。

チーズの学校の先生にも、牛乳のチーズを作るなら、モンベリアルドがいいと薦められたが、日本では難しい。
モンベリアルド。コーペラティブの農場にて。

  • ホルスタイン(la Prim'Holstein)
日本でよく見かける、白地に黒の斑点の牛。フランスでも、乳用牛として、堂々第一位。フランスのブルターニュ、ノルマンディー地方に多い。オランダ原産だが、その乳量の多さで人気があり、品種改良されて、ヨーロッパ、アメリカ、オセアニアなどにも多い。

チーズの原乳として使われる事も多いが、蛋白質、脂肪ともに少なめ。
乳量は多いので、どちらかというと、飲料乳と工場製チーズ向けだろう。
AOCチーズの原料として指定される事はほとんどない。
フランスのAOCチーズは、牛の種類を地元産に限定している事が多いが、乳量は少なくても、チーズ作りに重要な、蛋白質が多くて良質である牛を選んでいるからだ。

筆者もノルマンディーにいた頃は、ノルマンディー牛より、ホルスタインをよく見かけた。学校で飼っていたのもホルスタインだった。
ノルマンディーやブルターニュは、工場製のソフトタイプと工場製エメンタールの製造が盛んなところである。それらのチーズの原乳となるのだ。
写真は、以下のURLを参照していただきたい。
http://zookan.lin.gr.jp/kototen/rakuno/r422_1.htm

  • ノルモンド(la Normande)
カマンベールの原乳を提供する牛。ホルスタインと同様、ブルターニュ、ノルマンディーに多い。近頃は、アフリカにもいるそうで、環境に対しての適応力が買われている。
フランスでは、乳用牛として、第三位。
この牛乳の特徴は、何と言っても脂肪分の高さ。モンベリアルドに比べても高い。その代わりに、乳量はやや少ない。

ノルマンディーは、バターも有名で、料理もクリームとバターを使ったこってりしたものが多い。
ノルマンディーにいた時に感じたのは、とにかく、「ものすごく寒い!」。
農家に下宿していたのだが、暖房があっても寒くて、布団をぐるぐる巻いて、みの虫状態で勉強していた。
だから、脂肪分たっぷりの食事が好まれ、ノルモンドが歓迎されたのだろう。
写真は、以下のサイトを見てほしい。
http://www.lanormande.com/web/la_vache_normande.html

  • アボンダンス(l'Abondance)
ローヌ・アルプ地方に多く、乳用牛の第四位である。原産は、オート・サヴォア。
多くのAOCチーズの原乳を提供している。

アボンダンスというAOCチーズがある。アボンダンス牛は、このチーズの原乳を提供すると云われているが、現実は、ルブロションに持っていかれて、原乳がモンベリアルドになっていると現地で聞いた。アボンダンスは、わりとマイナーなチーズだが、ルブロションは、近頃テレビコマーシャルでも宣伝しているくらい、売れているようだから、やむを得ない事なのか・・・

夏は、標高の高い斜面に放牧されている。ボーフォール・シャレ・ダルパージュは、この牛とタリーヌ牛の、夏の牛乳を使い、標高1500m以上の高地で製造する。
夏のサヴォアは、高山植物が咲き乱れて、とてもきれいだった。
その中で草を食んでいた牛たちが、印象に残っている。
アボンダンス。サヴォアの放牧地にて。

  • タリーヌ(la Trine)
タロンテーズ(la Tarentaise)とも言う。
この牛の特徴は、からだが小さいこと。そして、美人である(美牛?)
モンベリアルドは、どっちかというと、器量がよくないのだが(それもカワイイが)、タリーヌは、ほんとにきれいである。子牛は、とてもかわいい。

この牛もボーフォールなど、サヴォア地方のチーズの原乳を提供している。
放牧していても、搾乳時間になるとちゃんと戻ってくる。そして、搾乳場では、糞をしない。終わって出てくると、用を足すので、小屋の周りは糞だらけになるが、中はきれいだ。本当に、頭がいい。
山羊はどちらかというと、言う事をきかない。
搾乳時間になっても逃げ回ったり、首根っこをつかまれても、足を踏ん張って嫌がる。
牛が人間の家畜として多く飼われているのも、この頭の良さと従順さと無関係ではあるまい。
タリーヌ。夏のサヴォアにて。


  • ブラウンスイス(la Brune)
スイス原産の乳牛。日本でもチーズ工房を持っている農家が飼っている事がある。
19世紀にフランスに来たようであるが、現在は、その乳が、蛋白質に優れている事に注目されて、フランスでもチーズ用に飼われている事が多い。
フランスの南に多い。

筆者もバスク地方に行った時に、農場でこの牛を飼っていたのを見た事がある。そこは、色々な牛がいたのだが(例に漏れず、モンベリアルドが一頭だけいた)、飼い主は、この牛はチーズに向いているとほめていた。
日本でも、牛乳にこだわるチーズ工房は、この牛乳を使う事が多い。
筆者もいずれチーズを作るときは、この牛の牛乳を使いたいと考えている。
ブラウンスイス。バスクにて。


フランスの主な乳用牛は、以上だが、他にもサレール牛、オーブラック牛などがいる。しかし、肉用がメインのようなので、今回は割愛する。
チーズを作るための原料乳は、ものすごく大事である。その成分が、チーズの味、風味などを左右するからだ。

牛、山羊、羊がチーズを作るための主な動物だが、その成分組成は違う。
「チーズを作る」編で、次回は、乳の成分組成について書くつもりである。
羊については、成分組成の話の時に、ざっと、説明しよう。

0 件のコメント:

コメントを投稿