2014年2月28日金曜日

AOPのチーズ:牛編 ルブロション

サヴォアのチーズ、ルブロションには、有名な逸話がある。
昔、税金を牛乳で納めていた頃、検査官がいる時には牛乳を全部搾らず、彼らが帰ってから残りを絞ったという話だ。

このチーズの名前は、サヴォア方言の reblochi (再び行う、再び牛の乳を搾る、という意味で、解体すると re + blossi あるいは blochi 。blossi あるいは blochi はつまむという意味)に由来するという。(小学館 ロベール 仏和大辞典より)
二回目に搾った牛乳は、濃いので、おいしいチーズができたという話である。
ルブロション フェルミエ。

10年ほど前のチーズの本だと、ウォッシュに分類されている事もあるが、実際は非加熱圧搾タイプである。
筆者もウォッシュ、すなわちソフトタイプ(Pâte Molle:パット・モル)と思っていたし、実際に作っているところで聞いてみたら、パット・モルだよ、という返事が返ってきた。しかし、ルブロションのCDC(AOCの規則)を読むと、非加熱圧搾タイプだと明記してある。ちゃんとCDCを読んでおかないと、間違えるものですな。

筆者はルブロションを作っている農家には行った事がないが、ポリニーの学校の見学で、サヴォアのチーズの学校に行った。
そこでは、アボンダンス、ルブロション、トム・ド・サヴォアなどを作っていた。
写真はそのときのものである。
学校で作っているので、農家製ではない。だから、カゼインマークは赤である。
(農家製は、緑)
サヴォアの学校で見たルブロション。カゼインマークは赤。

ルブロションの型。上にのっているのが重し。これで圧搾するのだ。

このチーズは、非加熱圧搾なのに、柔らかく、皮も食べられる。
サン・ネクテールも柔らかく熟成する事もあるが、皮は硬い。
また、ルブロションは、牛乳のやさしい匂いがするのも特徴だ。
食感も、熟成の若いものはもちもちして弾力があるが、熟成が進むと、生地が流れるようになって、匂いも強くなる。これもまた、美味しいのだが、臭いの苦手な人には、向かないか・・・

そのまま食べるのなら、サヴォアの白ワインなどが合うのだが、手に入りにくかったら、シャルドネがいい。しかも、ブルゴーニュの繊細なシャルドネではなくて、ワイルドなタイプがいい。
チリとか、アルゼンチンなどがいいかもしれない。

モルビエのところで書いた、タルティ・フレットというジャガイモのグラタンは、これを使うのが本式。
日本だと、料理に使うには、値段が高いので、筆者は作った事がないが、サヴォアで食べたものは絶品だった。

山のチーズは、もともと冬の間の食料として作っているものが多い。
だから大きかったり、熟成期間が長かったりする。
そして、料理にも使えるものが多いのだ。
ルブロションは柔らかくて、小さいチーズだが、そのまま食べても、料理に使ってもおいしいチーズである。

2014年2月25日火曜日

チーズを作る:本物のチーズ?

昨日、週刊現代を買った。
「スクープレポート あなたは何も知らずに食べますか」に引かれて購入したのである。
この記事には、「見た目は『本物』、中身は『別もの』がスーパーにはいっぱい並んでいた」というサブタイトルがついている。その記事の中の「牛乳」を読むと、さもありなんと感じた。

この記事の中の表で、牛乳の項目を見ると、「加工乳」の説明がしてある。
いろいろ添加してるのなら、「牛乳」と呼べないのだから記述に問題はないが、中身が牛乳とはだいぶ違うものになっている可能性が高い。

脱脂粉乳を水で溶かして加える。
油分を補うために油脂を加える。この記事中ではバターを油脂として加えるとなっているが、安い植物性油脂の可能性も大きい(根拠は後で述べる)。
加工乳と表示すれば、何でもありのようで、恐ろしい。

「本物のチーズ?」という見出しを付けたのは、チーズの業界でも同じようなことが起こっているからである。
筆者はフランスで、工場製のチーズの作り方も学んだ。
農家製のチーズだけでは、知識不足だと考えたからである。
その時に、こういう事も学んだのである。

フランスでは、牛乳が余ると、脱脂粉乳とバターに加工して保存する。
いい考えだと思うが、問題は、脱脂粉乳である。
余り気味だそうで、それをどうするかという問題が出た時に、
そう、勘のいい方は、解っただろう。
もう一度これを使ってチーズを作ろう、という事になったのである。

脱脂粉乳に水を加えて液体にする。
それに、安い植物性油脂、パーム油などを加えてもう一度牛乳のようなものを作り、固めてチーズ?にするのである。バターは値段が高いので使わない。パーム油脂は、安価な植物性油脂の中で、組成が一番、乳中の脂肪に近いのだそうである。
工場製のチーズで、セミハード(PPNC)などは、この手がある。

筆者が工場製チーズの講座をとっていたとき、同級生や先生など、工場製のチーズに携わっている人たちは、あまり疑問を感じていないように見えた。
それどころか、最新の技術を駆使して製品を作る事に喜びを感じているように思えた。
反対に、コンテを作る講座の同級生や先生などは、工場製のチーズに批判的だったのが印象的である。
食に関してこだわるフランスも揺れているのかなと感じたものだ。

日本に輸入する場合、どう記述しているのか解らない。
ただ、このような「チーズ?」は、おそらく業務用のチーズになっているだろうと考えられる。原乳を「生乳」とは記載できないだろうから、そのまま、「ナチュラルチーズ」と記述できないと思う。

こういう事を書くと、チーズの団体から怒られるかもしれないが、記述をきちんとすればいいのではないか?例えば、原材料を脱脂粉乳と植物性油脂、とか。
「生乳」は、使えないものな。
しかし、プロセスチーズに記載してある、原材料名の「ナチュラルチーズ」はくせ者だ。

筆者は、知らせない、知らないというのが困りものだと思う。
知っていて選ぶのなら、納得して買っていると考えられるが、知らなかったら、だまされたようなものだ。
週刊現代の記事を読んだら、どういうものが本物か、見定める事ができる。

こう考えてくると、食べ物に関してうさんくさい事が沢山ある。
特に加工品は、何だか解らない原材料名が多い。
信用できるのは、自分で作ったものだけになりそうだ。

今回は、少し違う切り口になったが、食べ物に関して関心があるので、こういう形になった。
筆者は農家製のチーズが一番と思っているわけではない。
工場製も、この需要を考えれば、必要だ。
しかし、原材料を明記するのは、常識と考える。
日本でどの程度、チーズに対して、前述の製造方法が用いられているのか解らない。
乳製品に対する日本の法律は、外国ほど細かくないので、法整備をし、きちんとした情報を国民に知らせてほしいものである。

2014年2月21日金曜日

チーズ料理:チーズとほうれん草のタルト

先日作ったチーズ中で、崩れてしまった2個を使って、タルトを作った。
以前、山羊のフレッシュチーズで作ったものと同じ作り方である。
実家のオーヴンを使ったので火の回りがよすぎて、表面が焦げてしまったし、タルトの皮を久しぶりに作ったので、少し固めになってしまった。
味は良かったので、成功とまではいかないが、まずまずと言ったところか。(手前味噌である)
真ん中に見えるのがフレッシュチーズ。

作り方を書いておこう。
まず、材料。23cmのパイ皿1個分。

  • 市販のパイ皮(自分で作ってもいい)
  • タマネギ    :1個
  • ほうれん草   :400gを茹でておく。
  • バター     :20g
  • ナツメグ    :少々
  • フレッシュチーズ:120g
  • 卵       :3個
  • 生クリーム   :200cc
  • グリュイエール :50g(すりおろしておく)
  • 塩、胡椒    :少々
では、作り方。

  1. タマネギを薄切りにする。
  2. タマネギをバターで炒める。
  3. しんなりしたら、茹でて4〜5cmに切ったホウレンソウを加えて炒め、ナツメグを加えてさらに炒め、塩胡椒をしてさましておく。
  4. オーヴンを220℃に予熱しておく。
  5. パイ皮をタルト型に敷き、フォークでつついて、穴をあけておく。
  6. 卵をボールに割り入れてほぐし、生クリームとグリュイエールのすりおろしを加えて混ぜ、塩胡椒する。
  7. パイ皮を敷いた型にタマネギとホウレンソウ炒めを敷きつめ、その上にフレッシュチーズを適当にちぎって置く。
  8. その上から、卵液を注いで、温めておいたオーヴンで40分焼く。
パイ皮は、市販のものが便利だが、自分で作りたい方に、簡単な方法を伝授。

  1. 薄力粉180gをふるってからボールに入れ、塩少々を加えて混ぜる。
  2. バター90gを薄力粉の上に置き、粉をまぶしながらナイフで細かく切る。(専用のスケッパーがある。製菓材料を売っているところで手に入る)
  3. バターが小豆大になったら、手ですりあわせて、さらさらの状態にする。
  4. 冷水60〜75ccを少しずつ加えてまとめる。
  5. まとまったら、丸めてポリ袋に入れ、20分ほど休ませてから使う。
筆者は水の量が少なかったようだ。
冬は乾燥していて、薄力粉が乾いていたので、硬い生地になった。
多めに作っておいて、型に敷いて冷凍しておけば、いろいろ使える。

また、フレッシュチーズだが、クリームチーズは使わずに、山羊のフレッシュなどを使うと美味しいのが出来る。
このURLを参考にするといいだろう。
http://www.chesco.co.jp/html/user_data/list/detail.php?id=75

さて、つぶれなかったチーズだが、うまく熟成している。
ジェオトリクムが生えてきて、色がピエ・ダングロワみたいになっているが、期待できそうだ。ちなみに、筆者はウォッシュタイプを作ろうとしているのである。
筆者のチーズ。まだまだ完熟への道は長い・・・

アフィネ・オ・シャブリ。こんな風になったらいいな。

サン・フェリシアン。今のところ、こんな感じになっている。

目標は、サン・フェリシアンのような、アフィネ・オ・シャブリのようなチーズである。
楽しみだな。

2014年2月17日月曜日

チーズを作る:ラクティック(Lactique dominant)実践編

家の台所でチーズを作るのは、大変だ。
理由は、まず、設備がないから、代用器具をどうするか。
次に、何を原料とするか、である。
農家で作っていた時には、設備も原料もそろっていたから、難しくない。
しかし、農場でもないここで、チーズを作るのは骨が折れた。
結論から言うと、なんとかチーズを作る事が出来て、現在熟成中である。
型から出したところ。柔らかくて、崩れそう。

まず始めに、Le levain(ルヴァン:チーズ種のこと。英語だとスターター)を作るところから始めた。無殺菌乳が手に入らないので、低温殺菌乳で代用する。
いろいろ問題があったのだが、専門的になるので、ここでは省く。
とりあえず、ルヴァンが出来たので、低温殺菌牛乳にプレジュールと一緒に加えて24時間。
なんとか、固まった。
鍋で作ったカイエ。

しかし、思ったより、かなり柔らかいカイエになった。
原乳の組成の違い(山羊乳と牛乳)とおそらく室温の違い。
22℃くらいに保ちたかったが、夜間に18℃以下に下がっていた。
もう少し時間をかければよかったのかもしれない。
ルーシュの代わりにスプーンで型入れ。

柔らかいカイエ。型詰め完了。

その後、24時間かけて脱水。
間に一回、反転作業。
うまくチーズの形になった。
反転した後。

しかしこの後が大変だった。
全部で6個出来たのだが、型から出したチーズを反転するとき、チーズを乗せる金網が不足していたので、手でやったところ、2個崩れてしまった。
残りの4個中、一つは、半分崩れてしまい、後の二つは割れてしまったので、まともなのは、たった1個。やれやれ・・・

考えて、機材をそろえたつもりでも、不足があるものですな。
次に作るときは、完璧に機材をそろえる事が出来るので、失敗は成功のもと(言い訳か?)。
使いにくかった機材を変えて、また作るつもりである。
なにせ、家族が期待しているらしい・・・

崩れてしまったチーズは、もったいないのでタルトを作るつもりである。
次回、ご紹介しようと考えている。

もし、ご家庭でチーズを作ってみたいと考えている方がいらっしゃったら、筆者に問い合わせてもらってもいいが、市販の本も2冊ほどある。
一つは「チーズ工房」株式会社平凡社 
もう一つは、「キッチンで始める本格チーズ造り」アールアイシー出版株式会社(この本は、英語の本の翻訳である)
参考になると思う。

家庭でのチーズ造りで難しいのは、温度管理だろう。
パンだって、発酵温度を調節するのは、家庭では難しい。
特に、天然酵母のパンは、夏はパン種がだれてしまって、作りにくい。

熟成は、1か月ほどかかるから、その頃お披露目できたら、と考えている。
乞うご期待?

2014年2月14日金曜日

チーズプラトー:ヴァレンタイン編

本日は、Saint Valentin、ヴァレンタインデーである。
ウチの唯一の男性は、あまりチーズが好きではないので、女性陣でチーズを楽しもうという事になった。
ワインはほぼ毎日飲んでいるので、つまみである。

この時期のチーズショップでは、ヌーシャテルというフランスのハート形のチーズを扱ったりするのだが、このチーズは見かけと違って、味が強い。
白カビでハート形、かわいらしいのだが、塩気が強く熟成が進むと辛みが出てくる。
筆者がチーズショップにいた頃、このチーズとボジョレのサン・タムール(Saint Amour)を抱き合わせで売った事がある。
若いヌーシャテルならいいと思うが、熟成が進んでいると、サン・タムールには難しい。ちなみにヌーシャテルはノルマンディー産である。
余談だが、ブルゴーニュにいた時に、ワイン農家の同僚が、自家製サン・タムールを持ってきてくれたが、美味しかった。軽いワインで、さわやかな印象だったのを覚えている。
ハート形のチーズ。残念ながら、ヌーシャテルではない。2010年サロン・ド・フロマージュにて。

チーズショップで思い出した事が一つ。
男性と女性ではチーズの好みがかなり違うのである。
男性は、臭いの強くない、固めで塩気がやや強いものが好きなようだ。
例えば、絶大な人気を誇るのがミモレット。ブルーチーズもごひいきが多い。

一方女性は、柔らかくて、塩気があまり強くないチーズを好むが、臭いは強くても平気という傾向がある。
白カビ系のカマンベールやウォッシュ系のエポワス、クリームチーズ系などが好まれるようだ。また、甘いチーズが好きな方も女性に多い。

今回のチーズプラトーは、ヴァレンタインなので、男性向けに作ってみた。
現在、チーズを製作中で、そっちに気を取られ、ヴァレンタインのチーズを買いに出かけたのが昨日。
筆者は多摩地区在住なので、なかなか色々な種類のチーズが手に入らない。
そこで、今回は、立川ルミネ内のチーズ王国ですべて購入した。
一番上が、シュロップシャー・ブルー。右下がミモレット24か月、左下がコンテ・エクストラ18か月。

ミモレット24か月熟成:以前にもご紹介した、カラスミに似ているというチーズ。今回は、24か月が手に入った。100gあたり¥1200(税込み)
ミモレット24か月。真ん中の穴は、二酸化炭素によるもの。

コンテエクストラ18か月熟成:これも以前ご紹介した、フランス人の大好きチーズ。今回は、18か月熟成。アミノ酸の結晶が見える。100gあたり¥900(税込み)
コンテ・エクストラ18か月熟成。アミノ酸の結晶が見える。

シュロップシャー・ブルー:スティルトン(イギリスを代表するブルーチーズ)に似た、イギリスのブルーチーズ。塩気もカビの味も強くなく、食べやすい。このチーズは、近年に創作されたもので、スティルトンと同じような作り方をするが、アナトーという色素で染めているので黄色い。ちなみに、ミモレットもアナトー(ロクーとも言う)で染めている。このチーズは、マーブル模様がきれいに入っている。チーズプラトーに入れるときれい。100gあたり¥930(税込み)
シュロップシャー・ブルー。臭いも強くないし、味もまろやか。食べやすいブルーチーズだ。

赤ワインにあわせようと思ったのだが、白ワイン、日本酒向きのプラトーになってしまった。赤ワインにあわせるのなら、ミモレットではなく、エポワスなどのウォッシュやオッソ・イラティなどの羊系がよくあう。ビールに合わせるなら、コンテではなくて、ゴーダ、ブルサンなどの味付きクリーム系がいいだろう。

先ほどちらっと言ったが、現在進行中のチーズ製作は、次回に紹介できそうである。とりあえず、チーズになりそうだ・・・

2014年2月11日火曜日

チーズを作る:ラクティック(Lactique dominant)

チーズの製造方法の3つの工程の前段階として、原乳の説明をしてきたが、いよいよ作り方に突入する。
3つの工程は同じだが、チーズの種類によって、細かいところが変わってくる。
そこで、今回はラクティック。
山羊チーズいろいろ。2008年サロン・ド・フロマージュにて。

以前、チーズはプレジュールと乳酸菌を使うと書いたが、乳酸菌だけ使う例外がある事を書かなかったので、ここで補足しておく。

日本で売っているクリームチーズ。
フランスではほとんど見かけないが、このチーズの作り方を確認したところ、プレジュールを使うものと使わないものがあるそうである。
プレジュールを使うと、ややしっかりした生地になるらしい。
また、カッテージチーズは、酸凝固だと思っていたら、酵素も使っているようだ。
(現代チーズ学 株式会社食品資材研究会 第2版より)

唯一酸凝固である事を確認できたのが、マスカルポーネ。
これは、フランスの学校でも酸凝固であり、酵素を使ってないと教わった。
ラベルを見ても、酵素の記述はない。
完璧に、酸凝固のチーズのようである。

さて、ラクティックのチーズには、どんなものがあるのかというと、AOPの山羊チーズは、ほとんどがそうである。
シュヴロタンがパット・プレッセ・ノン・キュイット(Pâte Pressée Non Cuite:PPNC)、バノンがパット・モル(Pâte Molle:ソフトタイプ)だが作り方がミックスで、例外となる。その他の山羊チーズもだいたいラクティックだと思っていいが、トム・ド・シェーヴルはPPNCになる。
サント・モール・ド・トゥーレーヌ。熟成中。 

バノン。栗の葉っぱに包んである。残念ながら、ラクティックではない。

牛乳のチーズだと、AOPなら、エポワス、ラングルなどがそうである。
牛乳と山羊乳はカゼインの組成が違うので、牛乳のラクティックは食感が変わる。
また、2013年12月11日に、サン・マルスランがIGPを取得している。
これもラクティックのチーズで、柔らかく熟成させる方法と固く熟成させる方法がある。
ラングル。シャンパーニュ地方のチーズ。

ラクティックの作り方は簡単だが、うまく熟成するものを作るのが難しい。
フレッシュのラクティックチーズは、すごく簡単にできる。
作り方は、ざっとこんな感じである。

  1. 原乳のpHと温度調整。
  2. 希望pHになったら、酵素を投入。
  3. 約24時間後(これはチーズによって少し変わる)に凝乳が出来る。
  4. 型入れ。脱水。
  5. 反転。
  6. 型出し。
  7. 塩付け。
  8. 熟成、あるいは、フレッシュのまま食す。

ラクティックのカイエ。 

お玉ですくった後。

お玉で型入れ。

筆者は現在、チーズを作成中だが、まだ1の段階である。
市販の殺菌乳を使っているので、なかなか希望のpHまで下がらない。
少し、時間がかかりそうである。
チーズが出来上がったら、お披露目いたしましょう。

2014年2月7日金曜日

AOPのチーズ:牛編 モルビエ

コンテと同じ地方に、モルビエというチーズがある。
コンテより小型で、5〜8Kg、非加熱圧搾タイプだ。
日本だと、チーズの専門店にあるかな、という感じで、あまり一般的ではない。
しかし、このチーズには、一風変わった特徴があるのだ。

モルビエの断面。黒い腺が見える。

チーズを切ったとき、真ん中に黒い腺が一本入っているのである。
なぜ、こんな風になるのか?というと、昔、こんな風に作っていたからだ。

モルビエの側面。黒い腺が透けて見える。





「昔々、フランスのジュラ地方では、コンテという大きなチーズを作っていました。
牛乳は、農家から町のフリュイティエールという工房に集められ、専門の職人の手によって、チーズを作っていたのです。
でも、この地方の気候は厳しくて、特に冬は農家から町の工房に牛乳を運ぶのが困難になる事も多く、せっかくの牛乳が無駄になる事もありました。そこで、農家の人々は、自分たちでチーズを作ろうと決心したのです。

ところが、彼らはチーズ作りの専門家ではありません。見よう見まねでカイエを作り、型に入れたものの、型が大きすぎ、一回では満たす事が出来ません。
そこで、朝の搾乳で作ったカイエを型に入れ、虫除けのためのススを表面に塗り、夕方の搾乳で作ったカイエを追加して一つのチーズにしていましたとさ。
どっとはらい。」

昔話風にすると、こんな感じである。
農家の人たちがチーズ作りを知らなかった事から出来た、面白いチーズである。

現在は、コーペラティヴでコンテと一緒に作っている事が多い。コンテの型を利用して、脱水まで行い、その後切り分けてモルビエの型に入れている。
真ん中の黒い腺は、カイエの塊を半分に切って、半分型に入れ、植物性の木炭の粉を塗り、残りの半分を乗せて作っている。
コンテとモルビエを作るキューヴ。銅製で8の字になっている。

コンテの型で作ったモルビエを切り分けているところ。

型入れしたモルビエにエチケットをつけている。

まっすぐ半分に切るのは難しく、モルビエの真ん中の腺は、端っこが斜めになっている事も多い。筆者も学校で作ったが、なかなかまっすぐに切れない。曲がってしまう。農家製のモルビエはまっすぐになっていたから、丁寧に作っているのだろう。

チーズの表面は、ウォッシュタイプと同じように塩水で拭うので、赤く輝いて、少しべとついている。中身は柔らかくて、弾力があり、もちもちした食感である。
塩気も臭いもあまり強くない、食べやすいチーズだ。
熟成庫のモルビエ。

また、日本で売っているモルビエは、嬉しい事に値段があまり高くない。
料理にもどんどん使える。
タルティ・フレットというグラタンがサヴォアにあるのだが、これはルブロションを使うのが本式だ。しかし、ルブロションは日本では値段が高くてもったいない。
タルティ・フレットのフランシュ・コンテ版は、このモルビエを使う。
トロトロチーズのジャガイモグラタンである。
簡単なレシピを載せておこう。分量は、適宜。

  1. ジャガイモをゆでる。
  2. ベーコンの細切りとタマネギの細切りを炒める。
  3. モルビエを小さく切る。
  4. 耐熱皿に、ジャガイモ、ベーコン・タマネギ、モルビエの順に乗せ、これを2〜3回繰り返す。
  5. 上から生クリームを適量かける。
  6. 240℃のオーヴンで10〜15分、焦げ目がつくまで焼く。
今年は寒さが厳しいので、こんな熱々の料理はいかが。
筆者も今晩はグラタンにしようと思っている。
モルビエがないから、グリュイエールあたりで作ろうか。

2014年2月4日火曜日

チーズを作る:原乳編 無殺菌乳と殺菌乳

日本でチーズを作る場合、乳等省令などには、原乳を殺菌しなければならないという記述はないものの、行政指導によって殺菌することになる。
ただ、ヨーロッパなど、乳文化の歴史が長い諸外国では、殺菌乳のチーズ作りが盛んである。では、どのように違うのだろう?

まず、日本のチーズ作りに使用される、殺菌乳から。

日本でよく見かける工場製チーズ。カプリス・デ・デュー。
今ではかなり有名な工場製クリームチーズ。ブルサン・アイユ。
 原乳の状態は、日々違う。
昨日と今日では、脂肪や蛋白質、その他の成分、そして含んでいる微生物も違うのである。
農家製のチーズなら、ある程度対応が出来る。というのは、生産量が少なく、現地消費が多いので、商品にある程度のばらつきは許されるからである。

しかし、工場で大量生産されるチーズに関してはそうはいかない。
消費者の求めているものは、「いつも同じ商品」だからだ。
そのため、工場で製品を作る場合、均一の商品を作る事は必須条件である。
しかし、この日々違う性質を持つ、厄介な原料をどうやって制御したらいいのか、というのが大きな課題なのだ。

そこで、多くの農家から集めた原乳を殺菌し(63℃ 30分、あるいは75℃ 15秒)、脂肪分などの成分を調節する工程、「標準化」(la standardisation)を行うのである。そして、なくなってしまった乳酸菌を補うために、作りたいチーズに必要な乳酸菌を投入するのである。
もちろん、有害菌を除去するためにも、殺菌は有効だ。
しかし、有害菌除去だけのために殺菌するわけではない事を知っていただきたい。

工場製ならば、このように殺菌乳を使う長所がある。
しかし、チーズの味になると、短所が多い。
チーズは元々その土地に根付いている微生物によって味が形成される。
だから、土着菌を除去してしまうと、特徴のないチーズが出来上がってしまう。
実際に、カマンベール・ド・ノルマンディーは、漬け物のような風味があるが、殺菌乳製のカマンベールは、ノルマンディーで作っていても、この風味がない。いつも同じ味を作る事は出来ても、チーズの特徴には乏しい製品が出来てしまうのである。

次に、無殺菌乳について。

農家製のエポワス。

無殺菌乳を使うと、風味のいいチーズが出来る。
土着の微生物が生きているので、そのチーズ特有の味を形成する事が出来るのだ。
フランスのAOPチーズは、無殺菌乳で作る事が決まっているものが多い。
「その土地の味」というものを大事にしようと考えたら、こういう結果になるのだろう。

フランスでは、農家製のチーズに無殺菌乳が多い。
殺菌する機械が高価であるという理由が大きいのだが、多くの農家が、質のいいチーズを作っている。
市場などに行くと、農家が自家製のチーズを売っているのをよく見かける。味もいいし、後でおなかをこわす事もない。
無殺菌乳でも、安全で良質のチーズは作れるのだ。

農家製のマンステール。ストラスブールにて。

しかし、衛生環境を整えて搾乳しないと、大腸菌の多い原乳になってしまう。
乳酸菌は、他の微生物を駆逐する能力があるが、他の微生物の数が多い場合、負けてしまう事もある。大腸菌が多いと、チーズ製造時に悪さをして、うまく作れないのだ。
特にソフトタイプのチーズの場合、二酸化炭素が発生して、破裂したり、風味が劣悪になったりする。
無殺菌乳の難点は、製品の安定化だろう。

マコンの市場にて。自家製チーズを売っている。

筆者は、どちらの味方もしない。
それぞれ、長所と短所があるからだ。
日本の場合、アメリカの意見を入れているようだから、殺菌乳を奨励するのだろうが、無殺菌乳を使ってもいいのではないかと筆者は思う。
ケースバイケースなのだ。

工場は、殺菌乳、農家が作る場合は、無殺菌乳でもよいのではないかと思う。
もちろん、無殺菌乳を使用する場合の条件を整備しなければならないが。
日本の保健所は厳しいと思うので、衛生面を確認し、定期的に商品の安全性を確認するシステムを作れば問題ないと思うのだが。
お役所の腰が重いのか・・・

チーズの作り方をあれこれ書いてきたのだが、皆さんは、今ひとつピンとこないと思う。チーズの作り方を知りたい方には、もう少し詳しい話が出来るように、機会を作りたいと思う。このブログでは、説明が寸足らずになってしまうからだ。まだ具体的にはなっていないが、チーズ A to Z のFacebook ページでお知らせしようと考えている。しかし、まだまだブログで続けますぞ。

2014年2月1日土曜日

AOPのチーズ:牛編 ボーフォール

フランスの加熱圧搾タイプのチーズの中で、AOPを取得しているのは2つ。
この間お話しした、コンテ(le Comté)とボーフォール(le Beaufort)である。
ちなみに、IGPは3つ。
エメンタル・ド・サヴォア(l'Emmental de Savoie)、エメンタル・フランセーズ・エスト−ソントラル(l'Emmental française Est-Central)、グリュイエール(le Gruyère)である。

筆者がボーフォールのコーペラティヴを訪ねたのは、2008年の夏と冬。夏は、一人でバスに揺られて行った。バスの時間に余裕がなく、小一時間で見るはめになったが、冬は学校の見学だったので工房も見学できたし、説明もたっぷり聞いた。
ボーフォールのコーペラティヴ。

中にある、小さな博物館。真ん中の大きな銅鍋は、昔、キューヴとして利用していた。

筆者は学校でコンテの講座にいたのだが、同じ加熱圧搾タイプを比較する勉強もしたので、ボーフォールとエメンタルの事も少し学んだ。
この3つは、製法は同じ加熱圧搾タイプだが、かなり違うチーズである。

ボーフォールの規則によると、大きさが35〜75cm、重さが20〜70Kgと、かなり個体差がある。コンテが55〜75cm、32〜45Kgだから、その個体差は大きい。コーペラティヴで作るコンテと、コーペラティヴ以外でも作るボーフォールの違いだろう。エメンタルになると、もっと大きいし、内部に穴がある。ボーフォールは穴がないし、コンテはなるべく穴をあけないように作る。

2012年の統計では、5025トンを生産している。個数にすると、126000個である。
牛乳は、アボンダンス牛とタリンヌ牛に限定されている。
現在、7つのコーペラティヴと7つのアルパージュの団体があるそうだ。うち、コーペラティヴで、75%を生産している。
コーペラティヴのボーフォール。青いカゼインマークがついている。

ボーフォール作成中。53℃以上の加熱工程があるので、工房の中は蒸し暑い。

ボーフォールのカーヴ。

ここで、アルパージュについて。
チーズのエチケット(ラベル)に関して、正しくは、シャレ・ダルパージュ(Chalet d'Alpage)という。単にアルパージュと言う事も多いが。

ボーフォールの場合、規則で3つのタイプに分けられる。
単なる「ボーフォール」、「ボーフォール・エテ」(le Beaufort Eté)、「ボーフォール・シャレ・ダルパージュ」(le Beaufort Chalet d'Alpage)の3つである。
エテ(夏という意味)は、6〜10月の牛乳を使ったチーズで、シャレ・ダルパージュを含む。シャレ・ダルパージュ(高地のチーズ製造小屋というような意味)は、6〜10月の乳を使い、さらに1500m以上の高地で、伝統的製法を使って生産したものをいう。

中世に、アルプス地方では、修道僧と農民が高地を開拓してチーズを作っていたらしい。17世紀になって、グリュイエールタイプのチーズの製法が、フランス東部の山間地に広がった伝えられている。ボーフォールも1929年に、「グリュイエール・ド・ボーフォール」から単に「ボーフォール」と名前が単純化され、値段も他の加熱圧搾タイプより高かったという。

なぜ高かったのかというのは、筆者の想像だが、脂肪分の高さによるものだろう。
コンテは、全乳ではなく、いくらか脱脂した牛乳を使う。とったクリームで、バターを作った。コンテを作っているジュラ地方は、昔、バターを近隣の国に輸出していた事もあるくらいなのだ。
しかし、ボーフォールは全乳である。その分、長期熟成も難しく、バターの代金も入らない。その分、値段が高かったのだろう。

地元では、若いボーフォールをスープに入れて食べたりしていたが、日本ではもったいない。また、パリのチーズショップでも値段は高めだった。エテが多かったようである。
サヴォアのチーズショップの看板。キロ16,20€は結構高い。

日本で美味しいボーフォールを見つけるのは、結構難しい。
脂肪分が高いだけあって、デリケートなのである。
前に勤めていたチーズショップのボーフォールは、シャレ・ダルパージュで美味しかったが、値段が高かった。
高級品になってしまった感がある。
しかし、このような地域に根ざした産物が普及し、日本などの外国でも食べられるというのは、すばらしいと思っている。