さて、今が山羊チーズの季節だという事は、この間説明したとおりである。
では、山羊チーズの特徴は何だろう?
筆者は、以下のように考える。
- 形が色々である。
- 小さいチーズが多い。
- フレッシュでも、熟成させても食べられる。
- 農家製が多い。
- 無殺菌乳製が多い。
- ラクティック・ドミノン(lactique dominant)の製法を使う事が多い。
思いつくままにあげてみよう。
- 薪形(la bûche):サントモール・ド・トゥーレーヌ(Saint-Maure de Touraine)などに代表される筒型
- 四角錐形:プリニー・サンピエール(Pourigny-Saint-Pierre)などに代表されるピラミッド型
- 円錐形:モンヴァントー(Mont Ventoux)などに代表される
- ブリック型:平たい四角形(Pavé)
- 円筒形:シャロレ(Charolais)やシャビシュー・デュ・ポワトー(Chabichou du Poitou)に代表される
- 円盤形:ピコドン(Picodon)やペラルドン(Pélardon)に代表される
- 三角形:クー・ド・コルヌ(Coup de Corne)などに代表される
農家製サントモール・ド・トゥーレーヌ、熟成中。 |
農家製ヴァランセ熟成中。下はピコドン。 |
枚挙にいとまがない。
この形の豊富さは、その土地の伝統なのだろう。
しかし、トム・ド・シェーヴル(Tomme de chèvre)以外は、小さい。
なぜだろう?
この答えは、6.の製法がラクティック・ドミノンである、という事で、すべて説明がつくのだ。
チーズを作る事の出来る乳は、カゼイノー(Caséineux)というが、動物が違っても、成分はほぼ同じである。(カゼイノーについては、アーカイブの「チーズを作る:原乳編 乳成分」を参照していただきたい)
しかし、その比率が違うのである。
チーズを作るのに重要なカゼイン。
牛乳は、αカゼインが多く、山羊は、βカゼインが多い。
チーズの骨格を作る上で、重要なのは、αカゼインの方なのである。
だから、山羊のチーズは大きく作る事が出来ない(小さいチーズが多い)。
また、山羊乳は、乳清蛋白のβラクトグロブリンが多い。
こいつは、熱に弱く、78℃でほぼ100%変質する。
厄介な事に、熱で変質したこの蛋白質は、κカゼインにくっついて、反応を邪魔するのだ。
だから、殺菌山羊乳は、プレジュールで固まりにくくなる(無殺菌乳製が多い)。
筆者は、学校で殺菌山羊乳を使ってチーズを作ったが、ラクティック・ドミノンだった。プレジュールだけでは、凝固が不十分なので、カゼインの「pHが下がると凝集する」という性質も利用して作るのだ。
プレジュールを使わないとヨーグルトになり、やはり脆くて崩れやすい生地になるので、扱いにくいのである。
フレッシュでも熟成したものでも食べられるというのは、ラクティック・ドミノン製法の特徴である。
例えば、ミックス製法のカマンベール。
できたては、ぼそぼそした食感で、味も少なく、まずい。
PPNC、PPCもできたては、味がなくて、おいしくない。
ラクティック・ドミノン製法は、フロマージュ・ブランとおなじ作り方なので(水気を十分に抜くか、抜かないかの違い)できたても美味しい。
できたてをアレンジして、ハーブや蜂蜜などをかけて食べるのも美味。
農家製が多いというのも、ラクティック・ドミノン製法である事と密接な関係がある。
昔から山羊を飼っていたのは、農家の主婦だった。
そして、自家用にチーズを作り、余ったら、市場へ行って売る、というのが伝統だった。
ラクティック・ドミノンの作り方は、時間の配分が楽なのである。
朝、前日の夕方の乳と朝絞った乳を混ぜて、プレジュールを入れて置いておき、前日に作ったカイエを型入れして、おしまい。午前中で終わる。
また、少ない乳量でも出来る。
ラクティック・ドミノンの作り方は、時間がかかるが、放っておけばいい、というものだ。ミックスは、ずっとチーズのそばについていなければならない。
PPNCやPPCは、設備が大掛かりになるし、乳量が多くないといけないし、大きく作るので、女性の手に余る。
主婦にとって、ラクティック・ドミノン製法は、味方なのである。
現在でも、男が山羊の世話をし、女がチーズを作る事が多いのだ。
ごちゃごちゃと説明してきたが、ブログでは、十分な説明が出来ないので、いずれもっと細かい事を資料を使いながら説明したいと考えている。
現在、アトリエを作るべく動いているが、秋くらいまでには、なんとか形を付けようと思っている。
アトリエが出来たら、実習をする事が出来るので、チーズ作り講座を始めようと考えている。
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