2014年5月30日金曜日

チーズとお酒

日本酒が好きである。
ワイン(赤、白)とバーボンも好きである。
残念ながら、ワインのロゼは、飲めない。なぜかと言うと、体質に合わないらしく?飲むといつもげろげろするか、翌日、二日酔いになる。

日本酒も純米酒でないと、二日酔いするし、ワインもアラビアガムが入っているものは二日酔いするので飲まない事にしている。
若いときは、二日酔いした事もなかったのに、年だわい、と思う。

さて、チーズを食べるときは、お酒やワインがお供になる。
一人暮らししていた頃は、休みの前日は必ず「チーズ、ワインあるいはお酒、サラダに、パン」という夕飯になった。
これが、結構面白くて、楽しみながら実験していた感がある。

ある夜の食事。
こういう風に食事をしていたら、コンピュータにワインをこぼしてしまい、壊してしまった・・・

いろいろ試した結果、チーズは、基本的に白ワインに合うと考えるようになった。
フランスだと、チーズなら、白ワインでしょ、と言われた事もあるし、ワイン屋さんで、コンテにあう赤ワインをくれと言ったら、コンテなら、白だから、この白にしなさいと薦められた事もある。

実は、筆者は以前、チーズには軽めの赤ワインが合うのではないかと思っていたのである。
いろんな組み合わせを試した結果、今では、白ワインの方があうと思っているのだが。

パリのギャラリー・ラファイエットで見た、チーズセット。
美味しそうな、いいセットだ。

こちらは、パリのスーパーで買った、山羊系セット。
白ワインがよく合いそう。

白ワインに合う、と思うようになった理由は、いくつかのウォッシュを赤ワインと食べると、生臭くなるという経験をしたからである。
原因は、解らない。
チーズの個体によるのかもしれないし、ワインのセパージュやヴィンテージによるのかもしれない。いつもそうなるわけではないから・・・

しかし、白ワイン、シャルドネで作っているワインは、ウォッシュにも合う。
全然生臭くない。
だから、チーズに合う万能選手として、シャルドネがいいと思っている。

そして、日本酒。
これがまた、チーズに合うのだ。

一度、広島のお酒、賀茂鶴の樽酒でチーズを試した事がある。
当時住んでいた場所の近所に、割といいお酒屋さんがあって、このお酒を四斗樽で仕入れて売っていたのだ。
一応、日本酒に合うと言われているミモレット18か月熟成と甘口だからブルーがよかろうと、ブルー・デ・コース、他にもいくつか買って帰った。

面白い結果になった。
ブルー・デ・コース以外、全滅。

樽酒の強い木の香りに、チーズが負けて、味がなくなった。
日本酒にあうと言われている、ミモレットも味が解らなくなった。
ブルー・デ・コースのみ、見事にマッチして、美味しさが倍増したのである。
ロックフォールでもいいかもしれないが、羊のチーズだと、後味に残る甘さがどうなるか・・・

ミモレットだと、純米酒より、すっきりした辛口のお酒が合うように思う。
コンテも、コクのある長期熟成タイプは、純米酒にあう。
ブルー以外の柔らかいタイプは日本酒と試した事がないので解らないが、ウォッシュ系は、日本酒によく合いそうである。

マルキというデンマーク(だったと思う)のウォッシュがあるのだが、これは少し魚臭い。日本酒に合いそうなので、今度試そうかと思っているが、この頃あまり見かけない。
コンテの産地、ジュラ特産のヴァン・ジョーヌ(le vin jaune)はシェリー酒に味がよく似ているので、コンテはシェリー酒にもよくあう。

今は、こんな感じで食べている。ワイングラスじゃないし、チーズもそのままざくざく切って食べる。
おおざっぱな性格が、よく出てますな。

実家にいると、家族の好みの赤ワインばかりで、食べるチーズも決まってくる。
いろいろなチーズが食べたくて、欲求不満だ。
そろそろ生酒が出る季節かな?
よし、生酒とチーズもあわせてみよう!

2014年5月27日火曜日

チーズを作る:Produits du terroirs(プロデュイ・デュ・テロワール)

テロワール(le terroir)という言葉をお聞きになった事があるだろうか。
日本だと、ワイン関係の言葉として使われているようだが、もっと広い意味でも使われる事がある。
"Produits du terroirs"は、「郷土色の強い生産物」と云ったような意味になるだろう。
特に、食べ物に対して、使われる事が多い。

アルザスの市場。地元産のチーズが多い。

筆者がフランスでとった講座の一つが、これである。
"Licence Professionnelle Responsable d'atelier de productions fromagères de terroir"
「地域特産品のチーズ工房の製造責任者資格」とでも訳そう。

筆者は、この講座の第一期生。
日本で申し込んで、のこのこポリニーまで面接しに行った。
入学試験は特になく、申し込んでから書類選考があって、面接があり、受かれば入学許可が出るのである。講座の責任者に、
「初めて作る講座の一人目の候補者が日本人なのね!」
と言われた。

コンテの熟成庫。天井まで目一杯棚があるので、機械で表面を手入れする。

一期生という事で、講座もあたふたしている所があった。
例えば・・・
いくら待っても、先生が来ない。事務所に聞いても、先生に連絡がつかず、授業がお流れ。後で聞いた話だが、入院していたとか・・・

また、ジュラのチーズを学ぶような授業構成だったのだが、実習が極端に少なく、筆者も同級生も不満だった。
どちらかと言うと、講義が多く、みんなこれでいいのかな?と思っていたようだ。

しかし、今から思えば、とてもいい講座だった。
実習は、企業研修で、いくらでも出来るのだ。
その中で、何が問題なのか、こういう場合は、どうしたらいいのかを、授業と研修で学ぶのが目的なのだから。

筆者は残念ながら、コンテの工房で研修は出来なかったが、ジュラのチーズの事をかなり詳しく学べて、本当によかったと思っている。
そして、その時に実感したのが、「テロワール」の重要性だ。

ワインは、農産物だから、直接製品に関係しているが、チーズの場合は間接的になってしまう。
それでも、牛の餌などを研究し、テロワールとどのような関連性があるのかを調べようとしている姿勢に感心した。
コンテは、コーペラティヴで作るが、集乳は、その半径25km以内と決まっている。
その半径の中の植物層を調べて、味の分析をしているチームもあるのだ。

ジュラのコンテの工房の地図。この一つ一つの工房の半径25km以内で集乳している。
ジュラは、地層が入り組んでいて、複雑な構成をしている。だから、植物層が変わるのだ。

コンテ用のモンベリアルド牛の餌は、夏は放牧で青草、冬は干し草である。
その青草の植物層が、同じジュラであっても違うのである。
原乳の成分が変わるので、同じジュラのチーズであっても工房によって、味が変わる。
筆者は、この点が素晴らしいと思うのである。

チーズは生き物である。
同じ作り方をし、同じ地域で作っていても、味が違う。
たとえ、工場製であっても、似通った味を作るのが精一杯で、同じ味は作れない。
とかく、経済性を考える人たちは、同じ味にこだわるが、無理だよな、と思う。

筆者は、工場製のチーズを否定しているわけではない。
あれは、あれで重要だ。
しかし、地域に根ざした食べ物の重要性は、それとは別だと思う。
日本の場合だと、農産物、畜産だと、肉などがそれにあたるのだろうか。

おそらくチーズも、意識のある人たちが動いていると思うけれど、テロワールと言う考え方は、なかなか一般的になっていないように思える。
筆者が多摩地区に工房を設けて、多摩地区の牛乳(あれば、山羊も使いたい)を使ってチーズを作りたいというのは、この「Terroir」を実践したいという思いからだ。

小さなチーズ工房の、確か山羊のウォッシュ。

工房も場所が決まりそうである。
まだ、決定ではないが、ほぼ決まりかな?
もっとのんびり進めるつもりが、ここの所、加速してきたようで、やる事が山積みになっている。
でも、ブログは続けますよ!

2014年5月23日金曜日

チーズの保存

チーズの保存は、筆者もいろいろ失敗している。
十数年前になるが、フランスで買ってきた、サント・モール・ド・トゥーレーヌ。
他にもいろいろ買ったので、食べるのが最後になってしまった。
保存には、割と無頓着だったので、買ってきたまま、冷蔵庫に入れておいた。
開けてみたら、あっと驚くタメゴロー(古い!)。
なんだか、「ウニ」みたいに、灰色のカビが生えてましたな。

チーズと言えば、カビ!なんて思っていた筆者。
そのまま食べてみた。
見事に「アタリ」ましたね。

その後、捨てるのはシャクにさわるので、カビを取って食べてみた。
「アタリ」ませんでしたな。
教訓その一。
よくわからないカビは、取って食べる。

他にもいろいろ失敗談はあるのだが(だいたいは、「アタル」)、一般的に、アタラなくてすむように、そして、おいしいチーズを食べられるように、保存法について考えてみた結果、こんな風な結論に達した。

パリのモノプリというスーパーのプライベート・ブランドのサント・モール・ド・トゥーレーヌ。このパッケージは、チーズ屋さん勤務時代に、使わせてもらった。なかなかいいパッケージである。


これも、同じモノプリブランド。残念ながら、ヴァランセの農家製は、
大きくてこのパッケージには入らなかった。 

チーズを保存する場合、柔らかいチーズの場合は、熟成の状態と同じ、固いチーズの場合は、ストック(le stokage)と同じ状態であればいい。

例えば、白カビなどの柔らかいものは、温度が8〜10℃、湿度85〜90%が理想的。
しかし、普通の冷蔵庫だと、温度が5℃、湿度は低め。
こうなると、チーズは乾燥し、うまく熟成の続きをする事が出来ない。
筆者は、タッパーの隅に、濡れたティッシュを丸めて置いて、チーズを入れて蓋をし、冷蔵庫の野菜室に入れていた。

もっと簡単に、ビニール袋にチーズをパッケージごと入れて(カマンベールなどの場合)、濡れティッシュを一緒に入れておいて、口を縛っただけのこともあった(ジップロックが便利)。
これ、以外に簡単で、有効である。

カマンベールのように、紙に包んであるものは、紙にたくさんの穴があいていて、チーズが呼吸できるようになっている。
そして、経木の箱も湿度のやり取りに有効だ。
それを生かして、パッケージのままの保存がよい。

ウォッシュなどもパッケージを生かすといい。
湿度の調節は難しいが、濡れティッシュを使うとけっこううまくいく。

日本で買った、マンステール。保存するときは、この紙に包んだまま、湿度と温度を調節すればいい。

ブルーは、逆に温度が低くてもいい。
湿度もカマンベールタイプより、おおまかでかまわない。
ただし、水気が多く出るので、濡れティッシュはいらない。
チーズの色が変色しやすいので、ラップではなくて、アルミホイルで包んだ方がいい。
筆者はブルーなら、アルミホイルで包んで、ビニール袋に入れて、野菜室にいれる。

セミハードと呼ぶ、PPNCは、アルミホイルで包んで、ジップロックに入れて野菜室。
ハードである、PPCは、ストック状態であればいいので、4℃でも大丈夫。
だから、アルミホイルで包んで、ビニール袋に入れて、冷蔵室。

ここで、一つ、重要事項。
真空パックになっているものは、買って帰ったら、すぐに解放してやること。

ブルーやPPNC、PPCは、真空パックで売っているものがある。
PPNCとPPCの場合は、水分が出て、固くなってしまう。
ブルーの場合は、水気も出るし、カビの色が変わる。カビは、酸素がないと繁殖できないので、窒息状態になっているのである。
すぐにパックから出して、水気を拭き、アルミホイルで包んでビニール袋に入れると復活する。真空パックの時に、緑色だったカビが、青くなっているのに、おお!という感じである。

なぜ、アルミホイルかというと、チーズに匂いがつかないのと、光を遮断するからである。
日本のラップは、よくくっつくのでいいのだが、臭いもよくついてしまう。
羊のチーズなんぞラップで包むと最悪である。
ラップ臭というものがつきますな。
フランスで働いていた時に使っていたラップは、臭いのつかないものだったが、日本にもあるのだろうか。

普通の冷蔵庫で保存する場合を書いたが、もし、チーズだけを保存したいのなら、「保冷箱」がいい。
筆者も使っているが、ペットボトルなどを保温するために、温度が5〜15℃に設定できる保冷箱がある。
それが、熟成庫として使えるのだ。

湿度を保つために砂利を濡らして入れているが、これが結構難しい。
場所によって、ばらつきが出るからである。
しかし、なかなかよい代物である。

チーズは、買ってきたらすぐ食べた方が美味しい。
でも、残ったら、こんな風に保存しておくといい。
それでも残ったら、料理に使って、食べきってほしいと切に思うのである。

2014年5月16日金曜日

我々が殺しているこのチーズ

殺しているとは穏やかではないが、これはドキュメンタリーフィルムの名前である。
原題は、「Ces fromages qu'on assassine」。
直訳すると、タイトルのようになる。

バスクで偶然見た、牛の放牧。牛は勝手に散策?していた。
筆者は、このフィルムを学校の授業で2回見ている。
一回目は、伝統的な製法でチーズを作る講座で。
二回目は、工場製のチーズを作る講座で。
講座によって、同級生の反応が、全然違うのが、興味深かった。

どんなフィルムかといえば、副題にもあるのだが、「味の戦い」「伝統製法と工場製の美食の戦い」である。
ナビゲーターは二人。
一人はおそらく、食に関するジャーナリスト。
もう一人は、デンマーク(?)からの留学生。

彼らが、色々なチーズの産地を回る。
例えば、出だしがカマンベールの産地、ノルマンディーで大手の会社、「Lepetit」。
この会社の創業から現在に至るまでを説明する。
始めは、地域で「Lepetit」の一家が経営していたのに、ラクタリスに権利を売ってしまう。ラクタリスは、「Lepetit」の名前を残しながら、現代的な作り方にして行くのである。

ここで、ラクタリスの責任者が出てきて、話をする。
カマンベールの殺菌乳製も、AOCで認めるべきだと。
世の中が変わり、人々の要求も、経済性も変わっているのに、これが変わらないのは、おかしいのではないか、と。

ここで、伝統的なチーズの講座の同級生たちは、ブーイング。
工場製のチーズ講座の同級生は、納得していた。

バスクの農場チーズの熟成庫。シロンもいたぞ。

試食させてくれた。ここは、ブラウンスイスとタリーヌ牛を飼っている。なぜかモンベリアルドが一頭。
このフィルムは、2007年にビデオ化されているようで、筆者も持っているのだが、ウィンドウズからマックに変えたら読み込めなくなった。
これを書く前に一度見て、いろいろ確認したかったのだが、出来なくて申し訳ない。
いい加減な事を書きたくないのだが、記憶を辿って書いている。

発売はどうも2007年のようだが、放映(テレビ局、フランス3が作っている)されたのは、もっと前のようである。
というのは、フィルム内のイヴェントのポスターが、2004年(2003年だったかも・・・)になっているからである。しかも、先ほどのカマンベールの話は、フィルム中では、まだ未定のような感じだが、INAOは、2007年に、カマンベール・ド・ノルマンディー(le camembert de Normandie)は、無殺菌乳にするべし、と回答し、大手企業の要求を拒否している。

フランスも揺れているのだ。
あれだけ、チーズを作り、消費し、輸出している国なのに、いや、そういう国だからこそ、揺れるのだろうか。

HACCPのおかげで、衛生面は、格段に進歩した。
しかし、HACCPの先生に聞いたのだが、これも善し悪しかな、という話がある。
ある工房の話なのだが、父親は、伝統的な製法をずっと守り、衛生面にはあまり気を使わなかったという。
息子は、学校で勉強し、衛生が大事だと、工房を大掃除して、清潔にしたそうだ。
すると、チーズの味が変わってしまい、ついていたお客さんが離れてしまって、困ったという。

これは、かなり極端な話だと思う。
衛生面に注意するのは、大事だ。
特に、今のように流通が広範囲に及んでいると、昔のやり方では、事故が起きかねない。
しかし、一方で、こんな風に、味の変化が起こる。
要するに、土着の菌を一掃してしまったのだろう。

筆者も今、自分でチーズを作ろうとしているが、この多摩地区のチーズが作りたい。
もちろん、衛生面には、十分注意するが、工場製の衛生面の良さと、伝統的な製法による味の良さを旨く摺り合わせられないかと考えている。

今回は、違うテーマにしようと思っていたのだが、友人の一人がFacebookでピレネーの小さなチーズ工房の写真を載せていたのがきっかけで、このフィルムを思い出し、急遽変更した。

バスクの羊の放牧。

オッソ・イラティーの農家にて。

大きいオッソ。

オッソの刻印。

彼女の写真は、すごくよくて気に入った。
なぜその写真でこのフィルムを思い出したかというと、フィルムのラストに近い辺りで、(ひょっとしたら、最後の場面)バスクの羊飼いを取材していたからである。

その若い羊飼いは、羊を飼い、羊のチーズを作っている。
おそらくたった一人で。
会話の細かい事は忘れたが、こんな感じだった。

ナビゲーターが、こう問う。
「君、彼女いるの?」
彼はこう答える。
「いないよ。でも、ここは楽園なんだ。(C'est le paradis !)」

2014年5月13日火曜日

チーズを作る:シロン(le ciron:チーズダニ)

チーズにダニがいるの?とおっしゃる向きもあろうかと思うが、いるのである。
ミモレットが有名であるが、固くて乾燥したチーズで、表面を手入れしないものに繁殖して、表皮を食べている。
じゃあ、このダニ、何だろう?

シロン(le ciron)は、コナダニといわれる、ダニの一種である。
ダニは、昆虫とは違い、足が8本、クモなどに近い種で、20000種以上が確認されているようだ。
その中で、コナダニといわれるものは、文字通り、粉、小麦粉などにつく。
そして、硬くて、乾燥した表皮のチーズも好きなようである。

このダニの写真を見つけたので、URLを貼っておこう。
http://fr.wikipedia.org/wiki/Ciron_(arachnide)#mediaviewer/Fichier:Grain_mite_1.JPG

先述した通り、ミモレットが有名であるが、表皮が固くて乾燥したチーズには、だいたいいる。ミモレットは、このダニのおかげで美味しいという噂もあるが、化学的根拠はないそうである。

農家製のミモレット。丸くない。
これも農家製ミモレット。Petite:小さいもの。

表皮が固くて乾燥したチーズというのは、結構ある。
コンテなども、モルジュで手入れをしないものは、このダニのせいで、表皮がぼろぼろになっている。トムにもこのようなチーズがあり、トム・セロネ(la Tomme Céronnée)という。ミモレットの様に表皮がぼろぼろである。
URLを貼っておこう。
http://www.produits-laitiers.com/fromage/tomme-ceronnee/

このチーズの説明の面白い所は、意図的にカーヴに放っておいて、ダニに表皮を食わせ、典型的なスパイスのような、クルミのような匂いを持たせるのだという所である。

真っ白に粉を吹いたようになっているミモレット。
これをカーヴにおいて、新しいチーズに移すのだ。

このチーズダニが繁殖したチーズの共通点を見つけた。
それは、このダニが繁殖したチーズには、アミノ酸の結晶が多く見られるという事である。なぜそうなるかというと、

  • チーズダニが表皮をぼこぼこにするという事は、チーズの表面積が増える。
  • 表面積が増えるという事は、水分の蒸発が進む。
  • チーズの生地が濃縮し、アミノ酸の結晶が出現する。
  • そして、旨味が増える。
というわけである。

羊のチーズ、30か月熟成。表面がぼろぼろ、中にアミノ酸の結晶が見える。

コンテもこの方法で熟成させたものは、水分が少なく、アミノ酸の結晶が多い。
また、筆者が働いていた、山羊チーズの工房ににもこのようなチーズがあって、好きな人に売るのだと聞いた。

友人がこのチーズを買って、家族で食べようとしたとき、息子さんがダニを発見。
「虫がいる!」と騒いだあげく、「僕は、熟成の若い山羊チーズしか食べない!」と宣言する一幕もあった。
筆者は目が悪いので、あまりよく見えなかったが、もぞもぞ動いている小さいものがあったのは解った。

山羊のチーズダニ熟成。

どんなもんかと食べてみたが、別にどうってことない。
美味しくはないが、おなかもこわさなかった。
皮を取って食べた方が、美味しい。

人間とこのような小さな生物の関係が、おいしいチーズを生み出していると思うと、自然ってすごいなあと思う。
人間に有害なダニと、役に立つダニを区別しないとね。

2014年5月9日金曜日

チーズを作る:山羊チーズ その2

前回は、山羊乳の話になってしまったので、今回は、お約束どおり山羊チーズの話。
さて、今が山羊チーズの季節だという事は、この間説明したとおりである。
では、山羊チーズの特徴は何だろう?
筆者は、以下のように考える。
  1. 形が色々である。
  2. 小さいチーズが多い。
  3. フレッシュでも、熟成させても食べられる。
  4. 農家製が多い。
  5. 無殺菌乳製が多い。
  6. ラクティック・ドミノン(lactique dominant)の製法を使う事が多い。
1.の形がいろいろというのは、フランスの山羊チーズで顕著である。
思いつくままにあげてみよう。
  • 薪形(la bûche):サントモール・ド・トゥーレーヌ(Saint-Maure de Touraine)などに代表される筒型
  • 四角錐形:プリニー・サンピエール(Pourigny-Saint-Pierre)などに代表されるピラミッド型
  • 円錐形:モンヴァントー(Mont Ventoux)などに代表される
  • ブリック型:平たい四角形(Pavé)
  • 円筒形:シャロレ(Charolais)やシャビシュー・デュ・ポワトー(Chabichou du Poitou)に代表される
  • 円盤形:ピコドン(Picodon)やペラルドン(Pélardon)に代表される
  • 三角形:クー・ド・コルヌ(Coup de Corne)などに代表される
その他、ハート形、三角錐形や円錐形の上を切ったもの(マコネ:Mâconnais、ヴァランセ:Valençay)、小さい樽の形(Crottin de chavignol)、コルクの栓形(ブション:Bouchon)、ものすごく小さいアペリシェーヴル(Apérichèvre)、etc・・・

農家製サントモール・ド・トゥーレーヌ、熟成中。

農家製ヴァランセ熟成中。下はピコドン。

枚挙にいとまがない。
この形の豊富さは、その土地の伝統なのだろう。
しかし、トム・ド・シェーヴル(Tomme de chèvre)以外は、小さい。
なぜだろう?
この答えは、6.の製法がラクティック・ドミノンである、という事で、すべて説明がつくのだ。

チーズを作る事の出来る乳は、カゼイノー(Caséineux)というが、動物が違っても、成分はほぼ同じである。(カゼイノーについては、アーカイブの「チーズを作る:原乳編 乳成分」を参照していただきたい)
しかし、その比率が違うのである。

チーズを作るのに重要なカゼイン。
牛乳は、αカゼインが多く、山羊は、βカゼインが多い。
チーズの骨格を作る上で、重要なのは、αカゼインの方なのである。
だから、山羊のチーズは大きく作る事が出来ない(小さいチーズが多い)。

また、山羊乳は、乳清蛋白のβラクトグロブリンが多い。
こいつは、熱に弱く、78℃でほぼ100%変質する。
厄介な事に、熱で変質したこの蛋白質は、κカゼインにくっついて、反応を邪魔するのだ。
だから、殺菌山羊乳は、プレジュールで固まりにくくなる(無殺菌乳製が多い)。

筆者は、学校で殺菌山羊乳を使ってチーズを作ったが、ラクティック・ドミノンだった。プレジュールだけでは、凝固が不十分なので、カゼインの「pHが下がると凝集する」という性質も利用して作るのだ。
プレジュールを使わないとヨーグルトになり、やはり脆くて崩れやすい生地になるので、扱いにくいのである。

フレッシュでも熟成したものでも食べられるというのは、ラクティック・ドミノン製法の特徴である。
例えば、ミックス製法のカマンベール。
できたては、ぼそぼそした食感で、味も少なく、まずい。
PPNC、PPCもできたては、味がなくて、おいしくない。

ラクティック・ドミノン製法は、フロマージュ・ブランとおなじ作り方なので(水気を十分に抜くか、抜かないかの違い)できたても美味しい。
できたてをアレンジして、ハーブや蜂蜜などをかけて食べるのも美味。

山羊チーズのアレンジ。上が胡椒まぶし、下がハーブまぶし。

農家製が多いというのも、ラクティック・ドミノン製法である事と密接な関係がある。
昔から山羊を飼っていたのは、農家の主婦だった。
そして、自家用にチーズを作り、余ったら、市場へ行って売る、というのが伝統だった。

モテ(Mothais)。ポワトー・シャラントの山羊チーズ。栗の葉っぱに乗っかっている。

ラクティック・ドミノンの作り方は、時間の配分が楽なのである。
朝、前日の夕方の乳と朝絞った乳を混ぜて、プレジュールを入れて置いておき、前日に作ったカイエを型入れして、おしまい。午前中で終わる。
また、少ない乳量でも出来る。

ラクティック・ドミノンの作り方は、時間がかかるが、放っておけばいい、というものだ。ミックスは、ずっとチーズのそばについていなければならない。
PPNCやPPCは、設備が大掛かりになるし、乳量が多くないといけないし、大きく作るので、女性の手に余る。
主婦にとって、ラクティック・ドミノン製法は、味方なのである。
現在でも、男が山羊の世話をし、女がチーズを作る事が多いのだ。

ごちゃごちゃと説明してきたが、ブログでは、十分な説明が出来ないので、いずれもっと細かい事を資料を使いながら説明したいと考えている。
現在、アトリエを作るべく動いているが、秋くらいまでには、なんとか形を付けようと思っている。

アトリエが出来たら、実習をする事が出来るので、チーズ作り講座を始めようと考えている。

2014年5月6日火曜日

チーズを作る:山羊チーズ その1

さて、ゴールデンウィークも終わり、またいつもに日常が始まる。
この期間中、筆者の友人たち(もちろん、チーズ好きが多い)が、山羊の牧場に行ったり、山羊のチーズが季節だと話したりしていた。
では、なぜ今の季節が、ヤギのチーズの季節なのだろうか?

サーネンの子ヤギ。

この子は、混血のよう。でも、いつも金網を飛び越えて脱走して、捕まえるのが大変だった。

山羊は、2月に子を産む。
牛と違って、年がら年中、仔をはらむ事は出来ない。
なぜかと云うと、山羊の受胎能力が、光と関係しているからである。

フランスだと、多くの山羊農家は、群れを二つに分ける。
一つは、通常の繁殖。
もう一つは、人工的に繁殖時期をずらすのである。
群れの分け方は、牧場によるが、6〜8割がたが、通常繁殖になるだろうか。

人工的に繁殖時期をずらす群れの場合、小屋に入れて、光を少なくする。
薄暗い環境にするのだ。
山羊は、日照量が増えて(夏)、だんだん減ってくると(秋)受胎能力が出てくるので、人工的に、夏をずらし、9月に子を産むように調整をするのである。

山羊は、人工授精ではなく、夏の終わり頃から雄山羊(le bouc)と雌山羊(la chèvre)を一緒にする。
マコネは、一定期間、山羊を放牧しなければならないので、筆者のいた所では、この時期に一緒に放牧していた。
しかし、ブックはものすごく、クサい!
フェロモン全開といった所か。

夏の終わりの放牧。でかい角を持っているのがブック。

なぜ、群れを二つに分けて原乳を確保するかと云えば、理由は、やはりクリスマス。
フランスでも、秋口あたりから、チーズはものすごく売れる。
通常の繁殖だと、PPNC以外の山羊チーズは、ほとんどない。
山羊チーズの特色である、フレッシュがないのである。

AOPもしくは、AOCだと、この繁殖方法は、許されているが、チーズを冷凍したり、原乳を冷凍する事は、禁じられている。
また、いくつかのAOPでは、冷凍カイエを許可しているが、シェーヴルの規則を見直す動きが出てきて、冷凍カイエも禁止事項になりつつある。

農家も商売だから、一番売れる時期に商品がないのは苦しい。
筆者のレポートも、AOPでないチーズをどうやって保存すれば味を損なわずに繁忙期まで持たせられるか、というのが課題だった。

ちょっと解りづらいが、搾乳風景。

生乳の保存は出来るのだが、冷凍しておくと、場所をとる上に、脂肪の分解は進む。
余談だが、筆者はたまに山羊乳を分けてもらっていたが、絞り立ては全く臭みがない。
しかし、冷蔵庫に2時間ほど入れておくと、山羊独特の匂いが出てくるのである。
冷凍しても、同じである。

だから、冷凍カイエが合理的だが、冷凍カイエは一定の割合で利用する事が決まっている。冷凍カイエ100%でAOPのチーズは作れない。
生乳と混ぜて使う事が義務づけられているのだ。
だから、9月に原乳確保は、大事なのである。

2月に仔を産んで、乳が絞れるようになっても、3月中は乳質が一定しない。
筆者も、レポートを書く時に分析したが、驚くほど蛋白質と脂肪の量が多い。
2月に子を産むといっても、全部が同じ日に産むわけでもないから、3月いっぱいは、乳質が安定しないのである。

脂肪分が多いとチーズは水っぽくなるので、熟成の欠陥につながる。
だから、3月いっぱいは、いいのと悪いのと、玉石混交である。
4月になると、だいぶ落ち着くが、原乳がまだ3月分なので、まだまだ。
5月になって、やっと乳成分が安定し、おいしいチーズが出来る。

というわけで、今回は、山羊の話になってしまった。
長くなりそうなので、山羊のチーズについては、次回お話ししよう。