2014年2月4日火曜日

チーズを作る:原乳編 無殺菌乳と殺菌乳

日本でチーズを作る場合、乳等省令などには、原乳を殺菌しなければならないという記述はないものの、行政指導によって殺菌することになる。
ただ、ヨーロッパなど、乳文化の歴史が長い諸外国では、殺菌乳のチーズ作りが盛んである。では、どのように違うのだろう?

まず、日本のチーズ作りに使用される、殺菌乳から。

日本でよく見かける工場製チーズ。カプリス・デ・デュー。
今ではかなり有名な工場製クリームチーズ。ブルサン・アイユ。
 原乳の状態は、日々違う。
昨日と今日では、脂肪や蛋白質、その他の成分、そして含んでいる微生物も違うのである。
農家製のチーズなら、ある程度対応が出来る。というのは、生産量が少なく、現地消費が多いので、商品にある程度のばらつきは許されるからである。

しかし、工場で大量生産されるチーズに関してはそうはいかない。
消費者の求めているものは、「いつも同じ商品」だからだ。
そのため、工場で製品を作る場合、均一の商品を作る事は必須条件である。
しかし、この日々違う性質を持つ、厄介な原料をどうやって制御したらいいのか、というのが大きな課題なのだ。

そこで、多くの農家から集めた原乳を殺菌し(63℃ 30分、あるいは75℃ 15秒)、脂肪分などの成分を調節する工程、「標準化」(la standardisation)を行うのである。そして、なくなってしまった乳酸菌を補うために、作りたいチーズに必要な乳酸菌を投入するのである。
もちろん、有害菌を除去するためにも、殺菌は有効だ。
しかし、有害菌除去だけのために殺菌するわけではない事を知っていただきたい。

工場製ならば、このように殺菌乳を使う長所がある。
しかし、チーズの味になると、短所が多い。
チーズは元々その土地に根付いている微生物によって味が形成される。
だから、土着菌を除去してしまうと、特徴のないチーズが出来上がってしまう。
実際に、カマンベール・ド・ノルマンディーは、漬け物のような風味があるが、殺菌乳製のカマンベールは、ノルマンディーで作っていても、この風味がない。いつも同じ味を作る事は出来ても、チーズの特徴には乏しい製品が出来てしまうのである。

次に、無殺菌乳について。

農家製のエポワス。

無殺菌乳を使うと、風味のいいチーズが出来る。
土着の微生物が生きているので、そのチーズ特有の味を形成する事が出来るのだ。
フランスのAOPチーズは、無殺菌乳で作る事が決まっているものが多い。
「その土地の味」というものを大事にしようと考えたら、こういう結果になるのだろう。

フランスでは、農家製のチーズに無殺菌乳が多い。
殺菌する機械が高価であるという理由が大きいのだが、多くの農家が、質のいいチーズを作っている。
市場などに行くと、農家が自家製のチーズを売っているのをよく見かける。味もいいし、後でおなかをこわす事もない。
無殺菌乳でも、安全で良質のチーズは作れるのだ。

農家製のマンステール。ストラスブールにて。

しかし、衛生環境を整えて搾乳しないと、大腸菌の多い原乳になってしまう。
乳酸菌は、他の微生物を駆逐する能力があるが、他の微生物の数が多い場合、負けてしまう事もある。大腸菌が多いと、チーズ製造時に悪さをして、うまく作れないのだ。
特にソフトタイプのチーズの場合、二酸化炭素が発生して、破裂したり、風味が劣悪になったりする。
無殺菌乳の難点は、製品の安定化だろう。

マコンの市場にて。自家製チーズを売っている。

筆者は、どちらの味方もしない。
それぞれ、長所と短所があるからだ。
日本の場合、アメリカの意見を入れているようだから、殺菌乳を奨励するのだろうが、無殺菌乳を使ってもいいのではないかと筆者は思う。
ケースバイケースなのだ。

工場は、殺菌乳、農家が作る場合は、無殺菌乳でもよいのではないかと思う。
もちろん、無殺菌乳を使用する場合の条件を整備しなければならないが。
日本の保健所は厳しいと思うので、衛生面を確認し、定期的に商品の安全性を確認するシステムを作れば問題ないと思うのだが。
お役所の腰が重いのか・・・

チーズの作り方をあれこれ書いてきたのだが、皆さんは、今ひとつピンとこないと思う。チーズの作り方を知りたい方には、もう少し詳しい話が出来るように、機会を作りたいと思う。このブログでは、説明が寸足らずになってしまうからだ。まだ具体的にはなっていないが、チーズ A to Z のFacebook ページでお知らせしようと考えている。しかし、まだまだブログで続けますぞ。

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